「日本の将来が心配」と思う人にこそ知ってほしい株式投資の鉄則
プレジデントオンライン / 2021年3月18日 9時15分
■私の米国株投資の最大の過ちとは
私はかれこれ30年以上米国株を含む外国株の投資を行ってきました。その中で一番の失敗は、買った株を売ってしまったことです。なぜなら米国株は史上最高値を更新してきた訳ですから。私が社会人になった1987年の4月1日のS&P500は292ポイント、ほぼ33年たった今年の2月16日には3950ポイントで史上最高値を更新しています。13.5倍の上昇率です。
そんな私がいまだに後悔している具体例についてお話します。
米国では長期に亘り増配を続けてきた企業が多くあります。その中でも25年以上増配を継続している銘柄は配当貴族と呼ばれており注目を得ています。タバコ会社のアルトリアもその一つです。同社は元々フィリップ・モリスという社名だったのですが、2008年に米国外の事業をフィリップ・モリスとしてスピンオフさせ、米国のたばこ事業部門をアルトリアと社名変更し上場しています。
私は1992年当時フリップ・モリスの株を買って、1割以上のリターンをあげて売却したことをよく覚えています。私の後悔はその時10%のリターンで売却してしまったことです。1992年末のフィリップ・モリスの株価は5ドル95セントで(株式分割、他事業スピンオフ調整後)、約29年たった今年の2月末の株価は43ドル60セントです。株価の上昇率は7.3倍ですが、私はこのことを後悔しているのではありません。もっと大事なことがあります。
■もし配当金を再投資していればトータルのリターンは約31倍に
1992年のフィリップ・モリスの一株当たりの年間の配当金は74セントだったのですが、同社はその後増配を続け、その結果、直近の年間配当金は3ドル44セントとなっています。つまり、今同社株を保有していたとすると1992年末の株価である5ドル95セントに対し、現在の配当利回りはなんと57.8%となるのです。もっと分かりやすく説明しますと、1992年末にフィリップ・モリスに100万円を投資し、いまだ同社株を保有していたとすると、配当金は雪だるまのように増え、今年は1年間で57.8万円を受け取っていることになるのです。
この時点で、これに勝る投資商品を探すのは簡単でないでしょう。債券のように確定しているクーポンではないものの、「配当貴族銘柄」の一つという安心感はあります。しかも、同社は今後も増配を続ける可能性が高いため、来年は57.8万円以上の配当金を受け取れる可能性があるのです。もし、この様なお宝銘柄を持っていたとすれば、売るような愚かなことはできませんよね。
この話には補足があります。もしもの話ですが、フィリップ・モリスが支払う配当金を使わずに、毎回そのまま同社株に再投資をしていたとすれば、今までのトータルのリターンは約31倍になっているのです。
この計算には配当にかかる税金や取引にかかる手数料を考慮に入れていませんので、実際にこの通りにさせるのは現実的ではありません。しかし、長期投資において、支払われた配当金を再投資することにより得られる複利のパワーのすごさを理解していただけると思います。これは短期的なキャピタルゲイン狙いのトレードではありえない、米国株長期投資の果実となります。
■長期投資を成功させるためには
長期投資との闘いは、短期投資、つまり、短期トレードの誘惑との闘いです。先ほどの私の話のように、買った銘柄が、例えば短期的に1割上がるとついつい売りたい衝動に駆られてしまいます。目の前の10%の利益は魅力的に見えます。特に今のように銀行に貯金をしても金利がほとんど付かない時代においては、この10%は大変魅力的です。では、次に投資をした場合、同じようにうまくいくのでしょうか? 結論から申し上げますと、短期売買でコンスタントに利益を上げるのは至難の業だと思います。
私は2月27日にツイッターで、「短期売買と長期投資のどちらが利益を上げていますか」というアンケートを行ってみました。
約17%の方が短期売買と答えたのに対し、約83%の方が長期投資と答えました。多くの投資家は長期投資が成功の秘訣(ひけつ)であると経験している訳です。
ただし、短期トレードがうまくいく局面もあります。市場の大暴落時のリバウンド狙いです。そういった意味では、長期投資のポジションと短期投資用のポジションを分けて株を取引し、保有するのも手かもしれません。
■「日本人であること」のリスクを米国株投資でヘッジするという考え方
「これまで米国株の投資がよかったのは分かるが、これからのことは分からないだろう」という声も聞こえてきそうです。では、なぜ今後も私たちが米国株の投資をすべきなのかと言う視点で説明をしてみたいと思います。
