「他社製品のほうが優秀だ」と言われてもアップル社員がニコニコしている理由
プレジデントオンライン / 2021年3月1日 15時15分
※本稿は、林健太郎『できる上司は会話が9割』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■「何をするか」ではなく「なぜそれをするのか」
「会社から『今期の売上は必達!』との厳命があった。自分は必死でがんばっているが、部下が同じ意識で動いてくれない」
この悩みは、私がコーチングをしている上司のほぼ全員が抱えるものです。百戦錬磨の経営者から新人マネージャーまで、すべての方々が一度はこの悩みを抱えたことでしょう。
「アメとムチ」型のリーダーシップが十分に力を発揮する組織ならば、「会社からの厳命だから」のひと言で、部下の行動をある程度促すことができるでしょう。しかし、ハラスメントへの意識が高まっている昨今では、ひと昔前と比べて「アメとムチ」型のリーダーシップが発揮しづらくなっています。
そもそもなぜ、部下たちは動いてくれないのでしょうか。
その理由は意外とシンプルです。リーダーが「何をするか(「今期の売上目標を必達する」)」を伝えるだけで、「なぜするのか(「私たちが売上目標の必達を目指すのは、なぜか?」)」、つまりその「理由」を伝えていないからです。
結局のところ、「なぜそれをするのか」がわからないまま、「それをやれ」と言われても、人はなかなか動くことができないものです。
そのことを教えてくれるのが、コンサルタントのサイモン・シネック氏が、その著書『WHYから始めよ!』(日本経済新聞出版)で述べている「ゴールデンサークル」という考え方です。
私はシネック氏がこの著書を元にしてTEDで講演をしたときの講話内容を積極的にリーダーのみなさんにお伝えしています。その内容の一部をここで紹介しましょう。
■人を動かすのは「WHY→HOW→WHAT」
シネック氏によると、人の心を動かすことができる優れたリーダーや組織には、ある共通するパターンがあります。それは、物事の「伝え方」なのですが、優れたリーダーや組織は、物事を「WHY(なぜ)」→「HOW(どうやって)」→「WHAT(何を)」という順番で考えて、人に伝えるというのです。
一般的には、「WHAT(何を)」から伝える人が多いと思うのですが、それでは人の心に伝わる言葉にはなりません。私たちの心は、「何をするか」や「どのようにやるか」ではなく、「なぜそれをやるのか」を伝えられることで、相手の思いなどをより直観的に察知し、共感が生まれ行動を起こすのです。
「自分たちは、なぜそれをやっているのか」というメッセージが伝わるからこそ、人はあなたのメッセージや行動を支持したり、ファンになったり、商品を購入したりするのです。
シネック氏の講演をユーチューブで視聴していて、印象に強く残ったエピソードがあるので紹介します。
シネック氏が、マイクロソフト社とアップル社という2つの競合する会社のリーダーシップサミットでそれぞれ講演したときのことです。
マイクロソフトの幹部層の約70パーセントの人が、そのスピーチの持ち時間の70パーセント程度の時間を使って「アップルをいかに倒すか」について話していたそうです。つまり、「競合に勝つ手段」についての話が多かったのです。
■アップルがマイクロソフトへの負けを素直に認める理由
一方のアップルでは、経営層の100パーセントの人が、100パーセントの時間を割いて「子どもの学習効率を最大化するために、学校の先生をどうやって支援するか」について話していました。
つまり、マイクロソフトは「競合他社にどう勝つか」、すなわち「HOW(どうやって)」に話題が集中していたのに対し、アップルは「私たちがこれからどこに向かうのか」という、「WHY(なぜ)」に話題が集中していたというのです。
シネック氏があるとき、アップルの社内でトップテンに入るような上級幹部とタクシーに一緒に乗っていた際に、彼をちょっと試すような質問をしました。
シネック氏は彼の方を向いて「私は先日、マイクロソフトのサミットで講演をしましてね。そのお礼に最新のタブレットをもらったんですよ。これが実は、お宅のiPod Touchと比べて何倍も優れていたんですよ」と伝えたのです。
彼はシネック氏の方を向き、「それは間違いないでしょうね」とだけ言いました。それでこの話題はおしまいになったそうです(笑)。
つまり、アップルは瞬間的に業界ナンバーワンになること、「WHAT(何を)」や「HOW(どうやって)」などには興味がないということを意味しています。その代わり「なぜそれをするのか」、「私たちはどこに向かうのか」に意識を強く向けているのです。
■あなた自身が「なぜそれをするか」を理解しているか
あなたは部下に「なぜ」を伝えているでしょうか?
本書では、上司にはまわりから「この人のために動こう」と思ってもらえるような「巻き込む力」が求められると説明しました。まわりの人たちを巻き込んでいくには、シネック氏が言う「なぜ」の部分を常に伝えていく姿勢が欠かせません。
その理由は、「この人のために動こう」と相手に思ってもらうためには、上司であるあなたが語る「なぜ」の部分に相手が共感し、心を動かされるという「感情」の要因が大きく影響するからです。双方に「感情的な繋がり」があるからこそ、相手のために「動きたい」というモチベーションが発生するのです。あなたが「なぜ」の部分を伝えていくには、「なぜ、私はそれをするのか」を自分の中で明らかにしておく必要があります。
「今期の売上目標は必達」と会社から言われたとき、そのまま部下に伝えてしまっているのだとしたら、もしかすると「なぜ、それをするのか?」という理由をあなた自身が十分に理解できていないからかもしれません。
■チーム内の雰囲気があけすけに語り合えるものに
そこでお聞きします。あなたが売上目標の必達を目指すのは、なぜですか?
自分の昇進のためでしょうか。それとも、チーム全体のさらなる成長のためのチャレンジでしょうか。来期の予算を確保するための布石でしょうか。
部下たちに「なぜ」の部分を明確に伝えるためにも、改めてご自分の考えを掘り下げてみてはいかがでしょう。そして、「なぜ」が自分の中で明確になったら、それを部下たちにも伝えていきましょう。例えば次のような感じです。
「私たちは今期、予算が厳しくて、ほしい人材を採用することができずに苦しんでるよね。来期はその状況を打破して、みんなが必要と言っている2人の新しい人材を採用したいと思ってるんだよね。それを会社にかけあったら、今期予算が達成できたら予算を増やすと約束してくれたんだ。だから今期の売上目標は必達という気持ちでがんばってほしいんだ」
「なぜ」の部分を部下たちに納得してもらい、さらにはあなたの理由や思いに共感や賛同ができれば、部下たちも「上司と一緒にがんばろう」という気持ちになります。
あなた自身が「なぜ、それをするのか?」を、部下たちに語ることが習慣になれば、チームの中に「それをする理由」をメンバー同士で話し合い、共有する土壌ができます。やがてチーム内の雰囲気が、いい意味であけすけに語り合えるものに変わっていくのです。
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リーダー育成家
合同会社ナンバーツー エグゼクティブ・コーチ。一般社団法人 国際コーチ連盟日本支部(当時)創設者。1973年、東京都生まれ。バンダイ、NTTコミュニケーションズなどに勤務後、日本におけるエグゼクティブ・コーチングの草分け的存在であるアンソニー・クルカス氏との出会いを契機に、プロコーチを目指して海外修行に出る。帰国後、2010年にコーチとして独立。リーダーのための対話術を磨くスクール「DELIC」を主宰。2020年、オンラインでの新しいコーチングの形態「10分コーチング」(商標出願中)を開発。
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(リーダー育成家 林 健太郎)
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