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「給料そのままの週休3日制は実現可能だ」人事のプロがそう断言する理由

プレジデントオンライン / 2021年2月25日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Gregory_DUBUS

自民党内での試案「選択的週休3日制」が話題になっている。これは休みが1日増える分、単純に給与が2割減るというもの。人事ジャーナリストの溝上憲文氏は「2割減を受け入れられる人がどれくらいいるだろうか。昇進・昇格の格差も問題になる。本来目指すべきは給与減無しの週休3日であり、それは十分実現可能だ」と指摘する——。

■週休3日で給与2割減

自民党内で検討されている「選択的週休3日制」が話題を呼んでいる。党の1億総活躍推進本部の猪口邦子本部長が1月中旬に週休3日の試案を提示したのがきっかけだ。

1億総活躍推進本部は検討結果を4月半ばに中間報告という形で政策提言し、2021年の経済財政運営と改革の基本方針、いわゆる骨太方針に必要な予算措置を盛り込みたい考えだ。といっても週休3日の法制化を目論んでいるわけではなく、民間企業への導入を働きかける政策誘導が主眼だ。

猪口試案のポイントは①週休2日制を維持しつつ、希望する正社員は週休3日を選択可能にする、②子育てや介護、リカレント教育など学習と両立しやすい環境にする、③中小企業の導入策として奨励金を検討する――などである。そしてもう一つの重要なポイントとして、週休3日制を導入する場合、給与減を想定していること。現在の週5日勤務が週4日と1日減ることで単純に給与が2割減ることになる。

■希望する人が希望する時期だけ取る

なぜ今、週休3日なのか。猪口氏はテレビ番組でこう述べている。

「コロナという、この大きな試練の中で社会変容を遂げなければならない。去年の春くらいからはリモートワークが一気に進んだことで、コロナが下火になった後には、より柔軟な働き方を模索することが可能なのではないかと思った。大学院進学や故郷に貢献したいとか、本職とパラレルでやりたいことができるようになれば、若い人がすぐに辞めてしまうという現状も変わるかもしれない。あるいは子育てや介護、闘病中だったり不妊治療だったりする方々で、週休3日なら退職せずに持ちこたえられるけれども、このままだとやっぱり無理かな、というケースもあると思う。そうした方々の希望を叶える方法はないかと考えたときに、さらに1日だけ自由な時間があれば、と思った。希望する人が、希望する時期だけ取るということで良いと思う」(1月18日『ABEMA Prime』)

■資格取得や大学院など自分磨きに利用

確かにコロナ下でテレワークなど柔軟な働き方が進んでいる。自民党の1億総活躍推進本部としては、さらに週休3日にすることで育児・介護などのワークライフバランスの充実を図る。また、政府は生産労働人口の減少の対応策として副業・兼業を推進しているが、副業による中小企業への人材供給、ひいては地方の企業や自治体で副業をする人を増やすことで地方創生を図ることも意図しているようだ。

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写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

すでに週休3日を打ち出す企業も登場している。みずほフィナンシャルグループは昨年12月から銀行や証券、信託銀行など主要6社に勤める計4万5000人を対象に週休3日・4日制を導入することを発表した。ただし、1日の休みにつき給与を20%削減し、週休3日の社員は月給が8割、週休4日だと6割まで減ることになる。希望者による選択制で増えた休日を生かし、資格取得や大学院に通うなど自分磨きに利用することが期待されている。

■1日の労働時間を10時間にし、給与維持の企業も

過去にも佐川急便、ユニクロ、ヤフーが週休3日制を導入している。佐川急便は2017年にドライバーの週休3日を導入した。同社の週休2日のドライバーの実働時間は1日8時間、5日勤務で週40時間であるが、週休3日の場合、1日8時間の法定労働時間の例外を認める「変形労働時間制」を使って1日の労働時間を10時間にして週40時間にするものだ。

ユニクロは転勤のない「地域正社員」を対象に、仕事と子育ての両立など働き方の多様性の観点から導入している。同社も変形労働時間を活用し、1日10時間、週4日勤務と佐川急便と同じ仕組みだ。

ヤフーは2017年4月から家族の育児・介護をしている社員を対象に導入。1日の労働時間は変わらないが、休みが1日増える分、2割程度給与が減額される。これはみずほFGと同じ仕組みだ。自民党で検討している仕組みもヤフー、みずほ方式に近いといえる。

確かに一定期間の週休3日制は、育児・介護の問題を抱えている人、ビジネススクールに通うなど学び直しをしたい人、副業を通じてキャリアの幅を広げたい人にとっては望ましいかもしれない。

■導入へのハードル4つ

しかし、コロナ下だけではなくポストコロナでも多くの企業が導入するのかといえば、ハードルも高い。具体的な導入に伴う問題点は以下の4つだ。

①収入2割減に耐えられる人とそうでない人が発生する
②昼夜3交代勤務で稼働している工場などは増員が避けられず、業種・職種によって難しい人が発生する
③週休3日制を選択した人と週休2日の人との間で昇格・昇進や昇給格差が発生する可能性がある
④契約社員など非正規フルタイムを制度から外すのは不公平になる

