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「約半数にコロナ後遺症」感染者104人アンケートで判明した深刻度

プレジデントオンライン / 2021年3月10日 15時15分

沖縄県独自の緊急事態宣言により営業時間短縮を知らせる居酒屋=2月28日、那覇市。 - 筆者撮影

新型コロナウイルスの感染者が「後遺症」に悩まされている。沖縄タイムスが実施したアンケートでは、感染者104人のうち約半数の49人が「後遺症がある」と答え、倦怠感や味、匂いが感じられないといった具体的な症状を打ち明けた。沖縄タイムスの下地由実子記者がリポートする――。

■「後遺症がある」と答えた人は20代から70代と幅広い

沖縄タイムスが新型コロナウイルス感染症を経験した人を対象に行ったアンケートでは、回答した104人のうち約半数の49人が「後遺症がある」と答えた。

その内容は、複数回答で、最多の倦怠感(27人)に始まり、息切れ(24人)、味覚・嗅覚の異常(14人)と続く。さらには、脱毛、微熱の継続、視力の低下、胸や足の痛み……。挙げられた体調の異変は、少なくとも20と多岐にわたった。

新型コロナウイルスにかかると、お年寄りは重症化しやすく、子どもや若い世代は重症化しにくいという年代によって異なる傾向がある。ところが、「後遺症がある」と答えた人は20代から70代と幅広い。年代に関係なく症状が現れ、日常のさまざまな場面に影を落としている様子が浮かんできた。

特に深刻なのは、前編で書いてきた「差別・偏見の経験」と同じように、後遺症によって仕事に支障が出ていることだった。

■倦怠感、毛が抜ける、匂いや味を感じられない…

今年1月に感染した50代男性は「倦怠感や集中のしづらさ」を感じ、「午後から仕事にならない」と訴えた。息切れをするようになったという40代男性も、「疲れやすくなり、仕事に影響がある」と回答している。

倦怠感や頭痛など7種類の症状があるという30代女性は「仕事で依頼されたことを忘れてしまうことがある」と悩む。20代女性は、仕事中にめまいに襲われ、「業務に支障が出た」と打ち明けた。

50代女性は、今年1月に感染を経験して復帰してからも、「テレワークに集中できない」という。持続力が落ち、倦怠感や嗅覚味覚の異常、物忘れなども感じている一方で、「現在の状況を(周りに)伝えにくい」もどかしさにさいなまれる。

そして、「後遺症」は、食事や運動といった日常の楽しみも奪った。

療養を終えてから半年以上たっている30代女性は、味覚・嗅覚の異常、脱毛、息切れがあり、「ダンスなど運動を長い時間続けられない。食事の味が分からない。食欲が減少した」と生活の質の低下に見舞われる。カレーライスの匂いや味をあまり感じなくなったという50代男性も「食事が楽しくなくなった。どれを食べても一緒という感覚」と嘆く。

■半年以上も症状が続く不安と恐怖

症状が長く残る場合には、より強く不安を訴える人が目立った。

療養を終えてから3カ月以上たつ20代女性は、今も脱毛が続き、「かかりつけ医に相談しても根本的な解決に至らず、いつ治るのかとても不安」と漏らす。30代女性は、昨年8月に感染して療養が終わってから半年以上たっているにもかかわらず、倦怠感や息切れなどが続き、「ずっと悩まされている。息ができなくなるのではないか、再発していないか、不安と恐怖がある」と明かした。

新型コロナウイルスの「後遺症」については、詳しいメカニズムはまだ分かっていないし、特効薬も見つかっていない。まさに、未知の部分が大きい。

だからこそ、症状が出た場合に、「現れている症状が、後遺症なのか、自分の体調不良なのか分からない。相談しようにもどこの病院の何科に行けばいいのか、もっと悪化するのか、そのうち治るのか分からず不安なまま過ごしている」(30代女性)と途方に暮れるのは、もっともだ。

沖縄県独自の緊急事態宣言最終日に行き交う人もまばらな沖縄県庁前の交差点=2月28日、那覇市。
筆者撮影
沖縄県独自の緊急事態宣言最終日に行き交う人もまばらな沖縄県庁前の交差点=2月28日、那覇市。 - 筆者撮影

■「後遺症の相談強化」の要望は経済支援に次いで多い

アンケートで、これから必要な支援や取り組みを尋ねると複数選択で、全体104人のうち半数以上の54人が、「後遺症など相談窓口の拡充強化」を挙げた。最多の「感染による収入減への経済的支援」(56人)に続き、2番目の多さだ。

「後遺症はない」と答えた55人も、そのうち21人が「後遺症などの相談窓口の拡充強化」を選んでおり、感染を経験した人にとって、後遺症がいかに切実な問題であるかが分かる。

