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アマゾン創業者「ベゾスCEO退任」でマスコミが報じていない2つの重要ポイント

プレジデントオンライン / 2021年2月12日 18時15分

離婚を決めた米アマゾン・ドット・コム創業者のジェフ・ベゾス氏(左)とマッケンジーさん=2018年4月24日、ドイツ・ベルリン - 写真=AFP/時事通信フォト

アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏が、最高経営責任者(CEO)を退任すると発表した。ベゾス氏の動向を追い続けてきた立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は「退任の背景には公私における2つの大きな変化があるのではないか」と指摘する——。

※本稿は、2月3日にClubhouseで行われた公開インタビューの内容を再構成したものです。

■ベゾスのメッセージにある「事業の順番」が非常に重要

私は筋金入りの「ベゾス・ウォッチャー」です。ジェフ・ベゾスが出演した動画はほぼ見ており、ベゾスが株主に向けて書いたレターや取材で述べたコメントなども、可能な限りすべてウォッチしています。

それだけに米国時間2月2日に発表された、「ベゾスは2021年内にアマゾン最高経営責任者(CEO)を退任し、取締役会長に就任する」というニュースを聞いたときは、少なからずショックを受けました。

今回の退任にあたってベゾスがアマゾン従業員に宛てたEメールが、ネット上にアップされています。そこには、

「会長になることで、引き続きアマゾンの重要な新規事業に従事しながら、デイワン・ファンド、ベゾス・アース・ファンド、ブルーオリジン、ワシントン・ポスト、その他の情熱に時間とエネルギーを注ぐ」

とあり、ここからCEO退任後にベゾスが行おうとしている活動の内容を推し量ることができそうです。

ベゾスはこれまで何度も、「自分は宇宙事業をやるためにアマゾンを立ち上げた」と語っています。そこから考えると、「まずは宇宙事業会社のブルーオリジンに注力するのではないか」と感じますが、今回のメールでは宇宙事業は、教育支援や恵まれないファミリーを支援する慈善活動基金の「デイワン・ファンド」、気候変動対策を行う「ベゾス・アース・ファンド」に続いて3番目に挙げられているに過ぎません。

ベゾスは話すときも書くときも順番を重視する人なので、メールに示されたプライオリティを見るかぎり、今後は宇宙事業もさることながら、社会活動的なファンドの運営により大きな力を入れていくもではないかと予想しています。これまで「カスタマーセントリック(顧客中心主義)」を掲げ、ひたすらビジネスに突き進んできたベゾスが、ここにきて「社会問題を解決する」という方向に大きく舵を切ったことが感じられます。

■ベゾスの行動は「離婚の年」から大きく変わっている

ベゾスは現在、世界一の資産家とされていますが、これまであまり社会活動には熱心ではありませんでした。アマゾンという企業も長年、マーケティングへの評価では企業ランキングの上位にあるのに、CSR、ESG、SDGsなどのランキングでは低い順位に留まっていました。それがなぜ、突然変わったのでしょうか。

Amazon.comフルフィルメントセンター
写真=iStock.com/jetcityimage
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jetcityimage

私は、今回の退任と活動のシフトにつながる分岐点として大きかったのは、マッケンジー夫人との離婚だったのではないかと感じています。

2人の離婚は2019年1月に発表され、同年4月に成立しています。その結果、マッケンジーさんは、アマゾン株の4%に当たるおよそ383億ドル(約4兆1500億円)相当の資産を受け取ることになりました。その後、マッケンジーさんは離婚成立後に、総額185億ドル(約2兆円)を慈善事業に寄付すると発表しました。さらに翌20年7月に17億ドルを、それから12月までの間にも42億ドル(約4200億円)を寄付しており、今や慈善活動家として知られるようになっています。

ベゾスの行動が変わったのは、この離婚の年からでした。

■「このままだと滅びかねない人類を救う」という壮大な意思

離婚から4カ月後の2019年9月には、アマゾンCEOとして「気候変動対策に関する誓約(The Climate Pledge)」に調印しています。この誓約は「2040年までに二酸化炭素排出量を実質ゼロにする」ことを掲げたもので、アマゾンはGAFAはもちろん米国企業の中でも、もっとも早い時期にカーボンニュートラルを宣言したのです。その後の2020年2月には気候変動対策を目的とする、基金100億ドル(約1兆円)の「ベゾス・アース・ファンド」を設立しています。

ベゾスのアマゾン起業はもともとは私欲追求の面が強かったと私は見ていますが、その行動原理は2019年以降、明らかに変わってきています。今のベゾスは「このままだと滅びかねない人類を救う」という壮大な意思のもとに動いており、そこにはやはりマッケンジーさんの影響が強く感じられます。気候変動対策においてもGAFAの他の企業には負けたくないという競争心も行動原理に働いていると思います。

