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「ワクチン打ってもマスクは必要」マスク専門家が断言する医学的理由

プレジデントオンライン / 2021年3月19日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/west

新型コロナウイルスのワクチンを接種すれば、マスクを付けなくてもいいのか。聖路加国際大学公衆衛生大学院の大西一成准教授は「ワクチンを接種してもマスクを付けたほうがいい。1つだけの感染対策に頼ってしまうと、それがたまたま破綻したときに感染が起きてしまうからだ」という——。

■そもそも何のためにマスクを着用するのか

新型コロナウイルスの感染対策でマスクを着用するようになって、1年以上が経過した。不織布のマスクのほうが良い、マスクを二重にすると良いと言った情報が溢(あふ)れてきているが、いずれも言葉足らずと言わざるを得ない。

不織布のマスクを着用していても、マスクと顔の隙間から飛沫が出入りすると感染を完全に防ぐことができない。また、マスクを二重にすると上から押さえられることでフィット性が向上するという部分だけが切り取られて報道されているが、二重マスクでは、上から押さえたマスクが、下のマスクを歪めてシワができてしまうことで、逆に隙間ができてしまいフィット性が破綻してしまうことや、厚くなったフィルター部分を呼気が通りにくくなり、顔の隙間からより漏れやすくなっていることもあるという点にも十分に注意を払わなければならない。

そもそも1年前の今頃は、コロナ対策といえば手洗いと3密回避のみで、マスク着用の啓発が意識的に控えられていた。その背景には、マスク不足やWHOによるマスクには予防効果はないという発表があった。

3月9日に米国CDC(疾病対策センター)が、ワクチンを接種した人のマスクの着用などに関する初めての指針を公表した。接種した人どうしであれば、屋内でマスクなしで集まってもリスクは低いとしている。

だが、感染しない、感染させないためには、マスク着用の啓発のみでは不十分である。何のためにマスクを着用するのか、マスクを着用することでどのように感染対策に役立つのかといった、感染対策の基本的な仕組みを理解することによって、ワクチン接種後もおのずと自分がしなければならない行動が決まってくるものである。

■ワクチンの効果は100%ではない

感染流行期には、「手洗いだけ」「マスクだけ」「ワクチンだけ」では十分な感染対策にはならないということを念頭に置いて生活をしていかなければならない。

つまり、「たまたまマスクと顔の間に隙間ができていた」「たまたまワクチンが効かなかった」「たまたま手を洗うのを忘れて顔を触ってしまった」というようなことが起こりうる以上は、同時に複数の対策を行わなければならない。

臨床試験結果を踏まえると、新型コロナウイルスワクチンの発症予防効果と重症化予防効果は非常に高いが、効かない可能性が絶対にないとは言えない。

ワクチンの効果には個人差がある。今回のワクチンによる抗体効果の持続期間の追跡調査は、ワクチン接種と同時進行であるため、いつまで抗体の効果が持続するのかはまだ分からないという状況がある。

また、感染が繰り返されている間は、ウイルスも変異を繰り返している。ワクチンに用いたターゲットに変異が起きれば、また新たなパンデミックが起きてしまう可能性がある。そうなるとせっかく苦労して開発し、接種したワクチンも、また振り出しに戻されてしまう場合もある。さらに、自分に免疫抗体があり感染しないとしても、感染力のあるウイルス飛沫を飛ばす可能性は依然としてある。

感染対策では、限られたカードの中で、複数の対策をできる限り同時に行い、絶対に感染しない、感染させないようにしていくことが大切である。

■感染の3要素に照らし合わせて考える

新型コロナウイルスによる感染が成立する仕組みは、次の3つの要素がそろった時である。逆に、この3要素のうち1つでも取り除くことができると感染症は起きない。

①感染力のある新型コロナウイルスが存在する(感染源がある)
②新型コロナウイルスが体内に入る経路がある(感染経路がある)
③体に抵抗力がない(新型コロナウイルスに対する抗体などの免疫機能が不十分でない)

