社員が辞めない会社の役員は「上司が嫌だ」と言って去ろうとする人に何を語るか

プレジデントオンライン / 2021年3月9日 8時15分

小山 昇『社長、採用と即戦力の育成はこうしなさい!』(プレジデント社)

18年にわたって、連続増収を更新する武蔵野。かつては漆黒のブラック企業と自認するほど離職率の高い会社だったが、採用と人材育成の取り組みで大幅に改善。「上司が嫌」「人間関係が嫌」と言って退職を希望する社員への対応策とは――。

※本稿は、小山 昇『社長、採用と即戦力の育成はこうしなさい!』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■武蔵野は、「上司が嫌」になるケースが多い

中には、「辞めよう」と思いながら、踏みとどまった社員が大勢います。会社を辞めるおもな理由は、「仕事が嫌で辞める」「上司が嫌で辞める」「会社が嫌で辞める」の3つです。

取締役の佐藤義昭は、「わが社は、『上司が嫌』になるケースが多い」と述べています。

「『辞めたい』という意思表示をしてきた社員と話をするとき、私は最初に、『小山さんのことを嫌いになった?』と聞きます。すると社員は100%。『いや、そんなことはないです』と答えます。次に、『じゃあ、会社が嫌いになった?』と尋ねます。会社が嫌いになるのは『会社のルールを知らされてない』からです。武蔵野はルールが明確で方針共有も徹底しているから、『会社が嫌』になる社員もそれほど多くはありません。

もっとも多いのは、『上司が嫌』、あるいは『社内の人間関係が嫌』になるケースです。人間関係に原因がある場合は、人事異動をする、上司を替える、上司の意識を変えるなどして、離職を防ぎます」(佐藤義昭)

■部下の本音を知って涙する上司

佐藤はさらに続けます。

「村岡邦雄課長が、かつて私(当時部長)の下で店長をしていたときのことです。村岡の部下数名から『今日、飲み会をやるので、佐藤さんも来てください』と誘われ、顔を出すことにしました。私は当然、店長の村岡も参加していると思っていました。ところが、村岡は呼ばれていなかったのです。

『店長の村岡がいないのはおかしいな』といぶかしく思っていると、支店のメンバーのひとりがこんなことを言ってきました。『佐藤さん、乾杯の前にお話を聞いていただけませんか? 私たちは、村岡さんが嫌いです』。この飲み会は、村岡に対する不満を私に伝えるために催されたものだった。

私はそのときはじめて、『村岡が部下からどのように思われていたのか』『村岡がなぜ嫌われているのか』を知りました。

後日、村岡を東小金井駅前のデニーズに呼び出して、そのことを伝えました。村岡は、『嫌われている』とはまったく思っていなかったようです。部下の本音を知った村岡は、涙を流して反省しました。

その後村岡は、『部下と現場同向をする』『ランチを一緒に食べる』『サシ飲みをする』『一緒に環境整備をする』など、時間と場所を部下と共有しはじめた。その結果、部下の気持ちにも寄り添えるようになって、大量離職を防ぐことができた」(佐藤義昭)

■「軍隊より厳しい」と言われた上司のその後

最所雅哉と那須潤一も、「上司が嫌」で辞めかけています。このときも佐藤義昭が間に入って、退職防止に尽力しています。

辞表
写真=iStock.com/Wako Megumi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wako Megumi

「最所の上司は、飛山尚毅(当時課長・現本部長)。最所は、飛山のスパルタ教育についていけなかった。

飛山は、『部下は、追い込まれることでひと皮剝ける』と信じていました。ところが、厳しすぎる指導は、逆効果でした。部下から、『軍隊より厳しい』『ここはヤクザの事務所ですか?』『見ているだけで怖い』と、飛山に対する批判の声が集まった。

このときは、小山が飛山を経営サポート事業部に異動させました。部下は無しです。経営サポート事業部に異動したことで、飛山は、『自分の失敗』を振り返ることができるようになったと話しています。

那須潤一(現部長)は、今から10年ほど前、志村明男(当時課長・現本部長)の部下だったときに、『辞めてやる!』と言って事務所を飛び出したことがありました。なかなかやる気を見せない那須に対して、志村は『だったら、朝から晩まで床でも磨いていろ!』と命じた。那須も頑固もので、床を磨き続けました。2人の関係はどんどん険悪になっていき、あるとき那須が爆発。『ふざけるな! 辞めてやる!』と声を荒らげて飛び出していったのです。

