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「いつもと気合の入れ方が違う」中国当局がClubhouseを爆速で禁止したワケ

プレジデントオンライン / 2021年2月19日 15時15分

中国のECサイトで売られるclubhouseの招待コード - 筆者提供

2月8日、音声SNSアプリ「Clubhouse」が中国から利用できなくなった。中国ITライターの山谷剛史氏は「中国の規制技術は進歩しており、今回のClubhouseの閉鎖も従来の手法に加えて、SMSの遮断という最新手法が使われている。当局の検閲はさらに厳しくなりそうだ」という――。

■中国では話題になってから約2週間で閉鎖されたClubhouse

「これではClubhouse(クラブハウス)が中国で生き残るのは難しいだろう」

中国に10年以上在住している日本人たちは、なにかと話題の音声系SNS「Clubhouse」について口をそろえて心配した。その予想通り、日本では1月末より話題となってから、約2週間後の2月8日の19時ごろ、中国から利用できなくなったのだ。

中国にはGFW(グレートファイアウォール、サイバー万里の長城)と呼ばれるシステムがあり、グーグル、ツイッター、ユーチューブ、フェイスブック、Gmailなど多数の「世界の定番サービス」が利用できない。一方で、GFWの壁を越えるVPNなどのサービスを中国内外の開発者が開発提供し、多くの中国在住者が海外の本来はアクセスできないサイトにアクセスしている。

実はグーグルもユーチューブもツイッターも、登場当初から中国で使えないわけではなかった。だが、その後国内で知名度が上がり、ある程度の時間を経てからGFWができて使えなくなってしまったのである。それに比べて、Clubhouseが使えなくなるまでの時間はかなり短かったといえる。

■予想を上回る規制が行われた

中国国内で話題になった直後には、中国人のアーリーアダプターが続々と利用し始め、アリババの中古取引サービス「閑魚」ではClubhouseの招待枠が売買されるなど、その人気ぶりがうかがえる。

中国人ホワイトカラーに人気のイーロン・マスク氏ら語るトークルームに殺到し耳を傾ける動きがあったほか、中国人による差し障りのない話題のトークルームが立てられ、Clubhouseについて淡々と紹介する中国メディアの記事が掲載された。

一方で、香港問題、台湾問題、ウイグル自治区問題、天安門事件など中国ではタブーな話題に関するトークルームも作られ、情報の発信が行われていた。

タブーな話題が自由に会話されていることもあり、中国国内では「早々に対策がされるだろう」と多くの中国関係者が感じたという。2月8日の昼、タブロイド系準機関紙である「環球日報」の英語版「Global Times」は、Clubhouseを名指しで批判する記事を掲載し、中国当局が目を付けていることを暗に示した。そしてその夜、中国関係者の予想を上回る規制が行われたのだ。

中国政府の代弁するメディア「環球日報」が注意喚起
画像=「環球日報」の英語版「Global Times」より
中国政府の代弁するメディア「環球日報」が注意喚起 - 画像=「環球日報」の英語版「Global Times」より

中国のネット規制に詳しい小龍茶館の小龍(しゃおろん)氏はClubhouseへの検閲について、「今回の規制がすごかったのは、認証コードのSMSを受け取れなくした、という点です。GFWだけではなく、キャリアあるいはSMS送信サービスにまで規制が入ったということもあり、いつもより気合いが入っていますね」と語る。

これまでは規制の方法は、ネットサービスにつなげられなくなるということが常識だったのに対し、まさかSMSにまで対策が回るとは思っていなかったわけだ。

■中国国内で実施されている「2つの検閲」

中国の規制の手段は時間を追うごとに技術力が強化されており、時に予想を超える手段や技術で対策を打ってくる。今回もこれまでのように新サービスが利用できなくなることは予想できたが、SMSにまで対策してくるとは予想できなかった。このあたりの手法が中国の検閲の恐ろしさだ。

中国から遮断されたClubhouse(提供=小龍茶館)
中国から遮断されたClubhouse(提供=小龍茶館)

「しかも、ここ1年半ほどGFWの規制はそれ以前より緩んでいたにもかかわらず、Clubhouseにだけはかなり踏み込んだ規制をしたなという印象です」と小龍氏は分析。どうも中国当局はかなりの気合の入れようだったようだ。

このように、中国のネット規制やSNSの検閲はますます磨きがかかっている。中国のネット検閲は大きく2つに分けられる。中国国外のサービスの遮断と、中国国内の書き込みのチェックだ。

