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「まさに硬直した日本企業だった」最弱球団・横浜DeNAが生まれ変われた理由

プレジデントオンライン / 2021年3月20日 11時15分

DeNAの監督退任が決まり、最終戦後にファンに手を振るアレックス・ラミレスさん(右手前)=2020年11月14日、横浜スタジアム - 写真=時事通信フォト

長期低迷を続けた横浜DeNAベイスターズが近年、好調だ。最弱球団はなぜ生まれ変われたのか。球団のコーチングに携わった日本ラグビーフットボール協会理事の中竹竜二さんは「明確なゴールを設定し、共有し、チーム全員に共感してもらうことで組織文化が変わった」という――。

※本稿は、中竹竜二『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。

■0年目、ベンチャー企業出身者が抱いた危機感

プロ野球チームの最終ゴールは何でしょう。

ベンチャー企業DeNAが親会社に就任すると、萩原龍大(たつひろ)さん(現在の取締役兼チーム統括本部本部長)はベイスターズに移り、低迷にあえぐチームの立て直しに乗り出しました。このとき、萩原さんの脳裏に浮かんだのは「チームが魅力的になること」でした。

魅力的なチームとは何か。いくつもの構成要素が浮かびましたが、最後は次のような答えにたどり着きました。

「継続的に強いチームであること」

ファンやスポンサーは強いチームになることを望んで応援しています。だとしたら、最下位争いを繰り返すチームを強くするために何ができるのか。プロ野球なのだから、試合に勝てばいいという考え方もあります。しかし、萩原さんはこう考えました。

「選手を取り囲む周りの大人の教養や魅力によって、どのような選手が育つのかがある程度定義される。だとしたら選手を育てる前に、まずは周りの大人(コーチングスタッフやチームスタッフ)の育成が先ではないか」

選手を育てるノウハウを、コーチやスタッフ一人ひとりが抱え込むのではなく、チームで数多く持ちたいと考えたのです。

外部の知恵を生かすことも大切です。ビジネスの世界では、チームの仲間が連携し、議論を重ねて前に進むのは当たり前のことです。

ところがベイスターズのコーチやスタッフは当時、互いに話し合うこともなく、自分の役割さえまっとうしていればそれでいいと考える組織文化が根づいていました。

プロ野球界そのものに、日本最大の興行団体だという無意識的な自負があり、外部から足りないものを学ぶ姿勢が乏しいというのも、学びに鈍感な一因だったのかもしれません。萩原さんの思いに共感した私は外部から加わり、こうした課題を解決する取り組みをスタートさせました。

最初に掲げたテーマはチームビルディングです。チームビルディングについて学びながら、ベイスターズの新たな組織文化を構築する試みがスタートしました。

■1年目、ファームコーチとスタッフにあった閉塞感

最初に取り組んだのはチームの空気を変えることです。かちかちに固まった雰囲気を柔らかくするために、さまざまな取り組みを行いました。

シーズンオフの2014年11月と2015年1月を使い、延べ4日間、朝から晩までチームビルディングのトレーニングを実施しました。参加者はファーム(二軍)のコーチとスタッフ20人です。トレーニング初日、大半の参加者が嫌悪感を顕わにしていました。

「オフなのになんで朝から集まるんだよ」
「なんで変わらなきゃならないんだ、面倒くさいなあ」

ほとんどの参加者はまったく私の話を聞く気がありません。

会議に集まる人々
写真=iStock.com/gremlin
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gremlin

ベイスターズは成績こそ下位に沈んでいますが、プロ野球というスポーツ界のトップに君臨しているという無意識的な自負があったのか、外部から学ぼうとする姿勢は感じられませんでした。

トレーニングの講師を務める私は日本ラグビーフットボール協会に所属し、大学ラグビーの監督や指導者の育成がキャリアの軸になっています。

「プロスポーツの我々が、なぜアマチュアスポーツから学ばなければならないのか」

こうした心の声が手に取るように伝わってきます。

グループワークで6人がテーブルを囲んでも、冷たい反応が続きます。

不信、不安、敵愾心(てきがいしん)……。その場の空気はネガティブな要素で占められていました。

■「目標は共有しているが、共感できていない組織」

こうした事態に、私はほとんど驚きませんでした。私がチームビルディングやリーダー育成などで関わる多くの企業でも、最初はこうした拒絶反応が起こることが珍しくありません。

第一線で活躍するビジネスパーソンはみなさん、それぞれ誇りを持たれています。そのため、スポーツの世界で指導者の育成などを手がけてきた私がトレーニングに入ると、毎回ほぼ同じような反応が起こります。

「スポーツの世界の人が何か? ここはビジネスの世界ですけど」

かつての栄光を胸にかろうじて踏みとどまっている企業も、旧態依然の体質から変われない企業も、外の世界から学ぼうという姿勢はほとんど感じられません。当時のベイスターズの反応はまさに硬直した日本企業の典型でした。

