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「コロナ感染者104人アンケート」発覚直後から始まる"症状より苦しいこと"

プレジデントオンライン / 2021年3月10日 9時15分

観光客もおらずシャッターの閉まった土産物店が並ぶ国際通り=2020年8月 - 筆者撮影

新型コロナウイルスの怖さは、その症状だけではない。沖縄タイムスが実施したアンケートでは、感染者104人のうち4割弱にあたる37人が「感染による差別・偏見を感じた」と答え、そのうちの31人が周囲から孤立するといった具体的な体験を打ち明けた。沖縄タイムスの下地由実子記者がリポートする――。

■104人の回答が明らかにした社会の歪み

沖縄タイムスは、沖縄県で2月14日に新型コロナウイルスが確認されてから1年となるのを契機に、県内で感染経験がある人を対象にアンケート調査をした。

結果から見えてきたのは、療養を終えても、感染したことが心身両面に大きな負担となってのしかかり続けている人たちの実像だった。

新型コロナウイルス感染を経験した人を対象にしたアンケートの回答用紙
筆者撮影
新型コロナウイルス感染を経験した人を対象にしたアンケートの回答用紙 - 筆者撮影

アンケートに回答したのは、新型コロナウイルス感染症を経験した104人。その一人ひとりの声は、束となることで数が持つ迫力をまといながら、社会の抱えるいびつさを突きつけてくる。

104人のうち、4割弱にあたる37人が「感染による差別・偏見を感じた」と答え、そのうちの31人が周囲から孤立するといった具体的な体験を打ち明けた。身体面では、約半数の49人が倦怠感や息切れなどの「後遺症がある」と不調を訴えた。

「感染を公にできない雰囲気がある」(40代男性)という社会の中で、感染を経験した人たちはどのような体験をして、今、何を思っているのだろうか。

■ばい菌扱いに無視、知人から「会いたくない」…

アンケートに「差別や偏見」を感じたと回答したのは37人。その声を一部紹介する。

「誰も近寄らない。ばい菌扱い」(40代男性)
「退院後に仕事の用事でコンビニに行くのを見られただけで出歩くなと怒られました」(30代男性)
「無視」(40代女性)
「コロナ感染して冷たい目線が強く感じた」(40代男性)
「子どもの友人の家族よりクレーム」(50代男性)
「2カ月後に知人と会う約束をしていたが、そのメンバーの1人に『コロナにかかりたくないから会いたくない』と直接言われた」(60代女性)

37人のうち、8割を超える31人が任意の記述回答欄に具体的な体験をつづった。感染したことで周りから、非難されたり、遠ざけられたりといった理不尽な扱いが並ぶ。

20代~60代の男女が記した言葉の数々は、文章の長さも、文体も、バラバラだ。そのことがかえって、体験した差別・偏見が多岐にわたり、しかも深刻であることをリアルに際立たせて、読む側の心をえぐる。

■密で近いコミュニティーがマイナスに

目立つのは、仕事での不当な扱いだ。

30代女性は「職場からの出勤拒否、左遷」を打ち明け、40代女性も「病院や保健所からは、仕事への復帰許可が出ていたが、職場の上司から周りの従業員が不安になるので、しばらく休むように言われた」という。

また30代男性は、「同業者から嫌がらせを受けた」と記した。

別の30代女性は「療養を終えて仕事復帰しましたが、コロナに感染したということで仕事をキャンセルされました。理由は現場に私が入るとみんなが不安になるということでした」と、丁寧な言葉遣いの中にやるせない気持ちが垣間見える。

離島という沖縄特有のコミュニティーの小ささが影を落とした様子もうかがえた。沖縄では、初めて会った人でも、たどっていくと共通の知人がいることは珍しくないし、「実は親戚だった」と分かることさえある。密な地域との関わりや人間関係のおかげで助けられることも、よくある。ただ、その近さが感染をめぐってはマイナスになった場面があったようだ。

30代男性は、「自分の地域で噂になり、あまり(人が=筆者注)近づかない」と孤立感を深め、40代男性は「家の前を通ると『感染する』や、『仕事に来ないでくれ』と言われた」と嘆いた。

■「周りに感染させていないか」という不安が最多

「家族が近所の方から避けられた」(30代男性)というケースもあった。感染した本人ばかりでなく、家族にまで差別が向けられたことが分かる。

一度、アンケートに答えた後で、「具体的な体験を書いてしまい、特定されるかもしれないから、該当部分を削ってほしい」と連絡してきた人もいた。

外出自粛で人けのない沖縄都市モノレールの駅=2020年5月
筆者撮影
外出自粛で人けのない沖縄都市モノレールの駅=2020年5月 - 筆者撮影

感染した人たちはそもそも、感染したこと自体に対して心理的な負担を感じていることが多い。

アンケートでは、感染が分かった時に「不安があった」と答えたのは94人、全体の9割に上っている。その不安の内容を尋ねてみると複数選択で、「周りの人に感染させていないか」が85件と最も多く、自らが感染源となることを恐れていることが分かる。それは、「後遺症」(63件)や「重症化のリスク」(45件)といった自身の体調への不安より多い。