那須の気持ちをたしかめようと、私が彼と面談をしましたが……、結論から言うと、私がしたことは『聞いてあげること』だけでした。那須も『自分が悪いところ』はきちんとわかっていました。『志村さんにも反省させるから、那須さんも反省してね』と言って手打ちです。

その後しばらくはよそよそしかったようですが(笑)、今ではお互いを認め合っています」(佐藤義昭)

■社員が辞めるのは会社側に問題がある

会社を辞めるのは、本人の問題以上に、「会社や上司に非があるから」だと私は考えています。武蔵野では、「社員が辞めるのは会社側に問題がある」の認識を持って組織改革を行っています。その結果、社員の離職率は大幅に減少しました。

定着率が向上(離職率が減少)した理由は、人間の心理をベースに、「仕事」が嫌にならない仕組み、「上司」が嫌にならない仕組み、「会社」が嫌にならない仕組みをつくり、巧みに運用しているからです。

■武蔵野の入社3年以内の離職率は、驚異の「5%」

新卒採用の現場は、入社後3年以内に離職することを「早期離職」と定義するのが一般的です。2003年以降、新卒社員の定着率が向上し、早期離職率は下がっています。現在、入社3年以内の離職率は、「5%」です(2016年3月に大学を卒業・就職した人が3年以内に離職した割合は35%/厚生労働省発表)。

新入社員
写真=iStock.com/TAGSTOCK1
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TAGSTOCK1

新卒の定着率が向上した理由は、おもに「9つ」あります。

【新卒社員を組織に定着させる取り組み】
①採用部を設置して、内定者や新卒社員のフォローをしている
②採用の段階から「辞めにくい人材」を採用している
③内定者研修に力を入れている
④新入社員のトレンドに合わせて会社をつくり変える
⑤入社1年以内に人事異動をする
⑥半期に一度「ほぼ初対面の先輩」と飲む機会を設けている
⑦チームごとの目標を与える
⑧新卒社員にアンケートを実施する
⑨管理職の数を増やす

■専門部署が内定者を手厚くフォロー

①採用部を設置して、内定者や新卒社員のフォローをしている

2001年まで、新卒採用は総務部の仕事でした。採用活動は「人を採ること」と「採った人をケアすること」の2つの軸があります。総務兼任時代の武蔵野は、「採ること」だけしか頭になかったため、内定者(新卒採用者)のフォローが行き届いていませんでした。離職者があとを絶たず、ようやく私も、「『ついで』ではダメ」だと気がつきました。

採用部を設置してからは、きめ細かくフォローできるようになったため、定着率が飛躍的に向上しました(現在は採用kimete事業部)。

②採用の段階から「辞めにくい人材」を採用している

新卒採用のノウハウが蓄積されてきた結果、ここ数年、価値観の合う人材、素直な人材、ストレス耐性のある人材、ようするに、「辞めない人材」の採用に成功しています。

③内定者研修に力を入れている

入社前と入社後のギャップがなくなるため、入社後の「こんなはずではなかった」がなくなりました。また、内定者は1カ月に3、4回、武蔵野でアルバイトをするのが決まりです。入社前から現実、現場を体験させておけば、早い段階から価値観が揃う。だから辞めません。

■「課長職3年定年制」を設けた理由

④新入社員のトレンドに合わせて会社をつくり変える

多くの会社は、従来の会社のやり方に新入社員を合わせようとします。ですが、会社のやり方を押し付けられると、ストレスを感じて辞めてしまう。そこで、会社のフレームワークに新卒社員(内定者、就活生)をはめ込むのではなく、若者のトレンドに合わせて会社を少しずつつくり変えています。

残業削減の取り組みも、有休消化率向上の取り組みも、離職率を下げる一環です。

⑤入社1年以内に人事異動をする

個人と組織の特性や適性を診断するツール「エナジャイザー」の分析結果を見ると、2013年度までは、「同じことをやらせないと不安になり、ストレスを感じる」というトレンドでした。ところが、2014年度以降は真逆で、「今の若い人は、同じことをやり続けると不安になり、ストレスを感じやすい」ことが明らかになっています。そこで現在は、原則的に、「新卒社員は、1年以内に人事異動」をしています。過度なストレスをかけないためです。