まずは国外サービスの遮断について。グーグルなどの他国のサーバーとなると、中国が書き込みデータを閲覧したり削除したりしたくても、ハッカーを使った強硬な手段を使わない限りは手をつけられない。ちなみにグーグルが過去に中国から検索業務を撤退したときの理由として、監視体制に協力できないことと、反体制派のGmailアカウントへのハッカーによる攻撃があったことを挙げている。

中国にネットサービスを提供する場合は、必ず中国国内のサーバーを利用しなければならない。このような規制は、2017年6月に施行された中国サイバーセキュリティ法こと「中国網絡安全法」で事実上法制化された。

そこで中国国内における書き込みのチェックが発生する。サーバーを設けた上で、中国企業は自動でフィルタリングし、NGワード候補を絞った上で、さらに人力でNGワードを探し出す。以前は謎のベールに包まれた仕事だったが、いまは当たり前のように求職サイトで堂々と検閲スタッフを募集し、検閲員の日常が記事として掲載されている。

募集されているネット検閲員
筆者提供
募集されているネット検閲員 - 筆者提供

■中国企業によるClubhouseへの検閲

気になるのが中国網絡安全法の37条に書かれている「中国国内で収集と生産した個人情報と重要データは中国国内に残さなければならない」という内容だ。

Clubhouseは中国「Agora.io(声網)」社の音声サービスを使っており、Clubhouseの人気沸騰とともにAgora.ioの株価も上昇した。その一方で、Agora.io社の中国サーバーを経由しているならば、Clubhouseの音声データを中国のサイバーセキュリティ法の下に保管し、検閲することが可能になるというわけだ。米スタンフォード大学の研究機関であるスタンフォード大学インターネット観測所も、Agoraが音声にアクセスし保管される可能性を危惧する発表をしている。

余談だが、中国は多くの外国サイトやサービスを遮断してはいるが、一方で遮断しているサイトやサービスを利用する中国人は少なくない。

買い物情報やゲームやアニメなど、さまざまなカジュアルな用途でも壁越えツールは活用されている。ただし、共産党大会などの政治イベントには手綱を締め遮断が強化されて普段よりもアクセスしにくくなっている。また、壁越えサービスの販売配布や、ポルノコンテンツを壁越えサービスを利用して配布している中国人がしばしば逮捕されている。

リアルな実情としては越えにくい壁を用意した上で、海外サイト・サービスの行き過ぎない利用を黙認しているといえるだろう。

■相互監視を強化するための“アメとムチ”

もうひとつの中国国内の書き込みのチェックとして、近年は検閲体制が強化され、自動フィルタリングや検閲スタッフによる検閲にとどまらず、ユーザーによる密告体制までできている。

密告のシステム化は、SNSごとに独自のスコアリングシステムを導入することで実現した。反体制やポルノや暴力などの規則違反や、低俗だとする他ユーザーからの通報により点数が下がるというものだ。

「ムチ」の一方で、SNSをつまらなくしないように、オリジナルコメントやオリジナルの内容を書き込むと点数が上がり、点数が上がることで書き込み機能が豊富になるという「アメ」も用意。このシステムを導入したSNSのひとつで、ツイッターのようなサービスの「微博(Weibo)」では、プロパガンダ「社会主義核心価値観」とともに、一日一善のハッシュタグを書き込み、点数を上げようとしているアカウントが確認できる。

結局のところ、Clubhouseは遅かれ早かれ中国で遮断されるか、監視される運命にあった。ただし当局の技術的対応は想像以上であり、また中国産の高性能なネットテクノロジーによって、当局に検閲されかねないというリスクが新たに露呈した。今後も中国のネットテクノロジーの発展とともに、検閲能力も強化されることになるだろう。

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山谷 剛史(やまや・たけし)
中国ITライター
1976年生まれ。東京都出身。東京電機大学卒。システムエンジニアを経て、中国やアジアを専門とするITライターとなる。現地の消費者に近い目線でのレポートを得意とし、バックパッカー並の予算でアジア各国を飛び回る日々を送っている。著書に『中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか? 中国式災害対策技術読本』(星海社新書)、『中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立』(星海社新書)、共著に『中国S級B級論―発展途上と最先端が混在する国』(さくら舎)などがある。

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(中国ITライター 山谷 剛史)

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