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「感染予防のため消毒やマスクはずっと続けよう」そんな考えは間違っている

プレジデントオンライン / 2021年3月27日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/monzenmachi

この冬、インフルエンザの患者数が激減した。消毒やマスクといった感染予防を徹底すれば、コロナ以外の感染症も防げるかもしれない。ただ、そうした「新しい生活様式」をずっと続けることは本当に望ましいのだろうか。ジャーナリストの鳥集徹さんが医師の森田洋之さんに聞いた――。(前編/全2回)

※本稿は、鳥集徹『コロナ自粛の大罪』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。

■なぜ日本では欧米より死亡率が低いのか

【鳥集】なぜ日本を含むアジア・オセアニア地域ではコロナ感染者が少ないのか。その解明できていない要素のことを、ノーベル賞を受賞した京都大学の山中伸弥教授は「ファクターX」と名づけました。

このファクターXについては免疫的な要素の他に、「欧米人にはネアンデルタール人から継承された遺伝子があるから」とか「日本人は欧米人に比べ清潔好きな国民性だから」など、いろいろ言われてきましたが、どうなんでしょうか。

【森田】遺伝的要因はたぶん違うと思います。

【鳥集】確かに、欧米に住んでいるアジア系の人たちの死亡率は、欧米系の人たちと変わらないそうですね。

【森田】そうです。アメリカなんかでもアジア系の人のほうが若干死亡率は低いんですが、何十倍も死亡率に差がついているわけではありません。一方、オーストラリアとかニュージーランドなどは欧米系の人が多いですが、死亡率が非常に低い。

それに、日本人が清潔好きだからとか、家に入るのに靴を脱ぐからとか言う人もいますが、それが東アジアとかオセアニア全域に共通しているのかというと、全然そうでもないですよね。

【鳥集】他にも、ヨーロッパと東アジアではウイルスの型が違うとか。

【森田】型はすべて共通です。日本でも欧米型の株は、すべて確認されています。

■ファクターXは、BCGか交差免疫か……

【鳥集】日本のように結核予防の目的で行われるBCGの接種(*1)を継続している国で死亡率が低いという指摘もあります。

(*1)BCG接種……結核予防として行われるBCG接種を継続している国は、中止した国と比べて新型コロナの感染率・死亡率が低いという指摘が相次ぎ、医学研究や臨床試験が行われた。否定的な結果も多いが、BCGが自然免疫を高めているのではないかとみる研究者も多い。

【森田】そうですね。BCGはあるかもしれません。また、アジアやオセアニアでは新型コロナが流行る前に、似たタイプのコロナウイルスが流行っていて、その免疫が新型コロナにも効いているという「交差免疫説(*2)」があります。ファクターXとしては、その2つぐらいしか残らないのではないかと思います。

(*2)交差免疫説……ある細菌やウイルスなどに免疫があると、それと似た構造の細菌やウイルスにも免疫が働くという仮説。新型コロナの陽性者、死亡者が少ないアジア・オセアニアでは、この交差免疫が働いていると考える識者が多い。

【鳥集】いずれにせよ、日本を含むアジア・オセアニアの国々は、すでに新型コロナから免疫で守られている可能性が高い。したがって、2度目の緊急事態宣言が出たけれど、政策としていい選択だったと言えるかどうかはわからないということですね。

【森田】そうです。でも、国民の不安を考えると、出さずにはいられなかったでしょうから、仕方がないですね。ただ、普通に考えればコロナは冬の感染症なので、1月中旬から2月頭ぐらいがピークになるだろうことは、容易に予想できました。

【鳥集】そうですね。森田先生もツイートされていたと思いますが、グーグルのAIでも、1月から2月がピークになって、そのあと感染者が減ってくると予測していました。

【森田】はい、「実効再生産数(*3)」も1月17日ごろから1を切っています。

(*3)実効再生産数……一人の感染者が何人に感染させるかを推計した指数。1を超えると感染者が増え、1を切ると減るとされている。

COVID-19パンデミックのため非常事態の間、有名な旅行先浅草、東京で店が閉鎖され、訪問者が少ない
写真=iStock.com/Fiers
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Fiers

■感染者減は「緊急事態宣言の成果」?

