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「仕事は"こなす"ものではない」実業家渋沢栄一が習慣にした8つの事

プレジデントオンライン / 2021年3月25日 9時15分

芸人のビビる大木さん - 撮影=大沢尚芳

歴史好きとして知られるお笑い芸人のビビる大木さんは、悩みがあるとき、渋沢栄一の言葉に励まされるという。大木さんと対談した論語塾講師の安岡定子さんは「渋沢栄一の考え方の基本には、『人間の本性は善である』という孔子の教えがある」と指摘する――。(後編/全2回)

■「お笑い界の中間管理職」に響いた言葉

【ビビる大木】渋沢栄一の考え方の根本には、世のため人のためという信念がありました。その信念と生き方は、渋沢さんが「もっとも欠点の少ない教訓」と呼んだ『論語』に由来していると安岡先生に教えていただきました。渋沢さんは生涯、孔子の言葉に励まされ、勇気づけられて91歳という長い人生を走り抜いたわけです。

一方、僕は今46歳。お笑い界の中間管理職的存在です。大物先輩芸人と大勢の後輩芸人に挟まれて、これまで何を成し遂げたのか、これからどう生きるのかと悩みはつきません。渋沢さんは僕の年齢の頃は、すでに多くの会社を設立して大活躍されていた。渋沢さんの著作を読んでみて、今度は僕が渋沢さんの言葉に励まされ、勇気づけられました。

【安岡定子】『論語』に裏付けられた渋沢さんの言葉ですね。どんな言葉が印象に残りましたか。

【大木】「人間は不平等である。しかし、天から見れば、人間は皆同じである」という言葉があります。渋沢さんの生家はお金持ちで、学べる環境もあり、ご本人も生来優秀だったと思いますが、人間は生まれる場所を選べません。だから生まれによって差があるのは当然ですが、同時に人間は皆同じであるとは、どういうことかな、と。

【安岡】大木さんは、どんな風にお考えですか。

【大木】例えば、誰でも1日24時間、同じ時間を与えられている。それをどう使うかは自分次第で、それぞれが自分で考えて、世のため人のため、そして自分のために有効に使おうということかなと思います。

■よき習慣とよき教えで差はついてしまう

【安岡】いいところに着目されました。『論語』に「教え有りて類無し」、「性、相近し。習い、相遠し」という言葉があります。前者は、人間は生まれたときはすべて平等で、どんな教育を受けたか、どんな人物に出会って影響を受けたかによって変わってくる、後者は、生まれた後の習慣で差が出てくるという意味です。よき習慣とよき教えで差がつくというのが孔子の考え方ですね。

【大木】結構いいセンいってましたね(笑)。要は毎日の地道な努力の積み重ねが大事ということですか。

【安岡】そう思います。「人間の能力なんて、そんなに差なんかありゃせんわ。だから努力や習慣が大事なんだ」というのが、私の祖父の安岡正篤の口癖でした(笑)。

「性善説」という言葉は孟子の言葉として有名ですが、「人間の本性は善である」というのが孔子の根本的な考え方です。『論語』で最も多く語られている徳の概念に「仁」があります。「仁」とは人間愛にまつわるさまざまな要素を包括した最も大切な徳義のこと。人には生まれながらに「仁」が備わっているが、普段はそのことを忘れ、「仁」は隠れている。毎日努力を積み重ね、8つの徳を身につけていくことで、大いなる徳義「仁」が表に現われ「仁者」、つまり君子になるというイメージです。

■正義、知恵、親孝行…君子になるための道

【大木】徳にも序列があるんですね。君子になるために身につけるべき8つの徳とは何でしょうか。

【安岡】仁(思いやり)、義(正義)、礼(礼儀、礼節)、智(知恵)、恕(まごころ)、信(信頼)、孝(親孝行)、悌(長幼の序)です。ちょっとまぎらわしいのですが、ここでいう「仁」は、いわば「スモール仁」で、狭い意味の仁。それに対して先ほど述べた「仁」は「ラージ仁」で、8つの徳目をすべて含んだ一段ランクの高い徳というイメージです。この考え方は私の恩師に教えていただきました。

論語塾講師の安岡定子さん
撮影=大沢尚芳
論語塾講師の安岡定子さん - 撮影=大沢尚芳

【大木】いやあ、面白い。孔子は2500年前に自分1人でその考えにたどりついたのでしょうか。

【安岡】孔子は、いろいろな先生のところに行って話を聞いたり、書物を読んだりして猛勉強したようですが、いまのところ、私はこの先生の弟子だったと語っている記録は見つかっていませんね。

■「知るより好く、好くより楽しむ」の本当の意味

【大木】僕は幕末史と同じくらいプロレスも好きなのですが、ジャイアント馬場さんが全日本プロレスのモットーとしていた「明るく、楽しく、激しく」を座右の銘にしています。

