東日本大震災は「日本で地震が起きる仕組み」を根本から変えてしまった
プレジデントオンライン / 2021年2月18日 9時15分
※本稿は、鎌田浩毅『首都直下地震と南海トラフ』(MdN新書)抜粋の一部を再編集したものです。
■東日本大震災が内陸で起こる地震を次々と誘発した
東日本大震災の直後から、震源域から何百キロメートルも離れた内陸部で規模の大きな地震が発生しています(図表1)。たとえば、3月12日午前3時59分に長野県北部でM6.7の地震が起きました。
この地震は震源の深さ10キロメートルという浅い地震で、長野県栄村で震度6強を記録し、東北から関西にかけての広い範囲で大きな揺れを観測したのです。また、3月15日午後10時31分には、静岡県東部でM6.4の地震があり、最大震度6強の観測でした。
これらの地震は、典型的な内陸型の直下型地震です。2004年の新潟県中越地震や2007年の新潟県中越沖地震と同じタイプの地震なのです。
海域で巨大地震が発生したあと、遠く離れた内陸部の活断層が活発化した例は、過去にも多数報告されています。
たとえば、1944年に名古屋沖で東南海地震(M7.9)が起きた1カ月後の1945年に、愛知県の内陸で三河(みかわ)地震(M6.8)が発生しました。また、1896年に三陸沖で起きた明治三陸地震(M8.5)の2カ月半後には、秋田・岩手県境で陸羽(りくう)地震(M7.2)が発生しました。
もうおわかりでしょう。このタイプの地震は、海の震源域の内部で起きた「余震」ではなく、新しく別の場所で「誘発」されたものです。東北・関東地方の広範囲にわたり、直下型の誘発地震への警戒が、今、一番備えなければならない最重要の課題となったのです。
■なぜ余震域でないところで地震が起きるのか
こうした内陸型の直下型地震は、時間をおいて突発的に起きます。太平洋プレートと北米プレートの境界で起きる余震とはまったく別個に、内陸の広範囲でM6~7クラスの地震が散発的に誘発されるのです。その結果、東北地方、関東地方、中部地方の東部では、これからも最大震度6弱程度に至る揺れが予想されます。
では、なぜ余震域でないところで地震が起きてしまうのでしょう。こうした内陸性の直下型地震は、東日本の岩盤が東西方向に伸張したことによって起きたものです(図表2)。
地面が引っ張られたことで陥没する「正断層型」の地震が、「3.11」以降に突然発生し始めたのです。なお正断層型と逆断層型の地震については、あとでくわしく述べましょう。
これらは今後も時間をおいて突発的に起きる可能性があります。すなわち、太平洋上のM9の震源域で起きる余震だけではなく、東日本の内陸の広範囲でM6~7クラスの地震が「誘発」される恐れがあるというわけです。
ここでちょっと整理をしておきましょう。地震には大きく分けて、「海で起こる地震」と「陸で起こる地震」の2つがあります。
第1のタイプは太平洋岸の海底で起きる地震で、莫大(ばくだい)なエネルギーを解放する巨大地震です。陸のプレートと海のプレートの境にある深くえぐれた海溝(かいこう)で起きるため、「海溝型地震」とも呼ばれます。このタイプは、M8~9クラスの地震を発生させると予想されています。また、海で起こる地震は、東日本大震災のように津波が伴います。
■激甚災害「首都直下型地震」の可能性
もう1つのタイプの陸で起こる地震は、文字どおり足もとの直下で発生します。新聞やテレビなどでは「直下型」や「内陸型」などさまざまな表現がありますが、震源地が内陸であると考えれば十分です。
この地震はその後に頻発している新潟県中越沖地震や岩手・宮城内陸地震、さらに熊本地震、大阪北部地震、北海道胆振(いぶり)東部地震のような地震で、1995年に阪神・淡路大震災を起こした兵庫県南部地震もその1つです。これはM7クラスの地震であり、主に活断層が繰り返し動くことで発生します。
こうした直下型地震は震源が比較的近く、かつ浅いところで起きたという特徴があります。また震源地が人が住んでいるところと近いため、発生直後から大きな揺れが襲ってくるので、逃げる暇がほとんどありません。特に、阪神・淡路大震災のように、大都市の近くで短周期地震動をメインとする地震が発生すると、建造物の倒壊など人命を奪う大災害をもたらす非常に厄介な地震です。
いかに巨大なエネルギーを解放する地震でも、そこに人が住んでいなければ、あるいは壊れてくるものがなければ、被害は最小限に抑えられます。しかし、それほど大した地震でなくても、ビルが密集し、また空き地がほとんどない都市では、その被害は甚大なものとなってしまうのです。
実は、誘発地震の直撃する地域の中でも最も心配な場所が、東京を含む首都圏です。首都圏も東北地方と同じ北米プレート上にあるため、活発化した内陸型地震が起こる可能性が十分にあります。ここでM7クラスの直下型地震が突然発生することが、最大の懸念となっています。
■日本で地震の起こらない場所はない
かつてこの地域では大被害があったことが記録に残っています。1855年に東京湾北部で安政江戸地震(M6.9)が発生し、4000人を超える死者が出ました。また最近では、2005年7月にM6の直下型地震が発生し、首都東部が震度5強の強い揺れに見舞われ、電車が5時間以上もストップしました。
