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「2万3000人の犯罪者を釈放」ミャンマー人女子大生が訴える軍事政権の横暴さ

プレジデントオンライン / 2021年2月16日 15時15分

ミャンマーの首都ネピドーで2月15日、拘束されたアウンサンスーチー氏の釈放を求めるデモ隊 - 写真=AFP/時事通信フォト

■「この先どうしたらいいのでしょうか」

「ミャンマーの若者たちは、アウンサンスーチー氏の政権下で、自分の夢に向かって努力してきました。しかし国軍はそんな国民が持つ夢などお構いなしにクーデターを起こしました。今は国民がいくら抗議しても、国軍がさまざまな方法で阻止しています。国民の人権と発言の自由を犯す国軍を前に、私たちはこの先どうしたらいいのでしょうか……」

2月1日のミャンマー国軍によるクーデター発生から2週間余りがたった。そんな中、マンダレー出身で日本在住の女子大生ナインさん(22歳、仮名)に話を聞くことができた。「ネットが寸断されて、現地との連絡がいつ途絶するか分からない」という厳しい状況の中、思いの丈を語ってもらった。

■国軍は「総選挙に不正があった」と正当性を主張

今回のクーデターについて、国軍は正当性を次のように訴えている。

ミャンマーでは2020年11月、総選挙が実施された。国際監視団も見守りながらの投開票の結果、アウンサンスーチー氏率いる与党・国民民主連盟(NLD)が議席の8割以上を獲得する圧勝を収めた。しかし国軍は「総選挙の有権者名簿をめぐって、不正があった」と主張。選挙管理委員会に何度も訴えたが受け入れられず、やむなく実力行使に出たとしている。

アメリカなどの国際社会は、クーデターが発生する数日前から「11月の選挙結果を遵守するよう」呼び掛けてきた。しかし国軍はこれを無視してクーデターを起こした格好だ。

ナインさんは「(民主的に選ばれた)大統領やアウンサンスーチー氏を捕まえたり、国民の自由を侵害したりする活動を始めています。私自身、こうした国軍のやり方は大嫌いですし、ミャンマーの国の将来が悪くなるのも明らかですよね。国軍が出てきたために、ミャンマーはわずか数日で独裁政治の国になってしまいました」と現状を強く憂う。

■国軍vsデモ隊は衝突スレスレの状況が続く

筆者が調べたところでは、クーデターから10日以上がたったいま、国軍による市民への締めつけはさらに厳しくなっている。

ミャンマーの最大都市で多くの日本人ビジネスマンが住むヤンゴンでは9日までに、「夜間外出禁止令」と「5人以上の集会を禁止する命令」が出された。市民はこうした「お触れ」にもめげず、数千、数万もの人々が「反軍政デモ」を実施。街頭に出て国軍による独裁とスーチー氏ら拘束されている人々の解放を求めているが、いつ大きな衝突が起こるとも限らないスレスレの状況にある。

「反軍政デモ」に出ている人々の数はもはや「付近に住む住民のほぼ全て(ヤンゴン在住の日本人)」。現地から送られてきた写真を見ると、道路が人波で覆われているのが分かる。

■拘束期限に合わせてネット回線を遮断

ナインさんは、これほどまでに国軍が嫌われている理由について「国軍は国民の意思を無視してクーデターに突き進んだこと、そして国民の人権と発言の自由を犯しているのが明らかだから」と語る。

クーデター発生から最初の週末にかけては、日々の生活そのものに大きな影響は出ていなかった。インターネットの長時間遮断が行われ、外部との通信が途絶する一幕もあったが、その後回線は復旧し、現地在住の日本人ビジネスマンらが書き込むツイッターの発言やブログも問題なく読める状態だった。

ところがアウンサンスーチー氏の拘束期限を迎えた15日、国軍は再びネットを遮断するとともに、拘束を17日まで延長した。市街地に装甲車などを展開させ、締めつけを強めている。

市中にあるスーパーなどの物資供給は、「米の買いつけに走った人が多かった(現地在住10年超の日本人男性)」という状況も一時見られたが、総じて生活必需品や生鮮品などの欠品は生じていない。ただ今後、国軍が緊急事態宣言を盾に輸送網の寸断を図る可能性もある。

■「国のために自分の人生を捧げている女性」

ミャンマーの政治史は、アウンサンスーチー氏の動静と共にあったといっても過言ではない。

アウンサンスーチー氏は、第2次世界大戦中の1945年、日本軍と共にミャンマーの独立に尽力したアウンサン将軍の長女として生まれる。

1990年に行われた総選挙では、アウンサンスーチー氏が率いるNLDが大勝した。しかし、軍政側は「民主化より国の安全を優先」として権力の移譲を拒否。選挙結果を受け入れない軍政に立ち向かったが、これに反発した軍部がアウンサンスーチー氏を軟禁し、2010年にようやく解放された。アウンサンスーチー氏は20年間におよぶ軟禁生活の間、1991年にノーベル平和賞を受賞している。

こうしたアウンサンスーチー氏の生きざまについて、ナインさんは、「家族よりも国のために自分の人生を捧げている女性。そして今もなお、ミャンマーの民主主義を実現するために努力されている」「軍政下の60年間に滞ってしまった経済の遅れを取り戻すためにも活動している」と高く評価している。

民主政治が取り戻せた過去5年間はナインさんにとっても楽しい日々だったようだ。

「私自身、民主化のおかげで外国への留学もできました。国民の意見を尊重、安全に生活できたという実感があります。わずか5年間にミャンマーも大きく発展できました。ミャンマーの民主政治を維持するのに、アウンサンスーチー氏の存在が必要不可欠だと強く思います」

