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「コロナワクチンでも欧米に遅れている」そう考える人たちが根本的に誤解していること

プレジデントオンライン / 2021年3月16日 9時15分

新型コロナウイルスワクチンの接種を受ける女性=2021年3月12日、フランス西部ブレスト - 写真=AFP/時事通信フォト

■ワクチンは免疫力の落ちた高齢者には必要不可欠だ

65歳以上の高齢者への「新型コロナワクチン」の接種が、4月12日から始まる見通しだ。医師や看護師などの医療従事者に次ぐ優先接種である。接種対象の高齢者は6500万人だが、いまのところワクチンの供給量はかなり少なく、高齢者の接種が本格化するのは、早くても5月に入ってからだろう。

ちなみにワクチンを希望する医療従事者は480万人で、接種は2月17日からスタートし、現在も続けられている。

新型コロナワクチンの効果は大きい。免疫力(抵抗力)が低下して新型コロナ特有のサイレント肺炎や血栓症などで容体が悪化したり、命を落としたりする危険性の高い高齢者にとっては必要不可欠である。高齢者への接種の後には心臓病や血糖障害などの基礎疾患(持病)のある人への接種が続く。できる限り多くの人々が免疫力をつけ、社会全体で流行を防いで感染拡大を収束させたい。

ワクチンは4月5日の週から全国の自治体に配送される。具体的な供給量は、東京、大阪、神奈川の都県にそれぞれ2000人分、残る44道府県には1000人分ずつ配り、その後、量を増やしていく。厚生労働省によると、ワクチンを広く行き渡らせることを優先した結果、少規模でのスタートとなった。今後、供給量が増えるのを待って順次、全国に配送されていく。

■「mRNAワクチン」は製造時間が極めて短く、有効性も高い

昨年12月11日付のオンライン(「ついに英国で接種開始」でも新型コロナワクチンに期待しすぎてはいけない)でも書いたが、新型コロナワクチンの主流は「m(メッセンジャー)RNAワクチン」と呼ばれる遺伝子ワクチン(核酸ワクチン)である。

製造方法が鶏卵などを使う細胞培養に頼る従来のワクチンとは大きく異なり、ウイルスそのものは使わない。人工合成されたRNAの断片をメッセンジャーとして人体に投与してウイルスタンパクの一部(抗原)を体内で作り出し、抗原抗体反応を利用して発症や重症化を予防する。

現時点でアメリカの大手製薬会社ファイザーとドイツの製薬メーカービオンテックが共同で開発したものと、アメリカのバイオテクノロジー企業モデルナが製造したものとがある。

ファイザー社によると、製造の時間が極めて短いうえ、有効性もかなり高い。イスラエルで今年1月17日から3月6日までに同社のmRNAワクチンの2回目の接種を受けてから2週間後の時点での健康状態を非接種者と比較したところ、発症と重症化、死亡を予防する効果が97%にも上り、不顕性感染の無症状感染者になることにも94%の予防効果を示した。

■「mRNAワクチン」の接種から長期間すごした人はいない

しかし、一般的にワクチンは人体にとって異物で、どうしても副反応が出る。mRNAワクチンも臨床試験(治験)中から倦怠感、頭痛、局所の腫れ、筋肉痛、関節痛などの副反応が表れた。激しいアレルギー反応を引き起こすアナフィラキシーも出ている。こうした副反応の大半は、接種後30分以内に起きるので対処は可能だ。

問題は半年、3年、5年という長い期間を挟んで、mRNAワクチンがどう人体に影響を与えるかである。ワクチンとして実用化されるのは初めてだし、接種してから長期間を経験した人はいない。それだけに接種後の数年後の状態が実に不透明なのである。

温度計によって顧客の温度をスキャン
写真=iStock.com/Nattakorn Maneerat
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nattakorn Maneerat

ワクチンの専門家たちは「投与されたmRNAは体外に排出され、消えてなくなる」と説明する。しかし、体内に抗体ができるわけだから人の遺伝子に何らかの傷跡は残る。さらなる分析のためにはファイザー社などがmRNAワクチンに関するすべてのデータと情報を開示する必要がある。そうした情報は製薬会社にとって企業秘密で、開示がままならない。

ここは承認した厚生労働省、つまり政府がファイザー社などにきちんとデータの開示を求め、的確な情報を私たち国民に提供してほしい。

■ドイツ、フランス、イタリア、スペインでも使用中断に

報道によると、デンマークでは3月11日、60歳代の女性が接種後に血栓ができて死亡したことを受け、イギリスの製薬会社アストラゼネカが開発した新型コロナワクチンの接種を、2週間をめどに停止している。

3月15日には、ドイツ、フランス、イタリア、スペインの4カ国が予防的措置などとして使用中断を発表した。欧州ではこのほか、ノルウェー、アイスランド、ブルガリア、アイルランド、オランダも同様に中断している。

アストラゼネカ製のワクチンは前述のmRNAワクチンとは違い、「ウイルスベクターワクチン」と呼ばれるもので、弱毒のアデノウイルスなどに新型コロナウイルスの遺伝情報を組み込んで製造する。エボラ出血熱のワクチンとして近年、接種され始めたものの、広く一般的に使われているわけではなく、今回が初の実用化と言っても過言ではない。それゆえ、mRNAワクチンと同様に長期間を経た後の影響が不透明である。