【鳥集】森田先生はよく、感染症はワーッと増えて、サーッと引いていくものだと指摘しています。ピークを越えて感染者数が自然に下がったのだとしても、「緊急事態宣言の成果だ」って言えるから、政府や自粛論者は得ですよね。

【森田】はい、そうですね。あともう一つ言えるのは、感染者数が増えたので、コロナ死亡者数も増えるでしょうけど、これぐらいの勢いであれば、たぶん例年の冬の全体の死亡者数とそんなに変わらない数字になるのではないかと思うんです。なぜなら、日本人は毎年約120万か130万人亡くなっているのですが、月別にすると一番少ないのが6月で、だいたい10万人なんです。

一方、一番多いのが1月で14万人。つまり、冬になると死者が4万人増えるわけです。この数字を考えると、新型コロナで毎日数十人亡くなったとしても、この4万人増加の範囲内に収まる可能性のほうが高いのではないかと思うんです。

【鳥集】そうだったとしたら、「超過死亡(*4)」が出ないということもありえますね。

(*4)超過死亡……例年の統計から予測した数字より死亡者が増えること。インフルエンザなど感染症が流行すると超過死亡が出るとされる。

【森田】はい、あり得ます。ただ、一つ注意しなくてはいけないのは、日本の死亡者数は毎年2万~3万人ずつくらい増えている。

【鳥集】高齢化の影響でしょうか。

【森田】そうです。ところが、昨年は逆に減っているんです。もしかしたら夏の間に自粛のおかげで命を長らえていた虚弱な高齢者の方々が、冬になって相次いで亡くなって、死亡者が増えるという予測も成り立ちます。

■死者が一番多いのは1月

【鳥集】いずれにせよ、毎年の死亡者数の統計を踏まえて考えた場合には、例年の冬の死亡者数を大きく超えることはないと言えそうですね。

【森田】はい。たぶんそうなるでしょう。

【鳥集】昨年1年間のコロナ死亡者数は3459人でした。それが、今年1月だけで2200人以上亡くなりました。この事実だけ見ると、この冬にものすごい勢いで死亡者が増えたように見えます。しかし、例年、6月に比べると1月は4万人以上死亡者数が増えるわけですから、全体で見るとコロナはごくわずかしか、死亡者数の増加に寄与していないことになります。

【森田】おそらく、アメリカやイギリスなど欧米では、超過死亡が出ると思うんです。でも、日本は欧米のレベルまではいかない。日本も「感染爆発」って大騒ぎしていますが、たとえ今のペースで増えたとしても、そこまでにはならないと思います。

【鳥集】アメリカではこの冬、一日の陽性者数が20万人を超えた日もありました。一方日本では、東京で2000人、全国で5000人を超えただけで大騒ぎです。もし1万人を超えるようなことがあったら、一般の人たちはパニックを起こすかもしれません。

しかし、冷静に数字を見れば、毎年インフルエンザで亡くなる人の数と大きく変わるわけではありません。それに、毎年およそ10万人が亡くなる一般的な肺炎と比べると、コロナの死亡者数は圧倒的に少ないことになります。

【森田】そうですね。逆にこの冬はインフルエンザの患者さんが全然出ていませんので、その分、死亡者数は減る可能性もあります。

消毒剤ボトル
写真=iStock.com/AnanR2107
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AnanR2107

■「マスクと消毒」の思わぬ副作用

【鳥集】それも不思議ですよね。みんなが店の入口でアルコール消毒をするとか、マスクを着けているという効果でインフルエンザが激減したのなら、本当はインフルエンザワクチンなんか要らないのではないかと思ってしまいます。

【森田】そうかもしれないですね。僕はインフルエンザが減った理由は2つあるのではないかと考えています。一つは、みんなが今のような感染予防を徹底しているから。そのためインフルエンザだけでなく、他の風邪や感染症も全部抑えられている。ただ、それでもコロナだけが抑えられていないという事実があります。

それを踏まえると、もう一つの理由としては、やはり「ウイルス干渉(*5)」が起こっている可能性が考えられる。今はコロナの勢いが強いから、コロナに占拠された細胞には、インフルエンザウイルスは感染することができない。手の消毒以上に、インフルエンザが縄張り争いで負けているほうが強いのではないかと僕は思っています。あまり研究がされていないので、想像の範囲にすぎませんが。

