「毎月20万円を70歳まで」無理してタワマンを買った年収700万円夫婦の末路
プレジデントオンライン / 2021年3月26日 9時15分
※この連載「高山一恵のお金の細道」では、高山氏のもとに寄せられた相談内容をもとに、お金との付き合い方をレクチャーしていきます。相談者のプライバシーに考慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください。
■7000万タワマンを35年ローンで購入
夫 会社員 年収700万円
妻 パート 月収3~5万円
子 3歳 幼稚園
住まい 分譲マンション(住宅ローン20万円 ※管理費・修繕積立金込)
住まいについて、「分譲or賃貸」はいつも激しい論争になります。コストだけで言えば、生涯にわたって支払う住居費用はどちらもそう変わりません。買ったら買ったでメンテナンスや管理費にお金がかかりますし、そもそも人生100年時代の今、寿命によってどちらが得かは大きく変わってきます。
ただし、「どちらでもいい」と言われて納得される方は少数でしょう。実際のケースをみてみると、イメージしやすいと思います。今回は「ローンで詰んだ」小林寿一さん(仮名/36歳)の例を入り口に考えてみましょう。
小林さん夫婦が私のもとにやってきたのは、都内のタワーマンションに暮らしはじめて1年ほど経った頃でした。レクリエーションルームやライブラリー、宿泊施設も整った高級マンションは、彼らにとって手に入れたくて仕方のない物件だったそうです。夢のタワマンを、小林さん一家は7000万円で手に入れました。両親から援助してもらった1000万円を頭金に、残り6000万円を35年ローンで借りたのです。
ローンは変動金利と固定金利を組み合わせたかたちで、ならすと金利は約1%。すると毎月の返済額は約17万円になります。そこへ管理費2.5万円が加わり、毎月約20万円が住居費に消えるようになりました。小林さんの年収は700万円で、毎月の手取りは約45万円。支出の半分近くがローンということになります。妻はパート勤務で月収は3~5万円程度。そのお金はほぼお小遣いとして消えていました。
■ローンで借りられる金額と返せる金額は違う
毎月20万円の住居費を70歳まで払い続ける……。ずばり、小林さんのローン計画はファイナンシャル・プランナーの目から見て非常に、ナンセンスです。
はじめて家を借りるとき、「収入の1/3くらい」の家賃で家を探しませんでしたか。ローンを組んで家を買うときにも同じようなことが言えます。これを「返済負担率」といって、年収に対して年間で返すローン金額を「25%以内」に収めると堅実とされています。
年収700万円の小林さんに上記のローンの条件を当てはめると、ローンとして借りられる金額は5000万円程度。毎月の返済額は、約14万円となります。ただし、気をつけたいのが、返済負担率は、税込の年収で計算していることです。実際のローン返済は、毎月の手取り収入から返します。そうすると、小林さんの場合、毎月の手取り収入が45万円ですから、14万円のローンでも毎月の収入に対するローンの負担割合は30%を超えてしまいます。しかも管理費・修繕積立金を考慮するともっと割合が増えてしまいます。毎月20万円のローン返済に対して、私がナンセンスと一刀両断した理由もおわかりいただけるかと思います。
■「一生に一回だし!」というマジックワード
そもそも銀行が貸さなければローンは組めません。こんな詰んだ貸付けをする銀行に「ちょっとさぁ…」と小言の一つも言いたくなります。不動産屋も必死ですから、家族がキッチンに立つと「お似合いですねえ」なんて褒めそやし、そこに住めば夢の暮らしが手に入ると思わせる。そうして買いたい気持ちが高まってしまうと、多少の無理があっても自分を納得させるような材料をいろいろと集めてきて、最後は「なんとかなるっしょ!」と、ノリでいってしまう。このあたりは結婚式の散財の仕方とよく似ていて、マジックワードは「一生に一回だし!」です。
でも、結婚だって今は何度もする人が多いですよね(私も2回しています)。本当に「一生に一度」の買い物かどうかは、冒頭にお話しした人生100年時代にも絡んできます。
家族の増減、転職、介護や病気など、長く生きればその分ライフスタイルだって変化するでしょう。コロナのような価値観をガラリと変えるような出来事だってあるかもしれません。また前回の柴田さんのような大手企業に勤めている人も一生安泰ではなく、給料が上がり続ける保証はどこにもありません。
これまで「絶対」と思われていたことが希薄になっている時代に、「一生に一度のマイホーム」という考え方もリセットする必要があるのかなと思います。
■「引っ越す前提」で600万円の家を購入した夫婦
そんな中で感銘を受けたのが、32歳の村中さん(仮名)ご夫婦のお話です。
共働きで世帯年収500万円。1歳のお子さんがいて、子どもはもう一人欲しいと考えていたけど、それまで住んでいた23区内の賃貸マンションではあまりに手狭な上、家賃も高い。そこで村中さん夫妻は自然が多く、子どもたちがのびのびと暮らせる環境を求め、横浜駅から数駅先の中古一軒家を購入します。
この物件、駅近ながら築50年のぼろぼろの家だったため、購入金額は600万円と破格の値段だったそう。これを自分たちの手で少しずつリノベーションし、リノベーション費用も加えると1000万円だったそうです。ローンも月4万円まで抑えているとのことでした。
しかし村中さんご夫婦は、「自分たちはこの家に一生住むと思っていない」ときっぱり。子どもが小さいと家をめちゃくちゃにされるから、高い家を買ってももったいない。だったら子どもたちが大きくなるまでは皆がのびのび住める家や自然のある環境を重視して、住居費を抑える。その分浮いたお金は貯金し、家族の成長やライフスタイルに合わせて家を買ったり借りたりしたい、と話してくれました。
■「売れる」「貸せる」視点も必要
