上野千鶴子さんが今だから語る「人生最大の痛恨事」とは
プレジデントオンライン / 2021年3月6日 8時15分
※本稿は、上野千鶴子、出口治明『あなたの会社、その働き方は幸せですか?』(祥伝社)の一部を再編集したものです。
■20年遅く生まれていたら良いマネージャーになっていた
私のことを一匹狼だと思っている人もいるかもしれないけれど、自分ではどちらかといえばプレイヤーよりもマネージャーが向いていると思ってきました。もし20年~30年ぐらい遅く生まれて企業に入っていたら、たぶんいいマネージャーになっただろうと思います。
ずっと仲間とやってきましたから、一人では何もできないことはよくわかっています。人に頼むのが得意ですし、人に任せたらあまり余計なことは言わないようにしています。
組織を運営していると、細かいことにこだわって、それが通らないなら降りると言う人もいます。私の役割は、まあまあ、って言って場をとりなす調整役です。
組織の中で、何か問題が起きると、それぞれがワーッと私のところに文句を言って来ます。こっちからも来てあっちからも来る。ぶつからないようにうまく両方から話を聞くのはなかなか大変です。それぞれから聞いたことは、胸に納めて相手に言わないようにすることも大事です。
■人生最大の痛恨事
マネジメントは忍耐が必要。思うようにいかないものです。男性がなりたい職業のトップスリーは、1番が野球監督、2番は映画監督、3番が指揮者だといわれますが、この3つの共通点は、自分がプレイヤーじゃないということです。現場はプレイヤーに任せて、自分はベンチで胃の痛い思いをして座ってるしかない。マネジメントというのはそういう役割です。
自分はマネージャーに向いていると思っていたので、人生最大の痛恨事は、私自身がプレイヤーとして舞台の上に立ってしまったことです。
なぜかというと、フェミニズム業界に役者が足りなかったからです。だからその役割を引き受けざるをえませんでした。
プレイヤーとして一番風当たりの強い、矢面に立たなきゃいけなくなりました。それは私の目論見とは違っていました。
■信頼は組織ではなく個人に蓄積する
私は、人気商売ではなく学者をやっていますから、仕事をすれば蓄積していくことがありがたいですね。潰されそうになることは誰にだってありますが、どんなことをされても潰されないだけの実績が自分の中にあれば、必ずやっていけます。それは学生にいつも言っています。
誰が何と言おうと、私はこれをやりとげたというものがあれば、誰からも文句は言われません。潰されそうだと思ったら、潰されないだけの実績を作ることです。
会社の仕事では、なかなか「自分の実績がこれだ」と言いにくい部分もあるでしょう。
でも着実に目の前の仕事をこなしていれば、こいつにやらせればきっとこういうことをやってくれるという信頼が蓄積されていきます。そういう人間関係をつくっていれば、転職もしやすいんです。
■組織を出ても生きていくには
私たちのNPOの活動もただの仲良しグループではありません。チームを組んでひとつの事業をやってきていますから、この人にこれを任せたらこれだけのことをやってくれるだろうと、お互いにわかってきます。そうすると、次もまたこの人と組もうというふうになるんです。どんな仕事でもそれは同じでしょう。
信頼がある相手なら、全然違う分野の仕事だったとしても、この人にこういうお題を与えたらこれだけのことをしてくれるだろうと思えます。
私は編集者にも恵まれました。畑違いのお題を持ってきて、これで踊れ、と言われる。無理だ、と言っても引き下がらない。おかげで自分のレパートリーが拡がりました。期待に応えたら、また次にも組もうと思ってもらえます。育ててもらった編集者には感謝してもしきれません。
仕事を通じて積み上げてきた信頼は、組織の内外で通用します。だからいざという時に無理が利いて、助けられたり、助けたりができるんです。
そういう人脈は、個人でつくるしかありません。人脈というのは、組織ではなくて、個人にしか帰属しません。それがあれば、組織を出ても生きていけます。
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社会学者
1948年富山県生まれ。京都大学大学院修了、社会学博士。東京大学名誉教授。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。専門学校、短大、大学、大学院、社会人教育などの高等教育機関で40年間、教育と研究に従事。女性学・ジェンダー研究のパイオニア。
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(社会学者 上野 千鶴子)
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