「次は業績のいい会社がいい」と考える人が転職活動で大失敗するワケ
プレジデントオンライン / 2021年3月19日 11時15分
会社の業績が悪化し、初めての転職を考えています。
新卒で入った大手メーカーで勤続18年、現在はチームマネージャーを務めています。ここ数年、会社の業績が悪化しており、有効な手を打てない経営層に不信感を覚え始めました。この先、現場の私たちがいくらがんばっても事業環境が好転するとは思えず、給与が下がったこともあって、以前はあったモチベーションを失いつつあります。
このままでは先が見えないため、転職を考え始めていますが、転職活動の経験がなく、悩んでばかりでなかなか踏み出せません。そもそもこうした理由で転職していいものかどうか、転職するなら何を基準にどんな企業を選ぶべきなのかなど、アドバイスをお願いいたします。(40歳・メーカー勤務)
■自分も「業績が悪化している会社の一員」という自覚を
ここ数年の傾向として、重厚長大企業やアパレルは業績が落ち始めています。最近はこれにコロナ禍が拍車をかけ、給料を下げたり希望退職を募ったりする企業も出てきました。これを機に、もっと安定した企業へ転職しようと考えている人は少なくないと思います。
事業環境や業績の変化は、転職の動機としては多いものです。経営層が打ち出す打開策に意義を見いだせなかったり、あるいは経営陣の交代などで風土や方針が変わって「もうやってられない」という気持ちになったり。特にマネージャークラス以上の人は、そうした変化を体感しやすい立場にあります。
ですから、こうした動機で転職するのは、決して軽率な行動ではないと思います。ただ、この女性は新卒で入社し、ずっと同じ会社でキャリアを積んできたとのこと。今いる会社の方針やカルチャーが、身に染み付いている可能性は高そうです。
業績悪化は業界全体の傾向なのか、それとも自社だけなのか。もし自社だけだとしたら、その会社ならではのカルチャーのせいかもしれません。つまり今、自分が当たり前と思っている仕事のやり方が、業績悪化の一端を担っている可能性があるわけです。
まずは自分を「業績が悪化するような会社の乗組員の一人」と捉えて、それが転職市場でどう評価されるかを考えてみてほしいのです。
■「経営陣が悪い」はNG
一般的に、経営層以外の社員は「会社は会社、自分は自分」と切り離して考えがちです。でも、転職先の人たち、つまり雇う側は、そうした目では見ません。例えば、転職の動機を「業績が悪化したから」と説明したら、「あなたもそんな会社の一員でしょうに」と思われるリスクがあります。
そもそも転職市場では、業績の悪い社にいること自体がマイナスになりうるのです。そうした企業にいた自分、そのカルチャーに染まっている自分が、転職市場に打って出た時にどう評価されるか。「経営陣が悪い」と他責にするのは簡単ですが、それで評価がプラスになるとは思えません。
■時計の針を巻き戻せるならどうするか
マイナス部分を払拭するためには、業績が悪化し始めた時に自分は何をしたのか、またはどうするべきだったと思うのか、ひとつでも言えるようにしておく必要があります。マネージャーならある程度の裁量権を持っているはずですから、「自分は何をしたのか」は特に重要なポイント。「もし時計の針を巻き戻せるなら、こうする」でもいいでしょう。これは、転職後、転職先の企業にどう貢献できるかのアピールにもつながります。
この女性の転職の動機は、わがままでも軽率でもないと思います。ただし、自分は今いる会社のカルチャーに染まっているのだという自覚を持つことが大事。そのうえで転職活動をすると決めたなら、ぜひ雇う側の視点で自己を見つめてほしいと思います。
![私はこれに対処できない](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/f/670/img_4ffbcbe42369ef9312673139a4a2fa01592232.jpg)
■「次は業績のいい会社に」は失敗のもと
次に、転職先をどう選ぶべきかについて考えてみましょう。経験から言えば、初めて転職する人に多いのが「辞める理由=次の会社を選ぶ基準」にするケース。「業績が悪いので辞める、だから次は業績がいい会社を選ぶ」といった具合ですね。
しかし、これは失敗する可能性大です。転職経験のない人は、当然のことながら他社を知らず、転職先候補の企業の「ありがちな短所」に気づけないことがままあります。日本にはおよそ160万社以上もの会社があり、一見理想的に見える会社に意外なジョーカーが潜んでいることも。初めての転職活動だと、ジョーカーの存在を想像すらできないまま、業績だけ見て飛びついてしまう可能性があるのです。
■業績と働き心地は別物と心得て
業績のいい会社を選んだら労働環境が過酷だった、あるいは驚くほど男性優位だった──。転職経験のある人なら、そうした点も事前にリサーチするでしょうが、初めてだとわからないもの。例えは悪いかもしれませんが、「ギャンブル癖のある夫と別れて、ギャンブル癖がない人と再婚したら、今度はアルコール依存症だった」といったような失敗が起こり得るのです。
初めての転職では、「どういう状態なら自分が幸せに働けるか」を企業選びの基準にしましょう。仕事の内容はもちろんですが、働き方の柔軟性、評価制度、研修などの人材育成、ダイバーシティ、社風など、考えるべきポイントはたくさんあります。
求人広告の文章や企業サイトを見るだけでなく、クチコミサイトなどもチェックしてみてください。クチコミはすべてが正しいわけではありませんが、退職者が投稿しているケースも多いので、実情を知るうえではきっと参考になると思います。
■なぜ社員に会わせてくれないのか
また、内定まで進んだら、受諾する前にはぜひ、現場の人とカジュアルに話せないか聞いてみてください。採用が仕事の人事担当者は、会社のいい部分しか言っていない可能性があるからです。実際の女性活躍の度合いや育児との両立のしやすさなど、自分が幸せに働くための条件だと思っていることは、現場の人に聞くのがいちばんです。
しかし、もしそのお願いを断られたり、人事担当者の同席が条件だったりしたら、その会社はちょっと注意したほうがいいかもしれません。その場合は、いくら業績がよくてもほかを当たったほうがいいと思います。「業績と働き心地は別物」と肝に銘じて、時間はかかっても自分に合う会社を探したほうが、結果として成功につながるはずです。
そして、転職活動は必ず、今の会社に在職しながら行いましょう。倒産間近だったり、精神的につぶれそうだったりといった切羽詰まった状況でない限り、次の行先が決まってから退職を。たまに、「会社員のままだと日中に転職活動できないから」と先に辞めてしまう人もいますが、転職先がいつ決まるかは未知数です。
収入が絶たれたうえに不採用が続くと、追い込まれた気持ちになるものです。そうなると、面接で元気がなくなり、結果、採用されないという悪循環に。内定前の退職はリスクが大きいと心得て、余裕を残した状態で転職活動に臨んでください。
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転職コンサルタント、ルーセントドアーズ代表取締役
1988年、リクルート入社。2006~13年まで転職サイト「リクナビNEXT」編集長。2014年ルーセントドアーズを設立、成長企業のための「社長の右腕」次世代リーダー採用支援サービスを開始。35歳からの転職支援サービス「Career Release 40」、ミドル・シニア世代のためのキャリア相談特化型サービス「CanWill」を運営している。著書に『転職に向いている人 転職してはいけない人』『35歳からの後悔しない転職ノート』『採用100年史から読む 人材業界の未来シナリオ』など。
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(転職コンサルタント、ルーセントドアーズ代表取締役 黒田 真行 構成=辻村洋子)
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