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「差別の意図はない」とあえて女性蔑視を口にする人たちの根本的誤解

プレジデントオンライン / 2021年3月19日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ekaterina Rusakova

森喜朗元首相の女性蔑視発言は国内外で多数の批判を集めた。ドイツ出身のコラムニスト、サンドラ・ヘフェリンさんは「蔑視や女性差別は日本だけの問題ではない。男女平等が進んでいるドイツでも大炎上することがある」という――。

■女性蔑視、女性差別は日本だけの問題ではない

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の森会長(当時)が日本オリンピック委員会(JOC)の臨時評議会で女性差別的な発言をしてから1カ月余り。同氏の後任である橋本聖子氏の会長の仕事は今やすっかり板に付いてきています。

今月3日に橋本会長は元女子マラソンの金メダリストである高橋尚子氏を含む新たに12人の女性理事の選任を発表しました。

このことにより、それまで20%だった委員会の女性理事の比率は42%に引き上げられました。ただ森元会長の発言のような「女性蔑視」や「女性差別」の問題が「日本だけの問題」かというと、そうではありません。

■ドイツでは党首の発言が問題に

筆者が出身のドイツは男女平等指数において153カ国中10位です。あらゆる分野において男女平等が比較的進んでいるわけですが、ドイツに女性蔑視の考え方が全くないかというとそうではありません。

ドイツでは、下ネタを含む性的な発言が長いこと「ひねりのきいたジョーク」「気のきいたジョーク」と捉えられてきました。この手のジョークが20世紀の初頭から「老紳士ジョーク」(Altherrenwitz)として市民権を得てきたことに、問題の根深さがあるのです。

日本では夜の酒席などの「非公式な場」でなされることが多くあります。一方のドイツでは「公の場」で、しかもドヤ顔で発言をする著名人や有識者が度々問題になっています。

昨年開かれたFDP(自由民主党)の党大会。党首のChristian Lindner氏が退任する女性の党幹事長Linda Teuteberg氏に別れのスピーチをしました。

スピーチの中で「リンダと私は過去15カ月間のあいだ、300回ぐらい朝を一緒に迎えました」(1分32秒のところ)と語り、あたかも一緒に泊まったかのような言い回しをしました。

この動画を見ると、同氏が発言の直後にあえて間(ま)をおき、会場の笑いを待っていることが確認できます。そして実際に会場で笑いが起きると、同氏は待ってましたとばかりに「毎朝ルーティーンとなっていた政治について話していた電話のことを言ったまでです。あなた方が考えているようなことではありません」と続けています。

性的なジョークを言ったことに対する申し訳なさのようなものは全く感じられず、この手のジョークを言うことに慣れている様子です。

■「ジョークのつもり」で辞任に追い込まれたドイツの評論家

この発言は、女性蔑視だという非難の声がドイツのメディアやSNSなどであがりました。ところが辞任した森元会長とは違い、同氏は謝罪はしたものの現在も党首を務めています。

一方で、「老紳士のジョーク」が原因で辞任に追い込まれた人もいます。ドイツの評論家でジャーナリストのRoland Tichy氏です。長年Ludwig-Erhard-Stiftung e.V.(ルートヴィヒ・エアハルト財団)の会長を務め、優秀なジャーナリストに与える賞を決定するDJP(Deutscher Journalistenpreis)の審査員でもありました。

ところが同氏は昨年、自身が発行する雑誌『Tichys Einblick』(「Tichyの洞察」という意味)で、SPD(ドイツ社会民主党)の女性政治家Sawsan Chebli氏の将来性と資質を「僕の友達のジャーナリストたちは『高齢男性が多いSPDの中におけるSawsan Chebli氏の長所はGスポットがあることだけだ』と言っている」と書きました。

政治の話に全くそぐわない、性的な表現を活字にしたことが問題なのは言うまでもありません。さらに卑怯なのは同氏が「自分がそう思う」と発信せず、第三者(「友達のジャーナリストたち」)の発言として堂々と載せていることです。

■ドイツに根深く残る「老紳士のジョーク」

この背景には、前述のようにドイツには20世紀の初頭から「男性同士が内輪で女性をテーマにした性的ジョークを言うこと」(老紳士ジョーク)が市民権を得てきたからでした。

