親が高齢で家計は火の車なのに医学部受験を15年続ける36歳息子の「言い分」
プレジデントオンライン / 2021年2月27日 9時15分
■医学部受験を15年以上続けている36歳「医師になれば一生食える」
筆者に相談にきた、父親(67)と母親(69)は沈痛な面持ちだった。
聞けば、次男(36)が初めて大学受験をしたのは18歳のとき。当時は、理工学科や情報工学科、数学科などの理系学科をいくつか受験したが、残念ながら全滅。受験の失敗後、2年くらいは家から出られず、ひきこもり状態になった。
20歳を過ぎてから、大学受験を再開。ここからの受験は、志望学部を医学部に切り替えた。「卒業して、医師免許を取得したら、一生食べていけるから」というのが、その理由だそうである。
私立大学の医学部は学費や施設費などが高いので、現役時代はもちろん、現在は年金暮らしに入った親が負担するのは無理だと考え、国立大学の医学部に絞って、受験を続けてきた。それから15年以上の月日が過ぎたが、現在まで医学部合格には至っていない。
■60代両親「いい加減に受験はあきらめて、仕事を見つけて働いて」
親からは「いい加減に受験はあきらめて、仕事を見つけて働いてほしい」と懇願されているが、働く気持ちはない。人生で1日も働いた経験はなく、若い子たちにまざって、アルバイトをする気にはなれないという。他人と関わらない暮らしを長く続けてきているので、人と接触するのが怖いともいう。
父親 67歳 年金年額 150万円
母親 69歳 年金年額 50万円
長男 40歳 会社員・結婚して独立
次男 36歳 ひきこもり(受験生)
【資産状況】
預貯金 500万円
家は持ち家(築25年)
生命保険 父親の死亡保険金300万円(母親は保険に未加入)
■「アルバイトをして生活費を少し稼ぐのも、難しいですか?」
家計に余裕があるのなら、受験を続ける選択もあるだろうが、筆者が父親に尋ねたところ、預貯金は500万円くらいとのこと。父親は1年前まで働いていたが、腰痛が悪化して通勤が厳しくなり、仕事は完全にリタイアした。
現在の収入は、夫婦合わせて200万円程度の年金収入のみ。支出のほうが年間で数十万円程度、上回っているという。家計簿をつけていないため、正確な赤字額はわからないのが現状だ。
「アルバイトをして、生活費を少し稼ぐのも、難しいですか?」
親と同席していた次男に筆者が聞いたところ、「アルバイトをする時間があったら、受験勉強に充てたいです」との返事が返ってきた。
父親は「いい加減に受験はあきらめて働いてほしいと言っているんですが、この話をしようとすると、自分の部屋に閉じこもって、ご飯のときも出てこない状態になってしまいます。働いてほしいと頼んでも聞く耳をもってもらえずに、本当に困っているんです。自分も仕事を辞めて、この先、貯蓄を増やせるアテもないですから、どうしたらよいものか、本当に困っています」という。
筆者も20代の子供が複数いるので、つい父親のほうに感情移入してしまうが、人生の多くの時間を受験にかけてきた次男にとって、誰に、何を言われようと、「受験勉強に充てたい」という考えを変えるのは難しそうである。
■家計は赤字、年金暮らしの親の老後破産が視野に入ってきている
相談者の家計には、年間で数十万円単位の赤字が出ている。そのため、次男の学費を出すどころか、家計改善をしないと、貯蓄が底を突く可能性も十分にある。
「息子さんのことも心配ですが、その前に親御さんたちの老後資金が底を突く可能性も低くありません。家計費をきちんと書き出して、年間200万円以内で暮らせるように、家計の改善が必要です」
そう伝えて、家計から赤字をなくす方法として、5つの方法を試すことを提案した。
2)通帳を見たり、納付書を見たりして、特別支出の年額をおおよそ見積る 特別支出は固定資産税や自動車税、冠婚葬祭費、家電の買い替え費用など、毎月は発生しないが、1年のどこかで発生する支出
3)年収200万円から特別支出の年額を差し引いて、残った金額を12カ月で割る
4)ひと月に使える金額がわかったら、その金額内に支出を抑えられないか、検討してみる
5)食費と日用品費は、1週間分の予算を立てて、その予算内に収めるような管理をすると、予算を守りやすくなる。
働いていない子供がいる家庭は、夫婦のみの家庭に比べて、年間の赤字額が多くなりやすい。預貯金に余裕がある場合は、家計を見直さなくても大丈夫だが、今回は家計改善が急がれるケースに当たる。
「息子さんの問題以前に、ご夫婦の老後の生活設計に問題があります。家計の状況をきちんと数字で把握しなければ、家計を立て直す具体的な作戦を考えられません。キリの良いところで来月の1日から、使ったお金を家計簿につけて、ひと月の支出額を合計してみてください。同時に特別支出額も調べて、年額を計算してみたうえで、節約できそうな支出はないかも検討してみてください」
と念押しをした。
■「親にさんざん迷惑をかけてきました」志望学部を医学部から薬学部へ
次男のことに話を戻そう。
志望校は国立大学の医学部なのだが、昨年までのセンター試験では、200点以上、合格ラインに点数が足りていない。今年の結果は不明だが、志望校の偏差値が高すぎるため、厳しそうである。そこで、次男に単刀直入に聞いてみた。
「受験を続けることを否定したくはありませんが、親御さんの貯蓄額を考えますと、このまま受験勉強を続けるのは難しい現実があることは、伝わりましたよね。ですが、今すぐ、受験をやめることを受け入れるのは難しいでしょう。そこで、志望学部を変更して、あと1回か2回だけ、受験を許してもらうというのは、どうでしょうか? たとえば医学部受験はあきらめて、薬学部などに進路変更することは、受け入れられませんか」
すると、数分間の沈黙の後、こう言いました。
「今まで頑張ってきましたから医学部生にはなりたいんですが、あと1~2回の受験で希望がかなう保証はないので、受け入れるしかないかもしれません。親にはさんざん迷惑をかけてきましたから」
医学部生になるために、人生の多くの時間を過ごしてきた次男にとって、気は進まないのかもしれないが、あと1~2回の受験がリミットである、厳しい現実は伝わったようである。
■あと1回か2回不合格なら受験はあきらめて、社会に出て働く
結局のところ、合格は本人が勝ち取るしかないし、それは1年でも早いほうがいい。そのためには受験する学部を変更して、何とか合格を狙えそうな学部に目標を定めなおすことが必須だと思われる。
あと1回か2回の受験で合格できなかったら、受験はきっぱりとあきらめて、どんなに嫌であっても、社会に出て働く。親は家計を立て直す努力をする。受験できる回数が制限されることで、親と子、それぞれに覚悟が持てることを願っている。
※編集部註:初出時、36歳の次男は「高等教育の修学支援新制度」の利用が可能としましたが、この制度の申し込み要件は「高校などを卒業してから2年の間までに大学などに入学を認められ、進学した者」(文部科学省HP)のため申し込みできませんでした。訂正します。(3月1日14時50分追記)
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ファイナンシャルプランナー
「高齢期のお金を考える会」主宰。『ラクに楽しくお金を貯めている私の「貯金簿」』など著書、監修書は60冊を超える。
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(ファイナンシャルプランナー 畠中 雅子)
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