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「ワースト3は名古屋、神戸、柏」Jリーグで人件費を最も効果的に使ったチームはどこか

プレジデントオンライン / 2021年3月17日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FotografieLink

強いスポーツチームをつくるためには、なにをすればいいのか。スポーツデータ分析の専門家である森本美行氏は「人件費を多くかけたチームが必ずしも強くなるとは限らない。手持ち資金を勝利のためにどれだけ賢く使うかが重要だ。Jリーグでの事例を紹介しよう」という――。

※本稿は、森本美行『アナリティックマインド』(東洋館出版社)の一部を再編集したものです。

■スポーツビジネスの“お金”は勝利を買うためのもの

誰かが答えを出すだろう、すでに答えは出ているだろうと他人に頼ってはいけない。どこかの有名選手が太鼓判を押しているからといってそれが正しいとは限らない――。

これは『マネーボール』の主人公になったMLBアスレチックスのGMビリー・ビーンによる野球の現場での言葉ではあるが、同時に野球界に限った考え方でもない。対象が何であれ、勝利を目指すものにとって必要な考え方だ。

勝利のために本当に必要なプレーをしている選手が必ずしも正しい評価を受けていないと考えた野球研究家のビル・ジェームズがセイバーメトリクスを考え、ビリーがそれを実践し結果を出したことにより、何が重要なのかを人々が理解し始めた。重要なのは、資金をどれだけ持っているか(=ヤンキースやレッドソックス)ではなく、どれだけ有効に活用できるかということだとわかってきたのだ。

野球、サッカー、バスケットボール等のプロスポーツのビジネスを行う上で、お金は選手を買うのではなく勝利を買うために使われるべきだ。「マネーボール」は、重要なのは単に人件費の大きさではなく、手持ち資金をどれだけ勝利という目的のために賢く使えるか、即ち、ROI(Return on Investment=投資利益率)という考え方が大事なのだということを教えてくれた。

■マネーボールからマネーサッカーボールへの道

昇降格の無いクローズドリーグで運営されているプロ野球と異なりJリーグは順位によって昇降格があるオープンリーグで運営されている。所属リーグが一つ上がることは競技面におけるステータスだけではなく、事業面においても大きなベネフィットがある。

森本美行『アナリティックマインド』(東洋館出版社)
森本美行『アナリティックマインド』(東洋館出版社)

Jリーグから各リーグに所属しているすべてのクラブに一律で支払われる事業協力配分金が、J3では3000万円だがJ2ではそれが1億5000万円と5倍にアップする。地方のクラブが真水の収益を1億円以上増やすことは決して簡単ではない。

J2からJ1に昇格すると事業協力配分金は3億5000万円にとさらに増加する。J1で優勝したチームには、賞金3億円に加えて、日本サッカーの水準向上と普及促進などに使われることを前提とした理念強化配分金が3年間で総額15億5000万円を受け取ることができる。

つまり、J1で優勝すると、優勝賞金3億円、一部売掛金となるが理念強化配分金15億5000万円、そして事業協力配分金3億5000万円、合計22億円の収入を得ることができる(2020シーズンは新型コロナウイルスの影響で通常とは異なる)。

■DAZNの放映権料収入で資金繰りの重要度が増した

これだけの金額が、各クラブにもたらされるようになったのは2017年に英国のパフォーム・グループ(現DAZN Japan Investment株式会社:以下、DAZN)とJリーグとの間に10年間で総額2100億円とも言われる巨額の放映権契約が交わされたためだ。1年あたり平均約210億円という放映権料は、2012年から2016年まで年間50億円で放映権契約を結んでいたスカパーJSATの約4倍の金額だ。

DAZNが支払うこの高額の放映権料は、Jリーグの試合の魅力が高まり、より多くのDAZNの契約者が増えることにより回収される。つまりチーム強化による収入増、収入増によるさらなるチーム強化。結果、DAZNを通して視聴者が増加し、事業として成立するというWIN-WINの関係が成立することとなる。

この循環にうまく乗るためにこれまで以上に今手元にある資金を“賢く”使うことが重要になってきた。

■Jリーグに訪れたマネーボールについて考える機会

J1に所属するクラブの間の収入格差は2015年~2018年の4年間で4倍から4.2倍とさほど開いていない[図表1]。それは最も裕福なクラブの収入だけでなく、その他のクラブの収入も同様に伸びているからだ。

2015~2018年におけるJ1クラブの収入と人件費
『アナリティックマインド』(東洋館出版社)より

Jリーグも2018年には25周年を迎え、Jリーグはもちろん、地域におけるクラブの存在価値もかなり向上した。その結果、サッカークラブを活用した企業のマーケティング活動も様々な面で機能し始めた。この年、収入トップだったヴィッセル神戸はFCバルセロナでプレーしていたアンドレス・イニエスタを獲得し、スポンサー収入、入場者収入、グッズ収入を大幅に増やした。一方、その年にJ1に昇格したV・ファーレン長崎は、J1でもっとも収入が少なかったが、それでも前年の総収入11億2000万円から23億円と約2倍に増やした。前年起きた経営危機から地元長崎のテレビショッピングで有名なジャパネットグループの一員となり、ビジネス面における力強い味方をつけることができたからだ。

