「1台127万円のバイクが即完売」伝説ブランドを復活させたカワサキの大戦略

プレジデントオンライン / 2021年2月23日 9時15分

往年の“メグロ”ブランドを令和の時代に復活させた「MEGURO K3」 - 写真提供=川崎重工業

■東京五輪の聖火リレーで先導車を務めた名車

2月1日に発売されたカワサキの800ccバイク『MEGURO K3』に今、静かな、しかし熱い注目が集まっている。

なぜならMEGUROの名は、1924年(大正14年)に東京市大崎区目黒村(現品川区)で創業した日本初のスポーツバイクメーカー『目黒製作所』(ブランド名は『メグロ』)に由来するからだ。

メグロのバイクは高性能、高品質で知られ、当時のライダー達の憧れの的だった。また、数少ない国産の大排気量ブランドとして戦前、戦後を通じ警視庁に白バイを納入しており、1964年(昭和39年)の東京五輪時には聖火リレーの先導車という大役も果たしている。

1964年東京五輪でメグロ「K1」を駆って聖火リレーを先導する白バイ隊員たち
写真提供=川崎重工業
1964年東京五輪でメグロ「K1」を駆って聖火リレーを先導する白バイ隊員たち - 写真提供=川崎重工業
 白バイ仕様の「K1」。民生用は「スタミナ K1」の名で販売された。現行「K3」の始祖とも言えるモデルだ
写真提供=川崎重工業
白バイ仕様の「K1」。民生用は「スタミナ K1」の名で販売された。現行「K3」の始祖とも言えるモデルだ - 写真提供=川崎重工業

しかし、戦後はホンダ、ヤマハ、スズキといった新興メーカーの勢いと市場ニーズの変化に押され、苦戦を強いられる。打開策として1960年、川崎航空機工業(現・川崎重工業モーターサイクル&エンジンカンパニー)と業務提携を結んだものの収益は改善されず、1963年に川崎傘下となって『カワサキメグロ製作所』と改名、翌1964年には川崎に吸収合併され、バイクメーカーとしてのメグロは消滅してしまう。

だが、そこでメグロの血脈が完全に途絶えたわけではなかった。

1964年の東京モーターショーにおいて川崎航空機工業は当時の国産最大排気量車両となる『カワサキ500メグロK2』を発表するが、このモデルはダブルネームになっていることからも察せられるように、同社に移籍した旧メグロの技術者との共同作業で開発されている。

1956年、目黒製作所社屋前での従業員たちによる記念撮影。前に置かれているのは発売されたばかりの「スタミナ Z7」
写真提供=川崎重工業
1956年、目黒製作所社屋前での従業員たちによる記念撮影。前に置かれているのは発売されたばかりの「スタミナ Z7」 - 写真提供=川崎重工業
川崎航空機工業に移った旧メグロの技術者との共同作業によって開発が行われ、1964年の東京モーターショーで発表された「カワサキ500 メグロK2」
写真提供=川崎重工業
川崎航空機工業に移った旧メグロの技術者との共同作業によって開発が行われ、1964年の東京モーターショーで発表された「カワサキ500 メグロK2」 - 写真提供=川崎重工業

さらにメグロ系技術者は後の名車『カワサキ650W1』の開発でも中心的存在となり、“ビッグバイクのカワサキ”の礎を築いたのだ。

■販売開始前に予約が殺到……

そのメグロの名を令和の時代に蘇らせたのが、『MEGURO K3』(以下、K3)なのである。

実はこのK3、完全な新開発ではない。往年のWシリーズを現代的にリバイバルさせた既存モデル、『W800』のスペシャルバージョン的な位置づけだ。しかし、かつての名門メーカーの名を冠するだけあって、各所に古き良き時代を感じさせる作り込みと仕掛けが施されている。

タンクには光の当たり方によって様々な表情を見せるカワサキ独自の銀鏡塗装が施されただけでなく、特殊なコーティング処理によってペイントへの傷に対する自己修復機能も持っている。

「K3」のタンク。銀鏡塗装と黒の配色がクラシックな雰囲気を醸し出している
写真提供=川崎重工業
「K3」のタンク。銀鏡塗装と黒の配色がクラシックな雰囲気を醸し出している - 写真提供=川崎重工業

さらにタンクの両サイドに配されたエンブレムは、かつてのメグロのそれをモチーフとしたもの。アルミの立体成型で作られ、熟練した日本の職人の手作業でひとつひとつ5色に塗り分けられている。

新旧のメグロエンブレム。左が現行「K3」、右が1954年発売「ジュニア S2」のもの
写真提供=川崎重工業
新旧のメグロエンブレム。左が現行「K3」、右が1954年発売「ジュニア S2」のもの - 写真提供=川崎重工業

またスピードメーター内やサイドカバーには、古き時代のメグロ車を彷彿とさせる「メグロ」の赤いカタカナ(!)ロゴが入っているという凝りようだ。さらには、3年間の定期点検やオイル交換を無償で行うサービスも付帯している。

「K3」のサイドカバーには、かつてのメグロ車にもあった赤いカタカナロゴが
写真提供=川崎重工業
「K3」のサイドカバーには、かつてのメグロ車にもあった赤いカタカナロゴが - 写真提供=川崎重工業

