「スマホでゲームをしていただけなのに」小6女子を誘拐した男の手口
プレジデントオンライン / 2021年2月26日 15時15分
※本稿は、佐々木成三『元捜査一課刑事が明かす手口 スマホで子どもが騙される』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■スマホゲームに夢中になったアオイの話
アオイは小学6年生の女の子。
学校が終わって、外で友だちと遊ぶのも楽しいけれど、最近はスマホのオンラインゲームに夢中になっている。
人気のバトルゲームは、対象年齢は15歳だけど、スマホ版の対象年齢は12歳。でも実は、ママが「リビングでやるならいいよ」って言ってくれるから、5年生のときからやっている。
オンラインゲームでチャットをするようになったのは最近だ。ゲームが強くて、いつも助けてくれる「優しい相談相手のお兄さん」。
今年に入ってママが「勉強しなさい」とうるさく言うようになった。来年はもう中学生なんだから、遊んでばかりじゃ置いていかれるよ、だって。
でも私は勉強があまり好きじゃない。
置いていかれるって、誰に? 意味わかんない。気分次第ですぐ怒るから、ママが忙しそうなときやイライラしているときは、近づかないようにしてる。
そんなときは部屋に閉じこもって、勉強しているふりをしてオンラインゲームをやる。
ゲームをしているときは、嫌なことは忘れられるし、本当に楽しいから。
この間、部屋でこっそりゲームをやっていたら、いきなり部屋のドアを開けたパパに見つかって怒られた。
ママがかばってくれるかと思ったら、「そんなことだったらもう、スマホを持たせないわよ!」と怒った。
「自分だって夕飯のときにLINEばっかりやってるくせに。人のこと言えないじゃん!」
言い返してドアを思いっきり閉めた。
あーあ、面倒くさいなあ。
ママとパパに監視されているような気がして、リビングでゲームもやらなくなった。
■「優しい相談相手のお兄さん」に誘われて…
毎日のようにゲームをするうちに、「優しい相談相手のお兄さん」に、ゲームの話だけでなく学校や家での悩みを打ち明けるようになった。
ある日、そんなお兄さんから「2人で一緒にゲームをやろうよ」とメッセージがきた。
「アオイちゃんはどこに住んでるの? 車があるから近くまで迎えに行くよ。相談にも乗るし」とお兄さんは言う。
一緒に話しながらゲームができたら楽しいかもしれない。もっと強くなれるように、ゲームも教えてもらいたい。
それに、大人の素敵なお兄さんの知り合いがいるっていうのも、ちょっと自慢できるかも。同級生の男子は子どもっぽくて話にならないし、仲よしのB子は「中学受験をするから塾に行くことにした」って忙しくて遊べなくなったし……。
ちょっとだけならいいかな。
すぐ帰ればママやパパにも怒られないよね。
アオイは、お兄さんと約束した公園に向かった。ママには「友だちと遊んでくる」と言って……。
■「知らない人じゃないよ。毎日一緒にゲームをしていたから」
アオイが門限を過ぎても帰ってこないと慌てた両親は近所を捜し回った。
友だちとも遊んでいないことがわかると、いよいよ警察に捜索願を出すことに。
「最近、厳しく怒ってばかりいたせいかもしれない……」
父親と母親は自分たちを責め、眠れない夜を過ごした。
2日後の朝、警察から連絡があった。捜索の末、付近の防犯カメラから、アオイらしき女の子と男が歩く姿が映っていたのだ。
複数の防犯カメラの記録をつなぎ合わせ、男の車と自宅を特定。張り込みを続けていると、そこへ車に乗った男が帰ってきた。
後部座席には、体を丸めて震えている女の子が座っていた……。
娘のアオイが無事帰宅して、心からほっとした。
夫も私も、オンラインゲームなどやったことはない。もちろんスマホはよく使っているけれど。
オンラインゲームでチャットができること、知らない人と簡単に知り合えること、娘が犯人と連絡先の交換までしていたことは、事件の後で知ったことだ。
私たちは心を入れ替えて、娘を怒ることはしなかった。でも1つだけ、どうしても確認しておきたいことがあった。
「なんで知らない人と会おうと思ったの?」
娘からの返事を聞いて言葉を失った。
「知らない人じゃないよ。毎日一緒にゲームをしていたから」
娘にとって、今となっては、犯人はただただ怖い人かもしれない。でもそれまでは、ゲームを一緒にやってくれる、ゲームの強い頼もしいお兄さん。相談にも乗ってくれる優しいお兄さんだったのだ。
一度も会ったことがないのに。
■簡単に“おじさん”と出会えてしまう時代
ここ最近、SNSやゲームがらみの子どもの誘拐や監禁事件を多く目にするようになりました。
犯人の多くは大人の男性。30代〜50代の、子どもからすると立派な“おじさん”が、子どもを連れ去り、ひどい場合は長期間監禁、最悪の場合は殺してしまうこともあります。
その2人の接点となるのが、SNSやオンラインゲームです。
読者の皆さんはおそらく、ほとんどが今の小・中学生の親世代でしょう。少し子どものころのことを思い出してみてください。
子どものころ、“おじさん”くらい年の離れた大人と知り合う機会がどれだけあったでしょうか。近所のおじさんか友だちのお父さん、習い事の先生くらいではないでしょうか。
当時の親は、子どもに対して「知らない人と話をしてはいけません」と言っていたものです。
ところが今はどうでしょう?
