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「寝たきり老人が極端に少ない謎の島」で必ず食卓に並ぶ健康寿命を延ばす野菜

プレジデントオンライン / 2021年2月21日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/monkeybusinessimages

「寝たきり」を防ぎ、最期まで元気に過ごすためにはなにが重要なのか。細菌学者の辨野義己氏は「健康寿命を延ばすには、腸内細菌のバランスを整えるための食生活が重要。おすすめなのは加熱した野菜で、なかでもサツマイモは腸内環境を良くする理想の食べ物だ」という――。

※本稿は、辨野義己『「腸内細菌」が健康寿命を決める』(インターナショナル新書)の一部を再編集したものです。

■腸内環境への関心が高まりテレビ出演

2001年つまり21世紀になってから私の研究生活に、ちょっとした変化が起きました。

メディアの人たちの仕事に協力する機会が、どんどん発生し、急速に増えていったのです。それもテレビという巨大マスメディアの番組制作に監修協力したり、ときには専門研究者として出演したり、現場取材に同行したりする機会が多くなりました。

テレビ番組が腸内環境を取り上げるようになったのは、多くの人が腸内環境に関心を持つようになったからでしょう。テレビ番組の制作に協力するのは一回きりではなく、何度も毎週のようにありましたから、この関心の高さは一過性のものではなく、多くの人が腸内環境についての生活の知恵を必要としているからだと思いました。

もともと日本語には「快食快便」という言葉が示すように、美味しく健康的に食事をして、すっきりとウンチをして、日常生活をリズミカルに気持ちよく暮らすという理想の考え方がありました。これは万人の願いですから、消化器への関心が、大昔から強かったということだと思います。

テレビ番組と取材調査に行ったのは「寝たきり期間が短い村」です。大分県の姫島でした。瀬戸内海西端の小さな島です。当時の人口は2000人ほどでした。姫島は大分県の医者たちから「謎の島」と呼ばれていました。何が謎かといえばお年寄りが寝たきりになって亡くなるまでの期間がとても短いからです。要するに健康寿命が長いのです。

■健康寿命が飛びぬけて長い大分県の姫島

後期高齢者になっても元気でばりばりと活動し、長患いすることなく、天寿をまっとうしていました。当時の姫島の寝たきり期間は平均で1.42年です。これがいかに短いかといえば、全国平均では男性9.22年、女性12.77年の時代です。

もっと驚くことは、大分県は健康寿命が短いことで知られていたことです。大分県の男性の寝たきり期間は全国1位の10.29年、女性は全国3位の13.89年でした。その大分県にあって1.42年の姫島は、飛び抜けて健康寿命が長い島だったのです。

大分の海といえば美味しい関サバ、関アジが有名で、姫島はクルマエビの養殖が盛んだと聞いていたので、さぞかし魚介類の動物性タンパク質を多く摂っているだろうと思っていたのですが、姫島の人びとは魚介類はめったに食べないのです。これは大変に意外なことでした。魚介類は姫島の貴重な産業製品なので、島内ではまったくと言っていいほど消費されません。

姫島の人びとの日常食は、畑仕事にいそしんで自作する野菜と海岸で獲る海藻(特にひじき)、そしてサツマイモが中心でした。要するに食物繊維がたっぷりの日常食です。これは腸内環境を良くする食習慣の典型です。ただし忘れてならないのは、畑仕事と海藻獲りによる豊富な運動量です。良い食習慣と豊富な運動量がセットになって初めて健康長寿が実現できるのです。

■長寿の地域でよく食べられているサツマイモ

特産の伝統食は、12月の一定時期に収穫したひじきの新芽を二度ほど釡茹でにしてから天日干しにした「姫島ひじき」。これはとても柔らかい。

そして米麴で発酵させた自家製味噌にナスやニンジンの塩漬けを細く切って混ぜ合わせた「納豆味噌」もあります。さらに姫島ではサツマイモを主食と言っていいほどたくさん食べます。郷土料理である「いもきり」は、サツマイモの粉を練ってうどん状にして、ダイコン、ニンジン、ゴボウ、長ネギといったてんこ盛りの野菜や豆腐と一緒に煮込んだ日常食です。

定番のおやつには干した薄切りのサツマイモともち米を練り合わせた「かんころ餅」があります。姫島の人びとの寝たきり期間が短い、すなわち健康寿命が長い理由を、食習慣から見ると、やはりサツマイモをたくさん食べるところにあるのだろうなと思わざるを得ませんでした。

サツマイモの収穫中
写真=iStock.com/okugawa
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/okugawa

もちろん、これらの地域でも研究用のウンチをいただきましたので、私たちは分析に励みました。そして私は、ひとつの長年にわたる課題に結論を出そうと考えました。「健康長寿につながる腸内細菌は何か?」。その答えこそ「長寿菌」グループの特定だったのです。

そもそも「長寿菌」グループを特定するというアイデアは、健康長寿の地域でフィールドワークを続けていた当時、あるご家族のウンチを分析したときに浮かんできたものでした。そのご一家は山梨県の小淵沢(こぶちざわ)にお住まいだったのですが、健康長寿という年齢層のご一家ではありませんでした。

日常的に野菜を食べる食生活を続けておられ、動物性脂肪類はめったに食べず、飼っている鶏を食べる機会がたまにあるだけという食習慣のご一家だったのです。その野菜はすべて自給自足で、野菜を育てる肥料は自分たちのウンチを落ち葉に混ぜたものでした。

つまりかなり厳密な菜食主義のご一家だったのです。

■菜食主義者の便から検出された「酪酸産生菌」

こういうライフスタイルのご一家を、旧知の大学教授が紹介してくれたので、興味を惹かれた私が調査をお願いしたのでした。このご一家のウンチを分析すると、フィーカリバクテリウム(=大便菌)とラクノスピラという腸内細菌が、特徴的に多く検出されたのです。つまり、菜食主義者のウンチからは、これらの菌が多く検出できるということです。

