習近平の「対話と協力」の呼びかけはあからさまなワナだ

プレジデントオンライン / 2021年2月19日 9時15分

中国の習近平国家主席(左)と米副大統領(当時)のバイデン氏(2015年9月25日、アメリカ・ワシントン) - 写真=AFP/時事通信フォト

■世界の今後を決める米国と中国の電話会談

アメリカのバイデン大統領が2月10日、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席と電話で会談した。会談はバイデン氏の大統領就任後、初めてのことである。

電話会談とは言え、両首脳の言動が世界の今後を決めるだけに各国が強い関心を示した。

経済力と軍事力で世界を席巻するアメリカと中国。だが、政治体制は民主主義と一党独裁体制と大きく違う。それだけにトランプ前政権では激しく対立し、「新冷戦」と習氏が指摘するほど緊張が高まった。

アメリカは今後、中国にどう対応していくのか。中国は台湾への威嚇、香港の民主派弾圧、南シナ海への軍事的進出と反国際的な態度を取り続けるのか。米中の行方を今回の会談から読み取りたい。

■習近平氏は冷戦解消に取り組む姿勢をアピールしたが…

電話会談が行われたのは、中国の春節(旧正月)の大みそかだった。会談は2時間にわたって行われた。バイデン氏が「中国の繁栄を願う」と新年のあいさつを送ると、習氏はバイデン氏の大統領就任への祝意を述べた。スタートは穏やかだった。

その後、習氏は「あなた(バイデン大統)はアメリカの最大の特徴が『可能性』だと言うが、その可能性を中国との関係にも役立ててほしい」と呼びかけ、米中の「対話と協力」をこう求めた。

「中国とアメリカが協力すればお互いの利益となる。逆に争えばともに傷つく。世界の災難でもある。協力が唯一の正しい選択だ。中米は対立せず、互いに尊重すべきだ」

しかし、会談でバイデン氏は習氏の求めには応じず、距離を置いた。具体的にはバイデン氏は「自由で開かれたインド太平洋」について維持していくことが「優先される」と強調し、香港と台湾の問題に対してはアメリカの「根本的な懸念だ」と訴えた。

■「対話と協力」を求めた裏には、習近平氏の魂胆がある

習氏がバイデン氏に対話や協力を求めた裏には、魂胆がある。米中の冷戦解消に積極的に進んで取り組む姿勢を国際社会にアピールすることで、中国のイメージアップを図ったのだ。言葉では何とでも言える。中国らしいやり方である。

2019年6月4日、香港のビクトリアパークで行われた天安門事件30周年の集会
写真=iStock.com/Derek Yung
2019年6月4日、香港のビクトリアパークで行われた天安門事件30周年の集会 - 写真=iStock.com/Derek Yung

バイデン氏がそんな習氏に応じなかったのは評価できる。

これまで中国は「自由で開かれたインド太平洋」を「対中包囲網」として強く警戒し、香港や台湾の問題には譲歩できない「核心的利益」「内政問題」と主張している。

ただバイデン氏の対応がすべて褒められるわけではない。沙鴎一歩には今回の米中会談で心配なところがある。

■習近平政権にはわずかな隙も見せてはならない

トランプ前政権では、中国に対しかなりの圧力で臨んだ。それに比べてバイデン新政権は圧力を弱めようと模索している。

中国はしたたかな国家だ。腹中は理解しがたく難く、念頭にあるのは自国の繁栄=中国共産党の栄華だ。国際秩序を守るつもりはない。最近の台湾の防空識別圏への侵入や香港の民主化デモに対する制圧を見ればよく分かるだろう。

会談終了後、バイデン氏はツイッターに「気候変動という地球規模の課題などでアメリカ国民の利益になるなら協力する」と書き込んだ。甘すぎる。中国や習近平国家主席を甘く見ると、ひどい目に遭う。習近平政権にはわずかな隙も見せてはならない。

■「米国の立場を明確にしたことを評価したい」と産経社説

2月13日付の産経新聞の社説(主張)は、米中初の会談でのバイデン氏の発言についてこう指摘する。

「習氏に直接、中国の非を戒め、米国の立場を明確にしたことを評価したい。日本など同盟国は一層の対中結束で呼応すべきだ」

バイデン氏は中国を「最も重大な競争相手」として一目置いている。そのうえで直接、習近平氏に苦言を呈したのである。これは産経社説が後半で指摘しているように「旧知の仲」だからこそできたことだ。さすがの対応ではあったが、そこを割り引いて評価する必要がある。