それでも、集まってくれたからにはチャンスがある。トレーニングを重ねていけば気づきもあるだろう。そう考えて自己分析シートなどを活用して、自分たちがどのような組織なのかに気づくセッションに取り組みました。

組織文化を知るチェックリストの結果を見ると、「見える化」「言える化」の数値が明らかに低く、次のような特徴が浮き彫りになりました。

「互いのやっていることが見えず、互いのやっていることを見る必要もないと思っている」
「互いに言いたいことを言わないし、意見を言う必要もないと思っている」
「ノウハウの共有は、基本的にあり得ない」

こうした結果から導きだされたチームの状態は、次のように定義できます。

「目標は共有しているが、共感できていない組織」

■優勝なんて無理だと思っていた

「共有」とは、組織の全員が目標を知っている状態のことです。「共感」とは、組織の全員が目標を本気で達成したいと思っている状態を意味します。

ベイスターズは、優勝を目標に掲げていても、それぞれの心の中では「とはいっても、無理だろう」と思っていたのです。

グローブの中に納まる野球ボール
写真=iStock.com/lamyai
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/lamyai

プロスポーツは野球に限らず、極限の成果主義の世界です。学んだからといってチームが勝てる保証がないため、学ぶことそのものを軽視し、「学ぶのは格好悪い」「学ぶのは恥ずかしい」という感覚が染みついていました。

学ぶというのは、自分の足りないところを認める作業です。そこに対して抵抗感が強かったのです。わからないと伝えて自分に足りない部分が明らかになるくらいなら、学びそのものを遠ざけたいと考える人が多かったようです。

本来は誰でも、いくつになっても学ぶほうがいい。誰もが心の奥ではそうわかっていながら、その思いを素直に表明できていませんでした。そこから変える必要があったのです。

そこでトレーニング1年目は、学んだことを人前で発言し、仲間と共有してもらいました。まずは学ぶことはすばらしいという価値観に変わるように促していったのです。

トレーニングの場で、学んだ人や学びを共有した人に拍手を送り、「自分が思っていることを話してもいい」「互いに意見を言い合うことはすばらしいことだ」と思える環境をつくっていきました。

■2年目、優勝できると思っていなかった一軍コーチ

ファームのコーチとスタッフのトレーニングは最終的にそれなりの成果を得られました。そこで2年目は、一軍にもトレーニングに参加してもらいました。一軍とファームのコーチとスタッフ総勢80人で、組織文化を変えようとしたのです。

「そもそもみなさんは何を目標にしていますか」

私の問いに対して、一軍のスタッフのほとんどが「優勝」と答えました。

「なるほど、優勝を目指しているんですね」

そう確認して一つのセッションを終えます。休憩に入ったとき、近くにいた若手コーチたちと雑談を交わし、セッションの話になりました。

「目標は優勝なんですね」

私がそう確認すると、思いもよらない言葉が返ってきました。

「本当に優勝できると思います? みんなこの戦力で勝てるとは思っていませんよ」

これこそ、目標を「共有」していても「共感」できていない最たる例です。組織において、目標が「共感」されていないようでは意味がありません。誰も体験したことがないので実感が湧かないのは仕方がないとしても、本気で優勝、日本一を狙うことを共感できる状態にすることが最初の課題でした。

■3年目、「優勝するためには」と語るように

トレーニングを始めて2年目に判明した課題を解消するため、3年目に私が強烈に押しだしたのは「優勝」「日本一」という言葉でした。グループで討議するときも、個人でワークシートに記入するときも、発言したり書いたりするときには必ず枕詞に次のフレーズを入れるように求めたのです。

「優勝するためには」
「日本一になるためには」

ワークショップでは、この言葉を参加者一人ひとりが何度も連呼せざるを得ない状況をつくりました。私もしつこく「優勝するためには」と言葉を重ねます。すべての場面において「優勝するためには」「日本一になるためには」と言葉にして、ひたすら意識できるように繰り返していきました。

当時のベイスターズは、優勝を狙うポジションにはありませんでした。そのため、最初はみなさん「優勝」や「日本一」という言葉を口に出すのが恥ずかしかったようです。それでも続けていると、徐々に口にするのが普通になっていきます。

そもそもコーチやスタッフが「優勝」や「日本一」と口にできなければ、選手に熱意は伝わりませんし、選手もその気にならないでしょう。

それを理解してからは、「優勝」「日本一」という言葉が急速に浸透していきました。

2015年5月2日、横浜スタジアム
写真=iStock.com/liorpt
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/liorpt

■言葉がなじみ、習慣になり、行動が変わる

組織文化を変えるには、所属する人の言葉と行動が変わらなければなりません。

まずは言葉が変わり、話し方が変わっていく。最初は取ってつけたように話していた言葉が自然になじんでいくと、行動や姿勢も変わっていきます。組織に所属する一人ひとりが無意識のうちに実践できるような習慣に落とし込むことができれば、その言葉や行動は組織文化として定着していきます。

ただし、新しい言葉や行動、それを支える価値観を無意識に浸透させるには時間がかかります。だからまずは意識できる部分から無理やりにでも変えていくのです。そうすると、少しずつ無意識へ変わっていきます。

