奇跡の中学入試「まさかの不合格2連続」直後に「まさかの難関校合格」に導いた塾講師の"ある緊急対策"
プレジデントオンライン / 2021年3月13日 9時15分
■「まさかの不合格」直後に「まさかの難関校合格」果たした実例
2021年度の中学入試が終了した。
コロナ禍でおこなわれたにもかかわらず、首都圏の中学入試は受験者数が前年とほぼ同じとなるなど、激戦の様相を呈した。一般的に、中学入試で第一志望校の合格を射止めることができる子は、3人に1人、もしくは4人に1人と言われる。
国語・算数・理科・社会のペーパーテストの結果で合否が決まることが多い中学入試は、事前に受験していた模擬試験の点数や合格判定でその結果が占いやすい。
しかし、長年中学受験指導現場に携わっていると、事前の予想を良くも悪くも覆す「まさかの合格」「まさかの不合格」を経験することもある。今回は、わたしの塾に通っていたひとりの男の子の身に起こった「まさかの不合格」「まさかの合格」を紹介しよう。
■「ウチの子が落ちたのは、塾の先生のせいです」電話ガチャ切りの母
何年も前、東京都在住のAくんという中学受験生の話である。
彼は2月1日からの都内私立中学校の入試に備えて、ひと足早く、1月から本番が始まる埼玉県と千葉県にある私立中学校の入試を受けた。1校目の埼玉県の中学は、彼の「持ち偏差値」より3ポイント下で「合格率80%」の判定が出るいわゆる「安全校」だ。
塾サイドとしてはよっぽどのことがなければ合格するだろうと踏んだものの、結果はまさかの「不合格」。その不合格の報をAくんの母親から電話で受けた講師によると、その母親は興奮気味にこう言い放ち、電話をガチャ切りしたらしい。
「もうウチの子の入試の応援に来ないでもらっていいですか? ウチの子、塾の先生が校門の前にいるだけで緊張しちゃうみたい。だから、落ちたんじゃないですか」
今年度はコロナ禍の影響で塾講師たちが自塾の生徒たちが受験する入試当日に校門前で激励する、いわゆる「入試応援」はなくなったが、例年行われている恒例行事だった。
件のAくんは「人生初の受験」だったが、親も子供を初めて試験会場に送り出す経験をしたわけだ。いきなりの不合格にうろたえる心情は理解できる。申し訳ない思いも抱いたが、不合格の原因が校門まで足を運んだ塾講師にあると決めつけるその「混乱ぶり」が気にかかった。
■「試験本番で頭が真っ白になって何も考えられなくなちゃって…」
塾の代表を務めるわたしはAくんに不合格だった「入試」の復元答案を作成してもらい、採点に取りかかった。そして、愕然とした。設問の条件の読み誤りなど、信じられないミスを数多く犯していたのである。
Aくんはポツリと言った。
「試験始まったら、頭が真っ白になって何も考えられなくなっちゃって……」
この埼玉県の私立中の不合格を受けて、Aくんの母親に千葉県の私立中学校の出願をお願いした。今度は彼の持ち偏差値より10ポイント下で「合格率80%」が出る学校である。これなら安心だろう……。しかし、またもや不合格。
さすがにこれは、おかしい。再びAくんを面談したところ、試験当日の驚くべき母親の言動が分かった。Aくんによると、入試会場に向かう中、母親から罵声を浴びせ続けられていたとのこと。電車で向かう途中に車内で彼が参考書を広げていると、それを母親は取り上げて問題を出題し、彼が返答に詰まると「なんであなたはこんなのも分からないのよ!」「こんなんじゃ受かるわけがないでしょ!」と怒鳴られたそうだ。
普段はあまり声を荒らげることのない母親なのに、年が明けたころからその言動がおかしくなった、とAくんは告白した。母親は中学入試本番が近づくにつれ、「落ちるのではないか」という不安感に完全に支配されてしまったのだ。そして、Aくんはその母親に追い詰められた結果、おびえながら入試本番に臨むことになった……。これでは普段の実力を発揮できないのは当然である。
■「お母さんは入試に行かないでください」
合格ほぼ確実なはずの「安全校」を立て続けに不合格となった1月下旬、わたしはAくんの母親と直接面談をした。イチかバチか、率直にこちらの考えをぶつけることにした。
