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「コロナ禍でも拡大戦略」アパホテルが怒涛の新規オープンを続ける理由

プレジデントオンライン / 2021年3月5日 15時15分

アパグループ元谷外志雄代表 - 撮影=市来朋久

コロナ禍でホテル業界が苦戦する中、アパホテルは「10万室」の目標を掲げて、拡大戦略をさらに進めている。ほかのホテルとどこが違うのか。アパグループの元谷外志雄代表に聞いた——。

■信用累積型経営でピンチをチャンスに変えた

アパグループの2019年11月期の経常利益は335億円で、過去5年間で累計1670億円の利益を計上してきました。2020年はさすがに赤字になるかと思いましたが、2020年11月末の連結決算では10億円を超える経常利益となりました。5月10日に創業50周年を迎えますが、当社は創業から一度の赤字も出していないことになります。

さらにまた、2015年4月1日から開始した中期5ヵ年計画「SUMMIT 5-II(第二次頂上戦略)」で掲げた目標であるパートナーホテルを含むアパホテルネットワークとして10万室を達成することができました。客室数は2021年2月25日現在、建築・設計中、海外、FC、提携含む662ホテルで10万2393室です。

2020年の開業ホテル数(FC含む)は27ホテル7090室、2021年(~2月末)の開業ホテル数は3ホテル304室と、コロナ禍の直近だけでみても多くのホテルが開業されました。

20年5月10日から「コロナに負けるな」キャンペーンとして、宿泊料を採算割れの最安値2500円で打ち出すなどの施策を行いました。おかげで、アパホテルを普段利用しないお客様にお越しいただくことができ、コロナによって4月は約30%、5月は約45%にまで落ち込んだ稼働率は、6月度には72%まで回復いたしました。ただ、都内のホテルはこれまでは常に稼働率100%でした。

この結果は、ひとえにこれまでやってきた信用累積型経営の真価が発揮された証左であると言えるでしょう。

アパホテルよりも客室数や棟数の多いホテルチェーンもありますが、アパホテルはそれらのホテルチェーンの倍の経常利益を出しています。メインターゲットである出張ビジネスマンにとっての利便性をとことん反映した「新都市型ホテル」戦略をとってきたからです。

■「コロナ患者受け入れ」は即決だった

ホテルは立地がすべてであり、アパホテルも東京を中心とした大都市を中心に展開しています。大都市では地下鉄の駅から徒歩3分以内、地方では駅近にこだわってきました。これなら同業他社の需要を奪うことなく、迷惑をかけることがあまりありません。

アパグループ元谷外志雄代表
アパグループ元谷外志雄代表(撮影=市来朋久)

都心23区だけでも全保有数の5分の1となる85ホテル2万101室、フランチャイズは7ホテル1101室です。さらに2022年までに上野・浅草など台東区を中心に都内8ホテル2200室を建設する予定です。郊外でも、アパブランドの基準を満たすと認めたホテルに限り、フランチャイズの希望に応じています。

また新都市型だからこそ、リーディングカンパニーとしての責務も果たせました。

コロナ患者受け入れについては政府筋から直接、私の携帯電話に意向打診の電話があり、二つ返事でOKしました。アパホテルは大都市圏にホテルが多いし、客室数も多く余裕もあるため、お役に立ちたいとずっと考えていたのです。すると翌朝、さっそく受け入れ先を確保したと報道されていました。このように即座に決定・指示を下せたのは、私がホテルの全株オーナーだからでしょう。

受け入れ先の一つとなった日本最大客室数2311室のアパホテル&リゾート〈横浜ベイタワー〉では、社員総出で、予約済みのお客様に電話で他館への振替やキャンセルのお願いをしました。

「コロナ患者を受け入れていたホテル」として風評がたち、その後の営業に差し支える懸念は十分ありましたが、アパホテルの対応一つで他のホテルも追随することになりますからね。なおコロナ患者受け入れ施設については、2月以降さらに23ホテル8500室超となりました。

■「キャッシュバック」が出張ビジネスマンの心を掴んだ

帝国ホテルが行っている月額36万円泊まり放題については、あまり儲からないんじゃないですか。帝国ホテルはピラミッドの頂上の層を対象にしていますが、そこが一番狭い。我々は中腹あたりの、層の厚い部分を狙う。彼らに、良いと思ってもらえるようなホテルを作ればその上の層からも降りてくるし、下からも背伸びして興味を持ってもらえるようになるという算段です。

アメリカには「ファイブパーセントクラブ」という言葉があります。これは5%の優秀な人材がいれば、残り95%が凡庸であっても企業は安泰であるという意味です。出張をするのは会社の経費をかけても儲けを出すことができるこのエリートなのです。