それとよく似ている渋沢さんの言葉が「知るより好く、好くより楽しむ。楽しむになると、困難にあっても挫折しない」。これも『論語』の言葉ですか。

【安岡】『論語』に「之を知る者はこれを好む者に如かず。之を好む者は之を楽しむ者に如かず」とあります。知っている人より好きになった人の方が優れていて、楽しんでいる人はもっと優れている。「知って好きになって楽しむ」ホップ・ステップ・ジャンプの三段跳びみたいなものと思っていましたが、最近、少し考えを変えました。

【大木】字は一緒ですけれど、「楽しむ」と「楽をする」は違います。楽しむところまで到達するのは、実は難しいことかもしれませんね。

【安岡】好きにとどまらず、その先を目指すには、つらい練習に耐えるなど、がんばりが必要です。その苦労を乗り越えたときの達成感や喜びが楽しさにつながるところもありますね。

2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞された大村智先生にお会いしたとき、「何度やっても実験がうまくいかないときや、自分の学説がうまく証明できないとき、次はどうやろうかと考えるのが実は一番楽しかった。その繰り返しだった」とおっしゃっていました。この境地ですね。

【大木】楽しいと感じるところまで到達する過程で、努力する、がんばるという姿勢も身につけられるということですか。深いですね。

■気づけば仕事を「こなしている」だけ…そんなときは

【大木】「『慣れること』に慣れてはいけない」という言葉も、日々の仕事の中で僕が心がけていることです。ある程度キャリアを重ねると、気づかないうちに仕事を「こなしている」自分を発見することがあるからです。

【安岡】停滞してはいけない。当たり前のように同じことを繰り返してはいけないということですね。どうしたらそれを避けられるのでしょうか。

【大木】そういうとき、僕は「こなすのではなく、乗り越えるという感覚で仕事をしよう」と思うようにしています。

安岡 定子『渋沢栄一と安岡正篤で読み解く論語』(プレジデント社)
安岡 定子『渋沢栄一と安岡正篤で読み解く論語』(プレジデント社)

【安岡】『論語』に「君子は上達し、小人は下達す」という言葉があります。言葉のとおり、君子は一日一日と高い所を目指して向上し、小人は一日一日と低い所へと下落していく。向かう所が逆なので、初めはわずかな違いだったものが、いつの間にか大きく差がついてしまう。だから、少しずつでも日々新たな気持ちで高みを目指さなくてはいけないという意味です。

以前、恩師に「もう十分。このまま維持したいという選択肢はないのでしょうか」とうかがうと、「生き方には上か下かしかありません。人によって歩む速度が速い遅いの違いはあるけれど、ひとたび努力することをやめてしまえば、結果として後退してしまうのです」と厳しいお言葉をいただきました。

今、大木さんがおっしゃった「乗り越えるという感覚」は正しい考え方だと思います。そもそも大木さんのようなお仕事は、変化のスピードがとても速いのではないですか。

■毎年の抱負を「現状維持」と決めているワケ

【大木】変わり続けるために、新しい感覚や新しい考え方を受け止めていく必要があると思います。

一方、僕は、お正月の番組などで「今年の抱負は?」と聞かれると、22才の頃から「現状維持」って言っています。聞いた人には、「なんだ、今と同じでいいと思っているのか」とマイナスイメージで捉えられてしまうのですが、僕のイメージは、ちょっと上を向いてがんばって、結果として現在のポジションを維持したいという意味なんです。

【安岡】現状を維持するためには、私の恩師もおっしゃったように、常に上を目指して努力しなければなりませんからね。

【大木】以前、郷ひろみさんがテレビで「変わらないでいるためには、常に変わり続けないとダメなんだ」とおっしゃっていて、本当にそのとおりだと思いました。

【安岡】それはすごい。その時代時代に合わせて少しずつ改良しながら、お客様に変わらない伝統のおいしさを提供する一流の老舗のお料理みたいですね。

【大木】今日、ようやく「現状維持」のよさを理解していただける先生に出会えました。渋沢栄一さんと『論語』のよきご縁に感謝します。

■渋沢栄一だけじゃない「埼玉の偉人」

【大木】安岡先生も埼玉にご縁があるとおうかがいしました。おじいさまは、故郷の歴史や風土、偉人について学びながら、農村のリーダーになるための学校をつくられたそうですね。

ビビる大木・著『ビビる大木、渋沢栄一を語る 僕が学んだ「45の教え」』(プレジデント社)
ビビる大木・著『ビビる大木、渋沢栄一を語る 僕が学んだ「45の教え」』(プレジデント社)

【安岡】昭和6年、昭和恐慌で農村が疲弊を強いられた時代に、埼玉県嵐山町に日本農士学校という全寮制の学校をつくりました。農業に関する知識や技術だけでなく、哲学や歴史、文学や芸術なども学べるユニークな学校でしたが、その大きな柱が郷土の歴史や偉人について学ぶ「郷学」でした。終戦後、GHQに接収されましたが、戦後もしばらくは県の農業研修所としての役割を果たしていました。

