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習近平政権は「クーデターのミャンマー」を支配下に置こうと企んでいる

プレジデントオンライン / 2021年2月13日 11時15分

2月12日、軍事クーデターに対する大規模な抗議活動が続くミャンマーの首都ネピドー - 写真=AFP/時事通信フォト

■ミャンマーとの関係が深い中国の対応が気になる

ミャンマー(旧ビルマ)で2月1日、国軍によるクーデターが起きた。ミャンマー国軍は全権を掌握し、国軍系のテレビ局を通じて1年間の非常事態宣言を発令した。政権幹部らの身柄は一時、拘束された。民主化を進めてきた国家顧問のアウン・サン・スー・チー氏(75)は自宅に軟禁されている。

ミャンマー国軍は昨年11月の総選挙で、スー・チー氏率いる国民民主連盟(NLD)に惨敗したことから一挙に巻きかえそうと、政権奪取を企てたとみられている。

国軍のクーデターに対し、アメリカのバイデン政権が制裁措置を検討していることを表明するなど、欧米の民主主義国家が強く抗議した。しかし、ミャンマーとの関係を深めている中国は批判を避けるなど慎重な対応を続けている。中国の動きが気になる。国際社会は中国の習近平(シー・チンピン)政権から目を離してはならない。

■国軍に抗議する大規模なデモが各地で相次ぐ

ミャンマーでは国軍に抗議する大規模なデモが各地で相次いでいる。ミャンマー国軍が設置した意思決定機関の国家統治評議会は8日、最大都市ヤンゴンや第2の都市マンダレーなどを対象に夜間外出禁止令を出した。午後8時から午前4時までの外出や、公共の場での5人以上の集会が禁止となった。

しかし、市民のデモは続き、国軍は警官を使ってデモ隊の強制的な排除を開始。警察部隊とデモ隊が激しく衝突し、多くのケガ人が出ている。警察官に拘束される市民も数多く出た。

報道によると、首都ネピドーでは警官がゴム弾などを発射し、1人が頭を撃たれ重体となった。マンダレーでは警官隊が放水や催涙ガスによってデモ隊を制圧した。

テレビのニュースで数多くの市民が参加する抗議デモの映像を見ていると、民主と自由を求めて香港政府と中国政府に立ち向かった香港市民のデモを思い出す。

■ミャンマー国軍は「中国の支持が得られる」と考えたはず

中国は欧米流の民主主義が香港で台頭するのを嫌い、傀儡の香港政府を使って抗議デモを取り締まり、民主派の運動家を徹底的に弾圧した。

しかし、香港と違いミャンマーは独立したひとつの国家である。そう簡単には懐柔できない。自らの支配下に置けない。

アウン・サン・スー・チー
写真=iStock.com/lonelytravel
  - 写真=iStock.com/lonelytravel

そこで民主派の旗振り役であるスー・チー氏に対し、内政不干渉の立場を示して経済協力を続け、ミャンマーに浸透しながら時間を稼いできた。それだけミャンマーは中国にとって重要な国なのである。

クーデターで中国にとって好機が訪れた。目障りなスー・チー氏は軟禁され、武器の輸出でつながってきたミャンマー国軍が実権を握った。国軍が政権転覆を実行できたのも、国軍の幹部らが習近平政権の支持が得られると考えたからだろう。したたかな習近平・国家主席は、クーデターをきっかけに国軍をさらに手なずけ、ミャンマー利権を確実なものにしようと、画策しているはずだ。

■ミャンマールートは最も成功した「一帯一路」だ

なぜ中国にとってミャンマーは重要な国なのか。

ミャンマーは中国の雲南省などに接し、中国側から見ると、インドシナ半島を経由してインド洋に出るルート上に位置している。逆にインド洋から中国にも入りやすい。有事の際、マレー半島とスマトラ島の間にある太平洋とインド洋を結ぶ、マラッカ海峡をアメリカに封鎖されるのを恐れてきた中国にとって重要なポイントがミャンマーだった。ミャンマールートを使えば、問題のマラッカ海峡を通らずに中東から原油や天然ガスをタンカーで運ぶことができ、エネルギーの供給もスムーズになる。

ミャンマー地図
写真=iStock.com/yorkfoto
  - 写真=iStock.com/yorkfoto

このため中国は、軍事政権時代の1980年代から原油・天然ガスのパイプラインの建設を押し進め、ミャンマー西部から中国の雲南省まで原油を送るパイプと、ミャンマー沿海で採掘された天然ガスを送るパイプを配置し、数年前から本格的に輸送がスタートした。