ベゾスのCEO退任の理由としてもうひとつ考えられるのは、このところ強まっているGAFAへの逆風です。

■共和党と民主党の意見が一致する「GAFA叩き」

GAFA批判はアメリカでも勢いを増しており、2020年にはそのCEOたちが一斉に上院の公聴会に呼び出され、ベゾスも辛辣な言葉を浴びせられています。

それまでは民主党側がGAFAにきびしかったものが、トランプ政権の終わり近くになってGAFAがトランプ個人のアカウントを凍結したことで、親トランプの共和党保守派もGAFAに強い憎悪を抱くようになっています。今や共和党と民主党の意見が一致する数少ない政策が「GAFA叩き」なのです。

ベゾスもアマゾンのトップでいるかぎり、今後も議会に呼び出されたり、批判を浴びせられることは避けられないでしょう。プライドの高い人なので、「もうそういう目に遭いたくない」ということも、本音の部分ではあったと思います。

■後任はアマゾン最古参の一人で、DNAを完璧に受け継ぐ人物

ベゾスというカリスマ創業者の退任は、アマゾンのビジネスにどう影響するでしょうか。

実は私は今回の決断は、アマゾンにとってもプラスに働くだろうと感じています。

ベゾスは2017年のアニュアルレポートに添付した株主レターに、「いかにして大企業病からアマゾンを守るか」という話を書いています。そのための方法論のひとつが、「重要な問題以外の決定権はどんどん委譲していくこと」でした。

権限委譲の目的は意思決定を早くすることです。もともとそういう考えで経営しているので、ベゾスがCEOから会長になるとは、「経営の決定に関与する際のハードルをもう一段上げる」程度のことなのです。

新しいCEOのアンディ・ジャシーは、1997年にハーバード・ビジネススクールを卒業してすぐに、創業間もない時期のアマゾンに入社しています。アマゾン最古参の一人であり、ジェフ・ベゾスの経営者としてのDNAを完璧に受け継ぐ人物です。今回のCEOの交代で、アマゾンの経営が大きく揺らぐことはなく、むしろエンパワーメントによって意思決定スピードはさらに早くなるでしょう。

■クラウド事業でマイクロソフトを突き放したい

「今回のCEO交代は、アマゾンの危機感の表れである」という見方もあります。

今回の交代はアマゾンがコロナ禍の下で最高益を達成したタイミングで発表され、その意味では「花道」となるわけですが、ベゾスの視点に立って周囲を見回すと、小売業ではウォルマートがDXに成功してアマゾンを追ってきており、クラウドビジネスではマイクロソフトが急激にシェアを伸ばしています。数字上は最高益でも、ライバルたちがすぐ後ろから迫っている状況なのです。

フランスのマイクロソフト本社
写真=iStock.com/HJBC
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/HJBC

そんな中で新CEOにジャシーが起用された理由は、彼がアマゾンのクラウドビジネスAWS(Amazon Web Services)を立ち上げた人物であり、同事業のトップだということが大きいでしょう。

AWSはアマゾンの事業の中でももっとも成長が期待されるビジネスです。しかし、これまでベゾスの下には3人の経営幹部が同レベルで並んでいて、組織としての意思決定が遅れがちとなり、クラウド分野でマイクロソフトの追撃を許していました。

AWS担当のジャシーをCEOに引き上げたことでクラウド事業の展開が加速すれば、マイクロソフトを突き放す未来も見えてくるはずです。

■「製造現場のDX」にも参入してきた

日本ではあまりニュースになりませんでしたが、アマゾンは2020年12月、「アマゾン・モニトロン」によって、製造業のデジタルトランスフォーメーション(DX)に進出しました。モニトロンは設備保全のためのセンサーをAIとセットで提供し、製造現場の設備故障を事前に予測するサブスクリプションサービスで、これを開発したのもAWS部門です。

これまで日本では、「製造現場のDXはGAFAの手の及ぶ世界ではない」と信じられてきました。ところがそこにアマゾンが参入してきたのです。

モニトロンが謳っているのは表面的には顧客へのサポートですが、本当にやろうとしているのは、製造業がこれからやろうとしているDXを先取りし、製造業のエコシステムをプラットフォーマーとして支配し、産業の覇権を握ることです。

アマゾンは今後もこうしたかつてないサービスの提供によってプラットフォーマーの地位を確立し、これまで以上の成長を続けていくものと、私は予想しています。(文中一部敬称略)

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田中 道昭(たなか・みちあき)
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略、及びミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)などを歴任し、現職。主な著書に『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』(以上、PHPビジネス新書)、『GAFA×BATH 米中メガテック企業の競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』(日経BP社)『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)などがある。

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(立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授 田中 道昭)

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