WHOの「中国・武漢コロナ調査」はまったく信用できない
プレジデントオンライン / 2021年2月16日 9時15分
■中国は約1年間、WHOの本格的調査を拒否
2月9日、WHO(世界保健機関)の調査団は、中国の武漢市での新型コロナウイルスに関する現地調査を終了し、中国当局と共同で記者会見を行った。
中国は約1年間、WHOの本格的調査を拒んでおり、WHOの調査団が武漢市に入れたのは今年1月14日のことだった。
調査団は最初にクラスターが発生した華南海鮮卸売市場やアメリカのトランプ前政権からウイルスの漏洩を指摘された武漢ウイルス研究所などを調査し、関係者から話を聞いた。しかし、WHOは武漢ウイルス研究所からのコロナウイルス流出の可能性を否定し、発生源についても武漢市以外である可能性を示した。
世界各国が注目していたWHOの現地調査だったが、その公表内容には期待を大きく裏切られた。
■WHOの中国寄りの姿勢にはうんざりさせられる
そもそも中国当局と共同で記者会見を行うこと自体おかしい。まるで政治ショーである。WHOはどこまで中国をかばう気なのか。これでは中国の太鼓持ちだ。新型コロナが発生して以来、WHOの中国寄りの姿勢にはうんざりさせられる。
ここ数年、WHOは中国寄りの言動が目立つ。特に新型コロナに関しては露骨だ。WHOはもっと早く武漢入りできるように中国当局に圧力をかけるべきだった。
新型コロナのパンデミック(地球規模の流行)の責任の一端はWHOにある。WHOが中国の当初の言い分をうのみにした結果、世界各国の対応が遅れ、多くの感染者と死者を出すことになった。
■中国当局は「冷凍食品に付着したウイルスから感染」と主張
2月9日の記者会見で、WHO調査団の中心メンバーである感染症専門家、ピーター・ベンエンバレク氏はこう説明した。
「武漢で採取された新型コロナウイルスの遺伝子配列は特定のコウモリのそれとかなり類似している」
「人への感染ルートは、ウイルスの自然宿主とみられるコウモリと人との間に別の動物が存在する可能性が強く、感染経路を調べるにはかなりの時間がかかる」
「ウイルスが最初に発生したのは武漢とは限らない」
「中国だけでなく近隣諸国のコウモリも調べる必要がある」
「武漢ウイルス研究所から流出した可能性は極めて低い。今後、研究所の調査の必要はない」
「華南海鮮卸売市場については市場にあった輸入食品のサプライチェーン(供給網)の調査が必要だ」
WHOは中国当局の主張、たとえば「中国に輸入された冷凍食品に付着したウイルスから感染した」という言い分を本気で信じているのか。
■「中国以外から感染が始まったという証拠は極めて限られている」
ただ、WHOの調査団のメンバー全員が中国寄りというわけでないようだ。感染症の研究者であるオーストラリア人のドミニク・ドワイヤー氏は、同国の放送局のインタビューに対し、こう話している。
「コウモリを媒介して感染した可能性が最も高い」
「感染は中国から始まったと思う」
「中国以外の地域から感染が始まったとする証拠は極めて限られている」
「中国とは見解の相違がある。だが、調査によって新型コロナの理解が深まった」
新型コロナ対応を検証するためにWHOが設置した独立調査委員会も今年1月18日、中間報告書を公表し、「国際的な公衆衛生上の緊急事態」(PHEIC)の宣言を見送った昨年1月22日と23日の専門家による緊急委員会についてWHOの対応を批判している。
「なぜこれより前に会合を開かなかったのか、なぜ宣言の発出に合意できなかったのか不明瞭だ」
この「国際的な公衆衛生上の緊急事態」は同年1月30日になって宣言されたが、1週間も宣言発令が遅れたことで世界各国の初動対応に大きく影響したことは間違いない。
■テドロス事務局長は中国と親密なエチオピアの出身
当初、WHOのテドロス・アダノム事務局長は宣言を出さない理由を中国側の説明を根拠に「中国以外で人から人への感染はなく、世界的危機ではない」と語っていた。
このテドロス事務局長、実は同年1月27日に北京入りし、習近平国家主席と会談している。中国のトップと直接面会できるほど、テドロス氏は中国政府に信用されている。裏を返せば、それだけテドロス氏は中国寄りなのである。本来ならWHOは真っ先に感染症対策の専門家チームを中国に送るべきだった。
テドロス氏は2017年7月にWHOトップの事務局長に就任している。政治的も経済的に中国と親密なエチオピアで外相や保健相を務めていた。事務局長としては初めてのアフリカ出身者だ。公衆衛生学の博士号は持っているものの、臨床医の経験はない。
■「中国にお墨付きを与えるための調査団派遣だった」と産経社説
