『イデオロギーと日本政治』に見る「保守」「革新」の逆転現象
プレジデントオンライン / 2021年3月5日 11時15分
■安保イデオロギーはいまだに重要な投票の動機
2021年2月19日に発売された拙著『日本の分断 私たちの民主主義の未来について』(文春新書)の刊行に合わせ、日本政治と分断を考えるうえで参考となる最近の書籍を紹介したい。今回は2019年発刊の遠藤晶久/ウィリー・ジョウ『イデオロギーと日本政治―世代で異なる「保守」と「革新」』(新泉社)を取り上げる。当時、日本の若者の「保守」「革新」に対するイメージが逆転していることが話題になっていたことから、硬い内容であるにもかかわらず評判になった。
イデオロギーの重要性は、時代によって変わる。冷戦が終わり、90年代に自社さ連立政権が成立するなどし、安保イデオロギー対立の重要性が減じるのではないかという見通しが示されていた。
しかし、先行研究が示すように、自民党を選ぶ人にとって安保イデオロギーはいまだに重要な投票の動機である。経済政策では自民党を成長重視の政党として認識する人々が増えたものの、投票行動全体を見る限りは、政党間の競争が、一部の研究者が予想したようないわゆる新自由主義をめぐる対立軸に置きなおされたとは言えない。
さらに近年では、自民党がいったん弱体化したのち、民主党政権を経て成立した安倍長期政権下においてどんな変化があったのか、分析が待たれていた。安倍政権下では、安保法制の導入もあって、かつてのような保革対立の再燃がクローズアップされたからだ。
与野党の対立は、やはり古典的な安保の対立軸に回帰するのではないか。そういう観測がでてきた。
■「革新」に対するイメージの変化
本書はそうした時代を通じたイデオロギーの対立軸(複数)の変遷を過去の世論調査データを駆使しながら解析し、有権者自身のイデオロギー上の位置づけ、世代によるイデオロギー認識のねじれなどを説明している。
80年代には革新の退潮が始まり、冷戦が終わる前に共産党や革新に対するイメージの変化が起きていたこと。その結果として、「革新」という言葉がかつてのような冷戦文脈での「左」を意味するものではなくなり、若い人の間では日本維新の会のような市場競争を重視する勢力として位置づけられるに至っていること。
世代間の受け止め方の違いなどを独自の分析を通じて説明することで、政治的態度と行動の間の連関をもっと丁寧に見る必要があるという指摘は大きな意義がある。
また、分析によれば、自民党への投票は相変わらずイデオロギー的な側面が強い一方で、共産党への投票はイデオロギー投票とは必ずしも言えない傾向になってきている。今後、イデオロギーのみでは投票行動の説明が難しくなってくる中で、クローズアップされるのは、改革派のイメージなどふわっとしたものも含めた、政党による有権者の価値観への寄り添いかもしれない。現にそうしたイメージ戦略の展開は始まっている。そんなことを考えさせられた。
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国際政治学者
1980年、神奈川県生まれ。神奈川県立湘南高校、東京大学農学部卒業。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。著書に『21世紀の戦争と平和』(新潮社)、『日本の分断』(文春新書)など。
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(国際政治学者 三浦 瑠麗)
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