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8割が「退職金額を知らないまま定年退職」で起こる老後破綻の自業自得

プレジデントオンライン / 2021年3月19日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Bet_Noire

老後資金はどのように貯めればいいのか。ファイナンシャルプランナーの山崎俊輔氏は「金融庁が2019年に発表した『老後2000万円不足する』というレポートの土台となった調査によれば、会社員のほとんどが退職金額を知らずに定年を迎えている、と紹介されています。自分はいくらもらえるのか早い段階から把握すると同時に、iDeCoやつみたてNISAといった上積み制度を利用するべき」と指摘する――。

■8割の会社員は「退職金額を知らずに定年を迎える」

2019年に話題になった「老後に不足する2000万円問題」。このレポートは今も金融庁のホームページに掲載されています。きちんと読んでみると「老後に2000万円」騒動の内容とは別にいくつか興味深いデータが紹介されています。

そのひとつが「会社員のほとんどは、退職金額を知らずに30年以上働き、定年を迎えている」というものです。

このレポートの元データはフィデリティ退職・投資教育研究所(現、フィデリティインスティテュート退職・投資教育研究所)が実施した調査です。そこではリタイア済みの人たちに「退職金額を知ったのはいつ頃か」と聞いています。その結果に驚かされるのです。

なんと31.6%は「退職して受け取るまで知らなかった」と回答しています。3人に1人弱は退職日に初めて、退職金額を告げられて知るのです。

続いて「定年退職前半年以内」という回答が20.3%で、60歳定年とすれば59歳半年まで自分の退職金を知らない人の割合は半分ということになります。

これに続いて「定年退職前1年以内」というのが12.0%となりますから、60歳定年の場合で59歳を過ぎてからようやく退職金額を把握する人の割合は6割強、おおむね3人に2人ということになります。

さらにアンケート回答の中には「覚えていない」という項目もあり、それが19.9%に達します。自分の退職金額を把握した時期を覚えていない、というわけです。個人的には、これは恥ずかしくて回答を拒否した、つまり退職日まで知らなかったものとしてカウントしていいと思われます。すると、全体の8割は退職金額をほとんど把握しないままリタイアを迎えることになるのです。

■平均1000万円以上の退職金の額を知らずに働いている

退職金額が自分の老後にまったく影響しないほど些少であれば、知らないまま定年退職日を迎えて「臨時収入があってラッキーだった」と思うのもありでしょう。しかし「老後に2000万円」の準備のほとんどをこれが占めているとしたらどうでしょうか。

いま、退職金の相場はどれくらいでしょうか。

東京都の中小企業を対象にした調査では、大卒入社定年退職のケースでモデル金額が1203万円になります。もらえる額のボリュームゾーンはもう少し低い500万~1000万円くらいという可能性が高いですが、少なくない金額です。

退職金額は一般に企業規模が大きいほど増えます(これは賃金も高い会社ほど退職金の多くなる関係があるため)。経団連の調査ではモデル額(総合職、大卒定年)は一気に増えて2256万円になります。なんと退職金だけで老後に2000万円問題が解決する人もいるのです。

しかしながら、こうした人生を左右する大きな金額にもかかわらず、定年直前まで無知でいるというのが現実です。つまり、老後資金を「ちゃんと積み立てられているのか」「自分はいくらくらいもらえるのか」をあまり気にせず働いているわけです。考え方によっては、これはとても恐ろしいことであり、愚かなことでもあります。

■老後の2000万円は「退職金込み」で目指すもの

もし1000万円のゴールにたどりつく積立定期預金や積立投資をしていたとして、「通帳を忘れた」とか、「残高をチェックせずに30年放置している」とかいうのは考えられません。銀行選びも慎重にするはずです。退職金を知らないで働いている、というのはそれと同じことです。

それに「老後に2000万円」問題をまじめに考え、対策をたてる場合「(退職金や企業年金)+(iDeCoやNISAなどの自助努力分)」の合計で2000万円超えを目指すのが自然です。これが「退職金抜きで2000万円超え」を目指すとすれば、現役時代にかなり無理をした資産形成を行うことになります。

退職金額を知らずに老後の資産形成を行うということは極めて危険です。なぜなら、老後資金の目標額を高く設定したため、金融商品などを購入する際、過剰なリスクテイクをしてしまう恐れがあるからです。運用のリスクを高くしすぎると、急落時などに回復不能な痛撃を食らうこともあります。

山積みになった札束
写真=iStock.com/Bet_Noire
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Bet_Noire

あるいは、あまりの目標額の高さに、「どうにでもなれ」「何とかなるさ」と思考停止して貯蓄などの取り組みを断念する人もあるでしょう。退職金を知るかどうかは、マネープランの重要な一歩なのです。

■退職金制度の有無と金額を自力で確認する方法

退職金・企業年金制度は各社各様です。公的に一律の積立ルールがあるわけではありません。言い換えれば、社内で情報源をたどることが「自分の退職金」について知る唯一の方法ということになります。

まずは自分の会社で退職金規程を探してみてください。以前は紙に印刷したものが総務や人事部に置かれていることが多かったですが、今はイントラネットや共有フォルダにおいて閲覧する形が主流のようです。誰かの目を気にすることなく、規程を閲覧できます。

退職金の一部ないし全部を企業年金化している場合は、確定給付企業年金の規約、ないし企業型確定拠出年金の規約も設定され、公開されています。

これらの規約や規程をチェックすると「毎月の掛金積立のルール」が記載されています。また「受取額の計算方法」も書かれています。ただし計算に必要な情報が不足していて自分の金額を推定できないこともあります。