【大木】埼玉に、そんな歴史もあったことは初めて知りました。安岡先生は、「埼玉の三偉人」をご存じですか。

【安岡】渋沢栄一、日本の元祖・百科事典『群書類従』の編纂者である塙保己一、日本の女性医師第1号の荻野吟子。すばらしい方ばかりです。

【大木】僕は埼玉県春日部市の出身です。あまり勉強が好きではなかったからかもしれませんが、授業で三賢人のことを教わった覚えがない。幕末史に興味を持つようになって山口県萩市を訪ねてみたら、小学生は吉田松陰先生の言葉を学校で学んで知っているんですね。深谷市の子どもたちは渋沢栄一について教えてもらっているのかもしれませんが、もったいないなと思います。そもそも郷土の歴史や偉人に学ぶ効用って、どんなところにあるのでしょうか。

■自分は何者なのか、確認するきっかけに

【安岡】いろいろあると思いますが、例えば厳しい状況に置かれたときなど、人は、自分は何者か、なんのために生きているのか、と考えることがあると思うのです。そんなとき、子どもの頃、学校の授業で教わった故郷の歴史、故郷の偉人の逸話などは、自身のアイデンティティーを確認するきっかけの一つになるのではないでしょうか。もちろんもっと身近な家族、先生や友人との思い出なども、同じような効用があると思いますが……。

【大木】武蔵国を分割して埼玉県ができて、まだ150年くらいですから、近代日本で傑出した人物を生むには、少し時間が足りなかったのかもしれないな、とも思います。

【安岡】私は祖父のご縁で、埼玉県を訪れる機会が多いのですが、地域によってさまざまな特色があることも大きな魅力だと感じます。東京から近いのに、景勝地もたくさんあり、いろいろな特産物もあって暮らしやすい。人もおだやかで大らかな印象があります。

論語塾講師の安岡定子さんと芸人のビビる大木さん
撮影=大沢尚芳

■千葉からも神奈川からもイジられるけれど…

【大木】関東のど真ん中ですから、千葉からは「海、ないだろう」と言われ、神奈川からは「横浜や湘南があるうちにはかなわないだろう」と言われながらも、それをやんわりと受け止めながら、ちゃんと独自の雰囲気を保っている。

大宮・浦和が「住みたい町ランキング」に入っていることを見ても住みやすいのは事実ですし、あえて観光地にしなくても充分やっていける。埼玉の人はあまり地元愛を意識しないし多くを語らないので、埼玉のよさがなかなか他の地域の人に伝わらないのかもしれません。

でも、渋沢さんによって、全国の方が深谷市や埼玉県のことを知ることになると思います。おそらく大ブレークまであと一歩、というところでしょう。

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ビビる 大木(びびる・おおき)
タレント・ピン芸人
1974年、埼玉県生まれ。1995年、渡辺プロダクションに所属し、コンビ「ビビる」を結成。コンビ解散後はピン芸人としてマルチに活躍中。現在、テレビ東京「追跡LIVE!SPORTS ウォッチャ―」、同「家、ついて行ってイイですか?」、中京テレビ「前略、大とくさん」等でMCを務める。幕末史跡めぐりが趣味で、ジョン万次郎資料館名誉館長、春日部親善大使、埼玉応援団、萩ふるさと大使、高知県観光特使等を務める。著書に、『覚えておきたい幕末・維新の100人+1』本間康司、ビビる大木著(清水書院)、『知る見るビビる』ビビる大木著(角川マガジンズ)などがあり、近著に『ビビる大木、渋沢栄一を語る』(プレジデント社)がある。

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安岡 定子(やすおか・さだこ)
公益財団法人 郷学研修所・安岡正篤記念館理事長
1960年、東京都生まれ。二松学舎大学文学部中国文学科卒業。陽明学者・安岡正篤の孫。現在、「斯文会・湯島聖堂こども論語塾」「伝通院寺子屋論語塾」等、都内の講座以外に宮崎県都城市、京都府京都市、神奈川県鎌倉市等、全国各地で20講座以上を開き、子供たちや保護者に『論語』を講義している。また企業やビジネスパーソン向けのセミナーや講演活動も行っている。『新版 素顔の安岡正篤』(PHP研究所)、『心を育てるこども論語塾』(共著)、『仕事と人生に効く成果を出す人の実践・論語塾』(共にポプラ社)など著書多数。近著に『渋沢栄一と安岡正篤で読み解く論語』(プレジデント社)がある。

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(タレント・ピン芸人 ビビる 大木、公益財団法人 郷学研修所・安岡正篤記念館理事長 安岡 定子 構成=水無瀬 尚)

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