エネルギー供給のカギを握るだけに、ミャンマールートは中国が掲げる「一帯一路」の構想の中で最も成功したものとなった。

しかし、ミャンマーを中国の思い通りにさせてはならない。日本の尖閣列島の周辺海域への海洋進出や南シナ海の軍事要塞化など、中国の拡張は目に余る。日本をはじめとする国際社会は、輸出入の制限などミャンマー国軍政権に制裁を科し、スー・チー氏が政権を奪還して再び民主化が進むよう、強く働きかけるべきである。国際社会の正当な行動が中国を牽制し、その動きを止めることになる。

■「国際社会は外交努力で軍の権力奪取を撤回させよ」と朝日社説

2月2日付の朝日新聞は「民主化覆す軍の暴挙だ」との見出しを付け、こう書き出す。

「民意を踏みにじる暴挙である。日本を含む国際社会はあらゆる外交努力を尽くし、軍の権力奪取を撤回させるべきだ」

朝日社説が指摘するように、ミャンマー国軍のクーデターは暴挙そのものである。

朝日社説は書く。

「この日は本来、昨年秋の総選挙後初の国会が開かれ、新たな政府の顔ぶれを決めるはずだった。その手続きが国軍の独断によって覆された。断じて認めることはできない」
「選挙では、アウンサンスーチー国家顧問が率いる国民民主連盟が、改選議席の8割以上を得て圧勝した。スーチー氏が、事実上の政権トップに再任されるのは確実だった」

「この日」とは国軍が政権奪取をはかった2月1日のことである。朝日社説は「断じて認めることはできない」などと強くミャンマー国軍を批判する。皮肉ることが好きな朝日社説だが、今回のように強い表現でストレートに主張するのは珍しい。それだけ今回のクーデターは許されざる暴挙なのだ。

■日本や欧米がひとつになって中国にものを言うべきだ

朝日社説はミャンマーと中国の関係をこう指摘する。

「東南アジアでは近年、民主主義の後退が目立つ。タイで軍事クーデターが起き、カンボジアでは野党が解散させられた。背景には、人権や民主化などは求めずに支援をふりまく中国の影響力の広がりがある」
「ミャンマーには昨年、習近平氏が国家主席として19年ぶりに訪問した。経済協力と共に『運命共同体の構築』をうたうほど、両国関係は緊密だ」

前述したように、中国はミャンマー国軍とスー・チー氏のNLD(国民民主連盟)の両方を取り込みながら自国の利権確保を続けてきた。

すでに中国はミャンマー国軍と強く結び付いている。ミャンマー国軍が中国製の対艦ミサイルや戦闘機など兵器の半分を中国から輸入していることもそれを裏付ける。

朝日社説が書くようにタイやカンボジアでも中国の影響力が色濃くなっている。自国の繁栄しか念頭にない中国の進出に歯止めをかける必要がある。そのためにも日本や欧米の民主国家がひとつになって中国にはっきりものを言うべきなのである。

最後に朝日社説はこう主張する。

「日本も民主化の後退を座視せぬ決意を強く打ち出し、国軍への説得に動くべきだ」

「座視せぬ決意」と分かり難い表現を使っているが、要は日本も国際社会の一員としてミャンマー国軍に働きかけるべきだと訴えているのである。

■中国の動きに敏感で詳しいはずの産経社説の妙な書き方

2月2日付の産経新聞の社説(主張)は「選挙結果を無視した力ずくの権力奪取は絶対に認められない。軍はただちにスー・チー氏らを解放し政治から手を引くべきだ」とミャンマー国軍を厳しく批判した後、中国の影響についてこう言及している。

「これはミャンマー一国の問題にとどまらない。強権行使や人権弾圧を不問とする中国は経済力、軍事力を背景に各地で影響力を広げようとしている」

朝日社説と同様、なりふり構わず自国の利益を優先する中国の動きを懸念している。沙鴎一歩もこの点が心配だ。それゆえ中国を牽制し、動きを封じ込めることを強く求めたい。

さらに産経社説は書く。

「中国はこれを機にミャンマーへ接近しかねない。中国にとりミャンマーはインド洋の出入り口となる。日本が重視する『自由で開かれたインド太平洋』にとって、ミャンマーが中国の影響下に入ることは望ましくない。民主主義が強権主義の前に危機にさらされているとの認識が必要である」

中国の動きに敏感で詳しいはずの産経社説にしては妙な書き方をする。すでに中国はミャンマーに接近しているし、ミャンマーは中国の影響下にある。パイプライン建設や武器の輸入の話などを考えれば、ミャンマーと中国の関係の深さは分かるはずだ。朝日社説も「経済協力と共に『運命共同体の構築』をうたうほど、両国関係は緊密だ」と書いている。

「これを機にミャンマーへ接近しかねない」という書き方は読者のミスリードを招く表現ではないだろうか。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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