「30年以内に高確率で3つの大型地震が来る」そのとき生死を分けるNG行動
プレジデントオンライン / 2021年2月19日 11時15分
※本稿は、鎌田浩毅『首都直下地震と南海トラフ』(MdN新書)抜粋の一部を再編集したものです。
■30年以内に高確率で3つの大型地震が起こる
政府の地震調査委員会は、日本列島でこれから起きる可能性のある地震の発生予測を公表しています。全国の地震学者が集まり、日本に被害を及ぼす地震の長期評価を行っているのです。今後30年以内に大地震が起きる確率を、各地の地震ごとに予測しています。
たとえば、今世紀の半ばまでに、太平洋岸の海域で、東海地震、東南海地震、南海地震という3つの巨大地震が発生すると、予測しています。すなわち、東海地方から首都圏までを襲うと考えられている東海地震、また中部から近畿・四国にかけての広大な地域に被害が予想される東南海地震と南海地震です。
これらが30年以内に発生する確率は、M8.0の東海地震が88パーセント、M8.1の東南海地震が70パーセント、M8.4の南海地震が60パーセントという高い数値です(図表1)。しかもそれらの数字は毎年更新され、少しずつ上昇しているのです。
![「海の地震」の震源域](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/f/500/img_7f1fc71a76653a0161e2a7c42fb5f41e304914.jpg)
■地震の予知は大変難しいので「緊急地震速報」がある
地震の発生予測では2つのことを発表します。1つは今から何パーセントの確率で起きるのかです。巨大地震はプレートと呼ばれる2枚の厚い岩板(がんばん)の運動によって起きます。
プレートが動くと他のプレートとの境目に、エネルギーが蓄積されます。この蓄積が限界に達し、非常に短い時間で放出されると巨大地震となります。
プレートが動く速さはほぼ一定なので、巨大地震は周期的に起きる傾向があります。この周期性を利用して、発生確率を算出するのです。
たとえば100年くらいの間隔で地震が起きる場所を考えてみましょう。基準日(現在)が平均間隔100年の中に入っているケース、つまり、銀行の定期預金にたとえればまだ満期でない場合に、発生の確率は低くなります。しかし、基準日が満期に近づくと、確率は高くなります。実際には確率論や数値シミュレーションも使って複雑な計算を行います。
もう1つはどれだけの大きさ、つまりマグニチュードいくつの地震が発生するのかです。こちらは、過去に繰り返し発生した地震がつくった断層の面積と、ずれた量などから算出されます。
地震の予知は大変難しいので、現在は地震が起きてからできるだけ早く伝え、災害を減らすという方法もとられています。その1つが「緊急地震速報」という仕組みです(図表2)。
![緊急地震速報の仕組み](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/4/500/img_a42be78dd0941e25eb57be462bdb0463471469.jpg)
今から地震がやってくることを、大きな揺れが来る直前に、可能な限り迅速に知らせるのです。
■緊急地震速報と地震予知は違う
緊急地震速報は、震源地から地震が発生した直後に出されます。そのために地震が起きる前に情報を出す「地震予知」とは区別されています。テレビ、ラジオ、スマートフォン、専用の端末機器などを通じて、揺れの始まる数秒から数十秒ほど前に、揺れの大きさ(震度)や地震が起きた場所(震源)を伝えます。
はじめに気象庁から発表され、気象業務支援センターを通じて一般利用者に配信され、さらに企業や家庭の末端利用者へ2次配信が行われる仕組みです。緊急地震速報は最大震度が5弱以上の揺れを観測したときに発表されます。揺れの直前や揺れている最中に、リアルタイムで情報を伝達する、という点が最大の特徴です。
緊急地震速報の根底には、自分の身を自分で守るという発想があり、現在さまざまな場所で活用されています。エレベータの運行停止、ガスの元栓の遮断、工場の生産ラインの停止、避難路の照明を自動で点灯、などが挙げられます。
ここで緊急地震速報の仕組みを具体的に見てみましょう。地下で地震が起きると、P波と呼ばれる小さな揺れと、S波と呼ばれる大きな揺れが同時に発生します(図表2)。