知らない大人と子どもが共通の趣味を通じて知り合うのが、当たり前になっています。子どもにとって、ゲームで一緒に遊ぶ人は、もはや“知らない人”ではありません。
子どもは、聞かれれば自分の名前や住所を教えてしまうでしょう。それがどれほど危険かということまでは、わからないからです。
常識的に考えれば、いいおじさんが小学生や中学生の女の子と知り合いたいとは思わないですよね。つまり、そういう男は、社会的な一般常識からずれているのです。
おそらくゲームという共通の話題がなかったら、何も話せないはずです。
■「家出したい」の投稿に、10分で20人の男から反応
2019年、大阪の小学校6年生の女児の誘拐事件は記憶に新しいでしょう。家出願望のあった少女は、SNSで知り合った男の家で監禁されていました。しかも、場所は大阪から遠く離れた栃木県です。
自宅近くの公園で待ち合わせ、はるばる栃木まで連れ出されたのです。結局、少女が靴も履かずに逃げ出し、交番に逃げ込んで無事保護されました。
SNSで「#家出」「#神待ち(神=家出して困っている少女が泊まる場所や食事を提供してくれる大人のこと)」と発信すると、大人たちが群がってきます。
私が捜査一課にいたころ、中学2年生の女の子が家に帰ってこないと、ご家族から届けがありました。ご両親に協力していただき、その女の子のネットの利用状況を調べたところ、ゲームの掲示板に「家出したい」と書いてありました。
驚いたのは、それに対する反応です。なんと10分間で、約20人の男から反応があったのです。
「助けてあげるよ」「協力するよ」「迎えに行ってあげるよ」
こんな甘い言葉をかけてきます。
■「俺、誘拐していませんよ」という男たち
女子生徒はそのうちの一人の大学生と連絡を取り、車に乗っていました。結果的に女子生徒は無事保護されましたが、彼女は最後まで「大学生はいい人」だと言っていました。一方、大学生は「性交渉が目的だった」とはっきりと供述しています。
また、2019年10月、ツイッターに家出願望を書き込んだ14、15歳の少女3人を自分のところに来るように誘い出し、借家に住まわせるなどした男が、「未成年誘拐」の罪で逮捕された埼玉県の事件もありました。
「未成年者誘拐」で捕まった男たちは、ほとんどが「俺、誘拐していませんよ」といいます。でも、子どもを連れまわしたことを認めた時点で、未成年者誘拐です。
14歳未満を親(保護者)の承諾なしに連れ出したら、子どもが自分の意思で来たにせよ、「未成年者誘拐」になります。これを犯罪者はもちろん、親も知らないことが多いのです。
ちなみに16歳以上18歳未満でも親の承諾なしに深夜(夜11時〜早朝4時まで)に連れ出した場合、青少年保護育成条例の違反になります。
「#淋しい」「#自殺したい」といった書き込みの女子高生を探して自宅に連れ込み、性犯罪を犯すのも代表的な手口の一つです。
■SNSに「死にたい」と書き込んだ若者が狙われた事件
2017年10月に神奈川県座間市で男女9人が殺害された事件は、SNSに「死にたい」などと自殺願望を書き込んだ若者が狙われました。犯人は「金と欲のためにやった。心が弱っている子を狙ったほうがラクだと思った」と供述。「ツイッターはかかりがいい」とも述べています。
昔から自殺願望がある若者はいました。
誰でも一度くらいは、自分を見てほしい、注目されたい等の理由で「自殺したい」と思うことはあるでしょう。でも、本心では自殺したいとは思っていないですし、自殺したいと言えば、周りが心配してくれるということを実感したいからだったりしますよね。
昔はそれが事件に発展しなかったのは、今のようにアウトプットする場がなかったから。でも今は、不特定多数の人に「自殺したい」とアウトプットできるのです。そこにガーッと群がってくる大人たちがいるということです。
どこかで「注目されたい」という欲求がある自殺願望者が、それに巻き込まれてしまうというわけです。
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元埼玉県警 捜査一課刑事
1976年岩手県生まれ。元埼玉県警察本部刑事部捜査一課の警部補。デジタル捜査班の班長として活躍。現在は、小中高大学生らが巻き込まれる犯罪を防止するために設立された「一般社団法人スクールポリス」の理事を務め、講演活動を行うほか、刑事ドラマの監修、テレビ番組のコメンテーターとして多数出演している。
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(元埼玉県警 捜査一課刑事 佐々木 成三)
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