この3つの要素がすべてそろわなければ感染は起きないため、1つ以上の要因をコントロールして取り除くことこそが感染対策の基本となる。

手洗いは、ウイルスを物理的に除去して要素①のウイルスの存在を取り除く。

顔を触らないようにするということは、要素②のウイルスを口や鼻へ運ばないということにつながる。

正しいマスクの着用は、ウイルスの感染経路遮断に効果を示す(要素②)。また、自分が感染している時には、相手のために、ウイルスを存在させない(拡散させない)ようにすることができる(要素①)。ウイルスが侵入したとしても、呼吸器の保湿・保温によってウイルスが感染しにくい状況を作る(要素③)。

ワクチン接種は、ウイルスの抗体を体に作らせ、免疫応答によって感染を防ぐことで、要素③を取り除く。無症状の感染者は、要素③を自らの免疫力で取り除いていることになる。

このように、感染対策には、この3つの要素がそろわないようにすることを意識して行動することが基本となる。

COVID-19ワクチンのボトル
写真=iStock.com/peterschreiber.media
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/peterschreiber.media

■1つだけの対策に頼ってしまうと、それが破綻したときに感染が起きる

これまでは、ソーシャルディスタンシングやマスクで要素①と要素②をなんとかコントロールしようとするしかできなかった状況の中で、ワクチンの開発によって積極的に要素③をコントロールすることができるようになった点が、目覚ましい前進であると言える。

そうとはいえ、ワクチン接種も感染成立の3要素のひとつを取り除く手段にすぎない。限られたカードの中で、1つだけの対策に頼ってしまうと、その1つがたまたま破綻したときに感染が起きてしまうのである。感染症流行期には、複数の対策を行う手を緩めるという選択肢はない。

感染者が訪れる医療現場では、要素①をコントロールしにくく、ウイルスが存在する可能性が高いため、感染リスクの高い環境となる。なるべく、エリア分け(要素①)や防じんマスクによる経路遮断(要素②)でコントロールを試みるが、医療関係者の感染者が依然として減らない現状がある。そのため、いち早く、要素③を取り除くように、医療従事者へのワクチン接種が最初に優先されるということが理解できる。

今後、集団免疫が確立すれば、要素③が常に取り除かれている状況となる。そうなれば、要素①と要素②を意識しない普段通りの生活をしながらでも、感染症が成立することはないと言える。

■誰もが等しく対策できないからこそ、3要素を考えるべき

全員が、同時期、同様に要素①~③を取り除く行動ができることが望ましいが、実際は、それぞれ個人の事情に合わせて、対策を考える必要がある。

ワクチンを打つことができない人は、要素③を取り除くことができない。その代わりに、要素①や要素②を取り除くことを優先して考えることになる。

マスクを付けられない人は、感染リスクの高い環境を避ける、人との距離をとる(要素①)と抵抗力をつけて(要素③)、感染が成立しないように行動を考えることができる。

どれだけの要素をどれだけコントロールできるか一人一人が考えることと、取り除くことができない要素がある場合は、その分、感染リスクが高いことを意識して行動をしていくことが必要である。

「ワクチンを打つことができない」「マスクを付けられない」といった、1つのことだけで他人を責める行為が無意味であることが分かるだろう。

■マスクを「正しく」着用することを意識する

米国CDCは、1996年の隔離予防策ガイドラインにおいて、「病原体(要素①)と宿主因子(要素③)はコントロールが困難であるので、微生物やウイルスの移動阻止の感染経路(要素②)に向けられるべきである」として、感染経路を遮断するための有効な手段として防護具の着用の重要性を強調している。

防護具には、マスクも含まれるが、そもそも防護具は、洋服のように単に身につければその効果が発揮できるものではないという前提がある。防護具の着用には繰り返しの訓練が必要である。マスクと呼ばれるもの自体を着用することのみに意識が集中し、マスクの選び方や扱い方とセットで啓発されていない現状に課題があると感じる。

