長生きをしたければ「コロナが心配だから」と外出を控えてはいけない
プレジデントオンライン / 2021年3月24日 9時15分
※本稿は、長尾和宏『コロナ禍の9割は情報災害 withコロナを生き抜く36の知恵』(山と渓谷社)の一部を再編集したものです。
■長引く自粛生活により日本中の生活習慣病が増えている現実
コロナ太りやコロナうつ、コロナ疲れ……といった言葉がささやかれるように、今、日本中で生活習慣病や心の病気が悪化しています。それは紛れもない事実です。
私のクリニックでも、しばらく顔を見ていなかった患者さんが、糖尿病や高血圧といった持病をずいぶん悪化させて来院されることが多々あります。
アルコール依存、ニコチン依存、ゲーム依存、スマホ依存といった依存症も増えています。コロナ禍で仕事を失い、昼間からお酒に手が出るようになって、アルコール依存症で歩けなくなり、在宅医療を受けることになった患者さんもいます。まだ40代のアルコール依存症の方を、在宅医療で診ることになるとは思ってもいませんでした。
また、年輩の方のフレイルも急速に進行しています。
フレイルとは、虚弱のこと。要介護、要支援の手前の状態です。「フレイルを予防して健康寿命を延ばそう!」と国も力を入れていましたが、残念ながらコロナ自粛で家にこもっているうちに、筋肉が落ちて、ヨボヨボになっていく人が増えているのです。
筋肉が落ちるのは、手足だけではありません。ステイホームで人に会う機会が減った上に、常にマスクをして口を動かさないので、口のまわりの筋肉も衰えがち。そのため、噛む・飲み込む・話す力が弱くなる「オーラルフレイル」も増えています。
■「コロナが心配」と検査を控え、手遅れになる人が激増する恐れ
そしてもう一つ心配しているのが、認知機能の低下です。「認知症パンデミック」ともいわれているように、外に出ない、人に会わない、歩かない生活が続くなかで、高齢者の認知機能はものすごく落ちています。
これらはすべて新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)という病気そのものが引き起こしたことというより、ステイホームを強いられたこと、「新型コロナは怖い!」と煽るマスコミが恐怖を植えつけたことなどによる人災です。
また、緊急事態宣言中には、緊急ではない内視鏡検査(いわゆる胃カメラ、大腸カメラ)は延期することになりました。鼻や口、あるいは肛門から管を入れて検査する胃カメラ、大腸カメラはコロナ感染のリスクがあるとされ、「緊急性のある場合のみ、実施するように」というお達しが学会から出されたのです。
そのため、緊急事態宣言中の約1カ月半の間、日本人に多い大腸がんや胃がんの早期発見のための検査はほとんど行われませんでした。実は検査だけではありません。がんの手術も、前年に比べて3~4割減りました。
これまでは年々右肩上がりで増えていたがんの手術数がガクッと減るとは、かなりの驚きです。日本人の死因の1位で、3人に1人ががんで亡くなっているなか、がんの検査も手術も減ったことによる余波はどうなるのか……。
がんの検査や手術だけでなく、緊急事態宣言中は健康診断や人間ドックも行われていませんでした。また、持病があったり、ちょっと気になる症状があったりしても「コロナが心配だから」と受診を控える人がいまだに多く、受診抑制や健診・検診抑制によって手遅れになる人が激増しているのではないかと心配しています。
■「コロナ禍の9割は情報災害」だ
中国の武漢市を中心に新型コロナが発生したのが2019年12月、そして日本で初めての患者さんが確認されたのが2020年1月のこと。それから1年以上が過ぎた2021年3月中旬現在、8500人超の方が、新型コロナによって国内で亡くなっています。
「8500人も!」と思うでしょうか。
でも、毎年2万人が自殺で亡くなっています。糖尿病や高血圧といった生活習慣病を悪化させた先に起こる心臓病で亡くなる人は20万人を超え、脳卒中などの脳血管疾患は10万人を超えています。日本人の死因ナンバーワンのがんに至っては37万人です。
そう考えると、コロナうつによって自殺が増えることや、「コロナが怖いから」と家に引きこもったり受診を抑制したりして生活習慣病を悪化させてしまうこと、がんの検査や手術が減って早期発見ができなくなってしまうことなどを背景にした“コロナ関連病”のほうが、100倍心配です。そう、「コロナ禍の9割は情報災害」です。
新型コロナについては、この半年でわかってきたことがたくさんあります。日本人にとってはそんなに怖い病気ではないこととか、どんな人が重症化しやすいのか、どんなところで感染しやすいのかといった、怖がるべきポイントもわかってきました。
■EBMでもNBMでもなく、WBMの時代へ
新型コロナウイルスは「新型」とあるように、人類が初めて出合った未知のウイルスでした。今は「エビデンス・ベースド・メディスン(EBM)」といって、エビデンス(科学的根拠)にもとづく医療が大事だといわれますが、初めて経験することにエビデンスなんてありません。さらに、「ナラティブ・ベースド・メディスン(NBM)」といって、患者さんのナラティブ(物語)を大事にすべきだ、ともいわれます。
EBMもNBMもたしかに大事です。
でも、私は、今必要なのは「WBM」だ、と思っています。
「WBMってなんやねん!」というツッコミが聞こえてきそうですが、「ウォーキング・ベースド・メディスン」です。つまり、歩くこと。
お金持ちになることよりも幸せになることが大事、お金よりも心の豊かさが大事――。そんなふうに世の中の価値観が変わってきています。今回の新型コロナ騒動は、そうした世の中の変化をさらに後押しするものとなりました。
医療のあり方もこれから変わっていくでしょう。
人生100年時代なんていわれて長生きする人が増えているなか、健康で長生きしようと思ったらセルフケアが欠かせません。セルフケアとは何かといえば、基本になるのが歩くことです。「そう思い5冊もの歩行本」を書きましたが、本書は6冊目になります。
■歩くことは自然免疫を鍛える一番の方法
また、新型コロナのような新たな感染症は、今後も確実に出てきます。そのときに頼りになるのは自分自身の免疫力、もっといえば「自然免疫の力」です。
本書の中で詳しく紹介するように、歩くことは自然免疫を鍛える一番の方法です。そして、歩くことは、体の健康だけでなく、心も豊かにしてくれます。
さらにいえば、コロナ禍で収入が減った人も少なくないと思いますが(私のクリニックも、一時は患者さんが半分になりました)、歩くのにお金はかかりません。一切お金のかからない確実な健康法なのです。
ウォーキング・ベースド・メディスンという言葉を使っているのは私だけだと思いますが、「歩くことが大事」という考えは世界的な潮流で、歩行と健康の関係について研究する研究者は増えています。そして、この数年の間に論文もたくさん出ています。
歩くことがベースになければ、食事療法も薬物療法も成り立たない。私はそう思っています。
これからはWBMの時代です。自分で歩いて自然免疫を鍛え、新型コロナはもちろんのこと、これからも出てくる新たな感染症をはじめとしたさまざまな病気に負けない体をつくりましょう!
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長尾クリニック院長
医学博士。東京医科大学卒業。1995年兵庫県尼崎市で開業、複数医師による365日無休の外来診療と24時間体制での在宅医療に従事している。著書に『糖尿病と膵臓がん』など。
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(長尾クリニック院長 長尾 和宏)
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