日本で広がる「パパ活女子」が、ドイツではまったく通用しないワケ
プレジデントオンライン / 2021年3月25日 15時15分
■外国人女性が驚いたニッポンの「パパ活」
日本には「リア充」「ドタキャン」「アラサー」、少し前にはやった「たぴる」など、辞書には必ずしも載っていないけれど、日常的に使われているスラングが数多くあります。
「パパ活」もそんなスラングの一つです。
以前、筆者があるSNSで「パパ活」にまつわるコメントをしたところ、日本語学校に通う外国人女性から「パパ活って何ですか?」と聞かれました。確かに「パパ活」という言葉を日本語学校で習うとは考えにくいです。
「パパ活は、若い女性が年上の男性に食事をごちそうしてもらい、お小遣いをもらうこと」だと説明すると、即座に「それは肉体関係があるということですか?」と直球の質問が返ってきました。
そういうこともあるかもしれませんが、基本的には年上の男性が「若い子と食事や会話を楽しむこと」に対価(お金)を払うのがパパ活です。肉体関係があるとは限らない旨を説明すると、一層驚いていました。
欧米にも「パパ活」の「パパ」を意味する「シュガーダディ」という言葉が存在しますが、どちらかというとドラマや小説の世界を連想させるもので明らかに「別世界」感が漂うのです。筆者が出身のドイツでは大学生から「シュガーダディ」という言葉を聞くことはまずありません。
今回はドイツと日本を比べながら「パパ活」を通して見えてくる恋愛観の違いにスポットをあててみます。
■若い女性がチヤホヤされないドイツ
ドイツの年齢肌用の美顔クリームの広告では、皺(しわ)の多い女性がモデルさんであることが少なくありません。ドイツには「年齢を重ねているのに皺が少ないのは不自然だ」という考え方があり、あくまで自然な美しさが追求されるからです。「女性が若く見えること」は日本ほど重要視されていないのです。
日本のメディアでは「美魔女ブーム」をみても分かるように、年齢を重ねても若く見える女性がよく話題になります。「若く見える」だけでなく「実際に若い」女性はさらにチヤホヤされがちです。日本のアイドル文化はその最たるものだといえるでしょう。
筆者が日本に来た20代前半のころ、ドイツにいた時と比べて、周りがチヤホヤしてくれることが新鮮でした。男性だけではなく、年上の女性からも「若くっていいなあ~」「若いと色んな経験ができるからいいね!」「貴女を見ていると若い時に戻りたいなあ」などと言われたものです。
もちろん社交辞令である場合もありますが、その根底には「女性が若いことはよいことだ」という共通認識があることもまた確かなのです。
ただ当時「せっかく若いんだから自分をもっと高く売りなよ」「今が一番女性として価値が高いんだから」「ギャラ飲みとかすればいいのに」とも言われ複雑な気持ちになったものです。
■日本女性にかけられた若さの呪い
そこには「今の若い貴女には価値があるけれど、それは一瞬のうちよ。それをちゃんと自覚してね」というメッセージが込められていた気がします。まさに桃色吐息(歌詞「金色 銀色 桃色吐息 きれいと 言われる 時は短すぎて」)のような世界です。
筆者がドイツにいた頃、そういった褒め方をされることはありませんでした。ドイツでは人を褒める際に「若さ」に言及する習慣はないからです。それが関係しているのか「若い女性とデートしたい」と考える男性もあまりいない印象です。
女性が若いからといって「チヤホヤ」は味わえませんが、人生を長いスパンで考えると、そのぶん女性として生きやすいともいえます。なぜなら、ドイツでは若い女性に対しても、年齢を重ねた女性に対しても、扱いにさほど差がないわけですから。
■若い女性が重宝されるのは「子供を産む」ため
日本では、女性は子供を産むこととつなげて考えられがちです。例えば日本の婚活市場では、中年男性であっても「子供が欲しいので若い女性と結婚したい」と考える人がいます。妊娠する確率が高いので若い女性のほうが価値がある――。そんな考え方が背景にあるのだと思います。
ドイツでは「子供を持ったことを後悔する女性」にインタビューしたイスラエルの社会学者Orna Donath氏の論文が話題になったことがあります。それ以来、ドイツの人たちは「子供を持つ=幸せ」という昔ながらの感覚から脱却しつつあります。
ドイツの女性たちは、「#Regretting Motherhood」(母親になったことを後悔する)のハッシュタグのもと自身の体験をSNSで発信。著述家であるSarah Fischer氏は『DIE MUTTERGLÜCKLÜGE Regretting Motherhood - Warum ich lieber Vater geworden wäre』〔「母親であることがハッピーだという嘘 Regretting Motherhood ~私が(母親ではなく)父親になりたかった理由~」〕という本を出し、これも話題となりました。子供をほしいと思い、いざ母親になってみると理不尽の連続だったことが赤裸々なエピソードでつづられています。
子供を作ることを絶対視しなくなった今、ドイツの人たちは「若い女性のほうが子供を産める。だから価値がある」とは考えません。それにドイツの男性は、どちらかというと成熟した女性を好む傾向があります。
とはいえ20代の若い女性とデートをしたがる中高年男性がいないわけではありません。しかし、ドイツの社会では若い女性が好きだと公言することは、一般的な感覚として恥ずかしいことだとされています。
