「Z世代女子にとって結婚は付属品」若者の"ジェンダーレス"はここまで来た
プレジデントオンライン / 2021年2月27日 8時15分
工藤 慶人くん/一橋大学経済学部2年生。男性
鈴木 俊太朗くん/慶應義塾大学法学部3年生。男性
安田 愛麻さん/慶應義塾大学総合政策学部2年生。女性
高杉 真由香さん/慶應義塾大学総合政策学部2年生。女性
齊藤 龍星くん/早稲田大学政治経済学部2年生。男性
矢追 耕太郎くん/早稲田大学政治経済学部2年生。男性
■女子のほうが、選択肢が少ない
【原田】最近、就活の中で起こる性差別「就活セクシズム」に関心が集まっているんだ。Twitterで署名運動が起きているほどで、面接時の服装やマナーなど、性別によってこうあるべきだと押しつけられているように感じている人が増えている。皆はそうした経験はあるのかな?
【鈴木】僕は就活真っただ中ですが、男子はあまり感じていないんじゃないかな。でも女子は結構感じているみたいで、黒のリクルートスーツにヒールっていう選択肢しかないから「型式ばってる」って愚痴をよく聞きます。男子だと、紺やグレーのスーツもありですよね。
■説明会で見た企業側の女性が全員スカートでびっくり
【高杉】私はまだ2年生で企業説明会しか経験がないんですが、企業から来た女性が皆スカートでちょっとびっくりしました。就活もスカートじゃなきゃいけないのかな、寒い時期だと結構つらいなと思いましたね。面接では個性のアピールも必要だと思うんですけど、女性らしさを求められるとそれが出しづらい。でも出しすぎると目をつけられそうだし、だから結局、服もメイクも髪型も全員似た感じになっちゃうんだと思います。
【鈴木】ニュースでも「今の就活生は無個性化している」とか言われていて、その点は友達と話題になることも多いです。そう言われると「じゃあ明るい色の服にしようかな」とも思いますけど、万が一それで減点されたらイヤだなっていう気持ちのほうが強い。結局、スーツは普通にしておいて会話で頑張ろうっていう結論になりますね。
■共感はするけど、署名はリスクが高い
【斎藤】僕もそう思います。でも、Twitterで就活セクシズムの署名運動を見た時は共感しました。署名もしたかったんですが、もし就活先の企業の人の目に止まったらと思うと、実名を書くのがこわくて……。署名運動全般に言えることなんですが、実名はやっぱりハードルが高い。周りの友達も同じで「共感しても署名できない」って。
【原田】なるほど。実名を出さずに済む方法があれば、参加したいとは思っているんだね。就活の服装については、男女とも押しつけられている感はあるけど「減点されるぐらいなら無個性でいるほうが無難」ってことか。じゃあ、服装以外の面で男女不平等を感じたことはある?
■Z世代女子にとって「結婚は付属品」
【安田】今は就活も男女平等だと思っていたんですけど、逆に男女比のバランスをとるために落とされることもあるみたいですね。先輩は、女子の応募が多かった企業から、採用人数の男女比バランスを理由に断られたそうなんです。採用担当者に「君は優秀で採りたいんだけど、そうすると女性が多くなりすぎるから」って言われたって。
【原田】その企業は、新卒採用を男女同数にしようとしていたのかもね。そう言えば最近、総合商社の丸紅が「2024年までに新卒採用の総合職の4〜5割を女性にする」って発表したんだ。総合商社は実はものすごい男社会だから、これはかなり衝撃的なニュースなんだよ。
ただ、今のところ企業の人事からよく聞くのは「新卒採用では女性のほうが優秀な人が多いけど結婚や出産で退職してしまうから、後伸びする男性のほうを採る」という声。日本ではまだ、能力が高いのに落とされている女性が多いということだね。確かに以前は結婚後に主婦になる女性も多かったけど、皆の世代は変わってきているよね。
【安田】私はまだ2年生ですが、友達とは結婚の話はほとんどしないですね。どんな職業に就きたいかって話題ばかり。結婚より先に「働きたい」っていう気持ちが強いんだと思います。
【高杉】同じです。結婚は付属品っていうか、企業でキャリアをつくっていく中の一部でしかないっていう感じですね。どう働くかっていう話がメインで、そもそも専業主婦になりたいかどうか自体、話に出ないです。
■男・女ではなく個人で勝負がしたい
【原田】でも現状では、結婚すると家事育児が大変になりがちなのは女性のほうだよね。それと仕事をどう両立するかっていう話は出ないのかな?
