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「コロナ後のグレート・リセット」世界のトップが密かに考えている中身

プレジデントオンライン / 2021年2月27日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ipopba

仕事の視野を広げるには読書が一番だ。書籍のハイライトを3000字で紹介するサービス「SERENDIP」から、プレジデントオンライン向けの特選記事を紹介しよう。今回取り上げるのは『グレート・リセット』(日経ナショナルジオグラフィック社)だ――。

■著者は「ダボス会議」の創設者

世界中で猛威を振るい、巨大なパンデミックを引き起こした新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。いまだ収束の兆しも見えないコロナ禍は、わずかな期間に人々の生活様式をがらりと変えてしまった。

だが私たちは、この変化をチャンスと捉え、より良い方向に社会を変えていくこともできるのではないだろうか。

本書では、世界経済フォーラム(その年次総会が通称「ダボス会議」)を主宰するクラウス・シュワブ氏ら2人の著者が、新型コロナウイルスによるパンデミックが収束した後(アフターコロナ)に、どんな新しい世界が出現する可能性があるのかを描くとともに、私たちが大きく経済や社会を組み直す「グレート・リセット」をどのように行っていくべきかを論じている。

アフターコロナに世界が発展するためには、GDPの量的拡大を指標とするのではなく、すべての市民の幸福と地球の持続可能性を重視した政策が必要と説く。

著者のクラウス・シュワブ氏は、世界経済フォーラムの創設者で現在も会長を務める。ティエリ・マルレ氏は個人投資家で、オンラインメディア『マンスリー・バロメーター』の創設者兼代表。

目次
1.マクロリセット
2.ミクロリセット(産業と企業)
3.個人のリセット

■経済をより公平で環境に優しい形に変えるチャンス

歴史を見ると、感染症は、グレート・リセット、国の経済や社会機構を組み直す大きな契機となってきた。今回のコロナ危機はそうではないと言えるだろうか?

新型コロナウイルス感染症によって多くのものが寸断されてしまった今、社会全体がここで一度立ち止まり、本当に価値があるものは何かを冷静に見つめ直す契機が訪れた。今こそ、経済をより公平で環境に優しい形に生まれ変わらせる制度の変更や、その方向に向かって加速できるようにする政策を選択するチャンスだ。

まず全世界の指導者が、この惑星全体とそこに住むすべての市民の幸福により重きを置き、それを実現することが優先すべき行動目標であるという考え方になる必要がある。

経済の発展状況をより正確に測定するには、GDPの他にどのような指標を加えるべきだろうか。経済にとって重要なのは、全体の規模だけでない。利益がどのように分配されているかという視点も大切だ。今日の格差社会の根深さを測る重要な指標は富の不平等であり、これをより体系的に追跡するべきだ。

■私たちの幸福度はGDPだけでは測れない

政策立案者が力点を置く項目が変化してきたことを示す実例も出てきた。2019年に、ニュージーランドは「幸福予算」と呼ぶ新しい予算の枠組を創設した。ジャシンダ・アーダーン首相が、この予算を精神衛生、子どもの貧困や家庭内暴力といった社会問題に対処するために使用すると決定したことで、幸福が初めて公共政策の達成目標の一つに組み込まれた。

その他にも、複数の機関や組織が、私たちの物理的要求を満たすレベルをこの惑星が許容できる範囲までとすることで、将来の経済活動の持続可能性を維持しようとする動きを見せている。

アムステルダム市は、この考え方をポストコロナ時代の出発点となる公共政策を決定する基準として正式に導入することを自治体として世界で初めて公表した。この概念を図で表すと、「ドーナツ」の形に似ている。

内側の輪は、私たちが幸せに暮らすために最低限必要なものを表している。外側の輪は、地球システム科学を専門とする研究者たちが定義する生態学的境界(気候、土壌、海洋、オゾン層、真水や生物多様性などの地球環境に悪影響を及ぼさないようにするために、人間の活動が絶対に超えてはいけない一線)を表している。この二つの輪の間にあるのがスイートスポット(ドーナツの中身の部分)で、人間が必要とするものをこの惑星が受け入れられる範囲を示している。

私たちの幸福度は、一人当たりGDPで定義されるある富のレベルだけでは正確に測れない。もし私たちが、幸福かどうかを左右するのは物的消費の多さよりも、利用可能な医療サービスの充実度や社会構造の安定性といった無形の要素だと気づけば、多くの人々が環境を尊重し、節度のある食べ方を心掛け、他人に共感し、寛容に振る舞うことに、より大きな価値を見出し、これらが新しい社会規範の特徴になっていくかもしれない。

■環境、保険、教育への投資が成長の原動力になる

もし経済成長の方向性とその質的内容に、成長のスピードと同じ(またはそれ以上の)重みがあるとするなら、何がポストコロナ時代の経済を質的によりよい方向にシフトさせる新しい原動力になり得るのだろうか。

環境に優しい経済は、グリーンエネルギーへの移行、エコツーリズムの推進や循環経済の構築など、さまざまな方法で実現可能だ。たとえば、生産と消費を従来の「資源の投入、生産、廃棄」モデルから「復元可能、再生可能に設計」する方式に切り替え、耐用年数に達した製品を再び使えるようにすれば、資源を節約でき、廃棄物を最小限に抑えることができる。この方式の効用は、イノベーションが進み、新しい雇用を生み、究極的には、経済成長にもつながる。

