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「2万円のトースター」と「主婦向けの料理教室」に共通する"価値"の名前

プレジデントオンライン / 2021年3月27日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Satoshi-K

消費者の心はどうすれば動くのか。ブランドプロデューサーの村本彩さんは「たくさんの人が欲しがるものを作ってはいけない。私がプロデュースした料理教室では、料理ができる主婦にターゲットを絞って成功をおさめた。考えるべきは、少数の人の心を強く動かせる情緒価値だ」という——。

※本稿は、村本彩『「個人」「小さな会社」こそ、ブランディングで全部うまくいく』(総合法令出版)の一部を再編集したものです。

■「商品ではなくお客様の心のなかに価値をつくっている」

私がサントリーで商品企画に携わるようになったのは、入社4年目のこと。意気揚々と「新商品をつくるぞ!」と思っていたところ、当時の上司はこう言いました。

「私たちは商品をつくっているのではなく、お客様の心のなかに『価値』をつくっているのよ」

飲料メーカーに入ったのに、商品ではなく価値をつくっているの? しかもお客様の心のなかにつくるって、なんで?

最初は混乱しましたが、月日を重ねるごとに腑に落ちていきました。ビジネスでは、扱っている商品・サービス自体ではなく、価値が一番大切なのです。

どういうことでしょうか。

まずは、「そもそも商品・サービスの価値とは何か」から考えましょう。商品・サービスの価値には、大きく分けて「機能価値」と「情緒価値」の2つがあります。

機能価値とは、その商品が果たす機能面での価値のこと。ペンであれば「文字を書ける」が機能にあたりますから、発色の良さやインクの持ちといった性能・品質が機能価値を左右します。

一方の情緒価値は、それを買ったときや利用するときに気分を良くしてくれる、感情的な価値です。デザインが好みである、愛着のあるメーカーの商品である、といったことが情緒価値になります。

商品・サービスが溢れる現代、市場は飽和しつつあります。性能・品質に遜色のない商品が数多く発売され、機能価値での差別化は難しくなってきました。そうした背景から、今は機能価値よりも情緒価値が重視される時代だと言われています。

■機能価値だけではひとの心は動かせない

近年ヒットした商品を見ても、人気を集めている背景には情緒価値があります。

たとえば、バルミューダ(BALMUDA)のトースターはご存知でしょうか。2万円超えという高価格にもかかわらずヒットし、話題になった商品です。

このトースターは性能自体も優れていて、温度制御機能・スチームテクノロジーにより、パンの表面をカリッと、なかをふっくらと焼くことができます。しかし、「美味しいパンを焼ける」という機能価値だけで支持されたわけではありません。

ヒットを後押ししたのは、デザインの美しさ。世界的にも高く評価され、数々のデザイン賞を総なめにしました。家におしゃれなバルミューダ製品を置いて、美味しいパンを焼き、ちょっと素敵な朝食をとっている。そんなライフスタイルを演出してくれることが、このトースターの情緒価値でした。

ほかの例としては、無印良品も挙げられます。

無印良品を選ぶ人たちは、使い勝手の良さという機能価値を評価している面もあります。しかし、同程度の機能を持つ日用品や文房具は、百円ショップやホームセンターなどでも揃えられるでしょう。

無印良品が選ばれるのは、ブランド自体が持つ「シンプル」という世界観が共感を集めているからです。素材感のある商品はその世界観を反映していて、使っていると、自分自身も飾らない暮らしをしている気分になれる。それが、無印良品の情緒価値だと言えます。

売り物としては、機能価値を満たせば十分。しかし広い市場のなかから選んでもらうには、情緒価値まで考えなくてはいけないわけです。サントリー時代に言われた「お客様の心のなかに『価値』をつくる」とは、情緒価値のことだったのでしょう。

会議中にひらめく女性
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■「たくさんの人が欲しがるもの」を作ってはいけない

