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"頭の中が真っ白"状態のとき、自衛隊員が最速で落ち着きを取り戻す方法

プレジデントオンライン / 2021年3月30日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ozkan Ongel

近隣住民とのトラブル、労働事案、未知の病、気候変動、天変地異……あらゆるシーンで思いもよらない「想定外の困難」に遭遇する機会が増えている。危機を乗り越えるには対象について正しく補足・分析し、対処法を考えるだけでなく、「セルフコントロール」の力が重要だ。元陸将補の二見龍氏が上梓した『自衛隊式セルフコントロール』から、一般のわれわれも使える自衛隊式リスク対応のコツと技術を特別公開する──。(第1回/全2回)

*本稿は、二見龍『自衛隊式セルフコントロール』(講談社ビーシー/講談社)の一部を再編集したものです。

■なぜ自衛隊は危機に強いのか

自衛隊に入隊すると、今までの生活とはまったく異なる生活が始まります。時間を厳守する集団生活で、まずは自衛隊の「躾(しつけ)」事項が徹底的に叩き込まれます。それは、新隊員教育(6カ月間)の場合も、また将来の幹部を育成する防衛大学校(学生の4年間)でも同じです。

この間、規則正しい生活とバランスの良い食事、厳しい運動によって、今まで身体についていた贅肉(ぜいにく)を削ぎ落とし、戦闘行動に耐えられる筋肉を持つ身体へと鍛え上げられていきます。

同時に自衛隊で「躾」事項を叩き込まれる日々を通して、新人たちは生活のリズムとスピードを劇的に変化させ、集団生活、さらには集団行動を行える基礎を作り上げるのです。

■心身のOSを切り替える

自衛隊勤務に必要な人材を作り上げることは、今まで使用していたパソコンのOS(考え方、意識)とハード(身体)の両方を取り替えてしまうというほどの大きな変化といっても過言ではありません。

二見 龍『自衛隊式セルフコントロール』(講談社ビーシー/講談社)
二見 龍『自衛隊式セルフコントロール』(講談社ビーシー/講談社)

まず、丈夫な身体を作り上げることは、パソコン本体のCPU、メモリ、ハードディスクなどの「ハードウェア」を新型に切り替えることと同じ変化があります。

さらに「躾」事項、集団行動を徹底的に身につけることによって、いざというときに正しい判断と行動ができるように頭の中(OS)を切り替えます。加えて、集団生活、各種教育訓練を通じて、基本アプリからより専門性の高いアプリまで多様な能力をインストールしていきます。

「自衛官用の新しいOS」は、部隊での訓練を積み上げていくうちにバージョンアップを繰り返していきます。これが、自衛隊・自衛隊員が危機に対応できる基礎となるわけです。

今回は自衛隊員が身につける危機対応能力のうち、「メンタル」についていくつかご紹介します。日常生活においても、災害時においても冷静で的確な判断をするために効果的だと思います。

■パニックを誘発する「大きな声」は出さない

怖くなったり、パニックになったりすると「ワー」という大きな声を出したり、怖さを紛らわすため、何かを話したりしないと心がもたない状態になる人がいます。こういう状態のときは、心の中も荒れた海のようになっているため、周りが見えなくなってしまっています。

危険を察知するには、心の中を静かで波ひとつない湖面のようにする必要があります。まず落ち着きを取り戻すことに集中しましょう。心が落ち着いたら、周りを確認し、一番危険なものだと感じるものから対処します。

大きな声を出して、パニックを起こしてしまうと、リーダーの判断を狂わせ、自分はもちろん、仲間も危険な状態に陥らせることになりかねません。

さらに、何でもない人までもつられて心を乱してしまう可能性があります。まず、落ち着くことから始めてください。

大きな声を出すのではなく、「落ち着け! 落ち着け!」「考えろ‼ 考えろ‼」と思考を切り替えることが必要です。

■「頭のフリーズ状態」から最速で回復する技術

仕事で厳しい状況に追い込まれてしまったり、一度に多くのことをやらなくてはならない状態に陥ったりしたとき、頭の中が真っ白になることがあります。通常ならば、それほど追い詰められてしまっては、もうお手上げでしょう。その状態が収まり、思考が働き始めるまではどうしようもありません。

