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仕事の危機対応も基本は同じ「自衛隊式」見えない敵を想定したすごい訓練

プレジデントオンライン / 2021年4月1日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Josiah S

近隣住民とのトラブル、労働事案、未知の病、気候変動、天変地異……あらゆるシーンで思いもよらない「想定外の困難」に遭遇する機会が増えている。危機を乗り越えるには対象について正しく補足・分析し、対処法を考えるだけでなく、「セルフコントロール」の力が重要だ。元陸将補の二見龍氏が上梓した『自衛隊式セルフコントロール』から、一般のわれわれも使える自衛隊式リスク対応のコツと技術を特別公開する──。(第2回/全2回)

*本稿は、二見龍『自衛隊式セルフコントロール』(講談社ビーシー/講談社)の一部を再編集したものです。

■自衛隊が行う「自由対抗方式」の訓練

ある目的を達成しようとするとき、それを阻害しようとする敵の存在や正確な実態がわからないと、不安や心配が増幅されていきます。

これを防ぐためには、自分が対峙(たいじ)する可能性のある敵とはいったい何なのか、正確な情報を収集して分析し、敵の正体を突き止めていく必要があります。そうすることで、正体不明の敵であったものが、理解を深める過程で、対応可能な障害へと変化していきます。

こうなると自分自身の心もコントロールが可能になり、得体の知れない恐怖心だったものを、適切な緊張感という味方に変えることができます。

自衛隊では、自由対抗方式の戦闘訓練を行います。これは実際の人員で行うこともあれば、コンピュータ・シミュレーションによって行うこともあります。

対峙する部隊は互いに、相手の兵力や予想される行動の分析を行い、対抗策を準備して、敵の動きを封じたり、無力化したり、また奇襲を受けないように作戦を考えます。

■正体不明の相手を「見える化」する

さらに実戦となった場合は、相手の指揮官の性格や受けた教育の内容、今まで経験した訓練の内容まで調べます。

「積極性を好み、攻撃の訓練を多く行ってきた指揮官」という情報がわかれば、敵の指揮官がどういう行動を取るのか読みやすくなります。また、「防御訓練をほとんど行っていない指揮官」ということがわかれば、防御を行わざるを得ない状況を作ることによって、敵の不得意なステージで戦うことができます。

敵の特性に関する情報を収集し、敵の「見える化」ができれば戦いは非常に有利に展開できます。

一方、敵を見つけることができなかったり、あるいは存在自体が不確かであったり、実態が不明確だったりすると、正確性の低い情報に踊らされ、心が乱れ、消耗してしまいます。つまり、敵がどのようなものかを冷静に突き止めていくことは非常に重要なことなのです。

■仕事や災害も「分析」が命

これはビジネスや日常生活でも同様です。

たとえば、職場では、上司の働き方やこれまで経験してきた業務の内容を分析することによって、ある程度、上司の思考パターンや反応を予測できるようになります。この予測ができるようになると、上司を味方につけたり、うまく動いてもらえる方法を考えたりすることができるようになるでしょう。

また災害時には、災害という敵の特性をきちんと把握しておくことによって、より適切な対処や避難ができるようになります。

たとえば、地震の場合と風水害の場合とでは、避難するルートや避難すべき場所が変わる可能性があります。どこに危険が潜んでいるのか、どのように安全を確保すればいいのか、災害という敵の特性と勢いを想像して、シミュレーションをしておくことが重要です。

災害に限らず、クルマやバイク、自転車の運転につきものの事故、また火災や感染症など、いずれもその特性を知ることによって、心を惑わされることなく、冷静な状態で対処することができます。

■災害時は慣れた日常の場所が「敵地」になる

自衛隊では、斥候(せっこう)(偵察)訓練で敵の支配する地域に潜入した場合、決して無理な行動をしません。敵に行動を察知され、捕捉されてしまうからです。

敵地の真っ只中のような、未知で、自身の意思や能力を十分に発揮させられない環境下では、何が起こるのか予想がつかないため、無理な行動に出ることは危険です。危険を感じ取った場合、まずは見つからないようにして様子を伺います。そして、安全が確認できなければ、その場から静かに離脱して、安全が確保できる場所まで移動します。