彼らが何よりも大事にするのが時間ですが、歩き回らなくても全ての用が足せるよう全てのスイッチがベッドサイドにあるように設計し、寝具は安眠のために独自開発したベッド「クラウドフィット」と枕「エアーリラックス」を導入し、シングルルームでも50型の大型液晶テレビを標準装備しています。そうした営業努力の積み重ねが今日のアパブランドを作り上げたといえます。

また、それを盤石にしているのが、創業初日から開始した会員制度。第一号会員は私、そこから徐々に増えて現在では1900万人以上の累積会員がいます。会員には宿泊料金の10%をキャッシュバックするので、それが出張ビジネスマンの評判を呼んで固定客層の獲得に繋がりました。

■ホテル不況でも拡大戦略をとる理由

創業50周年記念キャンペーンも好評でした。2020年11月の第一弾では「アパ社長カレー」を宿泊者にもれなくプレゼントしました。これはアパホテル直営レストランのカレーとして開発され、2011年から販売し現在700万食を達成したもので、神田カレーグランプリで3位に入賞するなど味もお墨付きです。パッケージに社長の顔が印刷してあるので、お客様にとってはちょっとしたお土産に、ホテルにとってはパンフレット代わりになるわけです。これが意外にも好評で、その後ネットで申し込んでくる人が多かったですね。

アパグループ元谷外志雄代表
アパグループ元谷外志雄代表(撮影=市来朋久)

第二弾では一泊一室3900円キャンペーンを行いましたし、現在行っている第三弾では「アパルームシアター(客室VOD)」を無料で提供しています。コロナ禍により客室滞在時間が長くなっていることから着想したものです。

アパホテルはM&Aも積極的に行っています。これは、ゼロ金利時代で物件の保有コストが低い今こそ、拡大戦略をとったほうがいいという判断からです。直近では「ホテルWBF新大阪スカイタワー」を買収し3月30日に「アパホテル〈新大阪駅タワー〉」としてリブランドオープン。さらに千葉県内で7ホテル目となるホテルを取得し、「アパホテル〈千葉中央駅前〉」として2月18日にプレオープン、東京都心で85棟目となるホテルを取得し、アパホテル〈京成蒲田駅前〉として3月19日にリブランドオープンと、既存ホテルの買収によるリブランドオープンが続きます。

借りたお金は十数年かけて返すことになるため、トータル期間の金利が安い時に行うのは鉄則です。土地代が2~3倍になったとしても金利がゼロ%台であるため、保有コストがかつての5分の1~7分の1ほどまでに下がった。金利が7~8%だった創業当時では考えられないことが起きています。

銀行側も、貸し倒れの心配がない超健全企業にはどんどん融資します。アパホテルは創業以来赤字を出したことがなく、直近5年間で累計1670億円の経常利益を出しており、収益率は業界ダントツです。通常のホテルは運営者と不動産の所有者とブランドを持つ者がそれぞれ10%程度ずつ利益を分配していますが、アパホテルは全てが自前であるため、30%近くの経常利益のすべてが自社のものです。

■信用が基盤の好循環経営

社会インフラを使ってビジネスをしているからには、きちんと儲けて税金を払う。そうして信用を得て銀行から資金を調達し、さらに事業拡大する。この好循環を活用して、アパホテルは寡占化の一番乗りを目指しています。まだアパホテルのシェアは10%に満たないですが、20%を超えるホテルが出てきた時から寡占化が始まります。アパは採算が取れなくなったホテルを買い取り、リブランドすることによって、現在のオーバーホテル現象をチャンスとして、拡大戦略を取ります。人もお金も、モノも一番のところに集まるからです。

コロナ禍が収束しても、基本的に戦略は同じです。

2019年まで年間3000万人だったところから一気にほぼゼロになってしまった訪日観光客は、2025年の大阪万博までにはある程度まで回復が見込めるでしょう。大阪梅田駅タワー(1704室・2023年開業予定)と大阪難波駅タワー(2060室・2024年開業予定)に建設中のアパホテルはそれを見越しているのもあります。

しかし、そもそもアパホテルは一過性のイベントに依存する経営をしていません。コロナ禍でさほど打撃を受けなかった要因も、ビジネスマンを主体にしてきて観光客が主たる需要層ではないからです。当面はアパのブランド力をさらに高め、引き続き出張族をターゲットに、「進化するアパホテル」として新都市型ホテルの進化を図っていきます。そうすることで、2020年4月から始めた第三次頂上戦略「SUMMIT 5-III」では、パートナーホテルを除く自社ブランドホテルのみで10万室達成するのが目標です。

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元谷 外志雄(もとや・としお)
アパグループ代表
石川県生まれ。慶應義塾大学経済学部通信教育部に入学するとともに、小松信用金庫(現・北陸信用金庫)に入社。27歳で独立し、71年、信金開発(アパグループの前身)を設立。現在、マンション、ホテル、リゾート事業など、20の企業からなるアパグループの代表を務める。

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(アパグループ代表 元谷 外志雄 構成=李志晩)

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