自衛隊で訓練を行っているときにも、このように頭の中が真っ白になることがあります。しかし、頭の中が真っ白になり、フリーズしてしまうということは、戦闘ではそのまま死を意味します。そのため、このような危険な状態からいち早く回復する方法を身につけます。

頭の中が真っ白になってしまうのは、脳が処理できる量を超えた情報が入ってきて、パンクしてしまっている状態です。特に、至近距離で短時間に対応しなければならない事柄が複数発生すると処理能力を超えやすくなります。

回復方法としては、目の前の一番危険なものから対処していきます。一番危険なものが排除できれば、時間の余裕が生まれ、情報量を大幅に減少させることができます。次に2番目、3番目というように順番に片づけていくうちに、脳の情報処理能力が整理され、真っ白な状態から元の状態に戻り、思考が徐々に回復していきます。

■「どうしようもない状態」になったら負け

会社であれば、最初に対処すべき重要なことといえば、社員の安否、会社の威信の失墜、財務状況の急激な悪化などが考えられるでしょう。

また、個別の業務や日常生活の中で、何かを言われて頭が真っ白になってしまった場合には、一度間合いを切って、深呼吸などし、振り切れてしまった思考の回復を待ち、対応要領について考えられるようになってから、再開すべきでしょう。

「検討のうえ回答致します」というように、所用を理由に状況を一度切り、再チャレンジする方法が有効です。ここで切り返すことができないと、より深手を負うことになります。また、そもそも追い詰められる前に対処することがより重要です。

爆発寸前の爆弾を渡されても、爆弾からできる限り離れるか、人のいないところへ投げるかぐらいで、やれることは限定されています。どうしようもない状態になってから、報告を受けたり、対処方法を考えなければならなくなったりでは、誰がリーダーであっても緊急避難的な対応しかできません。

時間的な余裕と間合いがなくなればなくなるほど、選択肢もなくなっていくので、時間的に余裕があり、危険と離隔している段階で、未然に防ぐための対策を講じることが重要なのです。

戦闘では、頭の中が真っ白になったからどうしようもなかったでは済まされません。事前の予防措置、発生後の対応要領を日頃から身につけておくことが重要となります。

また、いざというときに備えて、自分だけに効く特定の行動、いわゆる癖(スイッチ)を訓練しておくのも手です。「深呼吸をして落ち着く」というように深呼吸という行動と心理変化を普段から練習してリンクさせておけば、追い詰められたときにも自分で回復のスイッチを入れられるようになります。

■物事を好転させる「STOP」──止まる、考える、観察する、計画する

頭が真っ白になるときとは逆に、人は反射的な行動をとってしまうことがあります。それを防ぐためのキーワードが「STOP(ストップ)」です。

これは、Stop、Think、Observe、Planの頭文字をとったもので、反射的に行動を起こすのではなく、一度止まる、考えられる状況を作る(落ち着く)、周囲の状況を観察する、そして後の行動計画を立ててから行動する、というものです。

これにより二次災害を防ぐことができ、物事を好転させることができます。

アスファルトに感嘆符と黄色のパンプスを履いた女性の足元
写真=iStock.com/Valeriy_G
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Valeriy_G

■心の澱を吐き出す「解除ミーティング」のすすめ

東日本大震災において、自衛隊は全力で災害派遣を実施しました。津波による大変悲惨な状態を目の当たりにし、活動する隊員は、PTSD(Post-Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)にかかる可能性がありました。

PTSDは、強烈なショック体験、強い精神的ストレスが、心のダメージとなって、時間が経ってからも、その経験に対して強い恐怖を覚えます。半年後や1年後に発病し、自らの命を絶つこともある厄介な心の病気です。

自衛隊では、災害派遣の間、PTSDを防止するため、現場で活動した隊員は一緒に活動したメンバーと5~10人のグループを作り、心の中の澱(おり)を吐き出すミーティングを行います。1人2~3分程度、「自分が無力であったこと」「ご遺体を見つけることができなかったこと」「辛かったこと・苦しかったこと」など、心に引っかかっているものをすべて、そのグループのメンバーに話します。ときには涙を流しながら話すこともありました。