敵地の斥候は、災害時の備えの対応に通じるところがあります。

たとえ住み慣れた街でも、災害が起きればそこは未知の敵地と同じような状況になりかねません。安全を確保できる場所を平時から確認し、安全に移動できるルートを検討しておきましょう。

まずは、ハザードマップで危険なエリアを確認します。次に橋や崖、万年塀などを実際に見て把握しておき、安全に通行できるルートを歩いてみます。

■自衛隊式「災害に備えるポイント」

また、災害時を想定して注意しておきたいのが、ケガのリスクについてです。

災害が起きた場合、どこでケガを負う可能性があるのか、1日を過ごす場所ごとに区分して、洗い出しておきましょう。多くの人は、家と職場、そして家と職場をつなぐ通勤ルートがそれにあたると思われます。

家の中で弱点となるのは寝ているときです。寝ているときにタンスや本棚、テレビなどの重いものが倒れてくるような状態は、命にかかわるほど危険です。また、廊下や階段、玄関に物を積んでいるのもダメです。避難経路が遮断されるだけでなく、物が少なく安全を確保しやすい場所の廊下が、災害時に役に立たないからです。

いざというときの安全確保のためには、寝室のレイアウトを見直し、家具の転倒防止処置や避難経路の廊下や階段、玄関をクリアに整理しておくことが大事です。家の中では目をつぶっていても行きたいところへ行けるようにしておくと、真っ暗闇や四つん這(ば)いになっての避難が必要なときでも行動ができます。

災害は勤務中に起きる可能性もあります。職場に潜む危険も検討しておきましょう。オフィスの窓ガラスが割れたり、照明が落下したりする可能性があります。ビル街の通りでは、ガラスや看板などの構築物が落下してくる可能性もあるでしょう。

自身の行動圏の中で、どこに危険が潜んでいるのか、想像力を働かせて事前に把握しておく必要があります。そして、いざというときには、むやみに外に出ない、あるいはやむをえず外に出るときは、落下物の被害を受けにくい道路の中央よりを歩くなど、慎重な行動が求められます。

災害の風景
写真=iStock.com/vicnt
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/vicnt

火災もまた大きな脅威となります。とくに地震後の火災は被害を大きくしがちです。出火元の想定、非常口の確認とそこへの経路を日頃から確認しておきます。

いざというとき、行動に移せるかどうかは、日頃の準備にかかっています。オフィスビルで、毎日同じエレベーターばかりを使うのではなく、階段を利用してみる、普段とは違うエントランスを利用してみるなど、偵察し、血肉化しておきましょう。

■地雷クラスター対策とコロナ対策は同じ

たとえば、地雷が設置されていて、「立ち入ると触雷(しょくらい)(地雷を踏んでしまうこと)の危険があります」と警告板が設置されていれば、わざわざ足を踏み入れる人はいないでしょう。

しかし、危険な場所につねに注意書きがあるとは限りません。また、危険度も一定というわけではありません。

たとえば、地雷原は、埋設している地雷の密度によって触雷の確率が変わります。ある範囲の中に地雷を何個設置するかを示すときは「クラスター」という表現をします。密度2であれば、一直線に地雷原を歩いていくと必ず2回触雷することを示しています。密度が高ければ高いほど、触雷の危険度は高まりますから、そういった場所は絶対に近寄ってはならないと判断できるでしょう。

この地雷の例は、新型コロナウイルスへの対応と照らし合わせると理解してもらいやすいでしょう。

クラスターが発生した場所の多くは、触雷の可能性が高かった、危険度の高い場所だったと想像できます。そういう場所は、防御を高めてもリスクをゼロにすることは難しいでしょう。なるべくなら、近づかないことが大事です。一方で、危険度が低めであれば、マスクを装着し、前後の消毒など対策をしっかりすることで、リスクを大きく下げることが可能となります。

■「防御が難しい場所には近づかない」が鉄則

こうした考え方は、見知らぬ土地(海外)などでも応用できます。地元の人から、そもそも危険だと言われている歓楽街や遊泳禁止などのエリアには近寄らないことです。

また比較的安全とされていても、リスクはゼロではありません。そのエリアの雰囲気を敏感に感じ取り、適切な防御がとれるよう、心がけておきましょう。

最後に集団の危険性について触れておきましょう。

人が多く集まると、それだけで怖さを感じさせます。その集団の性格は、単に人が集まっているだけなのか、凶暴性を持っているかどうかで、危険性が大きく変化します。この変化を摑(つか)むためには、集団の動きに注意することが必要です。ゆっくり歩いているときは、まだ気持ちができていない状態です。