■年の差カップルへの「厳しい目」
他にも文化的に日本と大きく異なることがあります。年の差カップルへの視線です。ドイツでは、男性が明らかに自分よりも何十歳も年下の女性を連れて歩いていると、時に冷たい視線を浴びることがあります。好奇の目で見られることさえあるのです。
偏見もあるのでしょうが、純粋な恋愛とは思われません。「お金にモノを言わせているのだろう」と見なされ、あまり好意的には捉えられないのです。
筆者の父親はドイツ人ですが、日本人の母親よりも20歳年上でした。筆者が10代の頃、両親とレストランなどに外出すると周囲からのそのような「視線」を感じることがありました。それが嫌で思春期の頃は両親との外出をよく拒否していたものです。
かつて「ザ・ドリフターズ」のメンバー、加藤茶さんは45歳もの年齢差婚で耳目を集めました。それが「ほほえましい話題」になるわけですから、日本のほうがその点においては優しいのかもしれません。
■日本人は「曖昧なもの」が好き
「日本人はこう」「ドイツ人はこう」と一般化することはできません。それでも考え方に傾向はあるように思います。例えば日本人の恋愛は、白黒をハッキリさせることを必ずしも好まず、「曖昧さ」を楽しんでいることが多いように感じます。
銀座のクラブやキャバクラは、まさに男性がその「曖昧さ」を楽しむ場であるといってよいでしょう。ホステスさんに会うにはお金が発生するため恋人とは言えない。けれど、恋人になれない可能性もなくはない……といった具合です。
ドイツを含む欧州の男性は、「性的なこと」がないと水商売の女性にお金を使う価値がないと考えます。若くてきれいな女性とお酒を飲みながら会話を楽しむといった「曖昧さを楽しむ文化」はドイツにはありません。そういう意味で欧州の男性は非常にドライだといえるでしょう。
そのため欧州の男性は、銀座のクラブやキャバクラへの誤解が多くあります。「席に座っただけで何万円も金銭が発生するのなら、会話以外の『それ以上のこと』をしているに違いない」と早とちりしがちなのです。
「若い女性はそれだけで価値がある」という感覚が薄い。そのため若い女性と食事をするため“だけ”に何万円も使う、日本人の感覚が信じられないわけです。まあこれはドイツの男性がよくいえば節約家、悪くいえばケチな人が多いこととも関係していますが。
■ドイツ人は「片思いはミジメ」とバッサリ
曖昧さと言えば、日本では「片思い」をテーマにした歌が多くあります。「片思い」が一つの恋愛のジャンルになっている気がします。片思いというとなんだか切ない。相手を想っているのに気持ちを伝えられない――。そんなもどかしい気持ちは日本人の間ではよく話題になります。
曖昧なものが好きというか、不完全なものでもその過程を楽しもうとする文化があります。
一方、ドイツで恋愛の過程が話題になることはあまりありません。「片思い」はとてもミジメなものとして語られます。「気持ちが相手に伝わっていないのなら、それは恋ではない」「両想いではない恋は恋ではない」とばかりにハッピーな恋にスポットが当たりがちです。白黒ハッキリさせたがる文化がここでもあらわになっているのかもしれません。
■パパ活は需要と供給の問題
パパ活は「お金を払ってでも、若い女性と食事や会話をしたい男性」と、「お小遣いのためなら自分とは世界観の違う年上の男性と出かけることもいとわない女性」の「需要と供給」がないと成り立ちません。そう考えると欧州にパパ活が話題にならないのは不思議なことではありません。
これは前述のような「男性の考え方の違い」だけが要因ではありません。欧州の女性が化粧品やブランドにあまりお金をかけないこと、ドイツに関しては大学の多くが国立であるため学費がほとんどかからない、といったその国の事情も深く関係しています。
かつて心理学者の小倉千加子さんは『結婚の条件』(朝日文庫)で、「結婚とは『カネ』と『カオ』の交換であり、女性は自分の『カオ』を棚に上げて『カネ』を求め、男性は自分の『カネ』を棚に上げて『カオ』を求めている」と記しました。
現在のパパ活も「男性のカネと女性のカオや若さの交換」がベースにあるのでしょう。
先ほど「欧州の男性は非常にドライ」と書きましたが、改めて考えてみるとヨーロッパの人がドライなのか、日本人がドライなのか、ちょっとよく分からなくなってきました。
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ドイツ・ミュンヘン出身。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフ」にまつわる問題に興味を持ち、「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。ホームページ「ハーフを考えよう!」 著書に『ハーフが美人なんて妄想ですから‼』(中公新書ラクレ)、『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)、『なぜ外国人女性は前髪を作らないのか』(中央公論新社)など。
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(著述家・コラムニスト サンドラ・ヘフェリン)
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