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「自分の妻子を守りたい」48歳長男が遺産放棄して2500万円と実家を無職の弟に差し出した胸の内

プレジデントオンライン / 2021年3月18日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mamahoohooba

弟(45)は同居する年金暮らしの母親(78)のすねをかじっており、ここ20年働いていない。15年後に母親が他界し、遺産のうち2500万の預貯金を自分(兄・48)が相続し、弟が実家を相続すると想定すると、弟の生活はたちまち破綻する。ファイナンシャルプランナーによるマネーシミュレーションの結果を知った兄が「家も預貯金も弟にやる」と言い放った理由とは――。

■20年働いていない45歳次男と同居する78歳母の苦悩

最近は、新型コロナの影響でリモートで相談を受ける案件が増えています。

しかし、ひきこもりの子供に関する相談では直にお会いしての面談ということが多いです。なぜなら相談依頼をする親が、デジタル機器に不慣れな70~80代の高齢であるためです。

今回の、40代でひきこもりの子供と同居する78歳の母親(都内在住)からの相談も対面式でした。相談の性格上、どうしても個室での相談となりますが、少し窓を開けて換気するなど、感染対策に配慮しながら相談を受けました。

母親は、夫を5年前に亡くしています。自分が他界した後にひきこもりの次男(45)が生活していけるか調べてほしいという相談内容でした。

家族構成
・母親:78歳(年金生活) 年収206万円(年金・夫の遺族年金含む)
・次男:45歳(無職) 収入なし。同居
・長男:48歳(結婚して別世帯)
※父親は5年前に他界。
資産
・預貯金:約2500万円
・自宅:戸建て持ち家

■何でも有能な一流企業勤務の兄に劣等感を抱く次男

相談者の子供は男2人。長男(48)は幼少時から成績優秀で、一流大学を卒業して都内の有名企業に勤めています。今は家庭を持ち、子供も1人います。対して次男は特に優秀というわけではありませんでしたが、大学を卒業して人並みに就職はしました。しかし、兄に対するコンプレックスがあったのか、ほどなくして退職してしまい、その後は仕事が長続きしませんでした。ひきこもり生活はかれこれ20年になります。

「亡くなった夫も私も、けっして兄弟を比較するような言い方はしてこなかったけれど、それでも本人は気にしていたのかもしれません」

母親は振り返ります。

兄弟仲はけっして悪いわけではなく、今でも二人で話をすることはあるそうです。長男家族はたびたび訪ねてくるそうで、「孫も次男に懐いていて、そういう時は明るく話をするんですよ」。

子供がひきこもりの家庭では、兄弟仲が悪いことが少なくなく、その点は安心しました。

「お母様亡き後は、弟さんにとってはお兄さんとそのご家族が頼りですから、今の関係が続いてくれると安心ですね」

■母親が生きている間は安泰だが、他界後はたちまち生活破綻

そんな話をしながら、伺った家計や資産の数値を基に将来のマネーサバイバルプランをシミュレーションしました。その結果は、大変厳しい内容でした。今の状況では次男の老後までは貯蓄が持ちそうもありません。次男が今から25年後の70歳前後で貯蓄が枯渇し、90歳時点では約1400万円も不足する計算になります。

なぜ事実上、生活が破綻することになってしまうのでしょうか。

将来の家計の状況

母親が存命中は、母親の年金と亡き父の遺族年金(合わせて年206万円)がありますので、なんとか二人の生活費を捻出できます。母親が亡くなると想定した15年後(93歳、次男60歳)まで、現在の貯蓄額(約2500万円)はそれほど減ることなく維持できます。

ところが、母親が亡くなると、そんな生活は一変します。

ここでポイントとなるのは、兄弟による遺産分割。次男が今、住んでいる自宅を相続すると、預貯金の多くは長男が相続することになり、次男の貯蓄はわずかになります。図表1では、母親とひきこもりである次男の貯蓄を合計したものが赤い線で記されています。母親の死後に貯蓄額が大きく減少していますが、これは預貯金を長男が相続したことによるものです。

「お母様が亡くなられた後、ご自宅を売却して、次男が中古マンションに住み替える想定で計算しましたが、それでもかなり資金が足りません」

■年収1000万円超の長男より年収0円の次男がとにかく心配

65歳になると次男に年金収入(年78万円)が入るようになりますが、それだけでは生活費を賄えず、遺産相続の一部である貯蓄が底をつくのは時間の問題です。

私が状況を説明すると、母親はしばらく考えた末に言いました。

「長男はすでに自宅を持っていますし、収入もしっかりありますから……」

母親はひきこもりの次男の将来が心配なようです。それに比べて、長男はしっかりした会社に勤めており、経済的には心配ありません。年収は1000万円をゆうに超えると予想されます。

「そうですね。お兄さんにはある程度はがまんしてもらわなければなりませんね。でも、将来は何かと弟さんの生活をサポートしてもらうことになりますので、お兄さんへの配慮は必要です」

■「妻や子が弟の経済的サポートをしなければならなくなることが心配」

ひきこもりの子供を抱えた親にとっては、「収入が得られない」ことが何より心配の種です。その点、しっかりと自立している子のことは、安心感からか、ついついなおざりに考えてしまうことがあります。

気持ちは理解できます。しかし、親亡き後のひきこもりの子の生活ではいろいろな面で兄弟姉妹のサポートが必要です。遺言書でかなり偏った遺産分割の指定がされると、相続割合が少ない側は、事情がわかっていても、内心面白くありません。その後に兄弟姉妹の協力が得られなければ、結局はひきこもりの子、本人の生活の質が低下することも考えられます。そのため、兄弟姉妹の遺産分割はできるだけ公平に考えるように、私はお勧めしています。

「そうですね」

母親はため息をつきました。

2週間後の2回目の面談で、母親は言いました。

「前回の結果を長男に話したんです」

すると長男は、このようなことを言ったそうです。自分は母親の遺産はまったくあてにしていない。それよりも将来、自分の妻や子が弟の経済的なサポートをしなければならなくなることが心配だ。自分は遺産をもらうつもりはないというのです。

■兄弟の良好な関係が維持されるような配慮が必須

そこで私は、母親の財産をすべて次男が相続する前提でシミュレーションを作成しました。

それであればなんとか次男の生活は成り立ちそうです。多少の余裕もありますので、医療や介護などで資金が必要になった場合も対応できるでしょう。

将来の家計の状況

「お兄さんがそのようなご意向でしたら、安心ですね。弟さんが老後に介護が必要になった場合、手配などのサポートは必要でしょうが、資金援助まではしなくて済むでしょう」

作り直したシミュレーションを見て、母親はほっとしたようです。

「長男も安心してくれると思います」

遺言書を作成して、母親が遺産分割の方法を指定しておくこともできます。しかし、長男には一定割合を請求する権利がありますので、遺言のとおりに分割されるとは限りません。それであれば、長男が今の考えを実行してくれるのに任せたほうがよさそうです。

「お兄さんのご協力あってのプランです。お母様としては、これからもご兄弟の良好な関係が維持されるようにご配慮していただければと思います」

私は、兄弟の遺産配分はできるだけ公平に考えるべきと思っていましたが、お兄様の方からそれを覆す考えを示してくれました。兄弟姉妹の方がいつもこのように協力してくれるわけではありませんが、今回の場合は兄弟仲が良かったためにご長男が譲歩をしてくれたのだと思います。私もいろいろと教えられたケースでした。

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村井 英一(むらい・えいいち)
ファイナンシャルプランナー
「働けない子どものお金を考える会」メンバー。 大手証券会社で個人顧客の投資相談業務を長年行い、ファイナンシャルプランナーとして独立後は、資産運用に限らず、家計の見直し、住宅購入、老後資金など幅広い相談を受ける。 特に、長期にわたる家計のシミュレーション分析を得意とし、ひきこもりや障害を持つお子さんとそのご家族の資金計画を行っている。

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(ファイナンシャルプランナー 村井 英一)

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