(*5)ウイルス干渉……一つのウイルスが大流行していると、他のウイルスが感染しづらくなるという現象。

【鳥集】ウイルス干渉のことも、よく言われていますね。

【森田】いずれにせよ、インフルエンザや他の感染症が減っていることは、近視眼的にはいいことなんですが、じゃあ、消毒やマスクを徹底する生活を10年続けますかと言われたら、僕は違うんじゃないかと思うんです。

なぜなら、子どもは細菌やウイルスにさらされることで免疫力をつけていくものなのに、生まれてから10年間、ずっと無菌室で育った子どもって、ものすごく免疫力が弱ってしまうというか、免疫機能が満足に育たない。それなのに、医者が「これからは新しい生活様式が当たり前なんだ」って、堂々と言うのはおかしいと僕は思います。

■新しい生活様式は本当に正しいのか

【鳥集】そうですね。私も素人ながら、アトピーなど重いアレルギーを抱える人が増えるのではないかと心配しています。「衛生仮説」というのがありますよね。赤ちゃんはいろんなものを触って、食べ物だけでなくダニの死骸やホコリなども含めて口から入れることで、腸にいる免疫細胞が「これは食べ物だから大丈夫」「これはいらないけど悪さをしない」と学習して、過剰な免疫の反応を抑える仕組みができると聞きました。

鳥集徹『コロナ自粛の大罪』(宝島社新書)
鳥集徹『コロナ自粛の大罪』(宝島社新書)

しかし、赤ちゃんを清潔にしすぎて、バリアを壊された肌から食べ物のカスやホコリなどが入ってくると、免疫細胞が「これは悪いものだ」と認識して、攻撃するようになる。それが、アレルギーが増えている一因だと聞いたことがあります。

【森田】可能性はありますね。ただ、それも想像の範囲というか推論の話です。そもそも今の医学がすべてを解明しているなどと思うのは幻想にすぎません。これほど人間の生活をガラッと変えてしまって、それがどんなリスクを孕んでいるかなんて、誰にもわからないんです。

【鳥集】本当にそうですね。感染予防のために消毒やマスクを徹底し続けることを、何の疑問もなく正しいと思い込むのは、あまりに短絡的だと僕も思います。(後編に続く)

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森田 洋之(もりた・ひろゆき)
医師/南日本ヘルスリサーチラボ代表
1971年、横浜生まれ。南日本ヘルスリサーチラボ代表。日本内科学会認定内科医、プライマリーケア指導医。一橋大学経済学部卒業後、宮崎医科大学医学部入学。宮崎県内で研修を終了し、2009年より北海道夕張市立診療所に勤務。同診療所所長を経て、鹿児島県で研究・執筆・診療を中心に活動。専門は在宅医療・地域医療・医療政策など。2020年、鹿児島県南九州市に、ひらやまのクリニックを開業。医療と介護の新たな連携スタイルを構築している。著書に『破綻からの奇蹟~いま夕張市民から学ぶこと~』(南日本ヘルスリサーチラボ)、『医療経済の嘘』(ポプラ新書)、『日本の医療の不都合な真実─コロナ禍で見えた「世界最高レベルの医療」の裏側』(幻冬舎新書)、『うらやましい孤独死─自分はどう死ぬ? 家族をどう看取る?』(フォレスト出版)などがある。

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鳥集 徹(とりだまり・とおる)
ジャーナリスト
1966年、兵庫県生まれ。同志社大学文学部社会学科新聞学専攻卒。同大学院文学研究科修士課程修了。会社員・出版社勤務等を経て、2004年から医療問題を中心にジャーナリストとして活動。タミフル寄附金問題やインプラント使い回し疑惑等でスクープを発表してきた。『週刊文春』『文藝春秋』等に記事を寄稿している。15年に著書『新薬の罠 子宮頸がん、認知症…10兆円の闇』(文藝春秋)で、第4回日本医学ジャーナリスト協会賞大賞を受賞。他の著書に『がん検診を信じるな~「早期発見・早期治療」のウソ』(宝島社新書)、『医学部』(文春新書)、『東大医学部』(和田秀樹氏と共著、ブックマン社)などがある。

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(医師/南日本ヘルスリサーチラボ代表 森田 洋之、ジャーナリスト 鳥集 徹)

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