1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 政治

「米軍は介入できない」中国は漁船に乗った"海上民兵"で尖閣諸島を奪うつもりだ

プレジデントオンライン / 2021年3月10日 9時15分

沖縄県・尖閣諸島(北小島) - 写真=西野嘉憲/アフロ

尖閣諸島周辺が騒がしくなっている。2月1日に中国で「海警法」が施行され、海上警備を行う海警局の船舶に、武器の使用が認められた。尖閣諸島周辺へのさらなる領海侵入が警戒されるが、ジャーナリストの宮田敦司氏は「中国海軍あるいは海警局乗組員が尖閣諸島に上陸する可能性は低い。あるとすれば、“民兵”を使ったグレーゾーンの作戦だ」という――。

■中国海軍が尖閣諸島に上陸する可能性は低い

尖閣諸島周辺における中国海警局船舶の活動が活発化している。今年2月には海警局の強い権限を規定した「海警法」が制定された。同法により、海警局が中国の管轄海域内の海や島に違法建造物があれば強制排除できるだけでなく、中国共産党中央軍事委員会の命令で防衛作戦を遂行できることが明確となった。

これによる日本にとっての問題は主権の侵害、すなわち、尖閣諸島の領海と領土を、中国が管轄海域および領土と規定し、行動する可能性が強まることだ。

しかし、筆者は中国海軍あるいは海警局船舶の乗組員が魚釣島をはじめとする尖閣諸島を構成する島に上陸する確率は低いと考えている。海上保安庁の巡視船が海警局の船舶を、そして、海上自衛隊の護衛艦が中国海軍の艦艇を監視し、尖閣諸島領海へ接近した場合は海警局船舶と海軍艦艇の航行を阻止する役割を担うと考えられるからだ。

■代わりに「海上民兵」が漁船でやってくる

では、いったい誰が尖閣諸島へ上陸するのかというと、漁船に乗った「海上民兵」の兵士となるだろう。海保と海自が、海警局と中国海軍の動きを妨害することに集中している間に、漁船ですり抜けて尖閣諸島へ接近・上陸するのだ。

中国で「民兵」とは、退役軍人らで構成される準軍事組織で、警戒や軍の物資輸送、国境防衛、治安維持などの役割を担う。このうち漁民や港湾労働者ら海事関係者で組織しているのが海上民兵である。

海上民兵が乗船する船には、「北斗」と呼ばれる中国独自の衛星測位システムのタブレット端末が設置されている。中国語のショートメール機能も備わっているため、これにより指示を受け、海警局や中国海軍と連携して行動することができる。

■「警察比例の原則」に縛られる自衛隊

仮に、自動小銃や重機関銃などで武装した海上民兵が攻撃を仕掛けてきた場合、海保の対応能力を上回る事態とみなされ、海上自衛隊に「海上警備行動」が発令され武器を使用することが認められている。

ただし、そこでは「相手の能力や事態に応じて合理的に必要と判断される限度において」という制約、すなわち警察比例の原則が適用される。中国側はこれを熟知していると思われ、自衛隊が武力行使できない状態で尖閣諸島を占拠する可能性がある。

海上民兵は準軍事組織であり、最精鋭部隊は機雷や対空ミサイルを使い、「海上人民戦争」と呼ばれるゲリラ攻撃を仕掛けるよう訓練されている。「人民戦争」とは、簡単にいえば、正規軍だけが戦うのではなく、人民を組織し、人民の力に依拠してすべての人民が戦う戦争をいう。

■武力攻撃と直ちに認定できない「グレーゾーン事態」を狙う

2016年8月、尖閣諸島周辺の海域に中国公船20隻以上が押し寄せた。このとき、ともにやってきたのが400隻以上の中国漁船だ。一部報道によると、この漁船群には少なくとも100人以上の訓練を受けた海上民兵が乗り込んでいたという。

別の報道によると、福建省の漁民らは「釣魚島の近くで民兵の船を見た」と口をそろえる。ある漁民は、「漁場に着いても漁をしないので、どれが民兵の船かはすぐにわかる」と話している。

海上民兵は銃器の取り扱いの訓練も受けている。しかし、魚釣島上陸に際しては、武器は自衛用の小銃にとどめるだろう。あくまでも武力攻撃と直ちに認定できないグレーゾーン事態の範疇での行動にとどめ、自衛隊に「海上警備行動」よりも高度な「防衛出動」が発令されることを避けるのだ。

■「グレーゾーン事態」では米軍は介入しない

中国が狙うであろう「グレーゾーン事態」とは、武力攻撃とは認められないが、平時よりも緊張を高めるあいまい(グレー)な侵害行為だ。武力攻撃は「国家の意思に基づく組織的、計画的な武力の行使」(内閣法制局)と定義され、これに至らない場合、自衛隊は反撃のために武力を行使することはできず、日米が共同で対処することを規定した日米安全保障条約5条の対象にもならない。