マスクによってウイルスの侵入経路の遮断を行う場合には、マスクのフィルターをウイルス飛沫が通らないことと、顔とマスクの間の隙間の2つの経路をしっかり同時に遮断する必要がある。

マスクは、防ぎたいもので選ぶという原則がある。

防ぎたいものが、固体や液体からなる粉体(ウイルス、細菌、花粉、ダストなど)の場合は、防じんマスク、気体(毒ガス)である場合は、防毒マスクを用いることになっている。

感染対策におけるマスクは、産業現場の粉じん防護と同じ防じんマスクを用いる必要があるが、粉じん防護や花粉症対策では、1粒子もマスク内に入れないという目的のみが重要視される。一方、感染対策では、飛沫粒子に感染力がない場合(要素①)や、体に抵抗力がある場合(要素③)は、経路遮断(要素②)が確実でなくても良い場合がある。

つまり、浮遊しているウイルス飛沫が感染力を持っていない場合、感染力のある飛沫が大きいものに限定される場合、十分にソーシャルディスタンシングが保たれている場合などは、ウレタンマスクや布マスクの着用や、顔とマスクの間に隙間があっても、マスクに関係ないところで、いずれかの要素が取り除かれていることによって感染は成立しないという現状がある。

そのため、現在の感染状況では、一般への防じんマスクの着用は、推奨されにくい。

ドイツのメルケル首相が、公共交通機関での医療用マスク(防じんマスク)の着用を義務付けるというニュースがあった。

そもそも、最初から防じんマスクでしっかりと経路遮断して、感染者数が減れば、医療崩壊も防ぐことができる部分もあるのではと考える。

■ワクチンを接種してもマスクをつけるべきである

ワクチンを接種してお互いに抗体ができている前提であれば、感染リスクが低くなることに誤りはないだろう。ワクチンを接種していない人との集まりを比較した場合、要素③を2人とも同時にコントロールしているという点では、感染が成立するリスクは低くなるということである。

しかし、ワクチン接種後にきちんと抗体がついているかどうか抗体検査を誰もができる状況ではない。接種した人同士でも、片方の人間にうまく抗体ができていなかったり、ワクチンのターゲットと異なる変異したウイルスを持ち込んだりされると、拡散され、感染してしまう可能性がある。

絶対に感染したくない場合は、少しでも感染リスクを減らす行動をする必要があり、やはり、感染流行期にはできる限り複数の対策を同時にとるようにするほうが良いだろう、すなわちマスクをつけておくべきなのである。

感染力のあるウイルス飛沫がフィルターを通ったり、顔とマスクの間から入ったり出たりする場合には、単にマスクを着用するだけでは、要素②を完全に取り除くことにならない。その場合は、マスクは効果を十分に発揮できておらず、思わぬ感染を引き起こすことになる。

現在、日本における新型コロナウイルス感染症は、自粛などによってまだコントロールできている部分がある。将来のためにも、複数の感染対策の意味を理解し、3要素を確実に取り除く対策と行動の正しい知識をしっかりと身につけておく必要があると考える。

最後に目指すのは要素③の集団免疫の確立である。だが、それまでは複数の感染対策に気を配るほうがよく、うかつな行動は避けたいところである。治療薬がない状況では、まだ感染対策による予防が必要である。感染しないように、感染させないようにするという行動に困ったら、感染症の元の3要素で考えてみると、理解できることがあるだろう。

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大西 一成(おおにし・かずなり)
聖路加国際大学公衆衛生大学院 環境保健学分野 准教授
博士(医学)。岡山大学医歯学総合研究科修了、鳥取大学医学部大学院医学系研究科修了。鳥取大学医学部医学科社会医学講座健康政策医学分野助教、山梨大学大学院総合研究部医学域特任准教授を経て現職。専門は、環境医学、公衆衛生学、予防医学。実験を通じてマスク科学を検証している。著書に『マスクの品格』(幻冬舎)、『感染しない・感染させないために大切なこと』(岩崎書店)。

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(聖路加国際大学公衆衛生大学院 環境保健学分野 准教授 大西 一成)

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