■民主化で海外留学や就職をしやすくなった

アウンサンスーチー氏は2012年、議会補欠選挙で当選。念願のミャンマー議会へとたどり着いた。

ミャンマー
写真=iStock.com/SeanPavonePhoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SeanPavonePhoto

軍政からの民政移管により、現地の一般市民はもとより、国外でも「暗黒の時代が終わった」と安堵が広がった。その後は、日本を含む各国が競って「アジア最後のフロンティア」と評されるミャンマーへの投資が積極的に行われてきた。外国からの投資にも後押しされ、かつての軍事独裁時代と比べ、社会の様子は一気に変化したという。

ナインさんは、軍政の終結後、こんな点に目覚ましい変化があったと語る。

最も顕著だったのは、欧米諸国による経済制裁解除で、国外企業がミャンマーに進出し投資が増えたこと。

「外国から来るお金のおかげで経済が一気によくなりました」

また、民主化の恩恵で自由が得られたのは大きな前進だった。「昔は、政治の話をすると捕まえられ殺される恐れがありました。しかし、民政移管後は発言が自由にできるようになり、怯えることなく日々の生活が送れます」

外国への出入りも簡単になったという。「昔は軍人の家族などしかできなかった海外留学が、より簡単に実現できるようになりました」。そのほか、道路の整備が進むことで交通の便がよくなった、就業機会が増えて就職が楽になった、といったメリットが次々と生まれた。つまり、ミャンマーの国民たちは、アウンサンスーチー氏率いる民主政党NLD政権下の社会となり、かつてない国の成長を目にすることができた。

■ロヒンギャ難民問題では各国から批判を浴びたが…

国の近代化を推し進めてきたアウンサンスーチー氏だが、対外政策では2016年以降に起きた「世界最悪の人道危機」ともいわれるロヒンギャ族への人権侵害疑惑がある。

アウンサンスーチー氏
写真=iStock.com/lonelytravel
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/lonelytravel

これは、ミャンマー西部のラカイン州に住むイスラム系の少数民族であるロヒンギャ族に対して、ミャンマー軍が過激派掃討作戦を口実に攻撃。この際、アウンサンスーチー氏は、ロヒンギャ族の排除に及んだ国軍の動きを黙認してしまったことで、特に欧米社会から大きな反発を呼んだ。

アウンサンスーチー氏に授与されたノーベル賞は留保されているものの、複数の名誉市民賞が剥奪される事態となっている。

それでもナインさんをはじめ、ミャンマー国内で彼女の支持は圧倒的に高い。今回のクーデターの勃発で、国民のほとんどは「軍政下の暗黒の時代への逆戻り」を危惧し、必死に「拘束されているアウンサンスーチー氏らの解放」「軍事独裁政治の消滅」を訴えている。

■2万3000人超の受刑者を次々と釈放

そんななか軍部は12日、刑務所に収容していた受刑者2万3314人に恩赦を与え、次々に釈放した。対象者について詳しい説明はないが、デモ隊の中に受刑者を送り込み、混乱を引き起こして市民の逮捕や投獄といった強権を発動する恐れも指摘されている。ナインさんは、国軍が市民の自由を脅かしている現状について「問題は複雑で、国内では解決できない状況」と訴えている。

クーデターの発生を受け、各国はアウンサンスーチー氏ら、国軍に捕まえられた人たちの解放を求めているが、「国軍はそうした訴えを全く気にせず独裁政治を続けている。国際社会は経済制裁だけではなく、もっと強い方法で解決してほしい」(ナインさん)

そうした中、ジョー・バイデン米大統領は2月10日、ミャンマーで権限を掌握した国軍幹部らに制裁を科す大統領令を承認した。国軍への制裁措置として、「強力な禁輸措置も実施、ミャンマー政府を利する米国国内の資産を凍結する」としており、アメリカの介入による国民の期待は高まっている。

■長引く制裁は中国を利する可能性も

しかし、国際社会による制裁措置は諸刃の剣かもしれない。国軍はクーデターを実施するに当たり、西側社会の制裁は折り込み済みで、その資金的な穴埋めのために中国からのなんらかの援助を取り込もうとしている節がある。

もしも米国主導の経済制裁が実行されると、「ミャンマーで経済活動を行う法人は、米国等での法人運営を認めない」といった制限がつけられる可能性もある。

最悪のシナリオは、国際社会がミャンマー国軍を追い込んだ結果、態度を硬化し、日本を含む西側各国の企業によるミャンマーでの活動が徐々に困難になるというものだ。金融制裁までエスカレートし、ミャンマーと海外との金融決済にも支障をきたす事態がないとも限らない。

「ミャンマーの自由のために空へ飛び立とうとしている国民の羽を折ったのは国軍」「国際社会の助けが必要」とナインさんは訴える。国軍とも歴史的に交流がある日本は果たしてどういう対応を進めていくだろうか。

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さかい もとみ(さかい・もとみ)
ジャーナリスト
1965年名古屋生まれ。日大国際関係学部卒。香港で15年余り暮らしたのち、2008年8月からロンドン在住、日本人の妻と2人暮らし。在英ジャーナリストとして、日本国内の媒体向けに記事を執筆。旅行業にも従事し、英国訪問の日本人らのアテンド役も担う。■Facebook ■Twitter

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(ジャーナリスト さかい もとみ)

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