2月12日付の産経新聞の社説(主張)は「『起源解明』にはほど遠い」との見出しを掲げ、こう書き出す。
「この会見結果は今後、中国の宣伝にフルに活用されるのだろう。中国にお墨付きを与えるための調査団派遣だったのかと疑いたくもなる。再調査が必要ではないか」
産経社説は指摘する。
「発表内容は、ほぼ中国側の主張の追認といえた。だが新型コロナによる集団感染が確認されて1年以上を経ての調査である。これほどの時間を要したのは中国側が調査団の受け入れを拒否してきたからだ。1年あれば、痕跡を消滅させることも容易だったろう」
中国が感染源に関する証拠を隠滅したかどうかはわからない。しかし、一党独裁体制のもとであからさまに自国の利益を追求するその歪んだ姿勢を見れば、そう疑わざるをえない。
■WHOは再調査を行い、あらためて記者会見を行うべきだ
産経社説は書く。
「ようやく武漢入りした調査団だが、華南市場の調査は1時間強で打ち切られた。一方で中国共産党がコロナへの『勝利』を誇示する展覧会への訪問には時間が割かれた。すべての行動には中国側関係者が同行しており、調査日程も中国側が主導したことを物語る」
これではとても現地調査とは言えない。客観性に欠ける。開いた口がふさがらない。
さらに産経社説は指摘する。
「WHOは新型コロナの感染拡大当初から、国際社会の信用を損ねていた。テドロス事務局長は昨年1月、北京を訪問して習近平国家主席と会談し、『中国政府が迅速で効果的な措置を取ったことに敬服する』と絶賛した。トランプ前大統領はWHOを『中国の操り人形』と呼んだ」
トランプ氏にはさまざまな問題はあったが、WHOを中国の傀儡とする見方は正しいように思う。これまの動きを見る限り、テドロス氏は習近平氏の手先である。
最後に産経社説はこう主張する。
「WHOが信用回復を望むなら、改めて中国を離れた調査団とともに会見し、中国当局による初期の隠蔽疑惑についても明確に所見を述べるべきだ」
賛成だ。WHOは中立の立場で再調査を実施し、その結果を正確に公表すべきである。
■「国際的な信頼を損なう事態に、失望を禁じ得ない」と読売社説
2月11日付の読売新聞の社説も「世界保健機関(WHO)の国際的な信頼を損なう事態に、失望を禁じ得ない」とWHOの姿勢を厳しく批判する。
読売社説は指摘する。
「武漢で昨年1月に感染が拡大した際、中国の対応は遅れた。当局は異変を告発した医師を処分し、情報を隠蔽した。WHOが2月と7月に専門家を派遣した時も、中国は『終息が先だ』などとして、積極的に協力しなかった」
「中国は、武漢がウイルスの発生源との見方を強く否定し、『外国起源説』を宣伝している。自国が関わりがないと言うのなら、WHOの本格調査をいち早く受け入れ、真相の解明に真摯に協力すべきだったのではないか」
いま思い起こしても、中国の隠蔽行為はすさまじかった。なぜ中国は早い時点でWHOに協力しなかったのか。新型コロナが中国で発生し、感染を世界に広げてしまったとの事実が公になることを恐れたからではないか。
読売社説は「習近平政権は、『コロナとの戦いに勝利した』として、共産党統治の優位性を主張している。感染症対策に必要な国際協調に背き、自国の影響力拡大を図る姿勢が各国の信頼を損ねていることを認識しなければならない」とも指摘するが、この先、中国はそう反省するだろうか、大いに疑問である。
■調査対象国の自発的な協力を待つしかない仕組み
読売社説は続けて指摘する。
「WHOは、今回の調査で『中国寄り』との批判を払拭できなかった。トランプ前米政権が唱えた『武漢ウイルス研究所からの流出』説を否定する一方、中国側が強調する『輸入冷凍食品由来』説は引き続き調査するとした」
「中国側からどのようなデータを得て、今後の調査にどう生かすのかをきちんと説明しなければ、信頼回復は困難だろう。新たなウイルスの大流行を防ぐうえでも、発生源調査を徹底して行い、結果を公表することが不可欠だ」
読売社説が指摘するようにWHOが国際社会の信頼を取り戻すには、納得できる説明が必要である。中国の言い分や主張に振り回されずに徹底的に新型コロナの発生源を突き止めてほしい。
読売社説は「調査対象国の主権が優先され、自発的な協力を待つしかない仕組みには問題が多い。今回の事態を機に、改革を急ぐ必要がある」とWHO調査の問題点を挙げるが、沙鴎一歩も改革には賛成である。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)
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