「日韓関係を改善したい」となぜか頭を低くし始めた文在寅大統領の3つの魂胆
プレジデントオンライン / 2021年3月9日 18時15分
■徴用工訴訟や慰安婦問題の具体的な解決策には全く触れず
3月1日、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が、日本の植民地支配に抵抗した1919年の「3・1独立運動」を記念する式典で演説した。
文在寅氏は今年1月の新年記者会見で、徴用工訴訟について「日本企業の資産が強制執行で現金化されるのは韓国と日本にとって好ましくない」と現金化回避の意向を示し、慰安婦問題についても「日韓合意を公式的なものだったと認める」との考えを述べていた。
いずれもこれまでの姿勢や態度を変えるもので、記念式典での演説が注目されていた。しかし、日韓関係の改善を抽象的に語るだけで、徴用工訴訟や慰安婦問題の具体的な解決策には全く触れなかった。
態度を変えた文在寅氏の腹中には、間違いなくいくつもの打算がある。1月23日付の記事「『日本の資産売却は避けたい』突然態度を翻した文在寅大統領の本当の狙い」でも触れたが、あらためて考えてみたい。
■「韓国は対話に応じるから日本もその意思を示せ」は失礼だ
3月1日の演説内容を具体的に見てみよう。文在寅氏は「韓国と日本の唯一の障害は、過去と未来の問題を切り離せず、未来の発展に支障が出ることだ」と指摘したうえで、「過去の過ちから教訓を得ることは、国際社会で尊重される道だ。韓国政府は日本政府と向かい合い、対話をする準備ができている」と日本に対し、関係改善を呼びかけた。
韓国は対話に応じるから日本もその意思を示せ、と求めているのだ。実に失礼な言い方である。徴用工訴訟では解決に向けた行動を何ら起こさず、慰安婦問題では「最終的かつ不可逆的な解決」を約束した日韓合意(2015年)を否定した。
過去と未来の問題を切り離していないのは、いまの韓国政府だ。文在寅氏は日本に対話を呼びかけるのであれば、まずは徴用工訴訟と慰安婦問題での無礼を詫びるべきだろう。
■文在寅氏の大統領任期は来年5月で切れる
しかも文在寅氏は「韓国は被害者中心主義の立場で、解決策を模索していく」とも語った。徴用工訴訟の原告や元慰安婦らの機嫌を取ろうとしている。文在寅氏の大統領任期は来年5月で切れる。それまでに低迷した支持率を元に戻して支持層を固め、そのうえで大統領選に臨み、新たな次期大統領を自分の与党から出し、進歩派(左派)政権を継続したいのだ。これが態度を変えた理由、腹中の打算の1つである。
こんな打算を抱くようでは、日韓関係の改善などほど遠い。新年の記者会見で「日韓合意を公式的なもの」と明言したのだから、2015年の日韓合意を反故にした理由を明確に示すとともに、日本政府に謝罪すべきである。文在寅氏は国家間の約束というものをどう考えているのか。
加藤勝信官房長官は3月1日の記者会見で「重要なことは懸案解決のため韓国が責任を持って具体的に対応していくことだ」と話し、韓国に解決策を提示するよう求めた。日本が納得できる解決策を、まず韓国側が示す。これが道理である。日韓関係をこじらせたのは、文在寅政権だからだ。
■南北改善のために東京五輪を利用するつもりだ
3月1日の演説で文在寅氏は東京五輪にも触れ、「オリンピックは韓日、南北、日朝、朝米の絶好の対話の機会になる。成功させるために協力する」と述べた。
南北関係の改善を政権の重要課題と考えている文在寅氏は、東京五輪に北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記(今年1月の党大会で委員長から総書記に格上げ)を招き、アメリカと北朝鮮の対話の舞台にしようと画策している。実際、文在寅氏は開会式に各国の首脳クラスの人物を集めて朝鮮半島問題を話し合ったり、北朝鮮の核・ミサイル開発や日本人拉致の問題について議論したりする会議の開催を日本など関係各国に水面下で求めている。
朝鮮半島の南北改善のために東京五輪を利用する。これが文在寅氏の2つ目の打算である。今回の演説では「対話の機会」との表現にとどめたが、今後、文在寅氏は徴用工訴訟と慰安婦問題を解決する代わりに、東京五輪を米朝対話や南北改善の舞台に使うことを日本に求めてくるはずだ。だが、オリンピックに政治的打算を持ち込むことは許されない。
そもそも沙鴎一歩がこれまでも主張してきたように、国際社会に反旗を翻し、日本を侮辱する北朝鮮の金正恩氏を、東京五輪に招待するべきではない。
■「被害者は日本の方である」と産経社説
3月4日付の産経新聞の社説(主張)は「韓国大統領の演説 具体策なき言葉は無用だ」との見出しを掲げてこう訴える。
「対日融和姿勢を示したとみなすのは早計だ。演説には関係改善に向けて韓国側がどのように行動するかという解決策の提示がなかった。行動を伴わなければ期待することは難しい」
具体的な解決策を示してこそ、対日融和と言える。いまの最悪の日韓関係を作ったのは韓国だ。どう考えても韓国政府が具体策を提示してくるべきである。
産経社説も「はっきりさせておきたいのは、両国関係を国交正常化以来最悪の状況にしたのは、ひとえに韓国側に責任があるという点だ」と強調している。