私たち日本人は、日本に住み、日本の企業で働き、円で給料をもらい、円を使って生活しています。世界が日本だけであれば何の問題もないように思えます。しかし、日本は島国であり、食料の自給自足もできず、資源も外国に頼らざるをえないというのが現状です。では、その日本と接点のある諸外国の経済的な状況はというと、日本の経済成長率を超える勢いで成長しています。
直近のOECD(経済協力開発機構)の賃金についての調査The Real Minimum Wageによると、2019年の日本人の平均賃金は3万8617ドルであり、米国は6万5836ドルとなっています。途上国というイメージが強かった韓国は、4万2285ドルとなっており日本の平均賃金を抜いています。いまだ日本は経済大国と言われているものの、相対的に貧しくなってきていると言っても過言ではありません。
この様なデータから見える日本の現実、そして将来に危機感を覚えるのは私だけでしょうか。日本はすごいんだという類いの論調は、日本人にとって聞き心地の良い響きを与えます。ですが、私たちはもっと日本の将来についてより現実的に考える必要があるのではないでしょうか。
「いや、日本は今までの30年間と違う、経済的に明るい未来に向かっていくのだ」と心から信じられる方はここで本稿を読むのを止められても良いと思います。ですが、「確かに日本の将来について気になる」という方は次のような現状と見通しについて考えてみてください。
■ますます拡大する日米の経済格差
日本は、2008年に1億2808万人で人口のピークをつけ、以降減少に転じています。そんな日本と米国の2020年の人口の差は約2.7倍なのですが、これが2030年には約3倍へ広がり、2050年には約3.8倍へ拡大する見通しとなっています。
経済についても日米の格差は拡大すると見られています。2020年の日本と米国の実質GDPの差は約3.7倍ですが、2030年になるとこの差は約4倍に拡大する見通しです。もっと先を見ますと2050年の両国の経済の規模の差は約4.6倍となる見込みです。
人口について補足します。2020年の日本人の年齢中央値は48.4歳で、アメリカ人のそれは38.3歳。その差は10.1歳です。それが、2030年になると日本人の年齢中央値は52.1歳まで上がってくるのですが、同期間のアメリカ人は若干上がるのみで、39.9歳となると見られています。その差は12.2歳と年齢的にも米国は相対的に若くなっていくのです。
もちろん10年、30年先の事を正確に予想することは誰にもできないのですが、米国が日本より長期に亘り優位な立場を維持するであろうというトレンドはどうも間違いなさそうです。
■優秀な人材もアメリカに集まる
加えて、米国には最高の教育を受けられる大学等も多く、いまだ世界中の「ベスト・アンド・ブライテスト」が勉強のために行きたがる国のトップとなっています。その優秀な学生たちの中には、本国へ戻る若者もいますが、多くの若者は米国へ残り、一流の企業で職を求めるのです。
そのような優秀な若者の就職先の一部は、GAFAMのようなグローバル企業で、彼らのイノベーションの発展に役立っています。
この様な状況を株式投資家の視点で考えてみた場合、日本株より米国株の方が長期的に投資妙味があるように思えるのです。経済の規模が大きくなる過程で、企業も収益を拡大する機会が多いはずですから。
私はS&P500指数は、これから毎年歴史的な上昇率である6%程度上昇し、2030年には6000ポイントを超え、2032年には7000ポイントを超えてくると考えています。この過程において、優良企業の株価はより高く上昇することになるでしょう。当たり前ですが、当然この過程において、景気後退等のリスクは考えておかなければなりません。
そのため、日本人としての経済的なリスクをヘッジするために、米国株に投資をするというのは理にかなっているのではないかと思います。
■米国株への3つの投資方法
では、具体的に投資をしてみたい方はどうすべきかこれから説明します。
投資の方法 その1 銀行自動引き落としで、米株投信に積立投資をする
米国株の投資をしたことがない方にとって、最も簡単な米国株の投資の方法は、S&P500や、ナスダック100の動きに連動するノーロード(取引手数料なし)の投資信託に投資をすることです。現在は便利な世の中になりまして(例えばマネックス証券でも)一度設定をしておくと、銀行から自動引き落としで、毎日100円から貯金的な感覚で米国株指数に連動する投資信託に投資をすることができます。配当金の再投資もしてくれますから、ほったらかしで構いません。
米国株投資の方法 その2 米国株連動のETFに投資をする
