「何を言っているのかわからない」と言われたとき、絶対NGな対応方法
プレジデントオンライン / 2021年2月27日 11時15分
※本稿は、林健太郎『できる上司は会話が9割』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■相手の問いかけへの返答は問題解決にならない
「おっしゃる意味がわかりません」「何が言いたいのですか?」
部下に限らずとも相手からこんな言葉を返されると、いい気がしませんよね。自分が非難されているようで、相手に対するネガティブな感情が生まれるのも無理はありません。
「昭和時代の上司」なら、わき上がる怒りの感情をそのままぶつける……という選択肢もあったかもしれません。しかし昨今の職場環境ではパワハラ防止の意識が浸透し、怒りなどの強い感情をそのまま部下にぶつけることは、ご法度です。
もし上司のあなたが部下からこんな発言をされたら、どんな対応をしますか?
よくあるのが「もう1回言うから、よく聞いてね」「今、私の言った内容の要点はね……」などと、相手の言葉を表面的に捉えて返答するというものです。この対応は「相手の問いかけに返答」はしていますが、私からすると若干短絡的な働きかけのように思えます。
というのも、「部下との信頼関係をつくる」という観点からは、相手の問いかけに返答することは、実は何の問題解決にもなっていないからです。部下は本当に、あなたの発言の意味を確認したくてその言葉を発しているのでしょうか? 一度、考えてみてください。
■あらゆる感情を受け止めること
例えば、部下がこの言葉を放った理由は、あなたの過去の発言に対して、感情を害したからかもしれません。あなたがどこかのタイミングで発言した内容に部下が反感を持ち、その感情を自分で処理できず、怒りの矛先をぶつけるタイミングを探っていた、という可能性もあるでしょう。
もし、部下の中でそんなことが起きていたなら「相手の問いかけに返答する」対応では解決に繋がりません。相手の感情をしっかり理解し、その感情を受け止める方向で対話を組み立ててこそ、初めて関係性が向上します。
あなたがその部下との間に「信頼関係をつくりたい」と考えるならば、相手のあらゆる感情を受け止めることがその糸口になります。そのうえで、両者がよりよい関係を築けるように対話をしていくことが大切だと私は考えています。
このようなときの対処法として私のおすすめは、「相手の真意を理解すること」です。
■反応は先送りして、自分の感情を観察する
とは言え、実際、忙しいスケジュールの合間を縫って部下の話を聞こうとした矢先、こんな言葉が部下から飛び出したら、「部下の発言の真意を探ろう」という気持ちにはなりにくいと思います。そこで私からの提案です。こうした状況に遭遇した場合、相手の真意を理解するために、次の2つのステップを踏んでみましょう。
ステップ② 自分の感情を観察する
1の「反応を先送りする」では、部下に対して次のような言葉を使ってみましょう。
・「ああ、そうか。言っている意味がわからないんだね」と、「復唱する」
・「そうなんだね」「そういうこともあるよね」と、とりあえず「受け止める」
・「というと?」「それで」「もうちょっと教えて」と、「合いの手」を入れて、さらに相手の言葉を引き出す
言葉のリストとしては一見なんでもないのですが、これを部下に対して瞬間的に使えるかどうかは別問題です。上司が意識して取り組むべき課題のひとつといえます。
■ひと呼吸置いて、感情をニュートラルな状態に
この課題をクリアするために必要な能力は、やや専門的な解説になりますが、相手の発言に対して、自分の中で「自動反応」と呼ばれる微細な感情が生まれたその瞬間を捉え、その感情レベルを能動的に下げる、というものです。
嚙みくだいて言えば、荒っぽい感情をぶつけそうになる衝動を抑えて、ひと呼吸置く能力といえるでしょう。イメージとしては、相手の発言によって生じた自分の中の感情のレベルが、例えば8くらいだったとして、その感情を1とか2のレベルにまで下げて、できるだけニュートラルな感情の状態にする、というものです。
感情は、怒りであれ喜びであれ悲しみであれ、その感情が生まれてから1時間も2時間も同じ状態が続くわけではありません。感情は刻々と変化していきます。日々の経験を通して、自分の感情の移り変わりを継続的に観察し、感情への理解を深めてください。
あなたは今、何を感じていますか? その感情の強さは10が一番強く、0が一番弱いとすると何点ぐらいですか? そして、それはなぜでしょうか?