会社の標準的な退職金額(モデル退職金という)については、社内の福利厚生の説明資料や労働組合の資料などで開示されていることがあります。過去に確定拠出年金に制度変更したときなどの説明資料も閲覧できればそこに記載があります。

どうしても分からない場合は、人事労務担当に同僚や顔見知りの先輩があれば「ざっくりどれくらいなんですかね」と聞いてしまうのもいいでしょう。「最近辞めた誰々さんがいくらだった」とはいえませんが「まあだいたい○△万円くらいかな」くらいは教えてくれるかと思います。

■今いくらもらえるか確認できる制度もある

今いくらの権利があるかを確認できる制度もあります。「ポイント制の退職金」や「企業型の確定拠出年金」、あるいは「キャッシュバランスプラン」と呼ばれる確定給付企業年金などがそれです。

このポイント制退職金の場合、累積ポイントが開示されるので、1ポイントあたりいくらになるか確認して計算します。普通は1ポイントあたり1万円なので、1000ポイントあれば1000万円という感じです。

確定拠出年金は社員一人ひとりのIDとパスワードが付与され、自分で運営管理機関のサイトにログインすれば昨日付の時価残高がすぐに分かります。これは一番リアルタイム性がある確認方法です。

一万円札のトンネル
写真=iStock.com/bgkovak
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bgkovak

キャッシュバランスプランについては、バーチャルな持ち分額について年に一回程度通知することが多く、だいたいこれくらい、というイメージを持つことができるようになっています。

ただし、いずれも「現在の残高」ですから、このまま勤め続けていけば「定年退職時の残高」はもっと増えます。特に若い社員の場合は、40~50歳代で積み上がる分が多いことも考えつつ、チェックしてみてください。

■ただし「退職金なし」の会社もあるので要注意

ただし注意すべき点がひとつあります。「退職金なし」の会社もあることです。

厚生労働省の調査では退職金制度の実施率はおおむね80%なので、2割の会社では退職金がありません。一般的には中小企業ほど実施率が低く、大企業ほど実施率は高くなります。また、社歴が長い会社ほど実施率は高くなり、ベンチャーや社歴が浅い会社ほど実施率が低くなります。

退職金制度は実質的には給料の一部を退職時にもらう仕組みです。もし40年働いて1000万円の退職金をもらったとしたら、毎年25万円を給料でもらわず積み立てていたというイメージです(実際には利息などもありますが、ここでは説明を省きます)。

ですから退職金がない会社の場合は、退職金分を毎月の給料に乗っけてもらっていた、ということになります。もしあなたの会社に退職金制度がないなら、iDeCo(個人型確定拠出年金)の加入を急ぎ、すぐに給料の一部を老後のために積み立てすることをオススメします。企業年金のない会社員は年27.6万円が積み立てられますから、退職金と同じくらいの老後準備になる感覚です。

■共働き正社員夫婦ならそれだけで2000万円超えも

「老後に2000万円不足」問題の2000万円という数字は、あくまで平均値であり、いくら不足するか(もしくは足りているのか)、必要な金額はいくらか、は自分自身で考える必要があります。その際、

「退職金・企業年金」+「自助努力」

という式を頭の中に入れておき、勤務先から支給される前者の数字をイメージできれば、老後のマネープランはずいぶん変わってくるはずです。

もし、結婚していて夫婦が正社員で共働きをしていたなら、2人分の退職金をもらえることも確認したいところです。

現在「子供の学費と住宅ローンに追われて、老後の準備なんかする余裕がない」という夫婦も、実は「ダブル退職金」がもらえることで、すでに老後には一定のメドがたっているかもしれません。

また、正社員共働き夫婦にはもうひとつ「夫婦がそれぞれ厚生年金をもらう」メリットがあります。この額が仮に月5万円程度であっても、女性の平均余命(65歳女性は約25年)で計算すると、1500万円の年金収入増なので、妻がパート働きで厚生年金をもらえないケースと比べると、大きな財産となるでしょう。

■iDeCo、マッチング拠出、そしてつみたてNISA

最後に、前述した「退職金・企業年金」+「自助努力」の自助努力について。いわば、上積みの制度ですが、これには税制優遇を受けつつ、老後の資産形成をする方法が3つあります。

1つめは、勤務先が企業型の確定拠出年金を実施し、そこにマッチング拠出制度があれば、自分のお金を企業年金制度に追加入金できることです。iDeCoと同等の非課税メリットがあり、口座管理手数料はかからないので、年間2000円ほど有利になります。

2つめは、iDeCoです。働き方によって掛金額上限が変わる(さらに2022年から、他の企業年金制度の水準によって掛金額調整も行われる)という点がややわかりにくいものの、所得控除を受けられ所得税や住民税を軽くしてくれる老後資産形成制度は他にありません。ぜひ活用したいものです(運用益も非課税で、受け取り時に課税。ただし控除枠と軽い税率により完全非課税になることが多い)。

3つめは、NISAです。老後資産形成を視野に置くなら、20年持ち続けることができるつみたてNISAのほうがいいでしょう。年40万円の枠なので、月あたり3万3000円くらいということになります。こちらも運用益が非課税なのが魅力です。

退職金・企業年金制度を知るということは、自分の老後を「見える化」する第一歩を踏み出すということ。3月は定年退職を意識する季節です。自助努力を組み合わせて、老後の不安を早期に解消していくきっかけにしてみてはいかがでしょうか。

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山崎 俊輔(やまさき・しゅんすけ)
ファイナンシャルプランナー
フィナンシャル・ウィズダム代表。連載12本を数える人気コラムニスト。『マネーハック大全』など著書多数。

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(ファイナンシャルプランナー 山崎 俊輔)

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