かつてのドイツの職場には男性が多く、男性が「決定権を持つポジション」にいることが多かったため、長らくドイツの職場では実質的にこの手の下ネタを含んだ「ジョーク」が許される雰囲気がありました。

現在のドイツでは多くの職種において女性が増えてきているにもかかわらず、この手の「ジョーク」を発信してしまう「癖」が抜けない男性が時折います。

Tichy氏による「Gスポット記事」の後、Chebli氏の弁護士はChebli氏の人格権が傷つけられたとして差し止め請求をしています。

問題の記事が発表された後、CSU(キリスト教社会同盟)副幹事長のDorothee Bär氏は、抗議の意味を込めてTichy氏が会長を務める先述の財団から脱会。各方面から記事への非難が止まらず、Tichy氏は会長職の辞任に追い込まれました。

■同性婚が認められても続く同性愛者差別

つい何年か前まで、ドイツでは同性愛が悪いことのように扱われ、「あの人、ゲイなんじゃないの?」と噂をされることが少なくありませんでした。

インターネットで男性芸能人をドイツ語で検索をすると、名前の後に検索キーワードとしてschwul(ゲイ)と出てくることも多く、同性愛は何かと好奇の目にさらされていました。ドイツでは2017年10月に同性婚が法律で認められたにもかかわらず、いまだに一部の人の感覚はアップデートされていません。

それは政治家にも当てはまります。CDU(ドイツキリスト教民主同盟)のFriedrich Merz氏は、昨年ドイツメディアのインタビューで、「将来、ドイツで同性愛者の首相が誕生するかもしれないことについてどう思うか」という質問に対して「子供が(ゲイの大人の)対象となるのは許せない」と語りました。

同性愛をペドフィリア(小児性愛者)と同一視する偏見に満ちた考え方であることが露見し、ドイツで騒動になりました。同性愛者であり男性と結婚しているドイツの保健相Jens Spahn氏は「ゲイをペドフィリアと関連付けて考えるのは(ゲイの人々の問題ではなく)Friedrich Merz氏の問題である」と強く非難しました。

各方面から非難を受けたMerz氏は、ドイツの新聞『Die Welt』で「文脈を考慮せず発言を切り取られた」と反論したものの、同性愛者について語る際に再度ペドフィリアに言及し、騒動はさらに大きくなってしまいました。

■差別や偏見の解消は、これからが正念場

ドイツは法律で同性婚が認められ、本来は同性愛者にとって住みやすい国のはずです。さらに、女性の社会進出を後押しするためクオータ制も整備されました。2016年1月から大手企業は監査役会の女性比率を30%以上にすることが女性クオータ法で義務付けられ、女性にとっても住みやすい国のはずです。

ところが残念なのは、一部の人の「感覚」が現状に追い付いていないことです。

サンドラ・ヘフェリン『なぜ外国人女性は前髪を作らないのか』(中央公論新社)
サンドラ・ヘフェリン『なぜ外国人女性は前髪を作らないのか』(中央公論新社)

ただ、ドイツで長らく市民権を得てきた下ネタを含む「老紳士ジョーク」(ドイツ語:Altherrenwitz)は、TwitterなどのSNSで「#MissionAltherrenwitz」(「老紳士ジョークをなくそう」という意味)というハッシュタグがブームになるなど悪しき習慣をなくそうとする動きが見られます。

日本でも「森発言」だけではなく、さまざまな場面で女性差別がなくなっていないことが露見することがあります。しかし女性差別は日本だけではなく、世界共通の問題なので、根強く取り組んでいくしかないのかもしれません。

少なくともニッポンの東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は橋本会長を筆頭に男女平等への舵を切ったといえるでしょう。

日本が今後も少しずつ「男女平等」に近づいていくことを願うばかりです。

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サンドラ・ヘフェリン 著述家・コラムニスト
ドイツ・ミュンヘン出身。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフ」にまつわる問題に興味を持ち、「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。ホームページ「ハーフを考えよう!」 著書に『ハーフが美人なんて妄想ですから‼』(中公新書ラクレ)、『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)、『なぜ外国人女性は前髪を作らないのか』(中央公論新社)など。

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(著述家・コラムニスト サンドラ・ヘフェリン)

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