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「上海の蔦屋書店やロフトが大人気」中国人の間に広がる深刻な"日本ロス"

プレジデントオンライン / 2021年3月14日 9時15分

2020年12月24日、上海にオープンした「蔦屋書店」 - 写真=Imaginechina/時事通信フォト

■日本は「行きたい国」の第1位

新型コロナウイルスの影響で、世界各国の人々の往来はほぼストップしたままだ。コロナ前の2019年、訪日外国人観光客数としてトップ(約959万人)だった中国人も同様で、先の春節の大型連休も彼らは日本へ旅行にくることはできなかった。

しかし、2015年の爆買いブーム以降、彼らの「日本愛」は年々強まっており、2020年に行われた中国旅行大手トリップドットコムの調査でも、日本は「行きたい国」の第1位となっている。そのため、現在は深刻な「日本ロス」の状態にあるのだが、それにしても、彼らはなぜ、そこまで日本に憧れ、日本に来たいと思っているのだろうか?

■日本人俳優が多数出演する映画が大ヒット

今年の春節、帰省自粛を強いられ、旅行に行けなかった中国人の間で大ヒットした映画がある。『唐人街探索3』(邦題:僕はチャイナタウンの名探偵3)だ。もともと1年前に公開される予定だったのだが、コロナの影響で延期となってしまい、今年の春節に、満を持して公開された。映画は探偵コンビが事件を解決していくというコメディ・サスペンスで、今作はシリーズの3作目。東京が舞台となっている(第1作目はバンコク、第2作目はニューヨーク)。

日本側の出演者は日本人と中国人の血を引くという役どころの妻夫木聡をはじめ、長澤まさみ、三浦友和、染谷将太など超豪華な面々。渋谷のスクランブル交差点(実際は栃木県足利市のセットで撮影)を始め、東京の代表的なスポットが数多く登場するということで、中国の映画ファン、日本ファンの間では、昨年から「早く見てみたい」という期待の声が大きかった。

実際に映画を観たファンのSNSを見てみても「スクランブル交差点、チョー懐かしい!」「あそこで自分も写真を撮りたい!」「早く東京に行ってたくさん買い物がしたい!」といった声が多かった。まるで映画のシーンの中に「かつて自分も歩いた東京の風景」を必死で探し求めているかのようだった。

■なぜ「ロス」が起きているのか

彼らの「日本に行きたい願望」、つまり「日本ロス」が強くなっている第1の理由は、ここ数年、日本に足しげく通っていたリピーターのほとんどが、もう1年以上も日本に足を踏み入れることができない「禁断症状」に陥っているからだ。

中国人の訪日観光客が急速に増えたのは2014年ごろからで、同年の観光客数は約240万人だったが、「爆買い」ブームの2015年は約499万人、2019年は約959万人とうなぎ上りで増えていた。そのうち、約半数がリピーターだ。距離的にも文化的にも近く、中国の都市部よりも物価が安く、安心・安全でおいしいものが多い日本は、経済的に豊かになった彼らの間で、あっという間に人気の旅行先となったのだ。

2015年10月13日、人でいっぱいの浅草寺の仲見世通り
写真=iStock.com/AndresGarciaM
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AndresGarciaM

また、昨年、コロナ禍で日本からたくさんのマスクを寄贈してもらったことにより、中国人の対日感情が好転していることも、日本への興味・関心の高さにつながっている。

いつでも旅行に行けるような状態なら、とくにそう強く「日本に行きたい」と思わないかもしれないが、いざ「行けない」となると、行きたくなる気持ちが募る、というのが人間というものだ。これは、今、海外旅行に行きたくても行けないと思っている日本人なら、よく理解できる心理ではないだろうか。

■「さすが日本の蔦屋はワンランク上だ」

しかし、中国国内、とくに、中国の中でもトレンドに敏感でファッションセンスが高い特別な都市・上海を例にとってみれば、実は、いつの間にか、街の至るところに「日本」があふれていることに気がつく。

最近の話でいえば、2020年12月に、日本の蔦屋書店がオープンして話題になったばかりだ。蔦屋書店は同年10月に上海から高速鉄道で1時間半の杭州にもオープンしており、上海は2店舗目。上海店は「上生新所」という1924年にアメリカ人建築家によって設計された洋館の中にあり、店舗面積は約2000平方メートル。

中国の書店なので、もちろん、中国語の本がメインだが、日本語の書籍や欧米の美術書、ギャラリースペースなどもあり、一般的な書店というよりも、落ち着いた文化サロンといったオシャレな雰囲気を醸し出している。

私の友人たち数人もオープンから間もなく出かけたと話しており、店内の写真を見せてくれたが、そこはまるで東京・代官山の蔦屋がリニューアル・オープンしたのでは? というほど洗練された空間だった。上海や杭州など、中国の大都市には、すでにオシャレな書店が続々と増えており、別に蔦屋が「オシャレ系書店」の先駆けというわけではない。だが、私の友人の1人は「やっぱり、さすが、日本の蔦屋はワンランク上だと思った」という感想を私にもらした。

■行けない日本への“妄想”がどんどん膨らんでいる

写真で見たところ、個人的には、代官山よりも上海のほうがずっとオシャレなんじゃないの? と思ったのだが、なかなか日本に行けないという不満を抱えている彼らは、日本への憧れの気持ちや「1年間見ていない」日本への期待がどんどん膨らんでいて、なかば“妄想”に近い状態になっている。そのため、他のオシャレ系書店よりも「日系の書店」のほうが(実際にどうかは別として)、もっと輝いているはずだ、というふうに“割り増し”でよく見えたのではないか、と私は感じてしまった。

