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「またハゲタカが来る」コロナ禍の株価3万円台でよぎるバブル崩壊の既視感

プレジデントオンライン / 2021年2月26日 11時15分

オンラインで会見する全国銀行協会の三毛兼承会長=2021年1月14日(写真=時事通信フォト)

■融資決定金額は約9兆3000億円の規模に

全国銀行協会の三毛兼承会長(三菱UFJ銀行頭取)は2月18日の記者会見で、コロナ禍で苦悩する中小企業への資金支援について聞かれ、こう答えた。

「昨春のコロナ禍の本格化から間もなく1年が経過し、これまでに調達した借り入れの期限が到来する企業、およびコロナ関連の融資の据え置き期間が終了していよいよ返済が始まる企業において再び資金繰りがタイトになることも想定される。他方で、コロナの影響が長期化する中、資本性資金の支援要請も増えてくると予想している」

民間金融機関は昨年5月以降、コロナ禍に対応した実質無利子・無担保融資で中小企業を支援している。その融資実績は今年1月末までに申し込み受付件数は約53万件、融資決定金額は約9兆3000億円に達する。

三毛会長はさらに言葉を継いだ。

「今年1月単月の融資決定件数は約1万7000件、融資決定金額が約2500億円と、単月の融資決定金額が2兆円前後となっていた昨年6~7月のピーク時から落ち着いているとは言えるものの、今後の影響については、引き続き注視していかなければならないと考えている」

■「休廃業・解散」の「隠れ倒産」は約5万件に急増

三毛会長の見方が披瀝(ひれき)される今、不良債権という死肉に群がるハゲタカが乱舞する可能性が指摘され始めている。

メガバンクの幹部によると、新型コロナウイルスの感染拡大により世界的に企業倒産が増加傾向にあり、破綻もしくは破綻予備軍の債権を買い取る不良債権ファンドの組成も相次いでいるという。

「不良債権ファンドと言えば聞こえがいいが、いわゆるハゲタカファンドです。1997~8年の金融危機、2008年のリーマンショック後もこうしたハゲタカファンドが大挙して日本に上陸し、金融機関の不良債権を破格の安値で買い取り、暴利をむさぼりました。コロナ禍の今年もその歴史が繰り返されそうです」(メガバンク幹部)

1990年代後半の不良債権処理の悪夢がよみがえるような光景だ。

実際、今年の企業倒産は増えると予想されている。コロナ禍での政府や自治体、金融機関の資金繰り支援が功を奏して昨年の企業倒産件数は通年で7773件と、コロナ禍の下でも30年ぶりの低い水準にとどまった。だが、「休廃業・解散」したいわゆる「隠れ倒産」は逆に約5万件と急増している。

■東京商工リサーチ「倒産が高い水準に反転する可能性」

東京商工リサーチの友田信男常務取締役情報本部長によれば、同社が毎月実施しているアンケート調査では、昨年、「前年同月と比較して減収の中小企業は4~9月の6カ月連続で80%を超えた。10月は60%台まで減少したが、11月には再び70%台まで増加した。業種にもよるが、中小企業では売り上げが2割減少すると多くの企業で赤字になる。資金供給が続けば倒産は抑制されるが、今後については厳しい見方をしている。倒産が高い水準に反転する可能性がある」と懸念されているという。

これに伴い金融機関の与信コストも拡大に転じている。すでに9月中間期において、メガバンク、地銀とにもコロナ禍の影響で与信費用は大きく増加している。

上下するチャート
写真=iStock.com/Bilgehan Tuzcu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Bilgehan Tuzcu

全銀協の三毛会長は、「先行きが不透明な中では予防的な引当金の積み増しも含め、各行とも保守的な対応を行っていくのではないかと思う。そうした中で、第4四半期に引当金を積み増すという動きが出てくることはあり得る。それぞれの取引先のポストコロナを見据えた中長期の事業力を評価し、適切な引き当てを検討しながら金融仲介機能の維持・発揮に努めていくことかと思う」との見方を示している。

■不良債権の予備軍が「マグマ」のように膨れつつある

だが、金融の現場では年度末を控え、企業選別の動きも見られ始めている。

「コロナ後を展望して生き残りが難しいと判断される中小企業に対して信用保証協会は保証を拒否し始めており、金融機関も貸し出しの折り返しを拒むケースが出てきている」(大手信用情報機関)というのだ。

コロナ禍の影響はほぼすべての業種に及び、中小・零細企業を瀕死の状況に追い詰めている。財政・金融面の支援から倒産件数は表面的には低く抑えられているが、負のマグマは水面下で膨れ上がっている。コロナ禍を契機に中小企業は過剰な債務を抱えることになった。その解消は容易なことではない。