では、どんな情緒価値をつくればいいのでしょうか。

売り上げのためには「なるべく多くのお客様に響く情緒価値を」と考えたいところですが、その発想はかえって危険です。

「たくさんの人が欲しがるもの」はニーズが顕在化していて、すでに世の中にある可能性が高いからです。競合と同じような商品・サービスをつくってしまうと価格競争に陥ってしまい、体力のないスモールビジネスでは不利になります。

考えるべきは、少数の人の心を強く動かせる情緒価値。「ほかにない自分のためのものだ」と感じることで、お客様の心にはより強い情緒価値が生まれます。その感動が口コミで広がれば、結果的に多くの人に受け入れられていくはずです。

ここでキーになってくるのが、「インサイト」という概念です。インサイトとは、「本人さえも気付いていない本音」のこと。「ニーズ」よりももっと心の奥にあり、お客様の性格、価値観が反映されていることが特徴です。

本人さえも気付いていない、隠れた本音。それが具現化して示されることで、「そうそう、どうしてわかったの? これが欲しかったのよ!」と感動が生まれ、お客様にとって強い情緒価値になっていきます。

■そこそこ料理ができる人向けの料理教室

インサイトという概念を初めて耳にする人もいると思うので、具体的な事例をもとにご説明します。

私がブランドコンサルティングをしたクライアントさんに、フリーランスで管理栄養士をしている塚本万智さんという人がいます。彼女が経営しているのは、「シーズニング・レシピ」という料理教室。一般的な料理教室では、どんな食材を扱うか、どのメニューをつくるかをテーマにします。一方シーズニング・レシピで教えるのは、その名の通り調味料(シーズニング)にフォーカスした料理方法です。

素材そのものの味を引き出す調理法と、さまざまな料理に応用できる「調味料の黄金比」。この2つを学ぶことで、家にある食材から献立を組み立てられるようになるのがシーズニング・レシピの特徴です。

この料理教室がターゲットにしたのは、「料理は嫌いじゃないし、初心者向けの料理教室に通うほど料理ができないわけじゃない」というレベルの主婦でした。「今晩は何をつくろう」とネットなどでレシピを調べ、自分でも献立を決められる人たちです。

■「もう二度と夕食メニューに悩まない」

彼女たちはそのように料理することについて、大きな問題を感じてはいないでしょう。しかし、食事の支度は毎日のもの。時には、「今晩は何をつくろう」と考えながら憂鬱になることもあるでしょう。

村本彩『「個人」「小さな会社」こそ、ブランディングで全部うまくいく』(総合法令出版)
村本彩『「個人」「小さな会社」こそ、ブランディングで全部うまくいく』(総合法令出版)

レシピ通りにはつくれるけど、自分で一から献立を考えるのは苦手。支度のたびにクックパッドを検索する日々……。本当は、毎日メニューに悩むのがいや。家にある食材を組み合わせて、レシピを見ずにパパッと美味しい料理をつくりたい。

塚本さんは、そんな理想とのギャップのなかにお客様のインサイトを見つけました。そして、つぎのキャッチコピーを打ち出します。

「もう二度と夕食メニューに悩まない」

「毎日の献立に悩みたくない」という、隠れた本音に訴えかけたわけです。このメッセージが主婦たちの共感を集め、シーズニング・レシピは人気の料理教室になりました。

お客様のインサイトを満たし、強い情緒価値を生み出す。それが、これからの時代に売れる商品・サービスの条件です。

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村本 彩(むらもと・あや)
ブランドプロデューサー
irodori Branding代表。1982年福岡県生まれ。九州大学経済学部卒業後、サントリー(現サントリーHD)入社。営業を経たのち、マーケティング部門に異動。ブランドマネージャーとしてビール・チューハイ・リキュールなどの新商品開発・マーケティング戦略に携わる。2018年に独立起業。法人1期目にして自らも年商7000万円を超える実績と500名以上の顧客からの支持を得ている。プライベートでは2児の母。

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(ブランドプロデューサー 村本 彩)

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