■少ない人件費で上位に食い込むのは簡単ではない

しかし、これはコロナ禍以前の状況だ。今後もこれまでどおり右肩上がりで収入面が伸びていくことに対しては、少なくてもここ数年は悲観的にならざるを得ない。一方、人件費を見ると、同じ期間にチーム間の格差が4.2倍から5.5倍に開いた。これは神戸のイニエスタの高額年俸分が大きく影響しているので、神戸ではなく、この年の選手人件費2位だった鹿島の31.6億円を当てはめると格差は3.9倍だ。

つまり、J1では収入も、人件費の支出も約4倍程度の開きがあることになる。

選手人件費がいかに重要か、最も少ない人件費で降格圏に入らなかったのは、2016年の甲府だけしかないという例からも明らかだ。それ以外はすべて降格圏だったことから、少ない人件費では、上位に食い込むのは簡単ではないことがわかる。しかし、一番お金を持っているチームが一番強いかというと必ずしもそうはなっていないという点は興味深い。収入面において日本のサッカー界を引っ張り続けていた浦和レッズの順位は2015年3位、2016年2位、しかし2017年には7位にまで落ち込んでいた。日本サッカー界でトップの収入を誇り、初の総収入100億円までにあと一息というところまで来た神戸は10位という成績だった。

■高額の人件費をチーム強化に使えなかった4チーム

マネーボール風に人件費と順位との関係を見てみよう[図表2]。

2015~2018年におけるJ1クラブの人件費との関係
『アナリティックマインド』(東洋館出版社)より

このデータを見る限り、人件費を多くかけているチームが必ずしも良い成績をあげているとは言えない。

2015年から2018年シーズンを見ると、2015年の湘南を除けば人件費が少ないチームは下位の成績という傾向が見られる。一方、人件費を多くかけているクラブが成績上位という傾向はあまり見ることができない。クラブ全体を見渡すと2015年から2018年シーズンまでは3年連続で順位と人件費との間の相関値は0.6~0.7だったが、2018年シーズンは0.19と相関関係が無かった。

2018年シーズンの人件費が突出して多かった神戸が10位、人件費が浦和に次ぐ4位だったが、名古屋が15位、人件費5位の柏が17位でJ2に降格、人件費6位の鳥栖が14位と、これらの4チームが大幅な外れ値となってしまったため、全体の相関関係が崩れたことになる。つまり、競技成績という面に限れば、神戸、名古屋、柏、鳥栖は高額の人件費をチーム強化のために使うことができていなかったことになる。一方で、甲府、仙台、湘南は少ない人件費を効果的に使えていた例だ。

■最も効果的に人件費を使ったチームはどこか

このように人件費額が多い順位と実際の順位とのギャップを比較して、Jリーグマネーボールランキングを出した[図表3]。

各J1クラブの人件費の使用効果と1勝あたりの人件費
『アナリティックマインド』(東洋館出版社)より

対象チームは2015年から2018年の4年間にJ1でプレーした24チームだ。シーズンごとに(実際の順位)-(人件費の多い順位)を出し、各シーズンを足し、期間中24チーム中、もっとも効果的に人件費を使ったチームと、人件費を効果的に使えなかったチームを5チームずつ選び、それらのチームが1勝するのにいくらの人件費をかけたのかについても算出した。

■1勝するために2億円以上かけた名古屋グランパス

上位5チームは、1勝するために平均約1億円だったのに対し、下位5チームの平均は1億7500万円と75%も多く人件費をかけていたことになる。神戸と名古屋に関しては1勝あたり2億円以上をかけていた。このランキングにおいて優等生の川崎Fはこの4年間で3位が1回、優勝2回とトップ3入りを3回果たしている。

もう1チームの優等生である広島も優勝1回、準優勝1回とトップ3入りを2回果たしている。仙台は4年間J1で中位を維持し、札幌も昇格2年目に4位という成績を残している。湘南は、2015年に16位の人件費で8位と一桁順位を達成した。2016年に降格したが、翌年にすぐにJ1に復帰し、その年も人件費16位ながら13位でシーズンを終えた。一方、下位5チームの中では、浦和のみ2回トップ3入りしているが、柏、名古屋はJ2降格という経験もした。

■大企業を親会社に持つ5チームがなぜ下位なのか

この図表を見ると面白いことに気が付く。上位5チームは、特定の親会社を持たない、いわゆる市民クラブなのに対して、下位5チームは、日産、三菱自動車、日立、楽天、トヨタと日本を代表するそうそうたる企業を親会社に持つ。これらの企業は、秒単位、ミリ・ミクロン単位のオペレーションやリアルタイムのデータ分析、そして、人事評価等組織マネジメントで日本のビジネス界をリードしてきたはずなのだが、サッカーにおいてはそのノウハウが持ち込まれていないということなのだろうか。

『サッカーデータ革命』(辰巳出版)の著者クリス・アンダーソン氏は、弱小チームから革命が起きると予測していた。この結果を見る限り、日本でもその予測は当たっているのかもしれない。

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森本 美行(もりもと・みゆき)
fangate代表
1961年生まれ。92年米ボストン大学経営大学院でMBAを取得。2000年米国NASDAQで上場したasiacontent.com日本法人アジアコンテントドットコムジャパンの代表取締役兼CEO。02年スポーツデータ配信や分析を行うデータスタジアムの代表取締役に就任。16年には、日本初の野球独立リーグ四国アイランドリーグplusを運営するIBLJの代表取締役及び一般社団法人・日本独立リーグ野球機構の常務理事を務めた。現在はスポーツビジネス及びスポーツアナリティクス分野の教育、サッカーの指導、スポーツを活用した地域の活性化等のプロジェクトに関わっている。

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(fangate代表 森本 美行)

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