日本の歴代首相は海保と海自の能力を信用していないのか、尖閣諸島が日米安全保障条約第5条の適用対象であることをアメリカ側とくりかえし確認してきた。菅直人政権では前原誠司外相が2010年にクリントン国務長官と、安倍晋三首相は2014年にオバマ大統領、2017年にトランプ大統領と、菅義偉首相は2020年にバイデン大統領と、政権が変わるたびに議題に上げ、その旨を明言している。

■中国の目的は日本のミサイル配備阻止

しかし、中国の目的は、日本が魚釣島にレーダーや地対艦・地対空ミサイルを配備することの阻止にあると思われ、恒久的に占領することではない。

現在自衛隊に配備されている地対艦ミサイルの射程は約200キロメートル、地対空ミサイルは約60キロメートルとなっている。今後、自衛隊のミサイルの射程距離は大幅に延伸することが計画されており、中国にとって大きな脅威となる。このため、魚釣島奪還のため水陸機動団が九州へ撤収した後、再び海上民兵は上陸を試みるだろう。

海を進む舟
写真=iStock.com/vuk8691
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/vuk8691

日本の現在の法制度では、グレーゾーン事態に海保や警察で対処しきれない場合、政府が自衛隊に対して「海上警備行動」や「治安出動」を閣議決定して自衛隊に対処させるとしている。

しかし、中国側はグレーゾーン事態を維持するため、中国海軍艦艇は尖閣諸島の領海には入らず、領海の外側の接続水域のさらに外側で海自護衛艦の動きを妨害する。接続海域に入り海上民兵を支援するのは海警局船舶となる。中国側はあくまでも軍事行動を制限し、武力攻撃に発展しないようにするだろう。

■占拠は短期間で終わるが、繰り返される

海上民兵が魚釣島を占拠したとしても、長期にわたり占拠するためには水や食糧などが必要になる。魚釣島には小さな滝があるため、水は確保できる。食糧も、300頭以上生息している野生のヤギで食いつなぐという方法がある。もともと島民が居住していたのだから、ある程度の期間占拠することは不可能ではない。

ただし、テントを張って占拠しているだけでは実効支配にはならない。軍隊の駐留や建造物などを設置する必要がある。それ以前に、日本の警察特殊部隊(SAT)がヘリコプターや小型船で魚釣島に上陸し、逮捕される可能性が高い。

海上民兵は漁船による機雷敷設の訓練も受けているため、警察や自衛隊が船で接近することを阻止するため、魚釣島上陸後は脱出経路を除いて島の周囲に機雷を敷設、さらに海岸には地雷を撒(ま)くだろう。現に南シナ海で活動している三沙海上民兵は漁船による機雷敷設訓練を行っている。

こうして、陸上自衛隊の水陸機動団の魚釣島奪還作戦を妨害するのだ。

■中国が尖閣諸島を重要視する本当の理由

防衛省が発表している日本領空に接近した中国の戦闘機や爆撃機、海軍艦艇の動向を見ると、中国は沖縄本島と宮古島の間の海域(いわゆる宮古海峡)をかなり重視していることがわかる。もし、魚釣島などに地対艦・地対空ミサイルを配備されてしまったら、宮古海峡を自由に通過できなくなる。

それだけでなく、台湾を併合する際にも中国にとっては厄介な存在になる。海軍艦艇や軍用機が台湾と与那国島に挟まれた海域から太平洋に抜ける際にも、魚釣島に日本の地対艦・地対空ミサイルが配備されていたら、中国軍の作戦に問題が生ずるからだ。

果たして、延々と続く「グレーゾーン事態」に、日本政府はピリオドを打つことができるのだろうか。尖閣諸島付近の海警局船舶の動向がほぼ毎日報道されているために、ともすれば日本国民の感覚がマヒしてしまうかもしれない。

これでは中国の思うつぼである。これまでの経緯を振り返ると、外交交渉で問題が解決されることはないだろう。日中関係を俯瞰してみると「南京大虐殺」に代わり尖閣諸島の領有権問題が浮上したことがわかる。

つまり、中国にとって、反日を煽るために尖閣諸島が使われていると見ることもできるのだ。もし、習近平の長期政権に対する国民の不満のガス抜きに尖閣諸島が使われているとしたら、尖閣諸島の領有権問題は長引くだろうし、海警局船舶の動向も過激になっていくだろう。

----------

宮田 敦司(みやた・あつし)
元航空自衛官、ジャーナリスト
1969年、愛知県生まれ。1987年航空自衛隊入隊。陸上自衛隊調査学校(現・情報学校)修了。北朝鮮を担当。2008年、日本大学大学院総合社会情報研究科博士後期課程修了。博士(総合社会文化)。著書に『北朝鮮恐るべき特殊機関 金正恩が最も信頼するテロ組織』(潮書房光人新社)、『中国の海洋戦略』(批評社)などがある。

----------

(元航空自衛官、ジャーナリスト 宮田 敦司)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください