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日本で早くも飽きられたClubhouseが、米国では根強く残ると言い切れる理由

プレジデントオンライン / 2021年3月16日 11時15分

テキサス州災害支援のチャリティーコンサート(クラブハウスのアイコン・Boanmiも参加している)=筆者提供

2021年初頭からユーザーが急増している音声SNS「クラブハウス(Clubhouse)」。日本では芸能人のクラブハウス離れが話題になったが、アメリカではすでに主要SNSの一角になりつつあるという。その理由を、NY在住ジャーナリストのシェリーめぐみさんが解説する――。

■ミシェル・オバマやビル・ゲイツなどのセレブが参入

ある部屋ではネットフリックスの創始者などを囲んで、ビジネスアイデアのプレゼンが行われている。別の部屋ではビットコインなど暗号通貨の運用アドバイス。アジア系アメリカ人のハッピーアワー(飲み会)が開かれたと思えば、次の部屋ではテキサスの災害支援のためのチャリティコンサートが、インディーズアーティストを集めて進行中だ。

まるで巨大コンベンションのパネルディスカッションルームのようだが、これらのトークは同時に行われ、ミシェル・オバマやビル・ゲイツ、ジョン・メイヤー、スティーブ・アオキ、リンジー・ローハンなどのセレブがいきなり部屋に現れ、おしゃべりを始めるサプライズもたびたび発生する。

これが今、アメリカのクラブハウスで起きている出来事だ。廊下(ホールウェイ)と呼ばれるメインページには、インフルエンサー、インベスター、マーケティングのプロ、ジャーナリスト、スポーツファンなどあらゆるタイプの人々が右往左往しているが、時々思いもよらない名前が突然出現するのはアメリカならではと言える。

テスラCEOのイーロン・マスクと株運用アプリ・ロビンフッドCEOブラッド・テネブのトークが突然始まったのは1月下旬のことだ。ちょうどゲームストップ社の株が乱高下した問題でロビンフッドが対応に追われている真っ最中だったこともあり、6000人の収容キャパはあっという間にオーバーし、サイトがクラッシュしたことがニュースになった。

これがアメリカの一般人にクラブハウスが知れわたった瞬間だった。

■「ライオン・キング」の音声上演が大きな話題に

iPhoneアプリのみ、そして完全招待制というFOMO(Fear of Missing Out=人より遅れるという恐れ)心理をくすぐるシステムで、オークションサイトに招待枠が売り出されるほどの熱狂を呼んだのは日本も同じだろう。クラブハウスがスタートしたのは2020年始め、創始者のポール・デイビソンによればポッドキャストのアプリに、リスナーが参加できる機能を加えてみようという意図があったという。

それが徐々に一般人にも注目されるようになった理由は、前述したセレブリティーの参入と、エンタメ性が加わり始めたことだ。

中でもクリエイティブな使い方として話題を集めたのは、ミュージカル「ライオン・キング」と「ドリームガールズ」の音声上演だった。どちらもアフリカンアメリカンのクリエイターが、なかなか業界に参入できない若い才能を育てるために始め、出演者やスタッフのオーディションにクラブハウスを活用。ライオン・キングは昨年12月、ドリームガールズは2月にライブ上演され、大きな話題になった。

■アメリカでは廃れないと断言できる

これに伴い、2020年5月には数千人だったユーザーが、1月の1カ月間で400万ダウンロードと激増、1000万人を超えすでに評価額10億ドル(約1055億円)を超えるユニコーン・スタートアップ企業の仲間入りを果たした。コメディアンやベンチャーキャピタリストなどで300万フォロワー超えの“Clubhouseスター”も出ている。

クラブハウスが短期間でここまで大きくなった最大の理由は間違いなくパンデミックだ。外で人に会えず、すでに“ズーム疲れ”も始まっていたところに、音声だけのクラブハウスはもっと気軽にリラックスして会話が楽しめ、さらに思わぬ人にも出会えるという機能で、自粛疲れのアメリカ人にとってはまさに新鮮なツールだった。

ではもしパンデミックが終わったらクラブハウスも廃れてしまうのだろうか? そうはないと断言できる理由がある。なぜならアメリカ人は、日本とは比較にならないほどオーディオコンテンツが好きな国民だからだ。

■広大な国土に情報を届けるラジオは1万5000局も

ラジオ→ポッドキャスト→クラブハウスというトレンドが生まれたアメリカには、もともとオーディオコンテンツの文化的な土壌がある。1920年代に誕生したラジオ局は現在全米にFM、AM、気象情報を含め約1万5000局存在する。ニューヨーク州内だけでも600局は下らないと言われている。

マイク
写真=iStock.com/Miljan Živković
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Miljan Živković

なぜこんなに多いのか? まず国土が桁外れに広い、人里離れたところに住む人にも平等にメディアを提供するために、そして多人種多民族の多様性をカバーするために、ニュースを始め、音楽はカントリーからR&Bまで幅広く、言語も韓国語やロシア語などあらゆるタイプのラジオ局が誕生し、マイカーブームに乗ってさらに発展していった。

日本のラジオは1局でニュースからトーク、音楽までをカバーしていて、それに慣れている皆さんには想像がつかないかもしれないが、アメリカにとっては無数のラジオ番組こそが多様性と民主主義を象徴するメディアだと言っていいだろう。

インターネットが普及してからは全盛期ほどのパワーはなくなったが、ネットへの移行が早かったのと車社会ということもあって、ラジオは静かに生き延びているだけでなく、音声メディアへの国民的な愛着につながっている。

■リスナーが直接喋るアメリカのラジオ文化

ラジオが繁栄したもう一つの理由は、アメリカ人がなんといっても喋るのが大好きで、子供の頃からの教育もあって人前で喋るのが得意な国民性であることだ。

アメリカのラジオの特色は、ただ聞き流すだけでなく常に視聴者が参加できる点にある。例えばトークラジオは、パーソナリティーが1人でトークするものではない。リスナーが電話でコールイン(参加)してきて、自分の主張を喋りまくりパーソナリティーと議論する。

それがミュージックラジオだとリクエストになるが、日本のようにハガキやメールでリクエストする習慣は生まれなかった。リスナーがラジオ局に電話し、それも「愛する○○ちゃんに捧げます。アイラブユー」のようなメッセージを、曲をかけている間にDJが自分で録音・編集してオンエアする。

このリクエストスタイルは、インターネットの時代になり音楽メディアがパンドラやスポティファイが主流になってからは廃れたが、トークラジオは年配リスナーを中心にしっかりと影響力を残している。特に保守系の政治トークラジオの影響力は無視できない。トランプ前大統領は、トークラジオがなければ大統領になれなかっただろうとまで言う人がいるほどだ。

■地方の年配保守層を中心に支持されている

トランプ大統領誕生の立役者は、伝説の保守トークラジオ・ホストのラッシュ・リンボーだ。先日がんで亡くなったが、機関銃のような過激なトークスタイルで、半世紀にわたり保守政治を支持し続けてきた象徴的存在で、リベラル寄りのマスメディアに楔を打ち込み、保守ケーブルテレビのフォックスニュースを始め多くのメディアや番組にも大きな影響を与えた。トランプ氏が出馬し、多くのマスメディアが彼を泡沫候補扱いしていた間もリンボーが先頭に立ち、保守系トークラジオが年配リスナーを中心にコアサポーターを生み出していった。

ドナルド・トランプ
写真=iStock.com/olya_steckel
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/olya_steckel

スピーディーに、しかも気軽に議論を交わすことができる音声メディアとしてのラジオは、ソーシャルメディアの時代になっても地方の年配保守層を中心に支持され続けている。

■若者世代にヒットしたポッドキャスト

一方、こうした地方の保守層とはライフスタイルが違う都市のミニレアル世代にリーチしたいラジオ各局が注目したのが、ポッドキャストだった。

2000年代に生まれたポッドキャストは新しいものではないが、アメリカでは、長いこと素人が作るオーディオ番組というイメージから抜け出すことができなかった。しかし発信したい若者たちが、ラジオ以上に多様でニッチな番組を手作りし、個人ブログのオーディオ版のような形で定着したのである。

それを、ラジオ局のプロたちがすでにある人気番組をそのままポッドキャストに移行したり、そのノウハウを使って犯罪ドキュメンタリーなどの新たなヒットプログラムを開発したりすると、ニッチなヒット番組が次々と生まれた。スマホや、アメリカでは多くの家庭に普及しているスマートスピーカーで好きな時間に好きな番組を聞ける利点がミレニアル世代を中心に受け、2010年代末に突然ブレイクした。

またパンデミックや大統領選などを通じて社会的意識が高まった若者の間で、ニュースメディアとしても注目されるようになっている。3年間でユーザーは4割増加、2019年にスポティファイがポッドキャストへ本格参入したことも大きな話題を呼び、2020年にはアメリカ人の55%が1回は聞いたと答えるまでになっている。

■良質な番組と素人参入の土壌が出来ていた

こうなると広告業界も黙ってはいられない。ポッドキャストへの広告出稿は年々急伸し、去年はパンデミックで伸び率が鈍ったものの、今年は10億ドルを超え3年前の3倍近くなると予測されている。

ネットのオーディオ広告は、どぎつい映像広告とは違い、耳にすんなり入って受容されやすいし、スキップされることも少ない。映像より制作費が安くスピーディーに作れるメリットもあり、費用対効果が高いものとして評価されている。