![懐中電灯](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/a/670/img_1a588fa1bdf5bed536e871543834f4da517415.jpg)
■緊急地震速報のおかげで3.11でも脱線する新幹線はなかった
P波は毎秒7キロメートル、S波はこれよりも遅く毎秒4キロメートルの速さでやってくるので、どの地域にもP波がS波より早く到着します。そのために英語で「最初に」の意味のPrimaryを用いてP波、また「次に」を意味するSecondaryを用いてS波と呼ばれているのです。
まず地震が起きる震源近くで、最初の小さな揺れのP波をキャッチし、大きな揺れのS波が到達する前に知らせるシステムを設置します。P波とS波の伝搬速度の差を利用することで、数秒から数十秒の間に地震の規模や震源を予測し、到達時刻や震度を発表しようというきわめて高度な技術です。
実際には、震源に最も近い観測点で地震波を捉えた直後から、震源の場所やマグニチュードなどの推定を始めます。マグニチュードや最大震度があらかじめ設定した基準を超えた瞬間に、緊急地震速報の第一報が発表されます。
その後、時間の経過とともに、少し離れた観測点でも次々と地震をつかまえます。こうして増えたデータをもとに再計算を行い、精度を上げた第ニ報以降を、複数回にわたり発表していくのです。まさにコンピュータが得意とする仕事です。
この方法を用いて、東日本大震災の直後に運転中の東北新幹線では、すべての車輛にブレーキがかかって大きな事故を回避できました。「早期地震検知システム」と呼ばれるものですが、最初の揺れが来る9秒前、また最大の揺れが来る1分10秒前に非常ブレーキがかかり、新幹線はただちに減速を始めたのです。地震発生時に東北新幹線は27本の列車が走行中でしたが、幸いどの列車も脱線することなく停車しました。
JR東日本は、東北新幹線の沿線と太平洋沿岸に地震計を設置しています。地震によって地面の動く加速度が120ガルを超えると自動的に電気の供給が遮断され、走行中のすべての新幹線では非常ブレーキがかけられます。こうして高速運転中の脱線による大事故を未然に防ぐことができたのです。
■大きな地震でも緊急地震速報が出ないときがある
ところで、緊急地震速報には弱点もあります。大きな地震の直前に、緊急地震速報が出るときと出ないときがあるのです。たとえば、地震の震源に近い地域では、緊急地震速報の前に強い揺れのS波が来てしまい間に合わない。また、短時間の限られたデータを解析した速報であるため、予測した震度が実際の震度と異なる、という技術的な限界もあります。
東日本大震災が起きてから、緊急地震速報が出される回数が非常に増えましたが、速報が出ても揺れを感じないことを何度も経験した方がおられるでしょう。いわゆる緊急地震速報の「空振(からぶ)り」です。
気象庁は、緊急地震速報を受け取ったすべての地域で、震度3以上を観測した場合は「適切」とし、1つでも震度2以下を観測した場合は「不適切」と評価しています。調べてみると、これまでに出された6割ほどが「不適切」なものでした。つまり、東日本大震災以降に精度が大幅に落ちたのです。
■「空振り」も「見逃し」よりはマシ
これはマグニチュード9.0という巨大地震の発生により余震が多発し、離れた場所でほぼ同時に余震が到達したことがその原因です。現在のシステムでは、複数の観測データの分離がうまくできず、緊急地震速報の空振りがゼロにはなりません。
2020年7月30日に関東甲信、東海、東北地方で緊急地震速報の「誤報」が発生し、気象庁が会見でおわびしました。その原因は、緊急地震速報の処理過程で本来の震源と異なる位置に震源を決定しマグニチュード7.3という過大な値が出たからです。
もしこのような状況が頻発するとすれば「オオカミ少年効果」が生じて、地震への警戒感が薄れる恐れが出ます。しかし、緊急地震速報は一刻も早く予測を出すためのシステムであり、「空振り」があることよりも「見逃し」の少ないことを重視すべきだ、と私は思います。
たとえば、SNSでは先の事例でも「誤報でよかった。危機感が出て身構えます」「謝罪なんていいんです。逆のことが起きるよりよっぽどマシ」という意見が多かったそうです。