社会的経済は、看護・介護、個人的サービス、教育や保健の各分野で雇用を生み出している成長著しい業態に広がっている。保育や高齢者の介護、その他のケアサービスを提供する業界への投資は、アメリカだけで1300万人、先進7カ国全体では2100万人の雇用を生み、調査対象国のGDP成長率を平均2%押し上げる効果があると試算されている。

防護服姿で患者の体温を測る人
写真=iStock.com/RyanKing999
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RyanKing999

保健分野は、インフラの整備、イノベーションの促進、そして人的資源の発掘などに巨額の追加投資が今後求められる。その必要性は今回のパンデミックが証明したところだ。

各国政府がより包括的で持続可能な経済の構築に向けて、独自にできることは数多くある。必要なのは、上記で挙げたフロンティア市場への投資を意図的に強化することだ。

■パンデミックが新自由主義の終焉を告げる

今回のパンデミックは、新自由主義の終焉(しゅうえん)を告げるものとなりそうだ。新自由主義は、連帯よりも競争、政府介入よりも創造的破壊、社会福祉よりも経済成長を重んじると大まかに定義される概念や政策の集成である。

(新自由主義が志向する「小さな」政府とは逆の)新しい「大きな」政府の重要な要素の一つは、すでに始まっている。ごく短期間のうちに急激に拡大した政府による経済支配だ。

ちょうどパンデミックが世界を覆い始めた2020年4月、世界各国の政府が合計数兆ドルもの景気刺激策を発表した。政府は、社会福祉給付の拡大、国民への直接的な現金給付、賃金の補填、借入金や住宅ローンの支払い猶予などの措置を取った。今後、政府は、社会の利益にとってベストであるとして、程度の差こそあれ、ゲームのルールを一部書き換え、政府の役割を恒久的に拡大させようとするだろう。

住宅ローンや税控除を計算している机の上のイメージ
写真=iStock.com/mphillips007
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mphillips007

■エッセンシャルワーカーの待遇改善が期待できる

また、このパンデミックの意義(の一つ)は、生活に不可欠で本質的な価値のある仕事に対し、それに見合う報酬が支払われないという、根深い乖離(かいり)が明らかになったことだ。パンデミックによって私たちが気づかされたのは、コロナ危機のヒーローやヒロインたち、感染者を看病し、経済を動かし続けてくれた人々が、最も賃金の低い職種であったという事実だ。看護師、清掃業者、配達員、食品工場や介護施設、倉庫の労働者などである。

パンデミックが終わったら、少なくとも短期的には、不平等は拡大することが予想される。しかし、当面の危機を乗り越えた後には、風向きが一変し、逆方向へ向かう可能性がある。アメリカでは、多数派や積極的に発言するマイノリティが、医療システムを政府やコミュニティの管理下に置くことを求め、欧州では、医療制度の財源不足がもはや政治的に許容されないという事態になる可能性もある。

私たちはついに、パンデミックにより、本当に価値のある仕事とは何かを再考し、社会に不可欠な仕事に従事する人々に社会としてどう報いるか見直さざるを得なくなるかもしれない。楽観的なシナリオでは今後、私たちの間で、社会全体の福祉に極めて重要な役割を果たしているのは給与が低く不安定な職に就いている多くの労働者であるという認識が高まり、低い報酬を改善するような政策が取られるようになる。

■私たちは、あまりにも自己中心的ではないか

パンデミックのような私たちの存在を揺るがすような危機は、人々が内に秘めた恐怖や不安と向き合い、自らを省みる機会をもたらす。

クラウス・シュワブ、ティエリ・マルレ『グレート・リセット』(日経ナショナルジオグラフィック社)
クラウス・シュワブ、ティエリ・マルレ『グレート・リセット』(日経ナショナルジオグラフィック社)

そのうち、本質的な疑問が湧いてくるかもしれない。私たちは、大事なことが何か、分かっているのだろうか? あまりにも自分本位で、自己中心的ではないか? 仕事を大事にしすぎて、他のことをする時間がなくなっていないか? 大量消費主義に振り回されていないか? 考えるゆとりを与えられたおかげで、ポストコロナ時代には以前の答えよりも進化した答えを出せる人も出てくるだろう。

シンプルに言おう。グレート・リセットをやるのか、やらないのか? リセットは野心的な挑戦だ。それでも、やらないという選択肢はない。肝心なのは、世界の分断をなくし、汚染や破壊活動を減らしながら、パンデミック前の世界よりも寛容で、公平かつ公正な世界を作ることだ。

■コメントby SERENDIP

著者の一人であるクラウス・シュワブ氏は、2021年のダボス会議のテーマを「グレート・リセット」とすると発表している。同会議では、本文にあるような「市民の幸福」に重きを置いた、既存の経済のリセットと再生が議論されることになるだろう。

ただし、何が「幸福」かは、人それぞれであり、今の資本主義経済で利益を追求することに幸福を見出す人も、もちろんいるはずだ。幸福を一定の枠にはめてしまっては、「寛容で、公平かつ公正な世界」とはならない。

そこで、アムステルダム市の提唱する「ドーナツ・エコノミー」のように、「幸福追求の許容範囲」を定めるのが有効になると考えられる。その範囲を定めるのに、ダボス会議で世界中の知恵が結集されるのを期待したい。

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