【高杉】そこは不安ですけど、自分のほうが旦那より家事育児に時間をとられるだろうなっていうのは想像がつくから、割り切らなきゃいけないと思っています。その上で、それでも仕事は頑張りたいし、育児でキャリアを放棄したくない。だから、「子育てしながら働きやすい会社を選ぼう」っていう観点は皆持っていると思います。
【原田】丸紅の例みたいに「女性5割」って決められることに対してはどう思う? こういう企業が増えれば、女子は希望する会社に入りやすくなる可能性が今より高まるよね。
【高杉】私ははっきり決められちゃうのはイヤですね。女性だから採ってくれたんだって思いたくない。昔よりは男性と対等になったという点はありがたいですけど、欲を言えばやっぱり同じフィールドで勝負したいです。何割って決められると「特別枠」みたいで、男性と対等に見てもらえていない気がします。
【安田】私もイヤです。男女同数を打ち出してくれるのはうれしいし、就活にもポジティブになれそうだけど、「女性だから採ってあげる」っていう上からの善意を感じてしまう。私たちの世代は、男・女じゃなくて個人として勝負していきたいっていう子が多いんじゃないかな。
■男らしさ=しっかりしている、優しい、誠実
【原田】理想的なのは、性別じゃなくて個々の能力で見てくれる会社ということだね。そうすると、君たち自身も人を見る時に「男らしい」「女らしい」っていう見かたはあまりしないのかな。その「らしさ」を感じる要素も、僕たちの世代とはかなり違いそうだけど。
【鈴木】そもそも、男らしさについて考えたり話したりする機会がほとんどないですね。たまに「カッコいい男」の要素として筋肉を求める人もいるけど(笑)、それよりも今の男子には、しっかりしている、優しい、誠実とかのほうが求められている気がします。
■見た目は女性っぽいが性格は男らしいK-POPアイドル
【高杉】体型とか物理的なものよりも、性格が「男らしい」ほうが女子にはモテると思います。優しいとか紳士的とか、リードしてくれるとか。例えばK-POPアイドルの男子は、メイクしたりして見た目が女の子っぽい人も多いけど、ファンの間では男らしいんですよ。だから、私たちが「らしさ」を感じるのは性格なんだと思います。
【安田】男らしさや女らしさを感じるポイントには、上の世代の人と同じ部分もあると思うんですけど、それより「人間としていいかどうか」を重視するほうへ変わってきているのかも。物理的な男らしさに惹かれる女子は減っている気がしますね。評価軸はあくまで性格で、「だから好き」「あの人いいよね」っていう話になることが多いです。
【原田】性格がいい、優しいといった資質は男女どちらが持っていても好感度が高いものだから、モテる要素もジェンダーレス化しているんだなと感じたよ。今は男子の間でもパールのネックレスやアイメイクがはやっているようだし、見た目のジェンダーレス化も進んでいるよね。
【工藤】フレアパンツを履いている男子もよく見ますね。お笑いコンビのEXITもネイルをしているし、昔は女性向けとされていたものを身に着けるのは、今の男子にはもう抵抗がなくなっているように思います。
■大学生は「森発言」をどう感じたか
【原田】なるほど、それだけジェンダーレスの意識が浸透しているということだね。そんな中、ちょっと話題は変わるけど、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長の発言はどう感じた?
【鈴木くん】僕はとても悲しい気持ちになりました。男女の機会の平等を進めていこうとする社会の流れがある中で、強い力をもった人の中には問題を理解できていない、嫌々ながら従っている人もいるんだろうなと思いました。一方で自分も、森前会長のように人をカテゴライズして発言し、無自覚に傷つけてしまうこともあると思うので、気をつけないといけないと思いました。
【矢追くん】今回の女性蔑視発言だけでなく、これまでの多くの問題発言も、根底には男尊女卑の思想があると感じます。個人としてそうした考えを持つことは自由ですが、そのような人物に重要な組織のトップを務めさせるのは良くないことだと思います。今回のことで、日本は自国民だけでなく世界からの信用も失いました。森前会長が辞任して新会長が就任したことで満足してしまっては、国内の差別問題は根本的に解決されないままになります。新会長の下、組織内でもう一度男女平等について議論し、今回の騒動を経て日本がジェンダーに対して真剣に向き合い、偏見を少しでもなくそうとしている姿勢を、日本国民と世界に示していく必要があると思います。
■男女を区別する企業は、若者から選ばれなくなっていく
【原田】昔は、男性はマッチョで女性を守れるのがいい、女性は料理ができて3歩下がってついていくのがいいみたいな評価軸があったけど、それはさすがにもうないようですね。それよりも、性格や美意識の高さなどが重視されるようになっている。こうした感覚の人が増えていけば、男女それぞれで画一的なリクルートスーツも、個々の能力ではなく性別でバランスをとろうとする風潮も変わってくるかもしれないね。
若い世代のジェンダー観は、確実に変わってきています。現状は、採用やキャリアの面ではまだ女性が評価されにくい状態が続いていますが、それは若い女子もきちんと把握している様子。現状を理解しながらも、それでもしっかり前を向いている印象を受けました。「男性だから」「女性だから」と区別して考えるような企業は、いずれ大学生から選ばれなくなる可能性が高いでしょう。彼らのジェンダー意識に追いついていくためにも、できる限り早く策を立てる必要があると思います。
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マーケティングアナリスト
1977年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂に入社。ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。2018年よりマーケティングアナリストとして活動。信州大学特任教授。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。著書に『平成トレンド史』『それ、なんで流行ってるの?』『新・オタク経済』『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』などがある。2019年1月より渡辺プロダクションに所属し、現在、TBS「ひるおび」、フジテレビ「新週刊フジテレビ批評」「Live News it!」、日本テレビ「バンキシャ」等に出演中。「原田曜平若者研究所」のYouTubeチャンネルでは、コロナ禍において若者の間で流行っていることを紹介中。
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(マーケティングアナリスト 原田 曜平 構成=辻村 洋子)
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