また、わが社に、「課長職3年定年制」のルールがあります。嫌いな課長の下についても、「長くて3年で、あの課長は別の部署に異動になる」ことがわかっていれば、部下は辞めずに我慢できます。

■コミュニケーションを活性化する仕組み

⑥半期に一度「ほぼ初対面の先輩」と飲む機会を設けている

毎月の面談のほかに、直属の上司と部下による「サシ飲み」や、ほぼ初対面の幹部社員と夢を語る「夢の共有」などを仕組み化しています。

・サシ飲み

上司は毎月、部下とマンツーマンで飲みに行く。ただし、同一人物と2カ月連続は不可とする。部下がひとりの場合は、3カ月に一度とする。

上司と部下の信頼関係が築けていない間は、「仕事の話は一切しない」のがサシ飲みのルール。2回に1回は「サシ食い」でもOK。したがって、最初は「プライベートの話を中心に自己開示する。自分との共通の話題が見つかると、お互いの距離感が近くなる。

・夢の共有

半期に1回。「夢の共有」では、部門の異なる幹部と一般社員がサシ飲みをする。他部門のベテラン幹部が夢を語ると、一般社員のモチベーションアップにつながる。直属の上司だと話せないことも、評価に関わらない別の部署の上司だと話すことができる。組み合わせは毎回変わる。

夢の共有は、一般社員の「昇格しても、どうなっていくのか具体的な姿が見えない」「上司には話しづらい相談がある」といった声を解決するために生まれました。一般社員だけが夢を語るのではなく、幹部社員も、「入社当時の夢」や、「これからの目標」を話すことで、一般社員に今後のライフプランを想像してもらうことができます。

夢の共有を行うと、部門・世代を超えた交流が図られ、社員間の円滑なコミュニケーションが実現します。直属の上司では聞くことができない部下の悩みを違う角度から解消できるため、若手社員の離職防止につながっています。

■五月病で会社を辞める新卒はいない

⑦チームごとの目標を与える

わが社で、五月病にかかって会社を辞める新卒社員はいません。「お世話係がフォローする」「内定時代から少しずつストレス耐性を高めている」といった理由のほかに、「チームごとに目標を与える」ことも、五月病の防止につながっています。同じ境遇の仲間同士で目標を共有することで、ストレスが軽減するからです。

入社後、ダスキン事業部に配属された新卒社員は、4月中旬から約1カ月間、「ダスキン販促キャンペーン」に参加します。

このキャンペーンは、支店対抗の「チーム戦」です。キャンペーン期間中、もっとも多く売り上げた支店には、部門賞として金一封が渡され、表彰も行います。

キャンペーンで表彰されるには、ベテランも新人も一緒になって「チーム」で結果を挙げなければなりません。人間は、みんなで同じ目標に向かっているときに、自分だけ離脱しようとは思わないものです。

キャンペーンで表彰されれば、達成感を覚えて、うれしい。うれしいから次も頑張る。キャンペーンの結果が悪ければ、悔しい。悔しいから次こそは頑張る。

うれしさも、悔しさも、支店のみんなで味わう。だから一体感が生まれます。人間はひとりだと挫折するが、チームだと、支え合うことができます。

このキャンペーンの期間中に辞めた新卒社員は、過去にひとりもいません。

■全社員280人中、管理職180人

⑧新卒社員にアンケートを実施する

定期的に、内定者、または新卒社員(新卒社員を迎えてから2、3カ月後)にアンケートやヒヤリングを実施しています。

「彼らが何を感じ、何を考えているのか」「何を求めているのか」を把握し、彼らの声を組織の改善に役立てています。回答は無記名で、新卒社員も本音が書けます。

⑨管理職の数を増やす

わが社は、管理職(課長職以上)が180人を超えています。全社員は280人です。管理職を多くすれば、ひとりの管理職が持つ部下の数が少なくなるため、その分、新卒社員にも目が届きやすくなります。

社員教育に手間がかけられると、離職率を下げることが可能です。

ひとりの課長が持つ部下は、「5人」が基本です。部下のいない専門職の部長・課長もいます。

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小山 昇(こやま・のぼる)
武蔵野代表取締役社長
1948年、山梨県生まれ。89年より現職。赤字続きだった武蔵野を18年連続増収の優良企業に育てる。2001年より同社の経営の仕組みを紹介する「経営サポート事業」を展開。

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(武蔵野代表取締役社長 小山 昇)

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