「48期連続の増収増益」を実現した寒天メーカーの秘密
プレジデントオンライン / 2021年3月13日 11時15分
※本稿は、石井大貴『「目標」を「現実」に変えるたった3つのルール』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■“自らつくる目標”が“幸せな人生”につながる
私は、目標とは「こうなりたい」「こういう人生でありたい」「今よりよくなりたい」というような、漠然としたもののほうがよいと思っています。
仮に目標を明確に設定しても、状況は変わるものです。しかも、ガチガチに目標を固めてしまうと身動きがとれなくなってしまうことすらあります。一方で「もっとよくなりたい」という思いは不変です。そして、こうした向上心や希望や意欲は、誰にでもあると思います。
そう考えると、目標は状況や環境により“変わるもの”であり、目的は“不変のもの”といえるでしょう。会社の目的、人生の目的は、“よりよくなること”、つまり“幸せになること”だと思うのです。
当社の企業理念は「いい会社をつくりましょう」ですが、私の思う「いい会社」とは、業績だけでなく、従業員や周囲の人が「“なんとなく”いい会社だな」「昨日よりもよくなっているな」と日々感じることができる会社です。
「きっと、今日よりも明日のほうが少しずつよくなっているな」と、働く人みんなが希望を持てる会社なんて、素敵だと思いませんか。
■経営者は、社員が意欲的になれる状況をつくる
ところが多くの企業の場合、四半期や1年などの縛りをつけて、収益を上げるために従業員にいろいろなことをやらせます。
成長の度合いは一人ひとり違うので、人によっては5年かかる場合があります。しかし、そういう場合も、無理にやらせようとします。無理にやらされた人ははたして幸せでしょうか。
そもそも、会社が目標を設定して、「ここに向かってがんばれ!」とお尻を叩くよりも、社員が意欲的になれる状況をつくってあげることが、経営者として大切だと考えています。勉強でも「やれ」といわれるとやる気が失せますが、逆に「やれ」といわれないと、しばらくすると不安になり、自らやり始めるものです。
ですから私は、会社としての数値目標は設定しません。ただ実際には、個人や支店で数値目標は設定しています。会社が指示してやらせるのではなく、自分たちでつくっているわけです。「指示されて行うこと」と、「自分で考え実行すること」では、やりがいが大きく異なります。
![ビデオ会議を通じてミーティング](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/3/670/img_936c1572178b127b8c4bafd69870cbad456466.jpg)
自分たちで考え、実行していくことが、“楽しく働けること”や“成長を実感すること”につながり、幸せな人生になっていくのではないでしょうか。
■会社の目標と個人の目標は共存する
私自身、具体的に目標を立てることは苦手で、実際立てたことはありません。ただ、東京の上場企業で働いていた若い頃は、数値目標を設定し、それをクリアしようとしていました。会社にやらされていたわけですが、当時はそういうものだと思っていましたね。
しかし数年経つと、「こうした生き方は違うのでは」と違和感が生じるようになり、そのタイミングで母の病気がわかったので、故郷に戻りました。
当時社長をしていた塚越寛(現・最高顧問)の伊那食品工業にいきなり管理職として入社したわけですが、前職場とあまりにも違うことに驚きました。まず、書類がない。そして売上目標もない。「もっとちゃんと管理しなくちゃダメだ」と、その頃は思いましたね。
それでも、父の代から「業績や利益にとらわれず、従業員の幸せを考える」といわれ続けていたので、私もそういう思考になりました。ただ、そう頭ではわかっていたつもりでしたが、じつは心の底から理解できてはいなかったのです。
そんなとき、ある講演会で、父の考え方について鬼澤慎人氏(株式会社ヤマオコーポレーション 代表取締役)が解説してくれたことがありました。当社をよく理解してくださっている外部講師の方の話を聴き、そこで初めて「これが進むべき正しい方向だ」と腹落ちしたことは、鮮明に覚えています。
私は、会社の目標と個人の目標は“同じもの”だと考えています。会社にいる時間も、自宅にいる時間も自分の人生の時間であり、切り離して考えることはできないからです。
会社でも家庭でも楽しく幸せに生活する。そういう人が集まると、楽しい会社になっていきます。もちろん、地域あっての会社なのですから、地域との共存共栄は当たり前だと思っています。
■判断基準は“社員が幸せかどうか”
ビジネスをする上で困難なことにぶつかったら、数字で考えるのではなく、「従業員や周囲の人たちにとって、それはよいことか悪いことか」で判断しています。
企業が存続するためには売上も大事ですが、それだけではありません。売上や収益などの数字を上げることはひとつの通過点であり、お金は人を幸せにするひとつの道具に過ぎません。
![石井大貴『「目標」を「現実」に変えるたった3つのルール』(プレジデント社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/8/200/img_6845676273de06d12936215780b03f68155769.jpg)
そもそも企業は終わりがないのが大前提です。目標を設定してクリアしたらそれでいいかというとまた違います。
売上を第一目標に掲げなくても、社員が幸せそうに働いていれば、業績は自然とついてくる――。実際、当社ではその通りになっています。日常生活で「幸せ」を感じることが何より大切だと思います。幸いにも当社には、こうした考えが脈々と受け継がれてきました。それを引き継げるのは、とても幸せです。
目標といえるのかはわかりませんが、「いい会社をつくりましょう」という理念にしたがって、今のやり方で恒久的に会社を続けていく。それが、私の目指すところです。
■著者・石井大貴の取材後記
本社のある長野県伊那市の「かんてんぱぱガーデン」に一歩足を踏み入れた瞬間、その整然と美しく明るい光景から伊那食品工業がどれだけ人々と地域に愛される、優しい会社なのかが伝わってきます。
最高顧問から塚越英弘社長に継承された社員の幸せを目指す「年輪経営」は、私たちがいつも忘れてはいけない、本質的な生きる目的や価値を照らし出していると強く感じました。
伊那食品工業株式会社 代表取締役社長。日本大学農獣医学部卒業後、CKD株式会社に入社。その後1997年に伊那食品工業に入社し、購買部長や専務を歴任、2016年から代表取締役副社長。2019年2月に代表取締役社長に就任、以降現職。
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金沢工業大学虎ノ門大学院客員准教授、LOCON株式会社代表取締役
LOCON株式会社代表取締役。金沢工業大学虎ノ門大学院客員准教授。博士(メディアデザイン学)。1982年東京都生まれ。慶應義塾大学メディアデザイン研究科後期博士課程修了。2019年につくし会代表である母・石井美恵子の意志を継ぐことを決意し、15年間勤めた(株)TBSテレビを退社。現職では、「好きな道で輝く人を育てる」をモットーに、つくし会幼児教室の運営、ナニーサービス、研修事業を展開。千葉ロッテマリーンズを始めとするスポーツチームや多くの企業へのコーチングを行っている。著書に『親子で体・心・脳を育む つくし会式「知育」メソッド』(ぴあMOOK)がある。
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(金沢工業大学虎ノ門大学院客員准教授、LOCON株式会社代表取締役 石井 大貴)
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