緊急地震速報を受けたあと揺れが来るまでには、ごくわずかな時間しかありません。速報が出たら自分の身を守ることを第1に行動し、大揺れが来なかったら「よかった」と思っていただきたいと考えています。
■緊急地震速報を聞いたらどう行動するか
では、緊急地震速報が出たら何をすればよいのでしょうか。緊急地震速報を見たり聞いたりしたら、ただちに大きな家具から離れ、頭を保護し丈夫な机の下などに隠れます。扉を開けて避難路を確保しますが、あわてて外へは飛び出してはいけません。
ガス台など火のそばにいる場合は、落ち着いて火の始末をします。一方、火元から離れている場合は、無理をして消火しようとせず、自分の身を守ることを優先します。速報が出てから実際に揺れるまでにできることは、非常に限られます。よって、ガスの元栓を閉めるよりも、自分の身を守ることを薦めているのです。
屋外を歩いている場合は、ブロック塀(べい)の倒壊や自動販売機の転倒に注意します。さらに、ビルから落下してくるガラス、壁、看板に注意し、ビルの近くからできるだけ離れるようにしましょう。
車の運転中であれば、後続車が緊急地震速報を聞いていないことを考慮し、急にはスピードを落とさないようにします。まずハザードランプを点灯しながら周囲の車に注意を促し、徐々にスピードを落とさなければなりません。
もし、大きな揺れを感じたら、急ハンドル・急ブレーキを避け道路の左側へ停止します。列車やバスの中では、つり革、手すりなどにしっかりとつかまるようにします。
■パニックを起こさないために周囲の人への声掛けが大事
最後に、メンタルな課題を指摘しておきましょう。生涯に初めて出合うような大地震に遭遇すると、誰でも気が動転します。ここで冷静な気持ちに戻れるかどうかが、サバイバルではキーポイントになるのです。
![鎌田浩毅『首都直下地震と南海トラフ』(MdN新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/b/200/img_bb9966e601c70845f6b53e70ff32f8a0260381.jpg)
動揺すればするほど通常の判断力を失い、時にはパニックに陥ります。たとえば、緊急地震速報を聞いたあとに、たくさんの人があわてて出口や階段へ殺到する行動が懸念されています。心の動揺が災害を増幅する、と言っても過言ではないのです。
パニックを起こさないためには、周囲の人に声を掛けてみることが大切です。知らない人でもかまいません。話をすれば少し心が落ち着き、次に何をすべきかが見えるでしょう。緊急時のこうしたコミュニケーションが、2次災害を大きく減らすことにつながるのです。
東京都は防災ホームページの「帰宅困難者の行動心得10か条」の中で、「あわてず騒がず、状況確認」「声を掛け合い、助け合おう」の2項目を挙げています。私の経験からも、緊急時に人と言葉を交わすことは、動揺を防ぐためにとても効果があると思います。
緊急地震速報は、震源地と地震の揺れを感じる場所が遠ければ遠いほど、時間をかせぐことができます。つまり震源地が遠方の海域の場合、私たちが生活している陸域までかなりの距離があるので、速報を受けてから実際の大きな揺れが来るまでにいろいろな準備をすることができます。
しかし、もし震源が自分の真下の場合はそうはいきません。今、心配されている首都直下型の地震のような場合です。P波とS波はほぼ同時に来てしまい、緊急地震速報が出てから実際の揺れが来るまでの時間はきわめて短いでしょう。
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京都大学大学院 人間・環境学研究科教授
1955年生まれ。東京大学理学部地学科卒業。97年より現職。理学博士。専門は火山学、地球科学。著書に『理科系の読書術』(中公新書)、『世界がわかる理系の名著』(文春新書)、『理学博士の本棚』(角川新書)、『座右の古典』『新版 一生モノの勉強法』(ちくま文庫)など。鎌田浩毅のホームページ
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(京都大学大学院 人間・環境学研究科教授 鎌田 浩毅)
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