動きに速度が出てくると危ないスイッチが入った状態になります。顔つきが険しくなったり、わめき声が起こったりする頃には、誰もが危ないと認識できますが、そうなる前に距離をとっておきましょう。

■「危険な行動」は仲間を危険にさらす

危険な行動というと、自分自身の判断ミスや認識の甘さからのリスクがまず思い浮かびますが、それだけではありません。自分の行動によって、仲間や周りの人たちを危険な状態にしてしまうことも、危険な行動です。

たとえば敵地で、警戒もせずに無防備な状態で行動すれば、とても危険です。これが仲間と一緒に行動している時なら、どうでしょう。自分の不注意な行動によって、敵に発見され、部隊を窮地(きゅうち)に追い込んでしまうかもしれません。

「歩くたびにガチャガチャと装具の音を立ててしまう」「不用意に道路の真ん中を歩いてしまう」などの行為は、戦闘では絶対にあってはなりません。自身のみならず、仲間も危険な状態に陥らせてしまいます。

これは日常生活においても気をつけておきたいことです。

たとえば、新型コロナウイルスへの対応です。「マスクの着用」や「手洗い・アルコールによる手指の消毒」などは基本の対応です。これは、自身を守るためだけでなく、家族・仲間・周囲の人へと感染を広げないための対策です。

自分が無防備な状態で活動すれば、家族や職場の仲間を危険な状態に陥らせてしまうことになります。

■1人の行動がすべてを「無」にする

自衛隊では、駐屯地や基地で多くの隊員が集団生活をしています。集団生活では、わずかなほころびが、大きなダメージとなることがあります。

新型コロナウイルスの例がわかりやすいでしょう。仮に1000人中999人までは示された規範に沿って行動していたとしても、わずか1人でも感染リスクの高い危険地帯に入り込み、勝手な行動をしてしまうと、隊内でクラスターが発生する危険性が一気に高まります。

いくら感染対策をしていても、1人の危険な行動によって、感染拡大の原因を作ることになってしまうのです。

さらに、感染してしまったにもかかわらず、その事実を誰にも告げず、部隊生活を行っていたとしたら、感染拡大の封じ込めは、ほぼ不可能になってしまいます。たった1人の行動がすべての努力を水の泡にしてしまうのです。

これは、新型コロナウイルスの問題に限りません。

二見 龍『自衛隊式セルフコントロール』(講談社ビーシー/講談社)
二見 龍『自衛隊式セルフコントロール』(講談社ビーシー/講談社)

仕事の場面などにも、危険への誘惑が潜んでいます。「顧客情報を漏らしてしまう」などもってのほかですが、「1人、2人ならバレはしまい」などと、深く考えず、外部へと流出させてしまう可能性があります。また、自分のミスを隠すため、「ちょっとだけ数字の操作を」と思うことがあるかもしれません。

こうした行為は、コンプライアンス違反として、のちのち企業に大きなダメージを与える可能性があります。最悪の場合、企業生命にかかわる問題に発展することがありますから、絶対にやってはいけません。

「マズイかも」と認識しながらも気持ちが動いてしまうときや、他者から誘惑があったときなどは、今一度冷静な我に立ち返り、自身の立ち位置と責任を考えてみてください。

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二見 龍(ふたみ・りゅう)
陸上自衛隊 元幹部
1957(昭和32)年東京生まれ。防衛大学校卒業。陸上自衛隊第8師団司令部3部長、第40普通科連隊長、中央即応集団司令部幕僚長、東部方面混成団長などを歴任し陸将補で退官。防災士として自治体、一般企業で危機管理を行う。著書に『自衛隊最強の部隊へ』シリーズ(誠文堂新光社)、『自衛隊は市街戦を戦えるか』(新潮新書)、共著書に『弾丸が変える現代の戦い方』(誠文堂新光社)、『特殊部隊vs.精鋭部隊』(並木書房)などがある。

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(陸上自衛隊 元幹部 二見 龍)

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