同じく2020年7月にはロフト(LOFT)がオープンして、早速「日本好き」な中国人が買い物に出かけた。LOFTといえば、かわいい雑貨やインテリア、コスメなどが多いが、上海在住の私の女性の友人は「マスキングテープやかわいいキャラクターのペンをたくさん買ってきた」と満足げだった。

そのほか、コロナが発生する以前からだが、上海には「MUJI」(無印良品)や、日用品を販売する「ニトリ」などがある。中国人の資本も含めて、日本にもあるような個性的なカフェ、日本風のベーカリー、日本人もうなるような高級寿司店など、「日本」を連想させる店はとにかく多く、いずれも上海人の間では、それがあることは「日常」になっている。

■日本文化の質を身近な場所にも求めるように

こうした状況はコロナが発生する数年前から起きており、この1年で急に「日本関係の店が増えた」というわけではない。だが、コロナの感染が拡大し、行き来ができなくなった2020年の1年間で、中国(とくに上海や北京など)の中の「日本」の存在感は“熟成”され、その前の年より強まっているのではないか、と私は感じている。

むろん、それは経済的な面ではなく、文化や生活の質という点での話だ。外部(海外)への渡航がほぼなくなり、内側(国内)にこもるなか、ここ数年、海外で見聞を広めた中国人の文化への関心が成熟していったことと、コロナ以前から進められていた案件(海外の建築家やデザイナーなどによるホテルや施設の建設)がいくつも完成し、そこに行って、よいものに触れることで、改めて知的好奇心をくすぐられ、「やはり、日本に行って、もっといろいろなものを見聞きしたい」という願望が強くなっているのではないかと思う。

それを痛感したのは、昨年8月、上海市内の数カ所で行われた「夏祭り」の様子を上海の友人から聞いたときだった。

■綿あめやヨーヨーも登場する「日本風の夏祭り」

上海の虹橋地区というエリアはもともと日本人駐在員などが多く住んでいるところで、日本とのつながりも深いのだが、そのエリアにあるショッピングセンターで、「夏日祭」という夏祭りが開催されたのだ。

調べてみたところ、その夏祭りは数年前から行われているということだったが、露店で販売している綿あめやヨーヨー、お面などや、盆踊りなどの演出の質は年々高まっており、上海在住の日本人の友人によれば「どんどん本物の日本に近づいている感じ」という話だった。東京にいる私も動画や写真でその様子を見たが、そこで見る限りでは「これはまるで日本じゃないか」と思ったものだった。

ピンクの綿あめ
写真=iStock.com/Maica
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Maica

もちろん、日本人の目で細部までよく見れば、日本の夏祭りとは少し違っていて、違和感があるのだが、それでも、かなりいい線までいっている。

小売店で、単に日本の商品が販売されているというだけならいざ知らず、「夏祭り」のような、日本でしか行われていないイベントまで上海で行われていて、そこにわざわざ、ちゃんとした浴衣を着て遊びに行く中国の若者が大勢いることに私は驚かされた。

■日本文化への敬意が「ロス」を引き起こしている

上海に住む友人にその話をすると、友人は私にこういった。

「ここ数年、日本の観光地だけでなく、日本各地の路地裏とか、小さなカフェなど、いろいろなところに行った経験のある中国人が急増したんです。節分の豆まきや雛祭りといった、日本の伝統文化や習慣にも深い関心を持ち、リスペクトの気持ちも抱くようになった。ネットの力も大きいですよね。ネットで日本に関する情報をほとんど入手できるので」
「それに、中国人自身の生活の質が向上して、日本のものをそのまま受け入れたり、共感できたりするくらいの高いレベルになってきています。その段階まできて、本格的な夏祭りなども開催できるようになりましたが、それでも、やはり本場とは違う。だからまた、自分の足で日本に行って、もっといろいろな経験をしたり、吸収したりしたいと思っているのです」

私は、これこそが、彼らが「日本に行きたい願望」の第2の理由であり、疑似体験であっても「日本ロス」を埋めて、精神的な充足感を得たいという彼らの本音ではないかと強く納得した。

■「なんちゃって日本」ではもう満足できない

ちょうど昨年の秋、広東省仏山市や蘇州などで「ニセ日本街」が出現したことを記憶している読者もいるだろう。東京・新宿の歌舞伎町を模したストリートや、変な日本語の怪しい看板が並ぶエリアで、若者たちが写真を撮りまくっていたところが日本でも報道されたが、すぐに著作権の問題が発生して、一部は撤去された。

中国には14億人もの人々が住んでおり、今もまだ、そうした「なんちゃって日本」的なものがときどき出現しては、消えていく。そして、著作権が何かも分からずに喜ぶ人々がまだ大勢いることは事実だが、その一方で、上海や北京などでは成熟した「日本ファン」が着々と育ち、日本人が想像する以上に、日本行きを心の底から望んでいる。私はこの1年で、そのことを痛感させられた。

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中島 恵(なかじま・けい)
フリージャーナリスト
山梨県生まれ。主に中国、東アジアの社会事情、経済事情などを雑誌・ネット等に執筆。著書は『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日経プレミアシリーズ)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか』(中央公論新社)、『中国人は見ている。』『日本の「中国人」社会』(ともに、日経プレミアシリーズ)など多数。新著に『中国人のお金の使い道 彼らはどれほどお金持ちになったのか』(PHP新書)がある。

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(フリージャーナリスト 中島 恵)

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