クラブハウスがブレイクする直前のアメリカは、日本とは違いポッドキャスト花盛りの環境が生まれていた。プロによるコンテンツ価値の高い番組作りと、喋りたい素人がポッドキャストを次々に世に送り出す土壌が出来上がっていたのである。

■なぜ、文字よりも声を重視するのか

以上のように、アメリカのオーディオ文化は、アメリカが元々持つ無限の多様性と、無類のおしゃべり好きによって定着拡大したといっていいだろう。一方で、ツイッターに代表される文字投稿よりも音声コンテンツを選ぶのはなぜなのか。

まず、アメリカ人には日本人のような以心伝心の感覚がない。言葉で伝えなければ気持ちは伝わらない。それも面と向かって目を見て話すのが基本だ。

学校でも日本の授業では先生が名指しするまで生徒は黙っているが、アメリカのクラスは先生が喋り始めた瞬間に手を挙げて質問する子がたくさんいる。また小学校から“show and tell”という、クラス全員の前で課題発表する授業があり、そこでスピーチ力が鍛えられる。

社会に出てからも控えめな方がいいと思って黙っていると、意見がない、自分の意思がない人とネガティブな解釈をされてしまう。アメリカ人にとって声でのコミュニケーションは何ものにも代えがたい重要なものなのだ。

■アメリカの音声メディアは、ヒットコンテンツの生みの親

クラブハウスがソーシャルメディアに音声を加えただけのコンテンツだという捉え方をするなら、率直に言って今後は新鮮さが失われ、パンデミックが終わった段階で廃れてしまうだろう。

また、音声コミュニケーションはすでに主要ソーシャルメディアも取り入れており、Twitterは音声チャットルームの「Spaces」を、Facebookも「Live Rooms」というライブオーディオの要素を加えたし、Instagramは4人でできるライブ配信システムを導入しようとしている。

それでも筆者は、クラブハウスは生き残ると考えている。それは、アメリカにとって音声メディアは、ヒットコンテンツの生みの親になりえるからだ。

例えば、ネットフリックスのシリーズ「SONG EXPLODER」は、ジャーナリストがアーティストの作曲のプロセスをインタビューにまとめたポッドキャストが原作となっている。また、アマゾンプライムのドラマ「モダン・ラブ」も、元はニューヨーク・タイムス紙のポッドキャストから生まれた作品で、それがドラマ化されヒットした。

他にもポッドキャスト発のストリーミング番組は数多く、この手法はマスメディアから大きく注目されている。日本のヒット作(特にストーリー)のソースがマンガであることも多いように、アメリカの重要なソースの1つは音声メディアと言ってもいいかもしれない。

つまりクラブハウスが主要メディアとして化けるためには、ポッドキャストと同じようにコンテンツメーカーのような、よりクリエイティブを追求する存在になることだ。

■招待制の変更、ヘイトスピーチの規制…課題は山積み

実際に、アメリカのクラブハウスでは「オーディオ・コレクティブ」という部屋が誕生した。ここでは面白いオーディオ・コンテンツ・クリエーターを集めて育成したり、スポンサー企業とのマッチングなども行ったりするという。

アプリ
写真=iStock.com/Wachiwit
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wachiwit

チケットを販売してのイベント開催も視野に入れているようだが、これはおそらくライオン・キングのようなミュージカル上演などのエンタメ・コンテンツを考えているのだろう。クラブハウス上にセレブがそろうエキサイティングなイベントも、音声だけなら低コストかつスピーディーな開催が可能だ。

サブスクによる課金などを実験的に行いたいと表明しているのも、プロフェッショナルで魅力的なコンテンツがあってこそ成立すると言っていい。ここで気になるのは、スポティファイがライブのポッドキャスト機能を開発すると発表したことで、このあたりが最大の競合になってきそうな気配だ。

もちろん、これ以上ユーザーを増やすためには、招待制の見直しやAndroid版での使用を可能にする必要がある。一方でセキュリティーの問題やヘイトスピーチなど、言論の自由を巡るソーシャルメディアならではの問題もすでに発生している。

TikTokのような優れたアルゴリズムも必要になり、課題は山積みだが、それでもクラブハウスの未来が期待されるのは、やはり音声メディアに魅力を感じるアメリカというお国柄があるのは間違いない。

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シェリー めぐみ(しぇりー・めぐみ)
ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家
早稲田大学政治経済学部卒業後、1991年からニューヨーク在住。ラジオ・テレビディレクター、ライターとして米国の社会・文化を日本に伝える一方、イベントなどを通して日本のポップカルチャーを米国に伝える活動を行う。長い米国生活で培った人脈や米国社会に関する豊富な知識と深い知見を生かし、ミレニアル世代、移民、人種、音楽などをテーマに、政治や社会情勢を読み解きトレンドの背景とその先を見せる、一歩踏み込んだ情報をラジオ・ネット・紙媒体などを通じて発信している。オフィシャルブログ

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(ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家 シェリー めぐみ)

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