■「2割減」は楽ではない

収入が減ることになれば①のように週休3日を選択したくてもできない人が発生する。厚生労働省の調査によると、短時間労働者を除く一般労働者の20~24歳の平均賃金は約21万円、25~29歳約24万円、30~34歳約28万円、35~39歳約31万円、40~44歳約33万円、45~49歳約35万円だ(2019年「賃金構造基本統計調査」)。これが2割減の8割支給となると、以下の金額になる。

20~24歳 約17万円
25~29歳 約19万円
30~34歳 約22万円
35~39歳 約25万円
40~44歳 約26万円
45~49歳 約28万円

この中には残業代は含まれていないが、週休3日制になったとはいえ、この金額で1カ月生活するのは楽ではないはずだ。ちなみに標準的な勤労者世帯の生活費である「標準生計費」(税・社会保険料含む)は、1人世帯約15万円、2人世帯20万円、3人世帯24万円だ(全国平均)。猪口氏はテレビ番組で「若い人がすぐに辞めてしまうという現状も変わるかもしれない」と言っているが、この給与で週休3日を選択する人がどれだけいるだろうか。副業するにしても、今より割のいいバイトや副業先がそれほどあるとは思えない。ましてや子育て世代の30~40代にとっては休日を増やすより、給与が上がることを選ぶのではないだろうか。

もちろん大企業(従業員1000人以上)の平均賃金はこれより高いが、30~34歳で2~3万円程度高い程度だ。結局、週休3日を選択できる余裕のある人は一部の大企業や業種に限られるのではないか。

■昇進・昇給は可能なのか

また②のように24時間フル稼働の工場の社員は休息時間に配慮しながら昼夜3交代のシフトを組んでいるところが多い。そこで丸々1日休みを増やすとしたら、さらに休息時間を切りつめるか、増員は避けられない。週休3日制を導入するために増員するとは思えない。また、営業職でも法人や個人の顧客対応の社員は相手の都合によって臨機応変に仕事をしている。仮に週休3日制にすると、ライバル企業に顧客を奪われかねない。もちろん顧客やライバル企業も週休3日にすればよいが、自社だけ導入してもビジネス上の損失は免れないだろう。

時短勤務と同様に必ず③の問題は発生するだろう。給与が2割減るのだから当然、週5日勤務を前提とした仕事量を減らすことになる。しかし仕事量は減ってもパフォーマンスが高ければ昇格・昇進が可能な仕組みになっているのかどうかが問われる。時短勤務の場合、ある外資系企業は給与の等級をワンランク下げるところもあれば、別の先進企業では時短勤務の課長や部長が存在するところもある。

また、仮に成果やパフォーマンスだけを見て人事評価や昇進・昇格を判断するとしても、週休3日の社員は効率の高い働き方が求められる。社内でも高い評価を維持しながら週休3日を使ってプライベートな活動に打ち込むことが可能な人はどれくらいいるのだろうか。

■制度ができても使う人が増えるとは思えない

自民党の猪口試案は、週休3日を選択できるのは正社員に限定している。しかし④のように非正規社員は必ずしも時給制社員だけではない。職務や地域限定などのフルタイムの月給制非正規社員も少なくない。こうした人たちにも週休3日を選択できる権利を認めなければ不公平だろう。

猪口試案は以上の課題を抱えており、仮に「選択的週休3日制」が実現したとしても、行使する人が増えるとは思えない。やはり最大の障害は給与の削減だ。

■給与削減無しの完全週休3日制を目指すべき

本来目指すべきは給与削減なしの完全週休3日の実現だろう。かつて週休1日から2日への流れを作ったのは松下電器産業(現パナソニック)など大企業だ。それを受けて1987年に労働基準法が改正され、労働時間は「1日8時間、週48時間以内」から「1日8時間、週40時間以内」に変わり、移行措置を経て1997年に完全週休2日制が実現した。

週休3日制は過去に何度も話題になったが、日本企業の長時間労働体質や商慣行から困難と指摘されてきた。しかし、折しも働き方改革の浸透やコロナ下のテレワークなどによって残業時間は全体として減少傾向にある。また、AIなどデジタル技術の活用で業務の効率化も進みつつある。たとえばIT企業のネクストビーチは20年4月からマネージャー相当のエンジニアを対象に給与変更なしの週休3日制を導入している。

■週40時間労働は長すぎる

また、労働時間の1日8時間、週40時間も見直すべき時期にきている。先進国の労働時間は短縮の方向にあり、EUの週の平均労働時間は36.2時間(2019年)。ドイツは34.2時間にまで減少している。そのドイツ最大の労働組合であるIGメタルは、20年8月以降、政府・金属産業界に対して、新型コロナウイルスの危機と自動車産業の構造変化による経済的影響から雇用を確保するために給与削減なしの「週4日」の労働時間短縮の交渉を要求している。

1日の労働時間が短い上に、さらに週休3日の要求は日本よりはるか先を目指している。日本で完全週休3日を実現しようとすれば1日8時間×4日、つまり、1週間の法定労働時間を32時間にすれば可能だ。フランスの週35時間の法定労働時間に近い。日本でも企業の中には実現可能な企業もある。

たとえば日本生命、東京海上日動をはじめとする生・損保会社など1日の所定労働時間が7時間という会社も少なくない。1週間の所定労働時間は35時間であり、こうした企業が3時間減らすだけで週休3日制も可能になる。先進企業がリードする形で週休3日制を徐々に浸透させていくことが必要ではないだろうか。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)

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