木更津、熱海、伊東が熱い…東京郊外で進む不動産の「勝ち組」「負け組」
プレジデントオンライン / 2021年3月23日 11時15分
■コロナで激変する賃貸不動産の市況
船井総合研究所賃貸支援部コンサルタント松井哲也氏に、コロナ禍における賃貸不動産の現状について聞いた。
「2020年、最初の緊急事態宣言下では、あえて引っ越しをしない、また必要に迫られた希望者が中心で、入退去に大きな動きはありませんでした。しかし、第二波、第三波と進む中で、支出の削減などを考慮して、『実家に帰る』、『より安い家賃帯に住み替える』などの傾向から退去が一部進み、入居率が下がり、家賃が下落する傾向が起こっています」
「また、こうした動きの背景には『巣ごもり』の中でたまった自宅への不満があります。自宅にこもっていると、広い部屋や便利な住宅設備が欲しくなるのではないでしょうか。それを指し示すように緊急事態宣言の発出前後から『書斎』や『騒音』の検索数が急増しています」
事業用では、コロナが収束の気配を見せないことから、オフィスはリモートワークなども増え、より郊外へ、より狭い物件への退去が増えている。
また、店舗においては、厳しい事情の業態(飲食、サービス)などを中心に退去が続出し、空きテナントが街中でもよく見られるようになった。
「こうした厳しい傾向は、都市部に近い(政令指定都市など)エリアほど、より顕著に表れ、地方都市でも、少なからず影響は出ています。しかし、裏を返せば、今までより家賃が下がり、空室が増えているのです。これを機会ととらえた投資家が、手が出しやすい空きテナントの活用や売却募集された物件を購入する動きも、徐々に増え始めています」
こうした事情から、不動産投資に向けられている視線は日に日に熱を帯びている。特に注目を集めているのが『東京』だ。これまで東京の賃貸不動産市場において、家賃が下がる、物件価格が落ちるといった傾向は、数少ない不況下での一時だったからだ。
「ワクチンなどによって少しずつアフターコロナに向かい始めているとはいえ、まだまだ東京の賃貸不動産市況は良好とは言えません。しかし、一部の投資家は、アフターコロナ以降のインバウンドの回復や、企業活動の活発化を見据えて、積極的な投資に動いています」
■都市部から50~100km圏内、利便性の高い郊外地が顕著
コロナ禍でリモートワークがスタンダードとなりつつある中、“必ずしも都市部に住む必要はない”という考え方が加速傾向になりつつある。こうした事態は今後の不動産投資のエリア選びにも大きな影響を与えている。
2020年9月、総務省統計局が発表したリポートに「郊外への住み替えの動きが起きている可能性がある」と記載され、大きな話題を呼んだ。同省が発表している「住民基本台帳人口移動報告」によると、20年5月に約7年ぶりに東京都の人口が転出超過となり、この傾向はその後も続いている。
在宅勤務によって通勤が不要になり、都心に住む必要がなくなったなら、住環境に優れて面積の広い住宅が安価で手に入る郊外に移る。そんな動きが起こりつつあるのだろうか。
大手不動産情報サイト「SUUMO」では、賃貸売買において、10月のぺージ閲覧数で前年同月比において東京23区外の伸びが顕著になっており、特に内房総(木更津)や、三浦半島(横須賀)、伊豆半島(伊東、熱海)などといった都市部から50~100km圏内、新幹線や高速道路で繋がれた郊外地が増えていた。
■坪単価10万増……郊外で起きたコロナバブル
実際、大都市圏から郊外への移住が起こっているのだろうか。
今、郊外で人気を集める千葉県木更津に拠点を構える「epm不動産」代表取締役・鈴木政晴氏に郊外の現状について聞いた。
「木更津はコロナ禍でバブルと言ってもいいほどの大きな変化が起こっています。まず、注目しておきたいのが『高い利便性』です。直通バスで東京駅や羽田などに1時間で行くことができます」
こうした利便性の高さは、都心に通勤に通いやすいというだけでなく、新たな輸送拠点や製造工場としても注目を集めている。
「周辺には、三井アウトレットパークやコストコ、ポルシェの試乗コースなどファミリーで楽しめるスポットが多くあります。そうした層をターゲットにしたマンションの建築も続々と始まり、5年間で土地の値段も1坪当たり10万円も上がっています」
2020年基準地価によると、千葉の他の地域が、0.7%下落しているにもかかわらず、木更津市や袖ケ浦市などの内房総は東京湾アクアラインの出入り口に近く、若いファミリー層の流入が多いため、値上がり基調が続いている。
「最近では中古マンションをセカンドハウスとして買われる方が多く、1000万前後のマンションが飛ぶように売れています」
こうした事態は、木更津だけでなく熱海や伊東でも起きている。これは、コロナによって都市住民が、本人や家族のニーズ等に応じて、多様なライフスタイルを実現するため、都市の住居に加えた生活拠点を持つ「二地域居住(デュアルライフ)」が広まりつつあるからだろう。
暮らしの在り方としても、別荘のような「セカンドハウス」としての暮らし方、週末や休日のみ郊外や地方の拠点で滞在する暮らし方、一定期間その土地で生活する暮らし方など、その人の働き方や家族に合わせた暮らし方が柔軟に選べるようになった世の中の流れが、注目を浴びる要因にもなっているのだ。
また、セカンドハウスは買う・売る・借りる・貸す・泊まる・泊めるなど不動産活用の多様化によって、投資にも有効だ。
■密や対面を避ける中で進む、不動産業界のオンライン化
船井総合研究所賃貸支援部コンサルタント松井哲也氏によると、コロナ禍で賃貸不動産のビジネスモデルも大きく転換しているという。
「わざわざ来店しなくとも、オンライン上で接客、案内、契約などのすべての業務を進めるオンライン賃貸の動きが出てきました。来店のほとんどをオンラインで済ませる『専門店』もでてきているほどです。こうした店舗では、あえてリアルな来店、接客、案内はしません。さらに地域を限らないので、遠隔地のお客様を多く取り込み、効率的に売り上げを上げています。こうしたスタイルが、今後ますます増えていくでしょう」
空いた事務所、店舗などを活用し、テイクアウト専門レストランや、リモートワーク部屋などへの活用している業態も生まれてきている。
そして、コロナに左右されず、安定的に収益を確保する上で押さえておきたいのが、高齢者賃貸の需要が高まりだという。
「団塊世代が70代をむかえ、高齢者、後期高齢者層が、急増加してきています。夫婦、単身で郊外の大きな持家を所有して住んでいたが、病院や家族の近い地区での、住みやすい高齢者専門賃貸に住む動きも加速しています。高齢者の住まいを扱うビジネスも進化してきており、単なる高齢者賃貸の仲介だけでなく、老人ホームの紹介、身元保証人代行ビジネスも増えてきました。また当然高齢者ですので、今後の不動産を活用した相続対策も出てきています。
「今まで大量に入国していた外国人が、コロナにより一気に減ってしまった事で、外国人用に用意された賃貸物件、また民泊や短期賃貸物件の空室が問題化されてきて、その物件を高齢者賃貸として転用しようとする動きもあります」
コロナ禍において、賃貸不動産の動向は大きく変わってきている。こういった新たなニーズの胎動をいち早く察知し投資や商品化へと繋げられた企業がアフターコロナの不動産業界を制する。需要と供給側の両面で大きな構造変化が起こりそうだ。
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(船井総合研究所 社長online)
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