■能動的に「行動しないこと」も必要
ここで本稿を読み進めるのを一旦止めて、ぜひ私の問いかけに答えてみてください。
このような問いかけを自分の中で継続していくことが、ひとつの訓練になります。
ところで、あなたが「自動反応」しそうになったとき、なぜ反応を先送りした方がいいのでしょうか? その理由は、自動反応を起こしているあなたは、「意思決定をする状態として不適切である」と考えられるからです。
EQを提唱した心理学者ダニエル・ゴールマンの研究によると、私たちは非常にストレスの高い状況にさらされたとき、独自の行動をとる傾向が見られるとされ、熟慮的思考や学習したことに代わり、必ずしも理性的ではなく本能的な反応をするとしています。
つまり、ストレスにさらされた状態では、客観性の高い適切な意思決定ができない可能性が高いので、重要な意思決定は先送りすべきだ、ということを示唆しています。
あなた自身も感情に任せて判断してしまった結果、冷静なときの自分だったら決してしないような言動や選択をしてしまい、後から強く後悔する、という経験はあるのではないでしょうか。こうした事態を避けるため、自動反応している自分にいち早く気づき、自身をより冷静な状態に戻していく努力が必要になるのです。
ビジネスでは、一般に「すぐに行動すること」が最善とされます。しかし、「行動しないこと」も能動的な選択のひとつであることを覚えておきましょう。
自分の感情を冷静に観察し、冷静な選択と意思決定を経て行動に移すことが大切です。
■相手には相手の言い分がある
「反応を先送りにする」と「自分の感情を観察する」という2つのプロセスをたどると、あなたは「今、起こっていること」を冷静な目で見られるようになります。
その状態まで到達したら、次に考えたいのが「相手の真意を理解する」ことです。
あなたが目の前で起きている出来事を冷静に観察できるようになると、「相手は、この言葉で私に何を伝えようとしているんだろう」という、相手への好奇心が自然とわいてきます。例えば、先ほど例に挙げた状況でも「もしかしたら、部下には本当に言いたいことが別にあったのではないか?」といった、より深い洞察ができるようになるのです。
このように、相手の中で起きている事柄に目を向けることができれば、あなたの対応にも変化が生まれますし、相手との関係性も大きく変わるきっかけになります。相手の中で起きているであろう感情や思考、つまり「相手の真意」を想像し、真意を理解しようと努めることこそ、部下との関係性を深め、協働関係を作る基礎になるのです。
「自分の思い込み」で判断してしまわないことの大切さを、ご理解いただけましたでしょうか。自分の意見を押し通すことや、都合よく場を収めることではなく、「相手目線」で相手の真意を探っていくスタンスが大切です。
あなたにはあなたの感情や思考、主張があるように、部下にも部下の感情や思考、主張があります。それならば「部下の主張」にしっかり意識を向けて、相手の真意を探っていくのが大切だと私は思うのです。
■再現ドラマをイメージできるか
これを意識するために私がおすすめしているのが、テレビでよくある再現ドラマをイメージすることです。例えば夫婦の会話の再現ドラマであれば、二人の間で起こった出来事を再現する、いわゆる「本編」の映像が流れる過程で、ときどき、ご主人の言い分や奥様の本音などのインタビューの「差し込み」が挿入されることがありますよね。
こういった構成があることで、妻の本音、夫の本音が明らかにされ、見ている側は両者の言い分を俯瞰するように知ることができます。
これをあなたと部下との会話にも応用して、再現ドラマ仕立てにしてみるのはいかがでしょうか。例えば、「おっしゃる意味がわかりません」と部下が言ったとき、部下は何を感じていたのか? あなたがインタビュアーとなって部下にその質問をぶつけたら、部下はどう答えるか。あなたなら、どんな構成やセリフでその再現ドラマを創作するでしょうか。
部下が本当に伝えたかった「真意」を理解できれば、部下とのコミュニケーションに大きな変化を起こすことができますので、トライしてみることをおすすめします。
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リーダー育成家
合同会社ナンバーツー エグゼクティブ・コーチ。一般社団法人 国際コーチ連盟日本支部(当時)創設者。1973年、東京都生まれ。バンダイ、NTTコミュニケーションズなどに勤務後、日本におけるエグゼクティブ・コーチングの草分け的存在であるアンソニー・クルカス氏との出会いを契機に、プロコーチを目指して海外修行に出る。帰国後、2010年にコーチとして独立。リーダーのための対話術を磨くスクール「DELIC」を主宰。2020年、オンラインでの新しいコーチングの形態「10分コーチング」(商標出願中)を開発。
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(リーダー育成家 林 健太郎)
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