一方、不良債権の予備軍がマグマのように膨れ上がる中、世界的な金融緩和を背景にファンドの組成が急増している現状に注視する必要がある。

例えば――。

■空前の金余りを背景にSPACに投資マネーが流入

活況を呈する米株式市場で上場が相次いでいるSPAC(Special Purpose Acquisition Company=特別買収目的会社)もその一つだ。日本企業でもソフトバンクグループ(SBG)が1月8日、初めてニューヨーク証券取引所(ナスダック)にSPACをIPO(新規株式公開)した。投資家から5億~6億ドルを調達する計画で、SPACを通じて企業買収に充てられる。

SPACは自ら事業を営まず、未公開会社や他社の事業を買収することを目的に株式を公開する会社で、事業実態がないことから「空箱」と称される。買収先を見つけるとその会社と合併し、事業を営む買収先が存続会社となる。株式公開時にはどの会社に投資するかは白紙で、投資家はSPACの運営者の目利き力を見込んで投資する仕組みだ。

このことからSPACは白紙の小切手を指すブランク・チェック・カンパニーとも呼ばれる。一種のM&Aのプラットフォーム(受け皿ファンド)と言っていい。もちろんそこには「裏口上場」という批判もあるが、これは次項で触れよう。

「SPACはいまや米国市場でIPOの主流になっている手法だ。空前の金余りを背景にSPACに投資マネーが流れ込んでいる。上場するSPACは400社近くあり、1月だけでも91社が上場し、新規株式公開の約6割を占めた」(大手証券幹部)とされる。

著名なアクティビスト(物言う株主)によるSPAC設立も相次いでいる。

■SPACが「裏口上場」と批判される理由

SBGがSPACのIPOを選択した理由には、高いリターンを望む投資家のニーズがあるというだけでなく、SPACの買収対象になりうるユニコーン(企業価値が10億ドルを超える未公開企業)の一部などからSPACを利用したいという要望が寄せられたことがある。

SPACと合併して存続会社になれば、煩雑な上場手続きが不要で、上場までの時間を短縮できるためだ。SPACが「裏口上場」と批判される理由もここにある。このため日本でも2008年にSPACの上場解禁が検討されたが、課題が多く見送られた経緯がある。

米株式市場を席巻するSPACだが、危うさも伴う。

新規上場し多額の資金を調達したものの買収先を見つけることができずにいるSPACは数多い。2年以内に買収先を見つけることができなければ設立者の報酬はゼロとなる。また、買収を急ぐあまり、買収後に業績が低迷するケースも少なくない。

■「欧米系ファンドが狙うのは地方のニッチトップ企業だ」

今後、こうしたSPACが日本市場に上陸し、不良債権を買収することも十分想定される。すでに投資ファンドについては、未上場株式や大手企業が本体から切り離すバイアウト資産の買収を狙って、欧米系大手のPE(プライベートエクイティ)が上陸している。

「欧米の投資ファンドのターゲットは当初は不動産であったが、それが日本企業のカーブアウトと呼ばれる非中核事業の切り離しに移っている。ターニングポイントは2018年の米べインキャピタルによる旧東芝メモリ(現キオクシア)の買収だった」(市場関係者)

そして、「今後は地銀等が抱える地方の融資先企業にターゲットが移るのではないか。欧米系ファンドが狙うのは地方のニッチトップ企業だ」(同)と見られている。潜在的な不良債権の重みに耐えかねた地銀が放出する債権が狙われている。

2月15日の東京市場は日経平均株価が前営業日比564円8銭高となり、30年半ぶりに3万円の大台に乗せた。3万円台はバブル崩壊直前の1990年8月以来となる。

上場企業の時価総額はバブル期に並んだ。株価高騰にバブルの既視感を覚えずにはいれない。

コロナ禍に即応して世界の中央銀行は過剰とも思えるマネーを市中に供給しており、実体経済の落ち込みとは対照的に株式などのリスク資産は高騰している。そうした過剰なマネーは投資ファンドを潤し、ハゲタカファンドの資金調達額は10兆円を超えると試算されている。メガバンク幹部は「企業債権をまとめ買いするバルクセールのオファーが寄せられかねない」と身構えている。

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森岡 英樹(もりおか・ひでき)
経済ジャーナリスト
1957年生まれ。早稲田大学卒業後、経済記者となる。1997年、米コンサルタント会社「グリニッチ・アソシエイト」のシニア・リサーチ・アソシエイト。並びに「パラゲイト・コンサルタンツ」シニア・アドバイザーを兼任。2004年4月、ジャーナリストとして独立。一方で、公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団(埼玉県100%出資)の常務理事として財団改革に取り組み、新芸術監督として蜷川幸雄氏を招聘した。

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(経済ジャーナリスト 森岡 英樹)

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