ちなみに産経社説は二人の関係について、「(バイデン氏は)副大統領時代の2011年に訪中し、当時国家副主席だった習氏と対話を重ね、翌12年の習氏訪米の際は、ホスト役を務めた」と説明している。

■どこから見ても中国の行動は歪んでいる

産経社説は習氏の言い分を「習氏は『台湾や香港、新疆ウイグル自治区の問題は中国の内政』」であり、『中国の核心的利益を尊重すべきだ』と反発した」と書いた後、次のように批判する。

「だが、これらは全て、内政問題では済ませられない。台湾威嚇は日本を含む地域の安全を揺るがす。香港の民主派弾圧は『一国二制度』の国際公約違反である」

「台湾威嚇」に「香港の民主派弾圧」。どこから見ても中国の行動は歪んでいる。

産経社説はさらに批判する。

「首脳会談で習氏は『互いの政策の意図を正確に理解し、誤解を避けるべきだ』と指摘した。だが、中国の政策のどこが誤解されているというのか。南シナ海の軍事化など力ずくの海洋進出の意図が覇権追求でなくて何なのか」

産経社説は見出しでも「覇権追求『誤解』ではない」と主張しているが、自国の不正行為を正当化するために「誤解」という言葉を持ち出す習近平氏の論理はおかしい。

産経社説は最後に「中国は首脳の個人的な関係を含め、あらゆる外交資源を駆使し、米国の対中姿勢をやわらげようとしてくるだろう。日本は米中関係を注視し、バイデン政権が揺らがぬよう支えねばならない」と日本政府に注文する。

菅義偉政権はバイデン政権が中国に隙を見せぬよう、助言を惜しんではならない。

■「不毛な対立ではなく、健全な共存をめざす対話を」と朝日社説

次に同じ2月13日付の朝日新聞の社説を読んでみよう。

「対話による緊張緩和を」との見出しを付け、書き出しでこう主張する。

「米国と中国の2大国の関係は、今世紀の世界のありようを左右する。不毛な対立ではなく、健全な共存をめざす対話を心がけてほしい」

「対立」でなく、「共存」や「対話」を朝日社説は訴えるが、これでは習近平のワナにはまる。前述したように習近平氏には魂胆がある。習氏は策略から「対話と協力」をバイデン氏に求めたのである。

どうして朝日社説は習氏のワナが見抜けないのか。得意の理想主義があだになって自らの眼鏡を曇らせている。ニュースに向き合うときには眼鏡を外して真実を見つめることが大切だ。

■朝日社説の主張は理不尽な喧嘩両成敗だ

朝日社説は「米中関係は、自国第一主義がぶつかる覇権争いであってはならない。世界の分極化を避けるためにも、双方が利害を共有する領域を広げるべきだ」と主張し、こう指摘する。

「まずは貿易問題である。バイデン氏は中国の『高圧的で不公正な経済慣行』を指摘した。確かに、中国市場の通商障壁などは十分に改善されていない」
「中国は、貿易を恣意的に対外制裁に使う行動も改めねばならない。この点については米国も、前政権のような乱暴な関税制裁は控えるべきだ」

朝日社説は中国を戒めるとともにアメリカにも自戒を促す。理不尽な喧嘩両成敗である。偏った社説だ。自由で民主的な国際社会から見て歪んでいるのは中国だ。ここはまず中国が自らの姿勢を正すべきなのである。

■中国には「理想論」は通用しない

朝日社説は「民主主義や法の支配などを重んじるバイデン政権と、権威主義を強める共産党体制との間には、埋めがたい溝がある」と指摘し、最後にこう主張する。

「米国は、日豪印とともに集う4カ国の首脳協議を模索しているという。新たな試みではあるが、中国を封じ込めるような冷戦思考であってはなるまい」
「民主主義と人権の原則を共有するアジア太平洋の主要国が、中国を巻き込みながら穏健な秩序づくりを主導する。そのための周到な外交努力が、米国並びに日本にも求められている」

「中国を封じ込めるような冷戦思考」ではなく、「中国を巻き込む穏健な秩序づくり」。実に聞こえのいい主張だ。朝日社説の好む理想的な訴えである。

だが、中国の習近平国家主席にはこんな思考は通じない。習氏は表面的に「対話と協力」を求めて国際社会にアピールし、頭の中は一党独裁体制の維持しかないのである。朝日社説はどうしてそれが分からないのか。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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