変化を嫌うどころか、自ら変化し続けるスタンスをとる――。村中さん夫妻のケースを自分に置きかえて考えてみると、一度買った我が家を売り、また別の場所に家族総出で引っ越す……どうしても腰が重くなりがちなところを、彼らはまったく厭わない。「幸せに生きるために変化し続けるのは当たり前じゃない?」という軽やかさに、目から鱗が落ちる思いでした。
変化の激しい“風の時代”の住居選びでは、マイホームを建てたり分譲マンションを買ったりしても、村中さんのようにフレキシブルに移動する心構えを持っておくことが、大きなヒントになりそうです。
また結婚のたとえで恐縮ですが、20代のときに「結婚したい」と思った人と、30代、40代で惹かれる人はだいぶ違うと思うんです。同じように住まいも、20代のときに思い描いていた理想の間取りと、50代のときに心地よく感じる間取りはまったく異なるのではないでしょうか。
そういった意味で今後の住宅購入は、「売れる」「貸せる」といった視点を持つことも必要かもしれません。小林さんの場合、ローンの組み方には問題ありですが、資産価値の高いタワマンは売れる可能性が高いので、移動は案外、簡単かもしれません。
ただその一方で、「自分の家は資産価値が高い」という思い込みにも注意が必要です。一時期、スカイツリービューが手に入るということで墨田区周辺の不動産価値が高騰しました。こういった家の場合、完成当初の人気が落ち着けば実力相応の価格に戻るため、高値で売ることは難しくなることがあります。
■ローンを組む前に第三者に見てもらうといい
小林さんほど「詰んだ」ローンを組む人は稀ですが、マイホームの購入を考えている方は一度、関係者以外のファイナンシャル・プランナー(FP)に相談されることをおすすめします。FPのいいところは、さまざまな事例を持っていること。同じくらいの年収で家を買ったAさんの場合、Bさんの場合……という風に、類似例をサンプルとしてお話ししながら、無理のないローンの組み方をお伝えできると思います。
そして、夢の住まいを手に入れたのに、お小遣いは2.5万円と大幅減になってしまった小林さん。老後資金を貯める余裕などもちろんなく、食費もレジャー費もあらゆる費目を小さく小さく、ミニマムにせざるを得ない状況のため、不満が溜まっていると言います。ただ、今のタワマンを維持しながら、お子さんの教育にも今後お金を使いたいという希望もあったので、私からはまず、妻のフルタイムでの職場復帰をおすすめしました。それが難しければ、家の買い替えをして生活ランクを下げることになりそうです。
繰り返しになってしまいますが、マイホームのご購入時は、ローンを組む“前”にFPに相談していただけたらと思います。購入してしまった後でできるご相談は、削れるところのチェックと、努力で増やせることをお伝えしてモチベーションを上げることくらいになってしまいます。
----------
Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士
慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演・執筆活動・相談業務を行い女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。著書は『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂出版)、『やってみたらこんなにおトク! 税制優遇のおいしいいただき方』(きんざい)など多数。FP Cafe運営者。
----------
(Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士 高山 一恵 聞き手・構成=小泉なつみ)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
もっと早く買っておけば…年収1,100万円・大手食品メーカー会社員、パート妻に泣きつかれ49歳で渋々マイホーム購入も、80歳で後悔する「戦慄の住宅ローン返済額」【FPが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月19日 10時45分
-
56歳パート、貯金130万円。高1の長男が大学進学を希望していますが、貯金できません
オールアバウト / 2024年11月15日 22時20分
-
住宅ローンで「元利均等返済」を選ぶと大損する…FPが断言「中古マンション購入でやってはいけないこと」
プレジデントオンライン / 2024年11月14日 15時15分
-
収入減、出産育児で出費増…年収ギリギリで組んだ住宅ローンの返済が苦しくなり始めたら 売却しようにも戸建てはなかなか売れない!?
まいどなニュース / 2024年11月8日 18時0分
-
子どもが生まれたばかりで妻は無職。世帯年収「400万円」のわが家が家を買うにはどうすればよいでしょうか?
ファイナンシャルフィールド / 2024年10月26日 4時20分
ランキング
-
1【独自】所得減税、富裕層の適用制限案 「103万円の壁」引き上げで
共同通信 / 2024年11月23日 18時57分
-
2昨年上回る規模の経済対策、石破色は一体どこに?【播摩卓士の経済コラム】
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年11月23日 14時0分
-
3副業を探す人が知らない「看板広告」意外な儲け方 病院の看板広告をやけにみかける納得の理由
東洋経済オンライン / 2024年11月23日 19時0分
-
4《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン / 2024年11月23日 16時15分
-
5農協へコネ入社の元プー太郎が高知山奥「道の駅」で年商5億…地元へのふるさと納税額を600万→8億にできた訳
プレジデントオンライン / 2024年11月23日 10時15分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください