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巨大地震リスクを抱えながら「東京一極集中」を解消しない日本の思考停止

プレジデントオンライン / 2021年3月18日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ronniechua

近い将来、確実に起こるといわれている南海トラフ地震と首都直下型地震。もし地震が起きれば、20年間の経済損失は首都直下型で778兆円、南海トラフで1410兆円になると推定されている。元日本マイクロソフト社長の成毛眞さんは「これほどの危機が認識されているにもかかわらず、抜本的な対策が打たれていない。これは思考停止だ」という――。

※本稿は、成毛眞『2040年の未来予測』(日経BP)の一部を再編集したものです。

■巨大地震の被害は「国難級」

遠くない将来に確実起きるといわれているのが、南海トラフ地震と首都直下型地震である。

これらはどれくらいの確率で起きるだろうか。

マグニチュード(M)9級の南海トラフは、30年以内に70~80%、M7級の首都直下型は30年以内に70%の確率で起きると予測されている。今後30年で交通事故に遭遇して怪我を負ったり、死んだりする確率(1.05%)よりはるかに高い。

被害もすさまじい。南海トラフは、死者行方不明者数は最も多い場合だと23万1000人、全壊・全焼する建物は209万4000棟としている。

首都直下型地震の場合は、死者数は2万3000人、家屋の全壊・全焼は61万超棟と想定する。

人的被害だけみても莫大だが、首都圏や東海という日本の屋台骨がダメージを負うので、経済の停滞も避けられない。

電気や上下水道などのライフラインや交通が長期にわたり麻痺し、交通渋滞が数週間継続するかもしれない。鉄道も1週間から1カ月程度運転ができなくなるだろう。

首都直下型の場合、避難者数は720万人に達すると想定されており、通常モードになるまで、混乱が数年、いや数十年続く可能性すらある。

地震発生から20年間の経済損失は、首都直下型で778兆円、南海トラフで1410兆円になると推定している。建物の被害だけだとそれぞれ47兆円と170兆円だが、交通インフラが寸断されて工場が長期間止まる影響など、間接的な影響が重くのしかかる。

国の年間予算が約100兆円だ。いかに巨大なリスクかがわかるだろうか。どちらの地震による被害も「国難」級だと指摘している。

そして、この試算も、もしかしたら甘いかもしれない。

というのも、政府は南海トラフ地震の被害を以前よりも低く見積もったからだ。防災意識が高まっているからとしているが、果たして、国民のどの程度が、今、日本が置かれている危機を想像できているだろうか。

現在想定されている南海トラフ地震は東海地震、東南海地震、南海地震の震源が連動して起きる地震が濃厚だ。首都圏から九州までの広域な被害が生じる可能性が高い。日本全体が麻痺しかねない。

おまけに、その時期を前後して、首都直下型地震も起きるリスクを抱えている。

首都圏は、2つの巨大地震で壊滅的なダメージを受ける可能性が出てくる。

■経済活動の地方移転で被害額は大幅減少

だが、これほどの危機を認識しながらも、現状では抜本的対策を打ってきていない。

たとえば首都直下型の場合、想定される死者の7割にあたる1万6000人は火災が原因だ。被災地全体で約2000件の火災が発生し、そのうち約600件は消火が間に合わず、同時多発的に大火災が起こると推測されている。

廃墟となった街や錆びたビルが炎上している様子
写真=iStock.com/holwichaikawee
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/holwichaikawee

建物の過密を減らし、耐震強化を徹底すれば、死者は想定される10分の1の2300人に減らせるという対策も示されているが、対策が進んでいる気配はない。

また、間接の経済被害も、道路や港湾、堤防といったインフラの耐震工事などを進めれば、被害を抑えられるはずだろう。これらの対策には10兆円かかるが、778兆円の被害が530兆円程度に減る試算もある。

財源の問題を指摘する声もあるだろう。それならば、東京一極集中を見直せばよい。経済活動の3割を地方に分散すれば、首都直下地震による被害額は219兆円軽減できるという試算もある。

自然災害はパンデミックとは関係なく襲ってくる。近代日本ではこれらが重なったことはないが、1918~1920年に猛威をふるったスペイン風邪の3年後の1923年は、関東大震災が起こっている。

弱り目に祟り目というが、こちらの都合に関係なくウイルスは到来するし、自然災害も起こる。巨大地震のリスクから目を背けている余裕はないのである。

■「富士山は100%噴火する」

災害大国日本で想定しなければならないリスクは地震だけではない。火山だ。万が一、首都圏近郊で大噴火が起きれば影響は広範に及ぶ。京都大学大学院人間・環境学研究科の鎌田浩毅教授は「火山学的に富士山は100%噴火する」と断言している。

長時間露光で撮影したトゥングラワ火山
写真=iStock.com/pxhidalgo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pxhidalgo

日本の活火山は現在111あるが、このうち50を常時観測が必要な火山として、24時間体制で気象庁が監視している。

たとえば、2019年から小規模噴火している浅間山がある。江戸時代の1783年に大噴火した際には1600人規模の死者を出した。噴火は約90日続き、火山灰は今の東京や千葉県にまで降り注いだ。

富士山が最後に大規模噴火したのは1707年だが、そのときは16日間、噴火が続き、現在の東京の都心部に5センチ、横浜には10センチの火山灰が積もったとされる。

5センチと聞くと影響がないように思えるかもしれないが、数ミリ積もるだけで、車道は通行不能になり、飛行機などもエンジンが動かなくなり、公共交通機関も麻痺するだろう。物流もストップする。

インフラの崩壊は道路だけにとどまらない。東京湾周辺に集中する火力発電所の発電機は火山灰を吸い込んで動かなくなるだろうし、コンピューターに火山灰が入り込めば通信機能もダウンするはずだ。数センチも積もれば火山灰の重さで送電線は倒壊し、停電は長期化する。農作物も全滅だ。噴火で起きた泥流や火山灰が川をせきとめ、決壊などすれば流域では浸水などの被害もでる。

数百年前に起きた噴火事例を参考に予測すると、こうした地獄絵図が広がる。「たられば」話に映るかもしれないが、現代の大都市で大規模な噴火の影響を受けたケースは世界的にも少なく、モデルケースがない。

政府が試算した首都圏が受ける被害は、噴火後の15日目に都心部では10センチほど積もり、約5億立方メートルの火山灰を都内から撤去しなければならなくなる。これは東日本大震災で発生した廃棄物の10倍にあたる。政府も対策を検討している最中なのが実情だ。

ちなみに、すぐに逃げようとしても、噴火から約3時間で都心は火山灰の直撃を受ける。国外へ逃げるのは難しいだろう。そして、国内ならばどこに逃げたところで、厳しい生活を強いられるはずだ。

■地震も噴火も起こる前提で備えよう

おそらく1年以上、首都圏は機能しなくなる。日本経済が止まれば全世界の経済は滞り、世界のGDPは年率5%程度は下落するはずだ。

株価は絶望的に下落するだろうし、不動産価値は紙くずになるはずだ。

成毛眞『2040年の未来予測』(日経BP)
成毛眞『2040年の未来予測』(日経BP)

とはいえ、2040年代の日本は落ちぶれたとはいえ、いまだ世界有数の経済国であることは間違いないだろうから、ハイパーインフレにはなりにくい。世界経済のために、諸外国が支えてくれるだろう。

こう考えると、預貯金は金利の面ではうまみがないが、国内株や国内の不動産よりは、意外にも普通預貯金が目減りしないという意味では安全な資産になるかもしれない。いずれにせよ、そうしたリスクの震源地になる国に我々は住んでいることを忘れてはいけない。

日本ではこの300年ほど大きな噴火は起きていないが、歴史的には珍しい。逆にいえばいつ起きてもおかしくないともいえる。現代の科学の力では、地震や火山がいつ起きるかは正確に予測できないが、いつかは起きる前提での備えが必要だ。

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成毛 眞(なるけ・まこと)
HONZ代表
1955年、北海道生まれ。中央大学商学部卒業。自動車部品メーカー、アスキーなどを経て、1986年、日本マイクロソフト入社。1991年、同社代表取締役社長就任。2000年に退社後、投資コンサルティング会社インスパイア設立。2010年、書評サイト「HONZ」を開設、代表を務める。

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(HONZ代表 成毛 眞)

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