もちろん、意識から無意識に変わる突破口として、言葉よりも先に行動を変えるケースもないわけではありません。何も言わずにただやらせて、そのあとで感想を言葉にさせる方法もあります。ただ、多くの場合は言葉を変えることから入ったほうが変化しやすいと思います。

野球の練習後に笑顔でリラックスする男性たち
写真=iStock.com/mokuden-photos
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mokuden-photos

■一人ひとりが変わり、最先端を常に走るスポーツチームへ

「我々は何のために野球をしているのか」

この問いに対して、自信を持って「日本一になるため」と言い切れるまで、ベイスターズでは実に3年の歳月がかかりました。いまでは日本一を目指していない選手やスタッフは一人もいないと萩原さんは言います。

2014年から始まったベイスターズの組織文化を変革する試みは、2021年で8年目に突入します。最初は反発もありましたが、徐々にベイスターズのコーチやスタッフの行動が変わっていきました。

秘伝のコーチングを伝えて空気を変えた一軍外野守備走塁コーチの小池正晃さん。振り返りノートを書き続け、自分を変えた一軍バッテリーコーチの藤田和男さん。職人技を互いに学び合うグループに変えたチーフアスレティックトレーナーの塚原賢治さん。コーチやスタッフの変化が選手に伝わり、選手が自分で動きだすキャプテンの佐野恵太さんら選手たち――。

現在では選手やコーチ、スタッフが互いに学び合い、共有し、新たなことに挑戦して、変化や進化を起こせる組織文化に変わりつつあります。

コーチやスタッフ、佐野キャプテンを筆頭とする選手たちも、自律的に動きだすように変わりました。もう少し時間がかかるかもしれませんが、それでもベイスターズは間違いなく、当初目論んだ「継続的に強いチーム」へ変革を遂げつつあります。

最初から、全員が変革にポジティブだったわけではありません。

たとえ成長しようとする意欲はあっても、すぐに成果が出たり、行動が変わったりするわけでもありません。もがき苦しみながらも学ぶ姿勢を貫いた結果、それが成果となってきたのです。

■結果を出すために必要なこと

大切なのは、結果が出なくても、変化が起こらなくても、目的に向かっていることです。プロセスを変えたからといって、結果が出るかはわかりません。それでも、プロセスを変えない限り結果は変わりません。そしてプロセスは自分でコントロールできるのです。

私たちは、コントロールできる部分に時間と労力をかけるべきです。

一般的に、うまくいかない組織は自分たちでコントロールできない部分に時間と労力をかけているように見えます。だから、結果が出ないのです。

過去の変わらないことにとらわれるのではなく、自分たちが正すべきところを正し、伸ばすべきところを伸ばして強くなること。組織文化を変えるには、自分たちが変えられることにフォーカスする必要があります。

2016年以降、結果だけを見てもベイスターズは間違いなく強くなっています。それは、まぐれで勝ったわけではなく、たまたま有能な選手が集まったわけでもなく、次から次へと新しい選手が育つ組織に近づいた結果、強くなったのです。

中竹竜二『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』(ダイヤモンド社)
中竹竜二『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』(ダイヤモンド社)

「世界の最先端を常に走っているスポーツチームでありたい」

これがベイスターズの目指す最終的な理想像です。

「最先端を常に走る」とは、誰よりもいち早く変化する集団ということです。日本のベイスターズというチームは、道がないところを自ら切り拓いて新しいことに挑戦している。そんな組織になることを目指しているそうです。そのためにはやはり、人や組織が変わらなくてはなりません。一人ひとりが自律的に学ぶ組織文化へ変わらなくてはならないのです。

ベイスターズは自ら学び、自分たちで考えて動きだす組織文化をつくり上げました。これからは自分たちで問いを立て、自分たちでフィードバックを行い、課題に立ち向かい、一層強くなるはずです。

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中竹 竜二(なかたけ・りゅうじ)
株式会社チームボックス代表取締役、日本ラグビーフットボール協会理事
1973年福岡県生まれ。早稲田大学人間科学部に入学し、ラグビー蹴球部に所属。同部主将を務め、全国大学選手権で準優勝。卒業後、英国に留学し、レスター大学大学院社会学部修了。帰国後、株式会社三菱総合研究所入社。2006年、早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任。2007年度から2年連続で全国大学選手権優勝。2010年、日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターに就任。2012年より3期にわたりU20日本代表ヘッドコーチを務め、2016年には日本代表ヘッドコーチ代行を兼務。2019年より日本ラグビーフットボール協会理事に。2014年、企業のリーダー育成トレーニングを行う株式会社チームボックスを設立。2018年、コーチの学びの場を創出し促進するための団体スポーツコーチングJapanを設立、代表理事を務める。一般社団法人日本車いすラグビー連盟副理事長。著書は『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』(ダイヤモンド社)など多数。

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(株式会社チームボックス代表取締役、日本ラグビーフットボール協会理事 中竹 竜二)

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