国の中央防災会議は、首都圏でM7.3の直下型地震が起こった場合の被害を予測しています。1万1000人の死者、全壊および焼失家屋61万棟、95兆円の経済被害が出ると想定しているのです。東日本大震災によって事実上、東日本の内陸部では首都圏も含めて直下型地震が起きる確率が高まった、と考えたほうがよいでしょう。
日本はどの場所も地震から逃れられないことが、いまだに常識となっていません。それを物語るように、私が講演会で地震について話をすると、「地震が来ないところを教えてください」と皆さんが聞いてきます。本当に、日本には安全を約束できる場所はまったくないのです。
たとえば、日本列島には「活断層」が全部で2000本以上もあります。これらはいずれも何回も繰り返して動き、そのたびに地震が発生します。一方、その周期は千年から1万年に1回くらいであり、人間の暮らす尺度と比べると非常に長いのです。
日本列島のどこかで巨大な力が解放されて地震が起きますが、そのどこかは日本の全国土と考えて差し支えありません。
■日本列島に存在する活断層は2000本以上
地球上では、断層が1回だけ動いて、あとは全然動かないということはありえないのです。1回動く断層は何千回も動くものであり、これが地球の掟(おきて)です。つまり活断層が見つかったら、そこで過去に何千回も地震が起きていたことを示しているのです。
これまで非常によく動いてきた断層は、これからも頻繁に動く可能性があります。他方、それほど動かなかった断層は、今後もあまり活発には動きません。こうした特徴を個々の断層ごとに研究者は調査します。
国の地震調査委員会は、日本列島に2000本以上存在する活断層の中でも、特に大きな地震災害を引き起こしてきた114本ほどの活断層の動きを注視してきました。
東日本大震災は、東日本が乗っている北米プレート上の地盤のひずみ状態を変えてしまいました。そのために地震発生の形態がまったく変わった、と考える地震学者も少なからずいます。
実際、地震のあとに日本列島は5.3メートルも東側へ移動してしまいました。また太平洋岸に面する地域には地盤が1.6メートルも沈降したところがあるのです。巨視的に、見ると、東北地方全体が東西方向に伸張し、一部が沈降したと言えます(図表2)。つまり、陸地が海側に引っ張られてしまったのですが、これは海の巨大地震が起きたあとに必ず見られる現象です。
■今まで地震が起きてこなかった場所でも地震が起き始めた
では、このことは何を意味するのでしょうか。今まで巨大な力で押されていた東北地方や関東地方が乗っている北米プレートが、今度は思いきり水平方向に引き延ばされたのです。その結果、今までとは違った力が地面に働き出しました。
これまでは、横から押されることによって、地面の弱い部分が耐えきれなくなってせり上がる断層が、内陸で直下型の地震を起こしてきました。私たちは地質調査からこうした断層(「逆断層」といいます)を見つけ、地図に記入してきました。もちろん、そのデータは活断層地域として、専門家でなくとも一般の人々も簡単に手に入れることができます。
ところが今度は、ゴムを伸ばすように大地が引き延ばされたのです。そして地殻の弱いところが断層として動き出します。今度の断層は「正断層」といいますが、困ったことに今まで地震が起きてこなかった場所でも地震が起き始めました。
■直下型地震の予測はほとんど不可能
では、こうした直下型地震は、いつ起きるのでしょうか。結論から言えば、予測はほとんど不可能です。というのは地震を起こす周期は数千年という長いスパンであり、その誤差は数十年から数百年もあるからです。社会が要請するような何月何日に地震が起きるという予知は、もともと無理なのです。
困ったことに、活断層は現在調べられている他にもたくさん存在します。山野に隠れていた未知の活断層が直下型地震を起こした例も少なくありません。たとえば、2000年の鳥取県西部地震や2008年の岩手・宮城内陸地震は、それまで未知であった活断層が動いたものです。
地震の発生後に活断層が発見された報告も珍しいことではないのです。よって、私はどこで新しく活断層が発見されても、またどこで直下型地震が起きてもまったく驚きません。
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京都大学大学院 人間・環境学研究科教授
1955年生まれ。東京大学理学部地学科卒業。97年より現職。理学博士。専門は火山学、地球科学。著書に『理科系の読書術』(中公新書)、『世界がわかる理系の名著』(文春新書)、『理学博士の本棚』(角川新書)、『座右の古典』『新版 一生モノの勉強法』(ちくま文庫)など。鎌田浩毅のホームページ
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(京都大学大学院 人間・環境学研究科教授 鎌田 浩毅)
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