産経社説は「韓国側の補償要求は1965年の国交正常化の際の日韓請求権協定に反している。補償要求も日韓合意をほごにしたのも韓国側の国際法違反である。そのうえ韓国側は史実をねじまげて、慰安婦が性奴隷で、徴用工は過酷な強制労働だったという虚偽の宣伝で日本を攻撃している」と指摘し、「被害者は日本の方である」と訴える。韓国が加害者で、日本は被害者なのだ。
■文在寅大統領はバイデン政権にゴマをすりたい
産経社説は書く。
「複数の韓国紙は、バイデン米政権が日米韓3カ国の連携を重視していることが文氏の今回の演説に影響したと分析している。米国向けのアピールにすぎないのか」
「両国関係改善の希望を口にしながら、韓国側がこじらせた問題を解決する具体策をなんら提示しないのは文氏の常套手段である。狡猾と言っていい」
![ニューヨーク](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/a/670/img_1ad2549d509c676f00be0069679c47c81030630.jpg)
文在寅氏は「日米韓の連携重視」を強く求めるアメリカにいい顔をしたいのだ。バイデン政権が背を向ければ、念願の南北融和は泡と消える。だからこそ、新年の記者会見で態度を軟化させ、徴用工訴訟と慰安婦問題に言及してアメリカを納得させようとしたのだ。バイデン政権にゴマをすりたい。これが文在寅氏の3つ目の打算である。
最後に産経社説は東京五輪に触れた文在寅演説に対し、こう主張する。
「臆面もない発言に違和感を覚える。スポーツの政治的中立を求める五輪憲章を読んだらどうか」
文在寅という大統領を的確に捉えた主張だ。そんな人物には大統領を辞めてもらうのが一番である。
■「対応策を具体化し、日本との協議を始めるべきだ」と朝日社説
3月3日付の朝日新聞の社説は、その中盤でこう主張する。
「文氏はこれまで北朝鮮や中国への配慮から、日米韓の結束を強調することに慎重とみられてきた。それだけに今回、微妙に前向きな変化がうかがえる」
「その言葉を行動で示してほしい。文氏は直近の歴史問題への対応策を具体化し、速やかに日本との協議を始めるべきだ」
「変化がうかがえる」とは、3・1独立運動記念式典での文在寅氏の発言を指す。「行動」や「対応策の具体化」を韓国側に求めるのは日本の新聞社説として当然である。
朝日社説は「文氏の発言は、国内の対日政策批判をかわし、日韓関係改善を求める米新政権に応える構えを装うためだ、との冷めた見方もある。もしそうならば、根本的な解決は遠のくばかりだ」とも指摘するが、ここは「冷めた見方もある」「もしそうならば」は余計だ。ストレートに「米新政権に応える構えを装っている」と書くべきだ。この局面ではっきりとものを言えないところが、朝日社説の限界なのかもしれない。
■「日本政府にも改めるべき点がある」とする朝日社説の論法
朝日社説は後半で「もちろん歴史問題では日本政府にも改めるべき点がある」と指摘し、お得意の喧嘩両成敗の論法を展開する。
「先週ジュネーブで開かれた国連人権理事会では、両国の間でひともめあった」
「韓国政府は日本を名指しせずに『普遍的な人権問題』として慰安婦問題に言及した。これに日本政府は、2015年の日韓政治合意に照らし、受け入れられないと反発した」
「確かに日韓合意では、双方が国連など国際社会で非難や批判をし合わないことを確認した。だが慰安婦問題を取り上げること自体を禁じたわけではない」
「日韓の合意で慰安婦問題への言及を禁じたわけではない」とは、よく分からない指摘である。「最終的かつ不可逆的解決」を日本と韓国で了解したのが、2015年の合意だ。合意した以上、国際会議などで取り上げないのがルールだ。
保守派の朴槿恵(パク・クネ)前政権での合意を反故にしたのが、進歩派の文在寅政権だ。文在寅政権は反保守の立場と公約を堅持し、日本との約束を破った。繰り返すが、間違っているのは韓国である。それを喧嘩両成敗の論法で日本にも非があると書くのは、納得できない。
最後に朝日社説は「歴史の事実を回避するような態度は、慰安婦問題での日本政府としての考え方を表明した、1993年のいわゆる『河野談話』」にも逆行する」と指摘する。
河野談話の問題点をどう考えているのか。誤報と批判され、自ら検証して反省した朝日新聞の一連の慰安婦報道をどう思うのか。
続けて「それは韓国側の冷静な判断を促すのに役立たないばかりか、国際社会からも支持を得られないだろう」と書く。「それ」とは「歴史の事実を回避するような態度」を指すのか、それとも「河野談話への逆行」を指すのか、よく分からない。しかも河野談話の内容が事実だとは言い切れない。
いずれにせよ、河野談話などいくつかの経緯があって生まれたのが、2015年の合意であることは間違いない。合意を反故にした文在寅大統領にこそ、大きな非がある。日韓関係を最悪にした元凶(げんきょう)は、文在寅政権なのだ。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)
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