「Aくんが不合格を続けているのは、応援にいった講師のせいではないのではないでしょうか。残念ながら、入試本番間際まで彼に罵声を浴びせた親御さんの影響が大きいと思わざるをえません」
母親は最初、「えっ」と意外な顔をしたが、どこか心当たりがあったのか、その後、うなだれた。話を聞くと、試験当日にAくんの顔を見るだけで、不安な思いがどんどん膨らんで、キツイことばが口を衝いてつい出てしまったというのだ。このように普段は温厚な母親が受験直前の異様な緊張感の中で、豹変してしまうことは、「あるある」である。
わたしは、その場でこう提案した。
「2月1日の第一志望校ですが、ご自宅からすぐの場所ですよね。入試はAくんひとりで行かせてください。校門前でわたしたちが彼の気持ちを落ち着かせます。だまされたと思って、ここはわたしに従ってもらえないでしょうか」
母親はうなずいた。
Aくんの第1志望校は彼の持ち偏差値より4ポイント上のところにある「挑戦校」だ。試験当日、彼は約束通り、入試会場にひとりでやってきて、講師から励ましを受け、笑顔で試験会場へと入っていた。そして……見事に合格を果たしたのだ。
精神的にも身体的にも未熟な小学6年生の場合、ちょっとした体調や気持ちの不良、そして親のサポート態勢などによって、試験のパフォーマンスがまったく異なることがしばしば起こるのだ。
■保護者が平静をふるまう姿勢がわが子の合格を手繰り寄せる
わたしはこの2月に『令和の中学受験 保護者のための参考書』(講談社+α新書)を上梓した。ここでその中から一部抜粋したい。
〈中学受験期にわが子がポジティブな姿勢で中学入試本番に向けての総仕上げにしっかり取り組めるか否か……これは保護者のわが子への接し方が鍵を握るのですね。
保護者がわが子の中学受験に対して「のめりこんでしまう」「不安を膨らませてしまう」とスランプに陥ったり、入試を目前に余裕を失してしまったりした子が「逃げ場」をなくして行き詰まってしまう(やる気を失くしてしまう)ことがあるのです。
中学受験期であっても、いや、中学受験期だからこそ、保護者は自身の不安をひた隠しにして、子の前では泰然自若とした姿勢を貫くことが肝要です。親の「演技力」がそこでは求められています。保護者が常に「平常心」を保っているように「ふるまう」姿勢がわが子の合格を手繰り寄せることにつながるのですね(第4章「中学受験期の親子関係」より)〉
本書では、中学受験期に生じる親子のトラブルやその解決策を具体的に紹介している。機会があれば、ぜひ手に取ってほしい。
親の負の感情が子に伝播するのは、入試本番に限った話ではない。受験対策で塾に通い始めてからの日々の生活でも同じことが言える。わが子の中学受験にかかわる中で、子が勉学に意欲的に取り組めるように親の務めを果たす。これは、本当に難しいことだが、笑顔を絶やさない俳優の役柄を貫き通し、わが子を温かく見守り続けることが、親自身の大願を成就させることにもなるのだ。
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中学受験専門塾スタジオキャンパス代表
1973年生まれ。大手進学塾で十数年勤めた後にスタジオキャンパスを設立。東京・自由が丘と三田に校舎を展開。学童保育施設ABI-STAの特別顧問も務める。主な著書に『中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)、『13歳からのことば事典』(メイツ出版)、『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(文春新書)、『LINEで子どもがバカになる「日本語」大崩壊』(講談社+α新書)、『旧名門校vs.新名門校』』(SB新書)など。
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(中学受験専門塾スタジオキャンパス代表 矢野 耕平)
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