投資信託は初心者にとっては最も投資がしやすい金融商品ですが、売買する価格は市場が終了した後、1日1つの価格でしか取引できず、ニューヨーク市場が開いている間に自由に売買できないというデメリットがあります。市場が開いている間に株価を見て取引したいという方にはETFの売買がお勧めです。米国市場全体の動きに連動するETFを買う事により、朝目覚めてからのニュースで知る「昨日のニューヨーク市場は~」という株価指数と同じ動きをさせることができます。
株式資産保有の考え方として、コア(中核)とサテライト(その周りの衛星)という考え方があります。
S&P500などの米国株市場全体の動きに連動するETFを、長期的な資産形成という観点でコアとして保有するのが良いと思います。私はそれだけでも十分だと思いますが、個別銘柄にも投資をしてみたいという方もいらっしゃると思います。その場合、市場全体の動きに連動するパートをコアとして保有し、さまざまな個別銘柄を長期投資、または機会があれば短期的なトレードのサテライトとしてお持ちになればよいと思います。
■個別銘柄の選択も難しく考えなくていい
米国株投資の方法 その3 米国の個別銘柄に投資をする
米国の個別銘柄を選ぶというとハードルが高そうですが、株式投資の原点に戻って考えればそのようなことはありません。日本株でも米国株でも同じことです。毎日私たちが使っている商品、サービスを提供している会社とは何かと考えてみるのです。
毎日会社や自宅でパソコンを立ち上げると、多くの方が最初に目につくことになるのはマイクロソフトのウィンドウズのOSではないでしょうか。
また、PCやスマホで調べ物をする場合、グーグルで検索しませんか。AIや機械学習の技術の活用で、その検索提供能力は日に日に高まり、私たちにより効率的なユーザビリティを提供しています。
コーヒーを飲みたい場合、スタバを使う方も多いのではないでしょうか。私の会社のビルの1階にもスタバのお店があるのですが、買うのをあきらめるくらい長い列をなしていることが多いです。
こうした状況は、毎日日本だけで起きている訳ではありません。日本人だからスタバのカフェラテを飲む訳ではありません。世界中の人たちが私たちと同じ行動をとっているのです。ですから、ここで例として挙げる会社はグローバルなブランドを有し、世界的にも売り上げを伸ばしており、株式市場でも人気があり、結果として株価が上がっているのです。
このようなトレンドは一時のはやりでしょうか? それとも5年後も同じ、いや、ますます世の中で需要が増えてくると思いますか? もし、皆さんの見通しが後者であれば、こういった銘柄に投資をしてみるのが正しいのではないでしょうか。
最後に投資をする場合ですが、一度に投資をしてしまわないで、ドルコスト平均法を使い、時間を分散して投資をすることお勧めします。
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マネックス証券 チーフ・外国株コンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ シニアフェロー
上智大学を卒業後、ソロモン・ブラザーズ証券(現シティグループ証券)入社。東京、ニューヨーク本社勤務を含め26年間同社にて一貫して外国株式のマーケティング、外国株式関連商品業務に携わり、外国株式部の上級管理職として機関投資家相手の外国株式ビジネスの拡大に努める。新しい海外株式市場への投資への啓蒙活動を精力的に行い、日本の機関投資家が世界54カ国の株式市場へ投資を行うサポートを行ってきた。その後4年半はSMBC日興証券株式会社で、エクイティ部、投資情報部にて米国株式市場・企業情報の情報収集、分析、顧客向け資料作成業務の責任者として、個人投資家向けに米国株式投資の啓蒙活動を行うなどし米国株式仲介事業の拡大に貢献。北米滞在10年、世界80カ国を訪問、33カ国を超える北南米、アジア、欧州、アフリカの証券取引所、証券会社、上場企業のマネージメントへの訪問を行うなど、グローバルな金融サービス部門において確かな実績を築く。2019年10月より現職。主な著書に、『日本人が知らない海外投資の儲け方』(ダイヤモンド社)、『資産を増やす米国株投資入門』(ビジネス社)がある。
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(マネックス証券 チーフ・外国株コンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ シニアフェロー 岡元 兵八郎)
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