ただその分、価格はベース車両のW800よりやや割高に設定されていて税込で127万6000円と、決して気軽に手を出せる額ではない。

ところがカワサキによるとK3は2月1日の発売を待たず、全国の販売店からの事前発注分だけで、2年間で400台という販売計画台数の2021年度分(具体数は非公表)に達してしまったのだという。

そしてYouTube上のK3公式プロモーションビデオは、昨年11月の公開から約3カ月で36万回と、カワサキ全モデルの中でも異例の再生回数を叩き出したのだ。

■なぜカワサキは「メグロ」を復活させたのか

事前発注分の車輛にはその大部分に対して購入予約が入っており、予約者の約80%が40歳以上。つまり、今はなき名門メグロへの知識や憧れを持っているライダー層が中心なのだが、ブラックと銀でまとまったレトロな車体デザインに直感的に惹かれ、購入を決めた顧客もいるとのこと。

さらに現在、多くのユーザーや販売店からK3増産の要望が続々とカワサキに寄せられている状況にもかかわらず、前述のようにタンクやエンブレムの生産工程が特殊であるため、調整に時間を要しているというのが何とも皮肉な話だ。

かくも好評を博しているK3なのだが、なぜカワサキは57年前に自らが吸収合併した会社のブランド名を突如、令和のこの時代になって復活させたのだろう。

ニューモデル情報に定評がある創刊49年のバイク雑誌『ヤングマシン』編集長の松田大樹氏が語る。

「いや、決して突如ではなく、前触れはあったんですよ。2019年の東京モーターショーや、現行型W800のプレス向け試乗会でメグロK2を展示したりと、カワサキは折々で『メグロ』の露出を図っていました。そして2020年、同社がメグロのロゴマークを全世界規模で商標出願したことで、バイクメディア関係者の間では『メグロの復活はほぼ確定』の見方で一致していたんです。カワサキはこのあたりの情報コントロールが非常に巧みで、それとなくメグロの露出機会を増やしていたというわけです。だからいざ正式発表となっても、『なんで急にメグロ?』といった唐突な印象がない。我々メディアをうまく踊らせてくれました(笑)」

■他の国産メーカーとは異なる存在でありたい

では、そこまで周到な準備をしてメグロをリバイバルさせた真意とは?

「ブランド力の向上に尽きるでしょう。カワサキは、1924年に創業したメグロを1964年に吸収合併したわけですから、歴史的なバックボーンを持っていることをPRできます。また、メグロは国産では数少ない大型車専門メーカーとして誕生しましたから、単なる移動手段としての小排気量車を原点とする他の国内3大メーカーとは立ち位置が違う、筋金入りのビッグバイクメーカーなのだというアピールにもつながります」(松田氏)

近年のカワサキは、こうした『他の国産メーカーとは異なる存在でありたい』という意識が非常に鮮明なのだという。

「これも伝説の名車『Z1』を現代によみがえらせた『Z900RS』や、昨年発売して熱狂的に迎えられた久々の250cc4気筒エンジン搭載スーパースポーツ『ZX-25R』など、いい意味で“カマしてくる”のがこのところのカワサキなんです」(松田氏)

だとすれば由緒ある名をリバイバルさせたのを機に、カワサキ車とは異なる個性を持ったサブブランド『メグロ』として一本立ちさせ、メグロ名義の新開発モデルを投入してくる可能性もあるのではないか。

「カワサキ自身は『投入予定はない』と言っていますが、そんなわけがない(笑)。メグロブランドを使った様々な仕掛けを考えているはずです。でないと、復活させた意味がありませんからね。ブランドの路線は、“プレミアムなクラシック”という方向性だと思います。個人的には、スピードは出なくていいので、乗って楽しく、仕上げやスタイルが上質で、眺めているだけでうれしくなるような小排気量の高級車を出してほしいですね。実際、かつてカワサキのラインナップにあったレトロな250cc車『エストレヤ』のあたりの排気量帯は、有力候補ではないでしょうか」(松田氏)

■『メグロ』ブランドの“続編”に高まる期待

『エストレヤ』は1992年から2017年まで販売されたモデルで、1950年発売のメグロ初となる250cc車『ジュニアS1』や、吸収合併後の1965年に発表された『カワサキ250 メグロSG』のデザインを受け継いでいた。そのエストレヤの後継モデルが『メグロ』ブランドの第2弾として登場するのは、歴史的背景を考えても合理性、必然性がある。

1965年発売の「カワサキ 250 メグロ SG」。復活したメグロブランドの第2弾は、このモデルの流れをくむ250cc車が有力視されている。
写真提供=川崎重工業
1965年発売の「カワサキ 250 メグロ SG」。復活したメグロブランドの第2弾は、このモデルの流れをくむ250cc車が有力視されている。 - 写真提供=川崎重工業

「あるいはプレミアムブランドという位置づけなので、500cc前後とかもう少し排気量が大きい方が、値段との釣り合いが取れるかもしれませんが。いずれにせよ、旧車好きな口うるさいオジサンも唸るようなヤツを期待してます」(松田氏)

今後カワサキは自社の貴重な財産である『メグロ』の名を活用し、どんなことを“カマして”くるのか。バイクファンならずとも、ビジネス上のブランド戦略として、その動向から目が離せない。

(プレジデントオンライン編集部)

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