■3月18日に緊急会合を開いて今後の措置に結論

問題のアストラゼネカ製ワクチンは、接種と血栓との因果関係は不明だ。欧州連合(EU)の医薬品規制当局、欧州医薬品庁(EMA)は声明を発表し「ワクチン接種者の血栓の症例数は一般に見られるより多くはないようだ」との見解を示した。3月18日に緊急会合を開いて今後の措置について「結論を出す」としている。

EMAによれば、10日の時点で、EUでアストラゼネカのワクチン接種を受けた500万人のうち、血栓塞栓(そくせん)症を起こしたのは、30人だという。

アストラゼネカは2月5日、日本に承認申請を行っている。現在、厚労省が審査を進めている。

血栓は血の流れがよどんでできる塊だ。血栓が飛ぶことで深部静脈血栓症や肺血栓塞栓症、脳梗塞、心筋梗塞などの血栓症を引き起こす。新型コロナウイルスに感染すると、血栓ができやすくなることも分かっている。

■欧米各国が接種に前のめりとなるのは当たり前のこと

日本はワクチンにどう向き合うべきか。日本のコロナウイルスの死者や感染者は、欧米に比べると著しく少ない。これは日本以外の中国、韓国、台湾といった東アジアに共通する傾向だ。たとえば人口100万人あたりの死者数(3月14日現在)は、英国が1852.4人、米国が1615.9人なのに対して、日本は67.9人、韓国は32.7人、中国は3.4人だ。このため東アジアの人たちには、コロナウイルスにかかりづらく、死にづらいという何らかの因子があると考えたほうが自然だろう。

そう考えれば、日本は必ずしも欧米のようにワクチン接種を急ぐ必要はないだろう。欧米の感染状況は厳しい。しかも今回のワクチンはどれも欧米で開発されている。欧米各国が接種に前のめりとなるのも当然だ。

一方、日本にはまだ余裕がある。そもそも日本人全員がワクチンを打ったとしてもコロナウイルスはなくならない。すぐにマスクを外せるとは限らない。副反応や感染予防効果などの状況を見きわめてから、本格的な接種に乗り出しても遅くはない。

■「限られたワクチンを有効に使い、円滑接種を」と読売社説

3月12日付の読売新聞の社説は「限られたワクチンを有効に使い、円滑に接種を進めねばならない。政府は、供給見通しなどを正確に伝え、市町村の準備を後押しすべきだ」と書き出し、中盤で次のように指摘する。

「4月末までに配られる高齢者向けワクチンは、1瓶5回分とすると約140万人分にとどまる。高齢者約3600万人の4%弱しかカバーできない」
「ワクチンは世界的に不足しているとはいえ、十分な量を早期に確保できるよう、政府は一層の努力を尽くしてもらいたい。供給が限られる現状について、率直に説明することも必要だろう」

「有効利用」「円滑な接種」「準備を後押し」「十分な量を早期に確保」と読売社説はワクチンに対してとても肯定的だ。

読売社説は「医療従事者や会場の確保などの準備に追われる市町村にとって、供給量や時期についての情報は不可欠だ。現実的なスケジュールで接種を進められるよう、政府は甘い見通しを排し、適切に供給予定を明らかにすることが重要だ」とも主張する。

確かにワクチンは感染症の流行を封じ込める武器になる。しかし、ワクチンの供給に前のめりになり過ぎると、痛い目に遭う。過去のワクチン行政の失敗や薬害が証明している。接種直後の副反応だけでなく、長期的視野での人体に与える影響も考慮する必要がある。

■「自治体に丸投げせず、指針を設けて混乱を避けろ」と産経社説

2月28日の産経新聞の社説(主張)は「ワクチンの配分 自治体任せでは混乱招く」との見出しを掲げ、こう訴える。

「河野太郎ワクチン担当相は記者会見で、『どの市町村で接種を行うか、どう配分するかは、各都道府県に調整をお願いしたい』と述べた。東京、神奈川、大阪の3都府県に第1陣で届くのは約2千人分で、他の道府県へは約1千人分だ。どう分けるというのか。自治体へ難題を丸投げせず、指針を設けて混乱を避けるべきだ」

自治体に丸投げしたのでは、ひ弱な自治体ほど混乱する。ワクチン接種が国家戦略である以上、政府が責任を持って最後まで遂行すべきだろう。しかし、ワクチンを是として頼り切るのは良くない。

繰り返すが、数年という時間を挟んだ、人体への影響や副反応に関しても想定しておくべきである。先の見えた高齢者へのワクチン接種は必須だが、将来のある若い人たちは接種を慎重に検討してもいいと思う。

■「日本でも速やかに実施しなければいけない」は本当か

産経社説は最後にこうも指摘する。

「ファイザー社からのデータ提出を受けて、米食品医薬品局(FDA)は25日、零下15~25度の一般的な医療用冷凍庫で最大2週間のワクチン保管を認めた。小分けや移送が容易になり、自治体の負担は軽減される。日本でも速やかに実施しなければいけない」

これで氷点下70度という超低温での冷凍保存というハードルはなくなった。だが、副反応などの問題がすべて解決したわけではない。

厚労省によると、新型コロナは日本では8割以上の感染者が他人に感染させていない。感染しても若者を中心に80%以上が無症状あるいは軽症で済んでいる。どのような患者が重症化するのかはほぼ解明されているし、重症化を防ぐ治療方法も確立しつつある。しかも人口100万人あたりの日本の感染死者数は欧米に比べてきわめて少ない。

日本は「欧米に遅れるな」とワクチン接種に前のめりになるのではなく、半歩下って余裕を持って考えるべきではないかと思うが、どうだろうか。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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