感染すれば、本人が療養するだけでなく、家族や職場の同僚、友人など周りの人が濃厚接触者になって自宅待機を余儀なくされる。とはいえ、自らの体調を心配するより周りを慮るとは、少々行き過ぎのようにも感じられた。

■心ない言葉は濃厚接触者となった人からも…

実際に感染が広がってしまう場合は、苦悩がさらに深くなる。

自身が感染して、家族も感染したという30代男性は「自分だけならまだしも、家族にも迷惑をかけ、いろいろあり精神的にキツかった」と苦悩をつづった。また別の30代男性は「職場や家族にかなり迷惑をかけることになり、つらい。家族は家族で大変な状態になるため、相談できる相手はなく、自分で抱え込まざるを得ない」と苦しい胸の内を明かした。

そのような心理的負担を抱えているところへ、周りからの非難は追い打ちをかけることになる。

50代男性は「『君から感染した』と言われ、非難された」と吐露し、20代女性は「私の濃厚接触者になった人から『働けなくなったら給料が減る』と強く非難された」とあけすけな不満をぶつけられた事実をつづった。

「職場復帰したとき気持ちが鬱(うつ)になっていた。人が怖く感じる」と追い込まれた50代女性もいた。もっとはっきり、「加害者扱い」されたと書いた50代女性は「どこから感染したか分からないまま、周りに迷惑をかけることの苦しさ。誰も悪くないと分かっているけど、感染者の当の本人はいつまでも、やりきれない気持ちが続く」と訴えた。

■「悪いことをしたに違いない」と考える特有の道徳観

ふだんなら、何か病気になっても、本人はもちろん周囲もそのことをこれほど強く責めたりはしないだろう。

新型コロナウイルスが他の感染症と違うのは、世界規模で同時に感染が広がり、感染症の専門家も行政も「いつ、どこで、誰が感染してもおかしくない」と口をそろえるほど、感染させる力が強いことだ。それなのに、なぜ周りは感染した人を非難して、本人もまた自分を責めてしまうのだろうか。

その理由を、社会学者の明戸隆浩氏は、新型コロナ対策の「副作用」と表現する。「国が感染対策を『お願いベース』で始めたために、多くの人が道徳の問題として引き受けてしまい、本人の行動の決定に対する責任が過剰に考えられるようになった。『かかったからには、悪いことをしたに違いない』と、結果から過程を判断する特有のメカニズムが働いている」(2月13日、沖縄タイムス)

会見する玉城デニー知事=2020年2月27日
筆者撮影
会見する玉城デニー知事=2020年2月27日 - 筆者撮影

実際に、「感染した人に何か問題があったように思われる」(30代男性)、「かかった人が悪いという風潮がまだまだあるように感じる」(20代男性)との声は複数あり、「感染=悪」と捉える意識が社会に広がっている様子が浮かび上がった。

■治癒しても差別や偏見は根強い

この1年、「新型コロナウイルス」という言葉を聞かなかった日はない。そして私たちは、この未知のウイルスに関する大量の情報に触れ続けてきた。「未知」の部分は少しずつ小さくなり、「分かってきたこと」が増えたはずだ。

WHO(世界保健機関)は、有症患者の退院基準を発症日から10日間と定めている。これは10日たてば、周囲への感染性が弱まったり、なくなったりするという研究結果があるからだ。それなのに、アンケートからは根強い偏見がうかがえる。

沖縄県のコロナ対策の中枢・総括情報部=2020年8月
筆者撮影
沖縄県のコロナ対策の中枢・総括情報部=2020年8月 - 筆者撮影

「治癒したにもかかわらずウイルスを撒き散らすのでは? 近寄ると感染するのではと敬遠される」(60代男性)、「退院後もまだ感染していると思われている感があった」(40代男性)との声は、誤解や正確な知識の不足が、差別や偏見につながっていることをはっきり示している。

■無知や思い込みが感染者を追い詰めている

感染を経験して、アンケートに回答してくれた104人。その数は、沖縄県の累計感染者約8000人、全国の約43万人に比べたらほんの一部にすぎない。それでも、当事者が紡ぐ言葉の一つひとつは重い。

「正しい情報の収集と発信をタイムリーに」(60代男性)、「全体でコロナに対しての知識を上げること」(20代男性)。

その声を集めることで、差別や偏見を抑えるには何をすべきか、見えてきた気がする。「誰が感染してもおかしくない」世界では、次に感染するのは私かもしれないし、あなたかもしれない。私たち一人ひとりが、正しい情報を集めて知識を積み重ね、それに基づいた行動をすること。より大切なのは、無知や思い込みで、感染して苦しんでいる人をそれ以上、追い詰めないようにすることだ。

そうすることが、誰にとっても生きやすい社会につながるはずだ。

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下地 由実子(しもじ・ゆみこ)
沖縄タイムス社 編集局社会部 記者
1981年東京都生まれ。2012年沖縄タイムス入社。社会部で司法担当、中部報道部で北谷町、北中城村担当などを経て、2019年から現職。2020年2月から、新型コロナウイルス対策取材を担当。

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(沖縄タイムス社 編集局社会部 記者 下地 由実子)

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