これらの菌は「酪酸産生菌」と呼ばれ、「食物繊維」から「酪酸」という物質を作ります。その酪酸は、がん細胞の抑制、腸粘膜の正常化による免疫向上、腸管機能向上効果による消化・吸収の促進など、有益な健康効果があることがわかっています。

腸の健康のために良い食品
写真=iStock.com/Palina Charnova
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Palina Charnova

とりわけ大便菌は、新しく発見された珍しい菌ではなく、古くからその存在が知られ、日本人ならば誰でもが持っていると言っていい腸内細菌です。

しかし培養するのがむずかしかったので、その実態がつかめていなかったのです。それが近年に発達した遺伝子解析法によって実態があきらかになりつつある菌でした。

大便菌に代表される酪酸産生菌が弱っていると、たとえば風邪をひきやすくなるなど、体の衰えをもたらすことがわかってきていました。それまでにフィールドワークをしてきた健康長寿地域の人たちのウンチからも多くの酪酸産生菌が検出されたことから、私はピンときたのです。

■健康長寿地域の研究から発見された「長寿菌」

「野菜をたっぷりと食べる食習慣は、食物繊維を大量に摂ることだから、おのずと酪酸産生菌を増やす。酪酸産生菌が増えれば酪酸の産生を促進させるので、これが健康長寿のカギになっているに違いない」この発想は、健康長寿地域における野菜中心の食生活と腸内細菌を、新たな視点をもって関連づけるものになりました。

そこで私は、大便菌とラクノスピラ、そしていわゆる「善玉菌」としてよく知られるビフィズス菌の三つの菌を、ひとつのグループにまとめて「長寿菌」と名づけ、フィールドワークによって検証してみようと考えたのです。

三つの菌をひとつの長寿菌グループにしたのは、ビフィズス菌だけがもてはやされて健康の要として考えられる傾向が強いことに私は少々の疑問をもっていたからです。なぜなら、ビフィズス菌はつねに腸内にいる常在菌であるがゆえに、他の常在菌と複合的な働きをする、理由や役割があると私は基本的に考えるからです。

ビフィズス菌だけがものすごく良い働きをするのではなく、他の未知なる常在菌の力もあって、それらが複合的に働くからこそ腸内環境を良くしていると考えたわけです。そうした考え方から、私は長寿菌と名づけるならば、それは菌のグループであるべきだろうと発想したのです。

■腸内細菌のバランスを整える「切り干しダイコン」

では、どんな野菜を食べたら長寿菌が増え、腸内細菌のバランスがよくなって健康増進につながるのかを説明したいと思います。基本の心得は、とにかくいろいろな野菜をたっぷり食べることです。

また、生野菜よりも加熱した野菜の方が大量に食べられることを覚えてください。とくに私がお勧めするのは、食物繊維を多く含んだ野菜となります。そうするとセロリやレタスが出てくると思われるでしょうが、案外そうとも言えないのです。

私が最初にお勧めするのは「切り干しダイコン」です。切り干しダイコンを100グラム食べると、約21グラムの食物繊維が摂れます。食物繊維の一日の推奨量は男性21グラム以上、女性18グラム以上ですから、これだけでOKなのですが、100グラムの切り干しダイコンを水で戻して一度に食べるのは、よほど好きな人でなければ無理だと思います。50グラム食べて10グラムほどの食物繊維を摂るという方法が現実的でしょう。

■サツマイモは腸内環境を整える理想の食べ物

次は「インゲン豆と大豆」です。

インゲン豆は、茹でてサラダやおひたし、これまた食物繊維に富む炒りゴマで和えるといった、ごく平凡な調理方法で構いません。一方の大豆は、納豆や枝豆などさまざまですが、しかし大豆から作る豆腐は食物繊維が多くありません。

辨野義己『「腸内細菌」が健康寿命を決める』(インターナショナル新書)
辨野義己『「腸内細菌」が健康寿命を決める』(インターナショナル新書)

ところが豆腐のカスだと思われているオカラの方がはるかに食物繊維が多いので、オカラを食べるのもよい方法です。そして「芽キャベツ」です。茹でたキャベツ100グラムでは2グラムの食物繊維しか摂れませんが、茹でた芽キャベツ100グラムからは5.2グラム摂れます。

「キノコ」もいいです。シメジ、シイタケ、エノキダケ、マイタケなどは、茹でた100グラムからだいたい3~7グラムの食物繊維が摂れます。食用のキノコとしてまだよく知られていないアラゲキクラゲは、茹でた100グラム中に15グラムも食物繊維が含まれています。

先ほど紹介した南方の健康長寿地域で必ず食べられていた「サツマイモ」は、蒸した100グラムで3.8グラムの食物繊維が摂れます。便通を促すヤラピンという物質も含まれていますから、サツマイモは腸内環境を良くする理想の食べ物でしょう。

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辨野 義己(べんの・よしみ)
細菌学者
理化学研究所弁科技ハブ本部辨野特別研究室・特別招聘研究員。1948年、大阪生まれ。酪農学園大学酪農学部獣医学科卒業。東京農工大学大学院獣医学専攻を経て理化学研究所へ。1982年東京大学農学博士授与。およそ半世紀にわたって腸内細菌の生態と分類を研究し続けている。著書に『大便通』(幻冬舎)、『100歳まで元気な人は何を食べているか?』(三笠書房)、『「腸内細菌」が健康寿命を決める』(インターナショナル新書)など多数。

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(細菌学者 辨野 義己)

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