これを「解除ミーティング」といいます。心の中に澱が溜まらないようにするミーティングです。この「解除ミーティング」によって、多くの隊員の心の健全性を確保することができました。心に溜め込むのではなく、吐き出して心に澱を溜めないようにすることが重要です。

もし、自分1人だけの状態で話せる人がいなかったり、周囲に信頼できる人がいなかったりした場合は、家族に電話をしてみるのがいいと思います。あるいは、文字として文章にしてみると、自分の心に刺さっているものを吐き出すことができます。また、筋トレやジョギングを40~60分程度集中して行うことで、気分をすっきりさせるという方法もあります。

それでも心の引っかかりが取れない場合は、カウンセラーに相談したり、心療内科へ行ったりすることをおすすめします。早ければそれだけ早く元に戻ります。

■「心の限界値」を10%ずつ広げていく

仕事や人生において、うまくいかない状態が続いたり、頑張っているのにその成果を感じられなかったりすると、心が折れ、へなへなと座り込みたくなるものです。

人には心が穏やかでいられる状態を保てる限界があり、許容量は人それぞれ違います。限界を超えると、心がいっぱいになってしまい、踏ん張れなくなります。誰もが、もっと強い心が欲しいと願うときがあると思います。

ここで紹介するのは、私が実践した、崩れそうになった心を立ち直らせ、心を強くする方法です。この方法は「心の限界値を広げる」というシンプルなやり方です。個人差はありますが1カ月ほどで効果が出てきます。

まず、自分の心の限界値を10~15%ほど、いつもより大きく広げた状態で日々の行動を始めます。すると少しずつ心の許容量が広がり、意識的に広げた10~15%増しの許容量が標準状態になるのです。以前なら苦しくなってしまうところが、普通の感じで受け入れることができるようになるということです。

心を10~15%増しの許容量にするためには、いつもならば苦しくなってしまう状態のときでも、笑顔を作って「まだ余力がある」というように自分に言い聞かせ、心が大きい人間のように振る舞うことです。

■人間の「慣れる」という特技を利用する

たとえば、業務が忙しく疲れが溜まってくると、普通ならば不機嫌になってしまうところを、さわやかな笑顔と声で挨拶(あいさつ)をしたり、ニコッと笑みを浮かべ、明るい声で前向きな話をしたり、といったイメージです。

もちろん、簡単にできれば苦労しません。まず、2日以上続けていると苦しくて仕方がない状態になってくるはずです。無理やり明るく振る舞っていると、普段の倍以上に心に疲労が溜まり打撃を受けるからです。

3日目を過ぎると、明るい心と表情を作るのがきつくなり、このままではもたないかもしれないという不安と弱い心が出てきます。顔は笑顔ですが、心はヒーヒー状態でいつ我慢ができなくなるかわからない状態となります。

しかし、人間には慣れるという特技があり、1カ月ほど頑張って続けていると、いつの間にかラクになっていくのです。

当初の10日間が頑張り時でしょう。心の中でヒーヒー言いながら、1週間続けても少しもラクにならず、その苦しさは10日目ぐらいまで加速していくからです。頑張って継続することを考え、耐えていると、2週間を過ぎるあたりから、苦しかった状態が少しずつ和らいできます。

そして、1カ月を過ぎるあたりには、普通にできるようになります(当然個人差がありますが)。筋トレによって身体ができてくるのと似ているような感じです。

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二見 龍(ふたみ・りゅう)
陸上自衛隊 元幹部
1957(昭和32)年東京生まれ。防衛大学校卒業。陸上自衛隊第8師団司令部3部長、第40普通科連隊長、中央即応集団司令部幕僚長、東部方面混成団長などを歴任し陸将補で退官。防災士として自治体、一般企業で危機管理を行う。著書に『自衛隊最強の部隊へ』シリーズ(誠文堂新光社)、『自衛隊は市街戦を戦えるか』(新潮新書)、共著書に『弾丸が変える現代の戦い方』(誠文堂新光社)、『特殊部隊vs.精鋭部隊』(並木書房)などがある。

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(陸上自衛隊 元幹部 二見 龍)

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