「原発頼みは事故から10年たっても変わらない」行き詰まる東京電力の断末魔
プレジデントオンライン / 2021年2月22日 9時15分
東京電力の福島第1原子力発電所構内を視察し、多核種除去設備(ALPS)で浄化処理した汚染水を手にする菅首相。右隣は東京電力HDの小早川社長と小野明・福島第1廃炉推進カンパニー・プレジデント。奥左は3号機=2020年9月26日、福島県大熊町[代表撮影] - 写真=時事通信フォト
■2021年度業績の通期見通しが出せない異例の事態
「新型コロナ感染拡大や年末年始の電力ひっ迫などもあり2021年度通期見通しは出せません」――。
2月10日の東京電力ホールディングス(HD)の決算会見で大槻陸夫常務執行役からこんな言葉が飛び出した。大槻常務執行役は言葉少なげに語ったが、年度末を3月に控えるのにも関わらず、業績の見通しが出せない異例の事態だ。
単年度の決算見通しが出せない中では、当然、中期経営計画も策定できるわけがない。3月末に3カ年の「第三次特別総合計画」が終わる。同計画は東電HDの過半の株式を握る政府と策定するが、後手後手の新型コロナウイルス感染症対応に追われる菅政権にとって東電HDの問題は「票につながるわけでもなく、逆に対応を誤れば支持率がさらに下がりかねない」(自民党中堅幹部)として、後回しになっているのが実情だ。
東電HDも菅政権発足当初は政府に期待を寄せていた。菅首相が所信表明演説で「2050年をめどに温暖化効果ガスの実質排出ゼロ」を宣言したことによって、二酸化炭素を排出しない原子力発電所の再稼働に弾みがつくとの情報が業界に広がったためだ。
実際、昨年10月末には東電HDの福島第一原発の処理水の放出について政府がゴーサインを出すとの話が駆け巡った。しかし、報道が先行したため、地元の漁業組合などが反対、話は流れてしまった。
■原子力規制委員会の更田豊志委員長が呈した苦言
昨年12月21日の臨時会合で、原子力規制委員会の更田豊志委員長は、東電の小早川智明社長に向けてこう苦言を呈した。
「あたかも政府の問題になったような態度は許されない」
「社長の顔が見えない」
これに対し、小早川社長は「さまざまな調整箇所がある、我々の立場で乗り越えられないものもある」と理解を求めたが、更田委員長は「福島でトップの顔が見えない組織が柏崎刈羽原発で何かあったときに顔を見せるとは思えない」「しっかりリーダーシップをとってほしい」とさらに苦言を呈した。
確かに、処理水を海洋などに放出する決定を下す権限は政府にある。しかし、東電にできることもある。年間の収益見通しを打ち出したり、菅政権の掲げる「2050年排出ガスゼロ」に向けた取り組みを進めたりすることは可能だ。
ところが、福島第1原発の処理水の問題など、廃炉や除染など後ろ向きの対応に追われた。
■完全自由化された電力小売市場での苦戦が鮮明
東電HDを巡る経営環境は厳しさを増している。
新型コロナウイルスの感染拡大による電力需要の落ち込みに加え、完全自由化された電力小売市場での苦戦が続いている。
各地の新電力のシェア(2020年6月時点)は、東京=23.1%、関西=20.9%、北海道=20.3%、東北=13.9%、中国=13.6%、四国=13.3%、北陸=12.8%、九州=12.5%、中部=12.3%、沖縄=8.3%。東電管内での新電力のシェアは23.1%と全国で最も高い。
東日本大震災前に約2000万件あった東電の家庭向け契約件数は、直近では1300万~1400万件にまで落ちた。結果として東電の電力小売りを担う「東電エナジーパートナー」の昨年4~12月期の経常利益は、前年同期比で85%も減少した。
■頼みの綱「JERA」の経営を直撃したLNGの弱点
期間収益の低迷に加え、自由化で分社した各社も振るわない。特に東電HDが不安視するのが燃料調達・火力発電部門を切り出し、中部電力と共同で設立した燃料・火力発電会社のJERAだ。
JERAは日本の発電量の約3割を占めるのと同時に、世界最大規模の液化天然ガス(LNG)の調達会社でもある。設立当初は、その発電量とLNGの規模が「強み」だったが、これからの脱炭素時代では「弱み」になる恐れがある。
LNGは化石燃料であるため、いずれ規制の対象となる。さらに、気化しやすいため2カ月しか貯蔵できず、価格変動のリスクを抱えている。この年末年始はまさにこのLNGのリスクがJERAの経営を直撃した。年末年始に日本を襲った寒波で急激に電力需要が高まり、LNGの在庫不足から必要な電力が賄えなくなったのだ。
いち早く経済回復した中国や脱石炭を急ぐ韓国とのLNGの争奪戦となり、歴史的高値での購入を余儀なくされたので、今期の決算も東電HDの期待に沿うようなものにはならない模様だ。
■廃炉・賠償・除染に必要な資金は約16兆円
JERAの動向は東電HDの再建にも大きな影響を与える。
東電HDはJERAを将来的に上場させ、その上場益を廃炉や賠償、除染など東電HDが抱える負債の返済原資や、国有化から脱却するために国がもつ東電株を買い取る資金として見込んでいるからだ。
現在、東電HDに課されている廃炉・賠償・除染に必要な資金は約16兆円。内訳は、廃炉費用が8兆円、被災者への損害賠償費用4兆円、除染費用4兆円だ。
廃炉費用の8兆円は全額東電HDが支払う。被災者への損害賠償費用は7.9兆円だが、この半分の4兆円を東電が負担し、残る半分はほかの電力大手の負担金などで賄う。この12兆円を東電は、毎年5000億円前後を30年程度払い続ける。この負債返済を進めると同時に、国が持つ東電株を買い戻すにはJERAなど子会社の上場益や取り込み利益などが必要になる。
■株価引き上げができなければ、多額の国民負担が発生する恐れ
さらに、残る4兆円の除染費用は国が持つ東電株の売却益で返すことにしている。今の東電の株価は400円台だから、4兆円に見合うには、約5倍の1500円程度まで株価を引き上げる必要がある。しかし今の収益力では株価の大幅な上昇が見込めない。
株価引き上げができなければ、多額の国民負担が発生する可能性がある。この批判を避けるためにもJERAの上場は東電HDが是が非でも成し遂げたいところだ。
「通期の業績見通しも出せない今の状態では国有化脱却なんて夢のまた夢だ」(東電HD幹部)。閉塞感が漂う東電HDでは「最後は柏崎刈場などの原発再稼働しか解決策はない」との空気が蔓延し始めている。原発が一基動けば年間1000億円近くの収益が上がるためだ。
結局、「原発頼みの体質は東日本大震災から10年たっても変わらない」(東電HD幹部)。脱炭素=原発再稼働となることが、日本のエネルギー政策の「解」なのか。
東電HDの再建は国にとっても重い課題を投げかける。
(プレジデントオンライン編集部)
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