さらに、もう一つ、後遺症をめぐってもまた、「差別・偏見」がもたらす影響を考える必要がある。

前回記事「『コロナ感染者104人アンケート』発覚直後から始まる“症状より苦しいこと”」でも紹介したが、アンケートでは、全体の5分の1を占める21人が「感染による差別や偏見を感じた」かつ「後遺症がある」と答えている。これでは、感染したことで周りから冷たい視線を浴びた人たちは、果たして療養後に現れた体調異変をすぐに周りに伝えて、心身を休ませることができているだろうか。

沖縄県立中部病院で新型コロナ感染症の治療にあたる横山周平医師は、徐々に症状は改善していくとした上で、「周囲からの忌避の目」を気にして、後遺症を我慢している人も多いのではないかと指摘する。

「発症から10日が経過すると周囲への感染性はなくなる。(中略)後遺症のような症状が出ても周囲に感染させることもないしPCR検査も必要ない。感染した人が体調の変化を言い出せないことがないような取り組みが必要だ」(2月13日、沖縄タイムス)

■「生の声」を集めることの難しさ

今回のアンケートは、新型コロナウイルス感染が沖縄県内で初めて確認されてから、1年になるのを前に、2月上旬に行った。感染した人々が、何を経験して、何を感じ、今、何を必要としているのか。できるだけたくさんの生の声を集めることで、課題を浮き彫りにして、これからも続くコロナ禍を乗り越えるヒントを探ろうと企画した。

感染を経験した人を直接知っているわけではない。回答してくれる対象の人を募るために、人づてに頼ったり、これまでに感染の判明を発表していた事業所に、従業員への回答を仲介してくれるようお願いしたりを繰り返した。

現実は厳しく、依頼は断られ続けた。

「職場復帰しているが、今も精神的ダメージが大きい。感染を思い出させることは会社としてできない」「なんで協力しないといけないのかと、従業員の反発が予想される」「感染した人は知り合いだが、センシティブな問題なので、声を掛けることはできない」。どれも、感染を経験した人に配慮する、当たり前の理由だった。

それだけ感染をめぐる当事者の心身の負担は大きく、周りに及ぼす影響も深刻であるのだと改めて痛感させられた。

■「国がインバウンド推奨してきたのに…」恨み節も

一方で、集まった回答は、選択肢を選ぶ形式の回答のほかに、任意の自由回答の欄にビッシリとした意見の書き込みが目立った。感染したことを気軽に話せない雰囲気の中で、これまで言いたくても言えないことがたくさんあったのだろうと感じさせられる熱量がそこにあった。

豪華客船が消え、ドライブスルー方式のPCR検査場になっている那覇クルーズターミナル=2月28日、那覇市。
筆者撮影
豪華客船が消え、ドライブスルー方式のPCR検査場になっている那覇クルーズターミナル=2月28日、那覇市。 - 筆者撮影

非正規雇用者で「リゾートホテルでの演奏」が仕事という50代男性は、感染したことによる収入減に対する経済的支援、感染したことでかかった入院費などに対する経済的負担への支援を求めた。

300文字以上を使って、ステージが減ったためにアルバイトを探しているが見つからないという苦境や、「国がインバウンド推奨してきたのに、という気持ちがあります」と国が盛り上げてきた観光業にこれまで携わっていながら、コロナ禍になったら補償の対象にならないやりきれなさを訴え、「自助ではやっていけません」と強調した。

■社会が基礎体力を蓄えることが大切だ

新型コロナウイルスをめぐる未曾有の事態は、この社会のいびつで弱い部分を一気にあぶり出した。

前回記事で述べた「差別・偏見の経験」では、「濃厚接触者になった人から『働けなくなったら給料が減る』」という20代女性にぶつけられた非難があった。この赤裸々な不満の背景には、いったい何があるのか、立ち止まって考えてみる必要があるだろう。

病気になって仕事を休んでも、感染対策のために自宅待機になって出勤できなくなっても、きちんと給料が出る雇用環境の安定や、最低限生活していける程度の経済的支援があれば、このような発言は出てこなかったのではないか。

「感染症に強くなる社会構造の構築を」と回答した60代男性もいた。

当事者の声の数々は、新型コロナウイルスを抑えるには、疫学的な感染対策にとどまらず、実は日頃から社会が基礎体力を蓄えておくことが大切だと教えてくれた。それは、雇用環境の安定であり、病院の逼迫を見据えてマンパワーに余裕を持たせておくことであり、例えば一人ひとりが事実に即した正しい知識を積み重ねて、差別的な言動をしないといったことも含まれるだろう。

新型コロナの収束は見通せず、まだ試練は続く。コロナ禍の今、可視化された弱点を組み立て直し、よりしなやかな強さを備えた社会へと生まれ変わるきっかけにするべきだ。

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下地 由実子(しもじ・ゆみこ)
沖縄タイムス社 編集局社会部 記者
1981年東京都生まれ。2012年沖縄タイムス入社。社会部で司法担当、中部報道部で北谷町、北中城村担当などを経て、2019年から現職。2020年2月から、新型コロナウイルス対策取材を担当。

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(沖縄タイムス社 編集局社会部 記者 下地 由実子)

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